12. アリガ十々

 

イルカは不思議な気持ちで僧を見つめた。本当にあのウスビなのか?確かに面影があるようにも見えるが、しかし戦場で英雄になったと聞いていたのにどうして?
イルカの猜疑心が分かったのか、僧は懐から何かを取り出してイルカに見せた。それは一枚の写真だった。スリーマンセル時代の3人と上忍師の写真だ。これを持っているのは写真に写っている人物だけだ。

「まあ、これだけなんだけどね。戦死として見せかけるために額宛もドックタグも偽の死体に付けちゃったから。」

「どうしてそんなことしたんだっ。お前の親も、俺だってずっと死んだとばかり思ってたってのに、悪ふざけも大概に、」

「悪ふざけじゃないよ。僕には時間が必要だったんだ。ヒスイを助けるために様々な知識や技術を身に着けなければならなかった。僕はあの頃、もうすでに医療忍として様々な任務に就くことを余儀なくされていた。ヒスイを助けるために時間を割くことなんてできないほどの多忙さだった。このままではいくらやってもヒスイを助けることはできない。悟った僕は決意したんだ。死んだことにして行方をくらましてその間に助ける方法を探そうって。」

「それならひと言俺だけには言ってくれればよかっただろう?俺はそんなこと全然思いつきもしなくて、毎年あの森に行くだけの日々を過ごしてきたって言うのに。」

情けない、ウスビはちゃんと仲間を助けるためにこんなにがんばってきたというのに自分ときたら同じ里の仲間を、いや、大切な人を奪われて指を咥えて待っていることしかできないと言うのに。
拳を作って握り締めるイルカにウスビは仕方のないことだと首を横に振った。

「僕とイルカが2人共姿を消すのはさすがに怪しまれると思ったし、僕が里に無断で忍びとしての本来の任を全うすることなく私事で動くということばばれればただでは済まされない。イルカには悪いと思ったけど一人で行動するのが一番いい方法だったんだ。」

ウスビの着物はあちこちぼろぼろになっており、年季の入った数珠を手首に巻いている。ウスビは僧となってヒスイを助けるための方法を学んだのだろうか。どんな方法かは分からないが、ヒスイにとって悪い方法ではないことは確かだろう。なにせウスビは、とても優しい奴だったから。
しかし今の状況は悪い。カカシが自分を差し出そうとし、それを取り戻そうと里の人間が動いている。なんとか彼らの先回りをして先にヒスイに接触しなければないない。
どちらかが倒れて傷ついてもいけないのだ。そのためにはヒスイを救うというウスビを連れて森へと行かなくては。

「待ってろウスビ、すぐに準備して森へ行く。実は今、ヒスイの件で厄介なことになってるんだ。」

「うん、大体の事情は分かっているよ。ヒスイを助けに行こう。大丈夫、必ずうまくいくから。」

ウスビの優しい声にイルカは焦っていた気持ちを少し落ち着けた。そしてウスビに向かって手を差し出した。

「ウスビ、帰ってきてくれてありがとう。ヒスイを助けたら火影様に掛け合うからな、なあに、俺も一緒に怒られてやるからよ。そしたらまた一緒に任務しよう。と、言っても俺はいまやアカデミーの教師兼受付係りなんだけどな。色んなことがあったんだ、落ち着いたら色んな話しをしよう、ヒスイも交えて。」

イルカは笑顔を向ける。ウスビも嬉しそうにしてイルカの手を取った。

「ありがとう、イルカ。俺も色々あったんだ、話しが尽きないほどね。その時を楽しみにしてるよ。」

ウスビの言葉に満足してイルカは部屋の中に戻って準備を整えた。正直言って本当に体は辛い。だがそんなことを言っている場合ではない。兵糧丸を飲み込んで体力を回復させるとイルカは自分の顔を叩いて気合を入れた。
遅すぎることなんかない、ヒスイも、そしてカカシも助けるのだ。
イルカはベッドの上の写真たての中の人物に視線を向けて唇をかみ締めると、その部屋を出るドアに手を伸ばしたのだった。