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13. かざぐるま 森は里から少しばかり離れた場所にある。忍びの足で全速力で走っても一刻以上かかる。 「ウスビ、事は緊急を有するから全速力で行くけど付いてこられるか?難しいようだったら担いでいくけど。」 「大丈夫だよ、こんな姿をしてるけど忍びの鍛錬はちゃんとやってたから。」 確かにウスビの足取りは軽やかだった。やんごとなき事情で本調子でないイルカよりも身のこなしが良いくらいだ。 「ウスビ、覚えているか、この先にある鳥居の先だ。」 「うん、そうだったね。この先にあるんだね。」 ウスビはじっと森の奥を見つめている。思うこともあるのだろうが今は先を急がなくては。カカシはどうしたのか?無事でいるだろうか。ヒスイもどうしているだろうか。どちらも傷つけることなく平和に解決することができればいいのだが。 「イルカ、行こう。」 「ああ。」 相槌を打ってイルカとウスビが走り出した。 「隠れても無駄だから、出てきたほうがいいよ。」 その声にイルカは息を呑んだ。そんな、まさか。だがこの声は先ほどからずっと隣で聞いていたはずの声だ。 「ウスビ、どうしてだ。」 イルカを見下ろしているウスビはにやりと笑った。分からない、どうして笑うのだ、ここで笑うということはすなわち、敵になってしまったのか?自分を殺さなくてはならない理由が、任務があるというのか?一般的なアカデミーの教師であり、受付要員である自分にそれほどまでの価値があるとは思えない。 「答えろウスビ、なぜ俺を襲うんだ、この森でっ。」 ウスビは鼻で笑うと木から飛び降りた。そしてイルカの前に立つ。 「ここまでの案内ご苦労だったな。あのときのガキが成長していて俺も嬉しいよ。殺し概があるってもんだ。」 イルカは総毛だった。手に持っていたクナイをウスビに向かって力のあらん限り投げつける。だがウスビはいとも簡単にクナイを避けきった。 「お前、あの時の忍び?死体を使う忍びかっ!!」 あの時にヒスイがみんな殺してくれていたものだとばかり思っていたが逃れていた者がいたのか。再びこの森の資源を奪いに来たのか? 「この森の資源を狙って来たのか?」 だがイルカの言葉に答えようとせず、ウスビは風魔手裏剣の刃をいじってぽつりぽつりと言い出した。 「この里はどうか知らないが、俺の里では任務失敗は最大の汚名だ。挽回するためにはなんだってするさ。それでこの時を待っていた。あの時に任務の邪魔をしてくれた生き残りのお前をこの森で殺す絶好のチャンスをな。」 ウスビは研ぎ澄まされた刃を見てにやにやと笑っている。いや、ウスビではない、今はただの敵だ。今ではこの僧が本当にウスビだったのか分からない。この体はもう死んでしまったのだろうか、それともまだ生きているのだろうか、それすらも分からない。 「どうしてだ、俺を殺すならさっさと殺せばいいだろうっ。」 「なに言ってんだ。ただ殺すんじゃつまらないだろう。あの時の雪辱を晴らすためにこの森で殺さないとな。それに知ってんだぜ、お前ははたけカカシの情人だろう。あいつはこの森に来ている。目と鼻の先でお前が殺されたと知ればショックだろうな。」 くすくすと暗い笑い声を漏らす男に嫌悪感を露わにしてイルカは反論する。 「そんなこと、ヒスイがいれば許しはしない。ただでは済まないぞ。」 「ああ、忌々しいあの女か。俺だって何年もひたすら機会をうかがうだけの馬鹿じゃない。ちゃんとあの女の邪魔が入らないように対策も万全だ。あとはお前を残すだけ、簡単だろう?」 男の言葉のニュアンスにイルカは何か不吉なものを感じた。その言い方ではまるで、 「気づいたようだな。ウスビってガキは俺が戦場で殺してやったよ。ラッキーだったぜ。木の葉の里は強力な結界が張ってあって呪術でもっても中に入るのは難しい。ガキが里の外にいるって情報を聞きつけてすぐに殺しに走った。」 イルカはぎりぎりと歯をかみ締めて男を睨みつけた。こいつが、ウスビの仇、いや、上忍師やヒスイの仇なのだ。新しいクナイを手にとって臨戦態勢を取る。 「問題はお前だったよ。お前は内勤でなかなか外に出ない。したがって殺す機会もなかなか訪れなかった。この僧は特赦な体質でな、結界を通過することができる。」 なんと言う執念だろう。自分を殺すためにここまでするとは。忍びの世界は過酷だ、だがここまで妄執にとらわれてはもはや忍びとしての本質は腐りきっている。 「お前、ヒスイに、この森になにをしたっ。」 「ああ、お前は今年、あの女に何度か会ったんだったな。いい女になってたろう?人間の憎悪を増幅して悪霊に進化させる呪術を何年もかけて施していった成果が最近になって現れ始めたんだ。」 嬉しそうに言う男に戦慄さえおぼえる。いっそ哀れなほどだ。
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