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『KAZUMA@〜この子誰の子?〜』




「遅れてすみません」
 2時間目の生物の授業中に龍麻君は登校してきました。思いっきり遅刻なのに悪びれた様子もありません。堂々としています。
 教室内が水を打ったように静かになってしまいました。別に龍麻君の大物ぶりに感心したわけじゃないんです。
 全員が龍麻君に、いえ、彼の抱えているモノに注目しているようです。
「何だそれは?」
 生物教師・犬神先生は不機嫌に訊ねます。無理もないでしょう。
 龍麻君は大事そうに赤ん坊を抱いてるんです。まだ3ヶ月になるかならないか位の赤ちゃんはクリーム色のベビー服を着て、おしゃぶりをくわえて、機嫌良さそうです。
「俺の子です。かずまっていいます」
 また、3−Cの教室が沈黙しました。
 そして、
「キャァァァァーーーーー!」
「ウソーーー!!」
「いやーーーー!!!」
 女の子の悲痛な叫びが上がりました。それもそのはず、今や龍麻君は相棒の京一君と学校の女子の人気を二分するほどになんです。二人がつるんでいると見かけた女の子達が『京一君カッコイイ〜。でも龍麻君もステキ〜』てなぐあいです。
「マジ?」
「緋勇もやるなぁ」
「母親は誰だよ?」
「未婚の父ってやつ?」
 一方、男の子達も詮索に余念がありません。
がやがやと五月蝿い生徒達をよそに犬神先生は眉間を抑えています。
女の子であること知っている先生にしてみれば、その乳飲み子が龍麻君の子でないことは一目瞭然です。
何故なら今は7月で、もしその赤ん坊が龍麻君の子であるなら転校当事龍麻君は身重という事になってしまいます。生後2,3ヶ月の赤ん坊を我が子というのは限りなく無理があるんです。
それを置いてといても(置いといていいのか?)学校に赤子を連れて来て、我が子と言って憚らないとはどーゆう神経をしてるんだろうか、と理解に苦しむ犬神杜人、本業狼男さん。
「うふふふ〜。ひーちゃんったらダメじゃな〜い。
 かずまを学校になんて連れてきちゃ〜。
 ミサちゃん、ちゃ〜んとデーモンに子守り頼んどいたのに〜」
 いきなり登場した裏密さんとその問題発言に、今度は全員が硬直しました。
「でもママ。
 かずまはこんなに可愛いんだよ。デーモンに食べられちゃうんじゃないかって心配だったんだ」
「ダメなパパね〜。
 ミサちゃんの呼んだデーモンはそんなお行儀の悪いことしないのに〜」
 とか何とか言いながら赤ん坊の頬を撫でてます。
 その姿は、どう見ても子供が出来たばかりの若夫婦そのもの。
 怖すぎて誰も何も言えません。
「何言ってんのよ。そんなコトあるわけないじゃない」
 救世主の如く皆の心の声を代弁したのは、やはりこの場にいるべきじゃない人物、遠野杏子さん。いつもなら『災厄の運び手』たる彼女の出現は有難くない時もままあるのですが、今は頼もしい。アン子ちゃんならミサちゃんと対等に渡り合えます。
 しかし、希望は絶望に変わっちゃいました…。
「かずまのママはあたしよ」
 そう言うとミサちゃんをどけて龍麻君の前に行きます。
「もう。いくらあたしでも自分の新聞のトップ飾るのはやだったのよ。龍麻。
 でも、ばれちゃ仕方ないわね。
 こうなったら皆に公表しましょ」
「そうだね。次号の真神新聞のトップはかずまのアップがいいな。
 ママに似て可愛いから」
「ヤッダ〜。
 龍麻ったら。上手いんだから」
 イチャイチャしてます。
 なんかもう、どうでも良くなってきました。3−Cの皆も疲れてます。
 そこへ龍麻君の親友兼相棒の京一君が乱入です。
「違う!かずまは俺の子だ。
 京一の一と龍麻の麻をとって一麻って言うんだ」
 嘘だと判っていても信憑性があるだけに、恐ろしいものがあります。 本当はどうあれ、龍麻君は学校では男です。見た目はゲイカップル。
「悪いママだね〜。一麻。
 お前のことパパに任せて勝手に学校いっちゃうなんて」
「ゴメン。ひーちゃん。一麻」
 龍麻君ったら、やっぱり否定しません。その上、京一君もママ扱い。
「ええ〜!?京一君は攻めよ」
「何言ってんのよ。主京よ。主京」
「私、京主がいい」
「どっちでもいい〜☆」
 一部の女子からどこぞの図書館『陰』での煩悩が乗り移ったようなセリフが囁かれてます。
 もう収集がつきません。どうしましょう。
「いい加減にしろ!!」
 犬神先生が切れました。当然です。
「裏密、遠野。どうしてお前らがここにいる。授業中だぞ、今は」
「水晶にひーちゃんと赤ちゃんが映ったの〜。うふふふ〜」
「窓から赤ん坊抱いた龍麻が見えたから、何かネタになるんじゃないかな〜って」
 いけしゃあしゃあと宣う二人に、犬神先生はドアと指差し、
「自分の教室に戻れ」
 と命令しました。
「じゃあね。龍麻。かずまもいい子にしてんのよ」
「後でお手伝いのデーモンよこすから、待っててね〜」
「しっしっ、おめえらが触ると一麻が汚れる」
「何ですって。京一」
「呪っちゃうぞ〜」
「まぁまぁ、ママ達けんかしないで」
「さっさと出て行けーーー!!」
 悪ノリを続ける4人の生徒に先生大爆発。
 爆風に乗ってミサちゃんとアン子ちゃんが自分の教室に飛んで行きました。ついでに煽りを喰らった龍麻君+αと京一君まで出て行っちゃいました。

「で、ひーちゃん。ホントはどーなんだ?」
「何が?」
「だから、その子だよ」
「だから、俺の子」
 龍麻君あくまで押すつもりです。
 京一君もさすがに呆れたみたいです。廊下の壁に凭れてしまいました。
 彼は自分の相棒が隠し子を作るような人間じゃないことぐらいわかってます。わかってるから、さっきみたいに宿敵・犬神先生を困らせる為、悪ふざけが出来るんです。
「そのネタもういいって…。
 親戚の子か何かか?」
「だから俺の子だって」
「しつこいぞ。緋勇。真面目に答えろ」
 二人を迎えに犬神先生も廊下に出て来てくれました。本気で睨んでます。
「………拾いました」
 龍麻君観念したようです。
「………落し物は交番へ、と言う事を知らんのか」
「知ってます。もちろん届けました」
「じゃあ、その子は何だ?」
「預かりました」
「預かった?警察は保護してくれなかったのか」
「出来なかったんです」
 犬神先生も京一君もついでに窓から覗いてるクラスメイトの顔にも?マークが浮かんでいます。
「こういう事です」
 と言うとかずまちゃんを犬神先生に渡しました。
「…ふ、ふ、ふぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーん」
 かずまちゃんはさっきの犬神先生より大きな声で泣き出しました。
 先生大弱り。
 長生きしてるくせに子守りは未経験みたいです。でも泣かれたぐらいで、おろおろしてるようじゃ良いパパになれませんよ。犬神先生。
 どうやらかずまちゃんは人見知りが激しくて、龍麻君の手にしか負えないようですね。
「わ、分かったからどうにかしろ」
「はーい。かずま、泣かない。泣かな〜い」
 龍麻君が抱いた途端ケロリと泣き止みます。
 ちょっとだけ悔しそうな犬神先生。何だか先生傷付いちゃったみたいです。
 負けるな先生。絵莉ちゃんでもマリア先生でも、相手はいるんですから頑張ってみましょう。まずは自分の子供から修行してみるのが一番です。(ちなみに吸血鬼と人狼の子はどっちになるのでしょうか?それとも人狼吸血鬼?もしそうなら黄龍より強そう…)
「仕方ない。だが、なるたけ他の生徒の迷惑にならんよう気をつけろ」
「はい」
「それから保健の先生には言っといてやる。何か困ったことが起きたら行くといい」
「ありがとうございます。犬神先生」
 嬉しそうにお礼を言う龍麻君をほって、照れ屋な犬神先生は教室に戻ってしまいました。

 こうして奇人変人魔人、果ては物の怪まで跳梁跋扈する真神学園に赤ん坊も仲間入りすることになったのです。

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