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相変わらず拙い上にラブラブでも甘々でもシリアスでもないしょうもない文章ですが(謙遜ではない!)、楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに今回の女主の名前は緋勇梨穂。
愛称はひーちゃんですが、如月くんにはリオと呼ばれています。
それでは、本編をどうぞ。
学園生活の楽しみの一つ、ランチタイム。
今日もおなじみの五人組が弁当やら学食で買ってきたヤキソバパンで食欲を満たしている中、緋勇梨穂だけが大きくため息をついた。
「どうしたんだ、ひーちゃん」
京一が尋ねる。
「真神の体育祭って毎年こんなことやってるの?」
「『こんなこと』って応援合戦のこと?」
京一の魔の手からウィンナーを箸で死守しつつ、聞き返す小蒔。
「応援合戦だったら、どこの学校でもやっているだろ」
その仲むつまじい(?)光景を呆れ顔で見やりつつ、醍醐が続ける。
「うーん、そうじゃなくてさ」
「そうじゃなくて?」
「応援団長って普通ごっつい男の人がやるもんじゃない? 醍醐くんとか京一とか」
「そうかぁ? ウチじゃ毎年どこかのクラスじゃ女の子が団長やってるぜ」
「そうだな。うちの名物にもなっているしな」
「でも、やっぱり恥ずかしいよ〜。私、応援団長って柄じゃないもん」
そう、今年春転校した来たばかりで、現在人気急上昇の緋勇梨穂さん。やはりというかなんというか、応援団長に任命されてしまったんですねえ。
「そうかしら、案外似合っていると思うけど」
そう言いながらくすくす笑っているのは、何を隠そう真っ先に梨穂を応援団長に推薦した葵ちゃん。
「そうそう、今更かまととぶっても仕方ないと思うぜ」
げしっ!
ドンガラガッシャン!!
「『かまとと』って、何よ? しまいには蹴るわよ!」
京一君、既に教室の隅まで椅子もろとも蹴飛ばされてますけど。
「それだけ梨穂に人気あるってことよ」
「そうそう、ファンが多いってうらやましいねェ」
ひしゃげた椅子をひきずって京一復活(うーむ、早い)
「そんなにファンが欲しいなら半分分けてあげるわよ、京一。お・と・こ・だ・け・ね」
「へへ、謹んでお断り申しあげます」
「へえ〜。ひーちゃんは女の子の方が好きなんだ」
「何でそうなるのかなあ〜、小蒔ちゃん?」
小蒔のナイスなツッコミに、笑顔が引きつる梨穂。
「ここは諦めるんだな。それだけ緋勇が全校で人気があるってことだしな」
「そうそう、これで凛々しいガクラン姿をお披露目した日には、下級生の女の子の人気が更に上がるぜ。いやあ、今からバレンタインが楽しみだねェ」
「―――ヒガミは男らしくないよ、京一くん」
精一杯の皮肉で返す梨穂。
「それにお前、うちの部の後輩連中にもファンが多いんだぜ。あいつら、ひーちゃんがガクラン着るって知ったら泣いて喜ぶぜ、きっと」
「やけに『ガクラン』にこだわるな〜」
「そりゃ。やっぱり『男装の美少女』ってのは男の永遠の浪漫だからな」
「京一がそれ言うと余計ガクラン着るのが嫌になってくるよ」
「へえ、だったら、チアリーダをやってみるか?」
「それだけは絶対イヤ!!」
京一の問いに即答する梨穂。
「だったらやるしかないよなぁ」
何が『だったら』なのか。
「そうだよ。一緒にやろ。ボクも一回学生服を着てみたかったんだ」
一方で嬉々としている小蒔。
「って、おまえ学生服持ってねえのか」
「なんでだよ」
「だっておまえ、男だろ―――」
みなまで言わせず、京一の顔面に小蒔パンチが炸裂した.
「―――ということで、如月くん。ガクラン置いてない?」
骨董屋を訪ねた梨穂の第一声に、如月は番台にうつ伏せてしまった。
「どうしたの?」
「リオ、君はここを古着屋と勘違いしていないかい?」
「ナース服や黒帯とかが置いてあるから大丈夫かな〜ってと思ったんだけど?」
「うちでは詰襟の学生服なんてものは扱ってないよ。大体そんなもの需要がないだろ」
「需要!」
自分を指差す梨穂。
その仕草につい頬の筋肉が緩む如月
「―――じゃあ、ちなみにセーラー服とかは?」
「うちはブル○ラショップでもないよ」
「な〜んだ」
何を期待していたんだあんたは。
「ところで何故、学生服が必要なんだい?」
「あ、言ってなかったっけ?」
「全然聞いてないよ」
如月の問いはごもっとも。
「うちで、応援合戦をすることになったんだ。で、私が応援団長になったのよ」
「それで学生服を着ることになったと」
「そう。 ね、本当にここに置いてないの?」
「店にそんなもの置いてないよ」
「う〜ん。やっぱり誰かに借りなきゃいけないのかなあ〜」
心底疲れたようにため息をつく梨穂。
「なんだか、とても嫌そうだね」
「私が応援団長やるって決まった時から、やたら『勧誘』が多くってさ。本当はどうでもよかったんだけど、後輩の男の子達にやたら熱心に『僕の学生服を着てください!』って迫ってくるのよ。やっぱりそれって少し嫌じゃない?」
如月はうなずく。
「京一は面白がっているだけで助けようともしないし、醍醐くんは傍観決め込んでいるし、アン子ちゃんは例によって『トラブル・いず・マイ・ビジネス』って鼻歌歌って嬉々としているし。
葵ちゃんと小蒔ちゃんの助けがあったから、なんとか逃げてこれたんだけどさ」
「―――だったら、貸してあげようか? 学生服」
不意の提案に顔を上げる梨穂。
「え? でもさっきないって・・・如月くん持ってるの?」
「僕のお古ならね」
「でも、如月くんの制服ってブレザーじゃなかった?」
「中学の時の制服は学生服だったんだ」
「へえ〜」
「着てみるかい?」
「うん!!!」
「これが如月くんの中学の時の制服なんだ」
梨穂は箱から取り出した学生服をマジマジと見ていた。
「長い間箪笥に眠らせていたから虫が食っていないか心配だったけれど。どうやら大丈夫なようだね」
若旦那の言葉を話半分に聞き流し、学生服を前にかざしたりして、サイズが合っているか確認を始める。肩幅はやや余分だが、上背は今の梨穂にピッタリ合っている。
「どうやら、サイズも大丈夫なようだね」
「うん、袖丈もピッタシ!」
そう言えばさ、と梨穂は言葉を続ける。
「如月くん、中学の時にこれを着ていたんだよね」
「そうだよ」
しげしげと制服と如月を見比べる梨穂。
くすっ。
「―――今、何を考えてた」
「うひゃあ!?!」
いつの間にか、梨穂の目の前にジト目で見つめる如月の顔があった。
「びっくりさせないでよ!」
「会話の途中でいきなりあっちの世界に行ったようだから、なにか不埒な想像をしていたんじゃないかと呼び戻したんだけどね」
「『不埒な』とは失礼千万ね。これを着ていた時の如月くんってど〜〜〜んなに可愛かったんだろって想像していただけじゃない!」
「可愛い?」
心外だと言わんばかりにムスッした如月をサラリと無視して梨穂は続ける
「そう!
例えば、学生服を着て妙に愛想のない顔で登校するプリンス如月くんとか、同じくこれを着て店の前を箒で掃除しているお掃除如月くんとか、スーパーで今日のメニューを思案している勤労学生如月くんとか、茶室で折り目正しく正座して茶を差し出す茶坊主如月くんとか―――」
「それで一人煩悩に耽って、にまにま笑っていたと?」
「にまにま笑ってな〜い〜」
「梨穂にショタコンのケがあるとは知らなかったよ」
「だ〜れがショタコンだって〜」
無言で梨穂を指差す如月くん。
その指に「がう」って唸って梨穂が噛みつこうとすると、ひょいと引っ込める。
「う”〜〜」
「まあ、中学の時の僕がどれだけ可愛かったかという話は200億光年先に置いておくとして。
遠慮しないで、ガクランを着てみたらどうだい?」
「いいの?」
「『いいの』も何も、応援合戦のときにはそれを着なければいけないだろ」
「それもそうだね」
言うなり、早速手にしていた制服に袖を通してみる。
確かに実際に着てみると、サイズ合わせをしてみたときと感じが全然違う。
肩幅に余裕があると思っていたのも、実際に着てみれば意外にしっくりくる。
ふと顔を上げると、じっとこちらを見ている若旦那と目があった。
梨穂は照れ隠しに、初めて羽織を着た子供みたいに袖をつまんだまま両腕を広げ、如月の前でひょいとポーズを取ってみせた。
「どう?」
「うん、よく似合うよ」
「そう? へへへ」
頭をかいて、照れ笑いを浮かべる梨穂。
「で、ズボンの方はどうだい」
「今、履いてみる。さすがに裾が余ってしまって、本番で裾を踏んづけて転ぶような寒いギャクをしたくないもんね」
と、ズボンを取り出した後、ちらりと如月の方を見る。
「はいはい、着替え終わったらすぐに呼んでくれよ」
視線の意図するところを、すぐに察知した如月はさっさと廊下に退場した。
ふすまが閉じられるのを確認して、おもむろにズボンを履き始める梨穂。
そして、
「げっ!」
「『げっ』?」
「わー、タンマタンマ、入ってくんなあ!」
「何かあったのかい?」
「何でもないったら! まだ着替え中なんだから入らないで!」
「虫でも食っていたのかい」
「違う違う」
「―――?」
「とにかく何でもないって!」
「ともかく、着替え終わったら呼んでくれよ」
「う、うん」
・・・
―――どおしよお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(滝汗)
―――まさか、まさか、
―――お尻が入らないなんて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ガガーン)
―――確かちょっと前に「なんで如月くんってそんなに細いの」って聞いたら、「体重管理も忍者の義務だ」とかなんとか言っていたような気もしてたけど、まさかここまでとは。
―――っていうか、
―――なんで、女の私よりも細いのよお!!!!!
以上は、梨穂の心の中の叫び。
だがいくら心の中で叫んでみても入らないものは仕方ない。
というか、この場合この窮地(笑)をどうやって脱出するかが重要なのですが。
「どうだい? 丈が合わないようだったら、縮めて縫い直してもいいけど」
この窮状に全く頓着していない若旦那の声。
「え、えーとね」
困窮して梨穂のセリフもしどろもどろになる。
「どうしたんだい? なにか不都合なことでも―――」
そのとき店の方で音がした。
「おや? 誰か来たようだね」
そこで如月の足音が遠のいていく。
「ふーっ。助かった〜」
足音が遠ざかって行くのを確認して梨穂は安心した。
―――まったく、聡い彼氏を持つってのも考え物だよね。いらない事にまで気を遣ってくれるんだもん。
耳をすましてみると、店先で話し込んでいる声が途切れ途切れにきこえてきた。
声の感じからして、どうやら常連のかなり歳をとった人のようだった。
この様子ではしばらく戻って来そうにない。
―――暇だなあ。
梨穂は学生服のズボンの方をさっさとたたんだ後、座蒲団にちょこんと座りなおした。
そして、視線を庭先に向ける。
そこは都会の真中である事を忘れさせるかのような風景。
夕刻のラッシュ前の時間のためか車の騒音も少ない。
―――こういう静かなのも悪くないなあ。朝は鳥の声とか聞こえてくるのかなあ。
こうしていると、実家での静かな暮しを思い出す。
ここ1年毎日欠かさない鍛錬も、東京に来てからできた仲間たちとの馬鹿騒ぎも、化け物や『鬼』との闘いも、そしてあの『炎の記憶』さえもが全て夢の出来事のような気がしてくる。
―――なんか疲れたなあ。
ふいに梨穂はコロンと横になった。
頬にあたる畳の感触が心地いい。
借りた学生服がとても暖かい。
それが如月くんそのもののような気がして、つい服の匂いをかいでみる。
ほのかに心地いい香りがしたような気がした。
これは木の香り?
それとも藁の香り?
それとも―――
トントントン
―――ん?
トントントントントン
―――え!
包丁の音に梨穂はガバッと置きあがった。
「き、如月くん!?」
「やあ、よく眠れたかい?」
「眠っていたの、私?」
「2時間ほどね」
「ご、ごめんなさい」
「謝る事はないよ。僕も起こさなかったんだし。ところで夕食が出来たんだけど、食べていくかい」
「うん!! ・・・っていいの?」
「『いいの?』も何もリオの分まで作ってしまったからね。食べていってもらわないと僕が困る」
さも、当たり前の事のように話す如月くん。
その反応に今回ばかりは少し躊躇する梨穂。
「ええと、・・・今日は、あまり食欲がないんだけど」
「? 遠慮しなくていいんだよ」
「遠慮なんかしてない―――」
梨穂の顔をしげしげと覗き込む如月くん、不意に梨穂の右頬にふれる。
「な、何?」
「頬に畳の跡がついている」
「え、嘘!?」
「冗談だよ。まあ、食が進まない日もあるってのはわかけど、せめて冷奴とお漬物ぐらいは食べておかないとね。無理はいけないよ」
「―――うん」
「よろしい」
妙に訳知り顔の笑みを浮かべる如月に不信を抱きながら、その晩の夕飯をごちそうになった梨穂であった。
余談
結局、サイズが合わなかったズボンの方は鳴瀧さんに頼んで取り寄せてもらった。
(代金は梨穂持ち。後払いにするしかなかったが)
体育祭の応援合戦は、大方の予想通り3−Cが優勝し、大盛況のうちに終わった。
そして、体育祭が終了した今、学生服のズボンだけが梨穂のマンションに残っている。
目下のところ、『これ』をマンションのどこに保管しておけばいいかが、梨穂の悩みの1つになっている。
おしまい