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はい、峠之 紗耶です。《龍珠の乙女》第3章になります。でも、番外編みたいなモンの上、エセ色物です。
すいません、まじめな方石投げないでください(汗)。
でも、このカッコは女主じゃないとできないと思いますのでやっちゃいます。しかも、今回は、特別ゲストをお迎えしていたりして・・・・・・・(汗)。
後は読んでみてください(笑)。
うちの女主人公は、緋月龍那(ひーちゃん)といいます。但し、世間様と仲間内(京一と舞子ちゃんは除く)には【龍麻】という男で通してます。おまけに特殊事情(夜間限定の女でレンズマンでミニチュアサイズの双子の弟【龍麻】通称:タマを飼っている)持ち。さらに本人《女の自覚》皆無というこまったちゃんです。
頑張れ京一、【陰】への道程は遠く果てしなく険しいぞ。(笑)
では、本文へどうぞ。
ACT.3 緋いリボンの月天使
* 京一
今日、夜空に輝いているのは半月だ。
満月でなかったのは、惜しむべきなのか、喜ぶべきなのか。
「しっかし、このカッコ。ほんとにこのままでやるのか?。」
不本意極まりないという声で、ひーちゃんはまだボヤいている。
『この後に及んで往生際が悪いね、姉さん。此処まで来て何言ってんの。ターゲットはもうすぐ其処じゃないか。』
当然、反論の声を上げるのはこのプランの発案者であるタマだ。
「だってなぁ………。」
『正体バレないようにする為には、これが一番なんだから。ほら、京一も覚悟を決めるように何か言ってやってよ。』
「……………。」
言えるか!、この状態で。
俺は今のひーちゃんを前にして平常通りの態度をとれるほど人間出来てもいなければ、てめえみたいな不感症の審美眼無しの朴念仁じゃねえんだよ。
そりゃぁ、おまえの裏密も真っ青になる悪魔のようなこの《一石三鳥プラン》には感心するし、聞いた時はマジで大喜びしてたけどな。こんなに眼と心臓と理性に負担が掛かる事になるとは、思ってもいなかったぜ。
俺からの返答が無いので、タマのヤツはそのまま言葉をたたみかける。
『いくら世間の闇に隠れた悪を懲らしめ虐げられた人々と救う為とはいえ、これから俺達がやろうとしているのは、所謂、《撲り込み》とか《強盗》とか言われても仕方ないことなんだよ。だから、正体バレて周囲に迷惑かけない為にはそのカッコが一番イイんだってば。』
「正体バレないようにする為なら、コスモの連中みたいに顔を隠せばOKだと思うんだけどなぁ。」
『顔を隠すだけじゃ不安が残るような状況にしちゃったのは、姉さんでしょうが!。』
「うっっ(汗)、………だってあの時はこんなことするハメになるとは思って無かったんだから仕方ないだろ。なあそうだろ、京一。」
タマに反論を封じ込められたひーちゃんは、相棒の同意を求めて隣に座り込んでボーっとひーちゃんの《そのカッコ》に見惚れていた俺の顔を、腰を落として覗き込んできた。
はうっ、ひーちゃんそのカッコでこの角度はヤバイぜ。むっ、胸の谷間が……(汗)。
ひーちゃん、いや、龍那。お願いだから、今の自分がどういうカッコしてるか自覚を持ってくれよ。(懇願)
ついでに、今は夜なんで自分が(超絶美人でナイスバディの)女で、俺が健全な男子高校生だってことを思い出してほしい、思いっきり切実に。
った、頼むから、もってくれよ俺の理性。さっきから大分と心許なくなって来てるのはわかってるから。(ここで鼻血なんぞ噴いた日にゃ、一生モンの恥だ!)
はーぁぁぁぁっっ、それにしても情けないぞ俺。まさか本気で惚れた人間ってモンは、こんなに頭と目と心臓に負担がかかるモンだったとは。半年前の俺には想像もつかねえ事だったぜ。
(相手がひーちゃん以外だったら、普段の俺なら、喜んでジックリと鑑賞してるぞ)
「ほら、そうだよな♪、京一。」
とりあえず、なんとか無言だったがコクコク頷くことができたできた俺に(顔が真っ赤になってるのは気付かれてねえよな。今は夜だし、俺グラサンしてるし)同意を得たと思い満足したのか、ひーちゃんはスックと立ち上がると、俺たちの《ターゲット》が存在している場所に厳しい視線を向ける。
半ば欠けたとはいえ、まだ充分に明るい月光の中に浮かび上がるしなやかでスラリとしたその姿は、まるで地上に降臨した《月の女神》のようだ。
ましてや、今ひーちゃんが身に纏っているのは普段の大きめの真神学園の学生服(学ラン)じゃない。
ゴールデンサイズ(推定、B88・W53・H86)のナイスバディともいうべき、めったとないその理想的なラインを描く姿態を、何遮ることなく俺の瞳に映し出しているそのいでたちとは………。
そう、レオタードなんだよ。しかも結構きわどいカットのハイレグ。
おまけに、その艶やかな黒髪も普段の無造作に首元で一括りにしてあるんじゃなく、キッチリと上まで結い上げた上に俺のプレゼントした赤いリボンを結んで巻きつけてあって(白く浮かび上がるうなじのラインがグラグラくるんだ。)、共に月を象った揃いの金のチョーカーとイヤリングを煌めかせ、両手をいつもの黒ではなくしなやかな白い手袋で覆い(今夜ばかりは、眼晦ましの【結界】は邪魔でしかないからな)、さらにその麗しい唇をローズレッドのルージュで飾るという徹底ぶりだ。
これを誘ってるって言わずして、なんて言うんだ!!。
『ほら、京一もボケッとしてないで準備してよ。もうすぐ時間なんだから。』
今回のことを仕切っているタマが急かしてくる。
『元はといえば、二人で拾っちゃった厄介事なんだから、いい加減いつまでもグズグズしてないでよ。』
そう、元はといえば。
はぁ―――――ぁぁぁっっ…………(溜息)。
そう。始まりは、俺とひーちゃんの記念すべき《初デート》(ひーちゃんにそのつもりは全くなかったし、例によってオマケ付だったけど)だったんだよ。
三日前の日曜日、俺の所為で潰れちまった土曜日の午後の予定(《旧校舎潜り》)の代わりにと誘った《池袋のちょっと面白いフルーツパーラー行って、ついでにナンジャタウン行ってみねえ?》は、アッサリOKとなり、(流石に、《必勝攻略本》の情報は確かだったよな)俺は気合を入れまくってその日に望んだ。
朝からいい天気で幸先のよさに喜んでたら、本当に信じられないくらい順調に物事が進んでたんだよ、…………途中までは。
当日のひーちゃんのいでたちは、ゆったりとしたアイボリーホワイトのハイネックの上着に水色の薄手のカーディガン、グレーのスラックスという私服姿だったので、その背の半ばまで伸ばしている艶やかな黒髪と綺麗で(昼間と目晦まし用の)中性的な顔立ちのおかげで《ホモカップル》に見られる心配は全然無かった。
内容だって、味はそこそこだったが、店内の内装・食器からメニュー品目まで星型と星座で埋め尽したそのパーラーはいたくひーちゃんのお気に召したらしく、今度二人でまた来ようと逆に誘われたくらいだし(あの《星座パフェ》を13種類全制覇したいらしい)、《ナンジャタウン》は二人で端から端まで全アトラクションを堪能できた。(ひーちゃんのはしゃぎっぷりはこないだの《縁日》の比じゃなかったもんな)
まあ、《告白》の第一チェックポイントにと思っていたプラネタリウムで俺が爆睡しちまったのはちょっとした計算違いだったが、別にひーちゃんは怒んなかったし(どころか、『疲れてるんだろ。しょうがないさ、昨日、補習だったんだから。』とか言って頭を撫でてくれた)。
その後、地下のショッピング街で見つけたプレゼントを『この馬鹿。』呼ばわりされたが、なんとも珍しいことに一発も殴られることなく受け取ってもらえた。あれを買った時はマジに【秘拳・鳳凰】の2・3発は覚悟したもんなぁ、なんせ物は《真っ赤なリボン》だったんだから。いや、いつも無造作に黒いゴムで括ってある髪に、リボンがあったら可愛いなあなんてとっさに思っちまってよ。一応、ひーちゃんの好みを考えて金糸で細かい縁取りがあって・フワフワのボンボンが両端についてるやつにしたんだが(キラキラ光る物とフワフワしている物がついてるから間違っちゃいねえよな)、それでも何であっさりと受け取ってくれたかは謎だ。
もっとも、順調だったのはそこまでだった。
『さあて、告白だ。』と思って、すぐ近くの公園に行こうとしたら(サンシャインシティの噴水前とかじゃぁさすがに人目が有り過ぎる)、それまで一切口出しをしてこなかったタマが(一応気を利かせてくれてたらしい)、いきなり『その公園すんごく嫌な【氣】を感じるから止めた方がいいよ。』なんぞと言い出し、ではと場所換えした駅の方に近い公園も『そっちも駄目だよ。さっきの所よりはマシだけど。』と連続クレームを出してきやがったんだ。
一瞬、『こいつ実は邪魔しにきたんじゃねえか?。』と思っちまったが、タマの【氣】に敏感なところは無視できることじゃなかったんで、仕方なく予定変更。多少仲間達と鉢合わせする危険は上がるが、背に腹は替えられないと新宿へ戻ってきて中央公園に向かってたら(ひーちゃんにとっては帰り道の途中だし)、出会っちまったんだよ今回のこの厄介事の原因によ。
実は中央公園って、俺とひーちゃんにとってはとんでもない《鬼門》なんじゃねえかと思っちまうぜ。(筆者注:京一、大正解!)
「お願いです、《あれ》を返してください!!。」
最初に耳に入ったのは、女の子の必死の嘆願の声だった。
「お金なら言う通り持ってきます。あなた達の言う通り体でもなんでも好きにして構いませんから………お願いです、《あれ》だけは返して下さい。」
ひーちゃんと二人で声の方に慌てて眼を向けると、何人かの如何にもヤクザですという風体の野郎どもに、可愛らしいお嬢様といったかんじの子が尋常でない様子で食い下がっている。
「京一!。」
「おう!。」
当然のことながら、俺とひーちゃんはそっちへ駆け寄って行くことになる。
「しつけーなぁ。あれはもう俺達のとこには無えっていってるだろ。」
「そんなに、大事なもんだったら。あんなもん持ってこねえで、最初っから俺達の言う通りにしてたら良かったんだよ。」
「そっ それは………。」
「だいたい、お前さん、あれで終わったと思ってたのか?。」
「まだまだ、俺達に尽くしてもらわなきゃいけねえんだよ、お前さん達はな。」
「ほら、どうなってもかまわないんだろ。」
「態度次第では、《おやっさん》に俺達から頼んでやってもいいんだぜ。」
「………あっ、」
野郎共の一人が女の子の手を強引に取ろうとしたとこへ、俺達は割って入った。
「いーかげんにしろ!!、このバカヤローども。」
「てめえ等、その可愛いおネーちゃんに薄汚え手でさわんな!。」
俺とひーちゃんはあっさりと女の子の身柄を確保すると、野郎共を睨めつける。
「何だぁ、この餓鬼ども?。」
「にーちゃん、変なカッコつけは為にならねえぜ。」
うーん、どうやらこの界隈を縄張りにする奴らじゃないらしい。いくら私服姿とはいえ、俺はいつものように木刀を持ってるし、ひーちゃんの蒼い瞳だってこの辺のヤクザで知らないヤツなんぞいないはずだからな。
しかも、本日《ホモカップル》に間違われずに済んだひーちゃんの格好が(性別判断し難い私服姿)、その馬鹿共には徒になった。
「それとも、そっちの綺麗なオネーちゃんを代わりに寄越してくれるのかい?。」
一人が下卑た笑いを浮かべてひーちゃんを指差す。
『アホな奴等だねえ。そんなに自分の命が惜しくないのかな?。』
まったくだ。大人しく引き下がれば一発くらいで済んだものを。
『まっ、アホだからあんなことやってるんだろうけどさ。』
タマ、お前、それは身も蓋も無いぞ。(汗)
当然のごとく、隣に立っているひーちゃんからは怒りのオーラが立ち昇る。
「京一、手出し無用だかんな(怒)。」
「はいはい。」
この程度のヤツ等じゃ、ひーちゃんに髪の毛一本たりとも傷付けられねえのは一目瞭然。
ひーちゃんが一歩踏み出すのと、俺がその可愛らしいおねーちゃんを促して一歩下がるのは、ほぼ同時だった。
「なんだぁ?。本当にそのネーちゃんが代わりをする気か?。」
「随分と人の善いことだなあ。それとも《そう言う事》が好きなのかい?。(イヤニヤ)」
あーあ、火にガソリン注いじゃって、ニトロまで放り込んでるぜ。
「うるせぇ!!、このぼけザルども。」
「なんだぁ?。」
「シノゴノうるせぇつってんだよ、この類人猿以下の眼潰れ脳腐ド畜生共!!。いっぺん地獄に落ちてその役に立たねえ眼と発酵しきった脳味噌を入れ替えて、人類に進化してから出直して来やがれ!!!!。」
何時聞いてもこの悪口雑言は視覚と聴覚への暴力だよなぁ。俺はそろそろ慣れたけど。
「なっっっ?!。」
「《お礼参り》に来る根性があったんなら、この《真神学園の緋月龍麻》がいつでも相手になってやる。もっとも、五体満足で地獄から戻ってこれたらの話だがな。」
ひーちゃんの拳に【氣】が集中する。そこまでやるかい(汗)。
「いくぜ!、【螺旋掌】・【円空破】・【掌底・発剄】!!。」
まあ、とりあえず死なねえ程度には手加減してあるみたいだし、奴らの自業自得だ。
そうして、俺達はその助けた女の子の話を聞くことになんたんだ。
なんでも、アイツ等は結構新興の暴力団の下っ端っていうかチンピラで、学生を利用して悪どい事をやっているそうだ。
まず、チンピラを使っていいとこの坊ちゃん嬢ちゃんや優等生に万引きなんかを無理矢理やらせてそれをネタに強請る。金が払えなくなったヤツには替わりに《売春》だの《銃や薬の密売》をやらせて、今度はそれをネタにそのまま泥沼に引きずり込むという、今時刑事ドラマの題材にもならないようなことをやっているらしい。
俺的には、それをやる方もやる方なら、引っかかる方も引っかかる方だと思うんだが。
目白にある超お嬢様学校(校則が厳しいことで有名)に通っていたその子も、やっぱりその手口に引っかかり金を強請り取られるハメになったという。金を渡し続け自分の貯金も底をついてしまった時その子がとった手段は、ヤツ等の言いなりに悪事をすることではなく家から家族にバレないように金目の物を持ち出す事だった。
問題だったのは箱入りお嬢様だったその子が持ち出した物を質屋なんかで現金化することを思いつかず、現物をそのままアイツ等に渡しちまった事だ。一番発覚し難いだろうと、家の宝石箱の奥の方から持ち出したその品物は、なんと祖母の一番大事にしていた祖母の母(つまりその子の曾祖母さん)の形見の品物だったそうなのだ。
しかも、つい最近その祖母は長い患いの果てに危篤の床につき、死ぬ前にその形見の品をその子の母親に譲りたいと言い出し、その時になってその品物が見当たらないことで家は大騒ぎになっているという。
そうして、自分の浅はかな行動で祖母を意識不明の重態に落とし込んだしまったことに責任をとるため、自分はどうなってもいいという覚悟でアイツ等に品物の返還を頼んだところ、その品物はこともあろうにその組の幹部連の方に謙譲されちまった(っていうか、上納されてた)後だということで、さっきの遣り取りになったということだったんだ。
「私の自業自得だって言うのはわかっているんです。始めにキチンと警察なり先生方になりお話していたらこんな事にはならなかったって。でも、その時は勇気がなくて………。」
公園のベンチで涙声で訴えるその子を、俺とひーちゃんは黙って見つめていた。
「これでは、私がお祖母様の命を縮めてしまったのと同じです。だから、だから………。」
「勇気を振り絞って、今日此処に来たんだね。」
「はい。でも、結局私は何もできませんでした…………(シュン)。」
その子は悄然と顔を俯かせて涙を流しつづける。
「このままではお祖母様が御可哀想です。ずっと曾祖母様に申し訳ないとうわ言で呟かれていらっしゃって。愚かな私の所為で、最後の望みも叶えられずにこのまま逝かれてしまうのかと思うと、私は…………、私は…………。」
ひーちゃんはおもむろにその子の肩に手を置くと優しく言った。
「頑張ったね。大丈夫、後はオレ達に任せておいたらいい。」
「ひっ、ひーちゃん?!。」
『姉さん?!。』
あ――あ、やっぱり出ちまったか、ひーちゃんの病気というか、《最強必殺技》が。(女の子の話を聞き始めた時点で、なんとなく予想はついてたんだが)
「だって、放っておけねえだろ。この子だけの問題ならともかく、お祖母さんの命まで懸かってるんだぞ。」
いや、それは充分解かってるし、俺だってこのまま済ますつもりなんて毛頭無かったけどよ。でも、あっさりと安請け合いできるような話でもない気がするんだよな。
が、ひーちゃんがこの『放っておけねえだろ。』の言葉を繰り出してきた場合、俺に抵抗の余地は全く無いことも、今まででよーっく思い知ってるよ。
「はいはい、相棒として当然俺も付き合うぜ。」
『姉さんてば、本当にしょうがないよね。』
「よーし。じゃあ、君はもう家に戻った方がいい。駅まで送っていくよ」
「あの………。(困惑)」
「あっ!、なんとかなったら連絡するから、住所と連絡先だけは教えといてくれるかい?。大丈夫、悪用したりしないから。」
「あの………、いいんですか、本当に?。」
「まかせとけ。この《最強コンビ》にそこらのチンピラなんか目じゃないから。」
『俺を忘れないでよね。《最凶トリオ》の間違いでしょ、姉さん。』
あのなぁ、自分で言ってどうすんだ、タマ。
そうして、その解決方法を話し合うことになった俺たちだが………。
「こんな卑怯な遣り口の奴等、野放しにしておく事なんて絶対無い。品物取り戻すだけなんて生温いぞ。さっさと殴り込みをかけて、組ごと叩き潰してやればいい。」
イキナリ過激なことを言い出すのはひーちゃんだ。
『それ、却下!。あの組は《銃の密売》なんてやってるんだから、二人だけで正面から殴り込みはちょっと危険すぎるよ。』
「二人だけじゃなかったら、いいのか?。」
『姉さん、他のみんなを巻き込んで前科者にする気?。そりゃ、みんな、姉さんが一声かければ一も二も無く乗ってくるだろうけどね。一応犯罪なんだよ、《殴り込み》も《強盗》もさ。』
まあ、今までだってバレたら犯罪なんてことは多々あったんだけどな。(つーか、《銃刀法違反》は既に日常茶飯事だよなぁ)
「わかってるよ。だから、今京一だけしか呼んでないだろ。」
『なら、いいけどさ。とにかく、絶対に正体をバラさないように、かつ派手にこの悪事を世間の衆目に曝し、二度とこんな馬鹿な事を思いつかないようにあの組に壊滅的な打撃をあたえ、さらに品物の方は目立たないように回収する。これが最良の解決方法だよ。』
なんつーややこしいことを言い出すんだ、タマ。当然の事ながら、ひーちゃんも反論する。
「何で、そんなまだるっこしいことを…………?。」
『理由その1:俺達がやったとバレたら、俺達の家族や皆に迷惑がかかるし、かといって内緒にしていたことが知れたらみんなが不愉快な思いをすることになる。』
うーん、その場合仲間内全員に《吊るし上げ》くらうのは、ひーちゃんじゃなく俺だろうなぁ。
『その2:できるだけ派手にこんな馬鹿な犯罪を潰せば再発防止しになるし、対象となっている学生達にも警察にも警告になる。その3:組はキッチリと始末しておかないとあの子や今現在の被害者たちに後顧の憂いが残る。その4:そもそも品物を持ち出したのがあの子だと家族にわかってしまったら、元も子もない。以上、わかった?。』
「わかったよ。」
「タマ、お前って結構考えてるんだなぁ。」
『俺に喧嘩売ってんの、京一。』
「ははっ、わりぃ。一応誉めてるんだけどよぉ。んで、そのややこしい事態を解決する方法までは考えてあるのか?。」
『あるよ。とーぜんじゃん、でなきゃここまで言わないよ。頭脳労働者を舐めないでよね。』
タマの場合、頭脳労働しかできないの間違いだろ。
「ならもったいぶらずに、とっとと言え!。」
『教えて下さいでしょう、姉さん。態度Lサイズだよ。』
「やかましい!!。どうせそれを実行するのはオレ達だ。早く言わんか、お祖母さんがポックリ逝っちまったら、それこそ元も子もないだろうが。」
『もう、仕方がないなぁ(溜息)。じゃあ、まず正体をバラさない為には変装するしかないよね。それから派手にってことなら、警察とマスコミにあの組から何か適当なものを盗みますって《予告状》でも出せば良んだよ。警察が出てくれば向こうの銃火器の使用に制限がかかるから、二人だけでもなんとかなると思うよ。んで、組に壊滅的打撃を与えるなら《頭潰し》が一番効果的だから、その時に組長や幹部連全員をできるだけ常識外れな方法で恐怖感を与えて病院送りにでもしちゃえばいいし、これがマスコミに報道されれば一石三鳥、ついでに物が盗まれて組が潰れたら、あの子の品物が無くなってたって誰も気にしないよ。』
悪魔かお前は。なんつープランを考えてくるんだ。あっ、でも………。
「変装ったって、俺はともかくひーちゃんはちょっとやそっとじゃバレるぞ。普段からこの辺では目立ってる上に(なんせ、新宿最強の《魔神学園の堕天使》だもんな)、さっき思いっきり《真神学園の緋月龍麻》って大見得きっちまったからな。そーしたら、芋蔓式に一緒にいる俺までバレちまうぜ。」
あっ、ひーちゃんが嫌な顔してる。でも本当のことだろ。
『大丈夫、それも考えてあるよ。ようは、《緋月龍麻》っていう【男子高校生】とその【相棒】に何の関係も無い人間がやったと思わせればいいんだよ。』
その時のタマの楽しくて仕方が無いという口調といったら………。マジで悪魔の様だった。
「なんか、オレ果てなく嫌な予感がすんだけど……(汗)。」
『ふっふっふー♪。つまり、姉さんが一目瞭然で【女】としか思えないような格好に変装すれば良いんだよ。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「はぁ――ぁぁぁ!?。」
「ナイス・アイディアだ、タマ!!!。」
呆然としているひーちゃんは、タマの言葉に喜色満面の俺を殴ることも忘れている。
『女が男に化けるのは簡単だけど、男が女に化けるのは化ける当人の才能が必要だっていうからねぇ。ましてや、《夜間限定・女》の姉さんが体のラインがバッチリわかる格好すれば絶対に気付く人間なんて皆無だよ。』
体のラインがバッチリわかる格好………(喜)。いかん、口元が緩む。(涎が………)
これを実行せずして、どうする。蓬莱寺京一の名がスタルぜ!!。
「よっしゃぁ――ぁぁぁ♪、多数決でそのプラン採用。死にかけてるのあの子の祖母さんの為にも、とっとと実行あるのみ。(ウキウキ)」
『そうと決まったら早速準備、準備。あちこちから物を調達してこなきゃね。(ルンルン)』
なおも呆然としているひーちゃんを残し、俺とタマはいそいそと準備にかかり出した。
タマの悪巧みに浮かれていた俺が(ひーちゃんの《女装》だぞ。それも体のラインがバッチリとわかるヤツ)、本日のデートの最重要目標《ひーちゃんへの告白》を綺麗さっぱり忘れていたことは言うまでも無い。(あああああああ、やっぱり俺って大馬鹿かもしんない。)
そして、二日間準備を整え、今俺達はその組の《本部兼組長本宅》のすぐ近くの木の上で待機中というわけなんだ。
『ほら、もう予告時間になるよ。いい加減開き直ってさっさとすませちゃうよ。』
この二日間というもの、ひーちゃんの衣装の調達・現場の下見・情報収集・予告状準備と獅子奮迅の大活躍だったタマが言う。
俺は、取り合えずひーちゃんのその刺激的な姿から現実に目を向ける為、タマに話し掛ける。
「しっかし、タマ。お前にパソコンなんて特技があったとは、驚きだぜ。」
そう、タマのヤツは【氣】をつかって(なんか、電気信号に直接干渉できるって言ってたが、詳しい仕組みはよく解からん)電子機器を扱えるらしい。おかげでネットを使っての情報収集や電子メールでの予告状の手配なんかも全部タマがやってのけている。おまけに、その他人には見えない体を利用して普通じゃできない現場下見までキチンとこなして来てるんだから、今回タマ様々だよな。
『だって、実体がないと暇でしょうがない時って結構あったからね。いろいろ試してみてたら出来るようになったんだ。』
なるほど。らしいっちゃ、らしいよなあ。
「それに、ひーちゃんのあの衣装。よくこんな短期間でサイズのバッチリあったヤツを調達できたよな。」
肩と胸とお尻の所が大胆にカットされたワインレッドのハイレグレオタードと太腿の所に荊の模様がプリントされたぴったりとしたダークシルバーのロングスパッツ、金のイヤリングにチョーカー、純白のシルクの手袋、紅いハイヒール、その蒼い瞳を隠す為のゴーグルタイプのグラサン、俺が贈った真紅のリボン以外はみんなタマが揃えたもんだ。
ちなみに、俺は髪の毛を黒く染めて、ハイネックのシャツにジャケット、ズボン、靴、手袋と全部黒尽くめで、さらに黒いグラサンをかけ、抜き身の日本刀をひっさげてる(流石に木刀は俺の名刺代わりということで不可をくらい、旧校舎で拾ったヤツを適当に持ってきた)という地味だが果してなく怪しい格好である。
『下の義姉様に頼んだんだ。大喜びで一式揃えて送ってくれたよ。双姉様は本業スタイリストだからね。後でちゃんと写真送ってくれればOKだってさ。本当は自分でメイクまでやりたいって言ってたけど、今仕事でロスにいるからしょうがないよ。』
それで、ここに来る前に俺に写真を撮らせたのか。(後で俺の分も焼き増ししとこう。ネガはあるし)こういう事情なのに嬉々として一式揃えて送ってくるなんて(しかも写真で保存?!)、マジで、一体どういう家族なんだ、ひーちゃん家って?。
『まあ、姉さんが目立てば京一の方が目立たなくなってバレにくくなるから、出来るだけ派手にコーディネイトしてもらったんだけどね。それより、京一こそどっから持って来たのワイヤーガンとか発光弾とか発煙筒とかプラスチック爆弾なんて?。それこそ、簡単に調達できるもんじゃないよ。』
「親父の書斎。」
『はい!?。』
あっ、やっぱり変だと思うか。普通思うだろうなぁ。
『念の為に聞いとくけど、京一のお父さんって一体何してる人なわけ??。』
「土掘り&土拾い。」
『はあ!?。』
「なんだぁ?!。」
これじゃ、わかんないか。そうだよな。
いつのまにか、ひーちゃんまで俺達の話に参加してる。
「《地質学者》ってヤツだとさ、一応教授らしいぜ。俺も、普段何やってるかなんて知らねえ。大学の研究室に閉じ篭もってるか、世界の何処かの地面をせっせと掘ってるかで、ほとんど家に戻ってこねえから。」
『なんか、京一のお父さんが《大学教授》なんてすごーい違和感。』
「タマ、お前なぁ。(怒)」
自分でも思っているが、てめえに言われるとムカツクぞ。(実際、とても《大学教授》なんぞという顔しとらんからな)
「こら!!、タマ。京一のお父さんは京一じゃないんだ。職業選択は人それぞれなんだから、その言い方って京一のお父さんに失礼だぞ。」
ひーちゃん、それってフォローになってないって(涙)。
「………(汗)。まあ、地面掘ったり、その掘りたい地面の場所に辿り着く為の道具らしいぜ、これ。でも、昔っから、《光る綺麗な石》だの《妖しげな彫刻品》だの《材質不明の変な模様付のプレート》だのって掘ったついでにそこらにある物や、間違って掘り当てちまった物を勝手に家に持って帰ってきて俺への土産とか言ってたから、その辺の拾い物も混じってるかもな。」
そういえば、あの《光る綺麗な石》なんてひーちゃんにあげたら喜んでくれるかなぁ?。
『ふーん。面白いお父さんだねえ。』
「楽しい人だな♪。」
良かった、とりあえず納得してくれたか。頼むから、ついでにとか言ってお袋や姉貴の事まで聞いてこないでくれよ。多少変でも表向きは専業主婦のお袋はともかく、姉貴のヤツはマジで穴掘って埋めてやりたいからな。
『あーっっ。予告時間、1分過ぎちゃったよ。早く行くよ。』
「へいへい。」
「おうさ。」
『先制攻撃は京一からね。それから注意事項、姉さんは男言葉を使わない事、お互い《ひーちゃん》・《京一》と呼ばないこと、技の名前も声に出すのも禁止だよ。』
そりゃそうだ。変装した意味がなくなっちまう。
「じゃあ、なんて呼びあったらいーんだよ。不便だろ。」
うん、うん。
『予告状は【月からの天使:ルナとその下僕】名義にしといたから、姉さんは《ルナ》でいいんじゃない。京一は適当に《きーちゃん》とでもしといたら?。』
「・・・・・・・・・(汗)。」
「あ―――・・・・・・。」
タマ、おまえのセンスっていったい?。(汗)(龍那→りゅーな→るーな→ルナは解かるけどよう、俺は下僕かい!。)
あれ、ひーちゃん、なんかすっごく嫌そうな顔してるけど、何かあんのか?。
『ほら、ミッション・スタート!!。』
よっしゃあ――――ぁぁぁ、いくぜ!!。
* 龍麻
『【剣掌・・・旋】!×2!!。』
京一の無言で放たれた技と共に、俺達はその屋敷に飛び込んだ。着地と同時に庭に群れていた人間達に向かって、今度は姉さんが技を放つ。
『【螺旋掌】!!。』
これで、門と庭と玄関の組員さん達の掃除は終わり。
ちなみに、庭に飛び込んでくる時にキチンと特殊効果である《光る翼》を姉さんの背に発現させるのを忘れない。(だって、《月からの天使》って予告状に書いた以上、ちゃんとそれらしくしなきゃね。派手でイイしさ)これは俺のミニチュアサイズの分身を作る技術の応用、【氣】と月光の反射を利用したもので割と簡単にできる。(俺って芸が細かいよねぇ)
『ほら、警官とマスコミが飛び込んで来る前に一階と二階潰して、地下の金庫室までいくよ。』
その場に忽然と出現したさっきの姉さんの姿と技に、塀の外で待機させられてたらしい警官サン達はまだ呆然としたままだ。ふむ、やっぱこの演出って有効だったね。どうせだったら、京一にもなんか派手な格好させればよかったかな?。
それはおいといて、この隙にチャッチャと片付けちゃおう。
「おうよ。」
「解かったわ。行きましょう、きーちゃん。」
姉さんもやればできるじゃん。やっぱ女の子らしい言葉使いって良いよねぇ。(ウンウン)
俺達は、さっさと玄関から一階のエントランスに突入する。
「二階は、私が。」
「んじゃあ、一階は俺に任しとけ。」
ガンガンと問答無用に繰り出された二人の技で、一階・二階ともに(人も家具も)壊滅状態になるのには、3分とかからなかった。
そのまま、俺達は一気に地下へ降りる。
「なーんか、想像してたより随分楽じゃねえか?。」
「そうですね。」
【秘拳・黄龍】と【剣聖・天地無双】を合わせて12発も撃った人間達のセリフじゃないよ。
『それは、昨日の夜に俺がこの屋敷のスプリンクラーを誤作動させて、火薬類を全部ダメにしておいたからだよ。おかげで、銃火器を持ち出してくる人間が殆どいないでしょ。』
念には念を入れてねって。危険度を少しでも減らしておくっていうのは、作戦立案者としては当然の手配りだよ。俺ってば本当に良くできた弟だよね。
「・・・・・(汗)。」
「おまえって、本当に悪魔だな。」
京一は喋りながら、通りがかりの下っ端を2人ばかりをシバキ倒す。
『うるさいなぁ。ほら、そこの角を曲がってもう一回階段を降りる。その先の向かって正面の壁が隠し金庫室への扉だよ。』
「よっし。おら、邪魔だぁぁ。」
「おどきなさい!!。」
階段を降りたところで、さらにまとめて5人程吹っ飛ばす。
それにしても、黒尽くめに日本刀持った胡乱な男(京一)はともかく、ド派手なレオタード姿のナイスバディの謎の美女(姉さん)に素手であっさりシバキ倒された人たちって、体もさることながら精神的ダメージって結構きてるだろうなぁ。まあ、それも狙ってこういう方法とったんだけどさ。
「タマ!」
「扉を、!」
『はいな。』
目的の壁の前に来た所で、俺はシステムに干渉してあっさり隠し扉とついでに中の金庫の鍵も開けてしまう。とーぜん、セキュリティもカットするのも忘れない。ふむ、最新式コンピューター制御の構造って楽でイイよ。(やっぱ俺って優秀だよね)
そのまま、隠し金庫室に突入。
『京一はそっちの奥の【翡翠の龍の彫刻】を持ってくれる?。それが今回の予告した品物だから。取り扱いは要注意だよ、時価500万円なんだからね。』
「げっ!。」
そんなに重くないはずなんだけど、落とさないでよ。それ盗品だから、後で警察に返すつもりなんだから。
『姉さんはそこの【カメオのブローチ】を確保して、それがあの子のだから。それから、その箱に入ってる書類の内写真とネガはこの場で焼却、帳簿とフロッピーは持ち帰り。悪事の証拠だからね、これも取り扱い注意だよ。後でマスコミと警察に資料として送るから。』
「了解よ。【巫炎】!。」
さーってと、これで目標物の確保は完了。あとは諸悪の根源、ここの組長をシバキ倒して撤退すればミッション・コンプリートだ。
「それで、《愚か者達の頭目》は何処なの?。」
「そうだよ。ソイツをブチのめしてやんなきゃ後顧の患いが残るってヤツだろ。」
『さっき一階の組長室に居なかったから、たぶんお約束通り《隠し通路》ってヤツからトンズラこいたんだと思う。通路の入り口は隣の部屋の鏡の裏側だよ。』
本当にお約束だよね。
「そういうことは、早く言いなさい。きーちゃん、追いますよ。」
「おっ、おう。」
俺達はさっさと隣の部屋へ移動し、案の定開いていた隠し扉の入り口から追跡しようとした時、階段の方からガヤガヤと音がしてきた。感じる気配からすると警察じゃなく、どっかからの組員の増援らしい。
「ルナ、先に追っていけ。俺はアイツ等を片付けてから追う。」
「きーちゃん………。解かったわ。貴方が追いついて来るまでに此方も片付けておきます。」
部屋の外に向かった京一の背中を一瞥すると、俺達は《隠し通路》に跳び込むと、その出口に向かって走り出した
* 紅葉
夜空に輝く月は、半ば欠けてもなお僕にはその明るさが眼に痛い。
月が雲に覆われる事を喜ぶのは、僕のその心が光を厭うているからだろうか。
僕は、予定外に生じた《ターゲット》を待つために建物の影に身を潜めていた。
今回の《仕事》は抹殺ではなかった為(それなりの悪事はしているようだが、それだけ《小物》だということだ)、本来は僕以外の者があたるはずだったのだが、その《ターゲット》の身に予想外の事態が生じたため急遽僕が実行者となることになった。
まったく、困った事だ。今日は、部活がないので母さんの処へ行くつもりだったのに。
だいたい、《月の天使からの破滅予告状》というのはいったいどういう事なんだろう?。
こんな馬鹿げた予告状なんかを、出す方も出す方なら、本気にする方も本気にする方だ。
って、良く考えたら、うち(拳武館)の上層部も本気にしたという事か?。(今、僕がここに居るんだから)館長のお留守に何てことだ。
そう思って、屋敷の方に出向いてさっさと始末をつけてしまおうと考えた処で、凄まじい【氣】をその向かおうとした方向から感じた。どうやら、本当に予告どうりのことを実行している人間がいるらしい。(奇特な事だ)
しばらく、そのまま様子を見ていると、案の定というか情報通りに木の陰の隠し通路の出口から数人の護衛を従えた《ターゲット》が姿を現わす。こういう姑息な処は小物全てにに共通することかもしれない。
ともかく、今回のターゲットの処置は《社会的抹殺》と《一生不虞者》。社会的抹殺はおかしな予告者たちのおかげで此方が手を下すまでもない。後は、あの男の背骨あたりをへし折ってやればいいだろう。そう考えて、僕はまず護衛たちを排除しにかかる。
「【龍閃脚】!!。」
護衛達は、あっさりと地に沈む。
驚愕に見開かれたターゲットの瞳。一刹那、心に走った痛みを何時もの如く黙殺すると、止めの行動にでる。
「【天鳳双破】!!。」
ゴキリッと聞き慣れた、だが嫌な音をたててターゲットは声もなく倒れ付す。
その時だった、《彼女》が現れたのは。
「何をしているんです?!。」
妙なる鳥のさえずりのような声と共に、そこに忽然と出現した《存在》をなんと表現したらよかったんだろう。
顔の半ばを隠していてもなお、人の目を魅つけてやまないだろう艶麗たるその美貌、血のような紅いリボンが艶やかさを引き立てている濡れるようで艶やかなな漆黒の長い髪、何よりも強引に人の視線をを奪うであろうそのしなやかな姿態。
僕の意識に刻み込まれた、鮮烈で艶やかな緋色と金。
只の女性というには華麗すぎ、天使というには圧倒的すぎる、月下の《女神》。
一瞬だけその背に顕れた月光の色に輝く翼は、けっして僕の目の錯覚ではないはずだ。
「それは、私の《獲物》です。」
そうだ、《月の女神》は狩人と戦いの女神でもあったはずだ。
「手を引いてください。」
立ち昇る圧倒的で艶やかな紅蓮の炎のような【闘氣】。
僕はまるでその【氣】に魅せられたかのように技を仕掛けていた。
「【昇龍脚】!!。」
「?!、【龍星脚】!!。」
彼女はあっさりと僕の技を迎撃する。
「【龍神翔】!」
「………。」
今度は、最小限の動きのみで技をかわす。だが、かわしきれなかった技の余波が彼女の顔の覆いを弾き飛ばした。
「!!!。」
現れたその奇跡のような美貌が、中でも澄みきってどんな宝石よりも煌めく蒼い瞳が僕の全てを凍らせる。
刹那。
動く事さえ忘れて彼女に魅入っていた僕の頬に、彼女のその白い手が振り下ろされる。
パシーンッ。
「もう、おやめなさい。貴方はこれ以上自分を追い詰めてはいけません。」
心に染み透ってくる、凛としたでも優しい声。
「貴方の瞳はそんなに寂しそうなのに・・・・。」
「君は・・・・・。」
僕に向かって差し伸べられた穢れの無い白い手。僕にはこの《女神の手》を取る事が許されるんだろうか?。
思いは溢れ止まらず、僕はその差し出された彼女の腕を強引なまでに握り締める。
その時、別の所から僕に向かって鋭い【氣】の技が放たれた。、
「くっっ!!」
僕は、とっさに【氣】を当てて、それを相殺する。
「ルナ!!。」
【氣】が放たれた方を見ると、そこに一人の男が立って彼女を呼んでいた。
月光に輝く日本刀を携え、全身を漆黒の闇色に染めた男。
なのに、其の男の全身から放たれているのは真昼の太陽の如く燦然と輝く、僕には眩しい程の【陽氣】だ。
「きーちゃん♪。」
すると、僕の手を振り払い、彼女はその男の方に風のように駆け寄る、宝玉のような蒼い瞳を輝かせて。
その時、僕の胸に走った小さく不可解な痛みは何を意味していたのだろう。
「いくぜ。あっちは全部始末した。」
「此方も、些か予定外ですが、終わりました。」
「よーしっ。撤収だ。」
しっかりと視線を交わしあった彼女と男は、ひらりと塀の上に飛び上がる。
其の男に、僕が激しい憤りを感じたのはどうしてだろう。
「あっ、まっ…………。」
僕の呼びかけを最後まで聞くことはなく、彼女の背に再び幻のような月光色の翼が輝くと、次の瞬間にはもう二人の姿も気配も其の場所から消え失せていた。
僕に残された彼女が夢ではないという証は、たったの二つ。
壊れて原型を留めていなかった黒いサングラスと、
淡く輝く月光の下に彼女の【氣】残り香を留めた、緋色のリボン。
* 龍那
タマの細工による【眼晦まし結界】強化型でゆっくりとその場を離れたオレ達は、奪回した品物を本来の持ち主に返却すべく人気のない道を歩き出した。
「ちっくしょうぉ――ぉぉ!。あのド腐れ組長の親父に止めを刺せなかった。」
『イイんじゃない。あの組長、あの様子じゃあ多分一生下半身不髄だよ。姉さんが手を下さずに済んでよかったんじゃない?。ちゃんと当初の目的は全部果たせたんだし』
「馬鹿ったれ!、物事は最後まで筋を通さなくてどうする。たとえどんな状況であろうとも横槍は横槍だ。」
『単に、「自分ができなくって鬱憤が溜まってます。」って正直にいえば。』
だーっっ、ムカツク。何がムカツクって、どんなに腹がたってもコイツをぶん殴ってやれないところがだ。なんせ、コイツの本体ぶん殴ってもオレが痛い思いをするだけなんだ。(オレの手の中にあるんだからな)分身はすり抜けちまうし、ムカムカ。
『でも、さっきの人。結構強くてカッコいい人だったよね。あの時ちゃんと話していれば以外に仲間になってくれたかもよ。』
「あのなぁ、あの状況で仲間になられても困るだろーが。」
オレのこの変なカッコを見られて仲間になられても、他のみんなに状況を説明できないだろう。
オレ達の《特殊事情》をどう説明するんだ?。
『そうだね。でも顔と強さはは好みのタイプだったでしょ。』
「まあな。」
「………。」
何だ?、京一。さっきから不機嫌な顔して。
確かに、京一や翡翠とはまた違ったタイプの美形だったし、技も強くてしかも何か懐かしい感じがしたけど。(なんか、《捨てられた猫》みたいな眼をしてたヤツだったなぁ)
でも、顔ならオレはああいう冷然とした美形よりも、京一みたいな愛嬌があってでも精悍な感じのするほうがイイよなぁ。実際、その方がいつも見てて嬉しいし。
あれれ、今なんかオレ変なこと考えなかったか。
まあいいや、深く考えるのよしとこ。
「それよりも、まだこのカッコしたままじゃなきゃダメなのか?。いい加減に着替えたいんだけど。」
『ダーメ。そのブローチ返しに行くまでは。』
「だってこのカッコだとサラシできないから、マジで胸がプラプラして邪魔なんだよ。おまけに首と肩と胸元がスースーして寒いし。それに何だよこの《レオタード用の下着》っていうやつ、こんな心細い紐みたいなもんオレもうヤダ!。」
本当に、どうしてオレにはこんな邪魔臭いモノがあるんだろう?。(夜だけとはいえ)
「……………………(汗)。」
ズベシャッ☆。
『ね〜え〜さ〜ん(油汗)。』
あれ?!、何だよ京一。お前、いきなりズッコケるなよ。おまえが持ってるのは時価500万円なんだぞ。壊れたらどーすんだ、気をつけてくれよ。
それに何だ、タマ。その呆れ果てたっていう感じの言い方は。
「大丈夫か?、京一。具合でも悪いのか?。」
最後の雑魚共の時にでも、何かどっかぶつけたとかしたんじゃないか?。今日は変だぞ。あんまりオレの方に話し掛けてこないし、目を合わせようとしないし。
「だっ、だっ、だっ 大丈夫だから、…………暫くそっとしておいてくれねえか。」
「そうだよ、姉さん。京一にだってイロイロあるんだよ。察してあげなよ。」
そーなのか?、大丈夫ならいいんだけど。(でも、なんか赤いものが顔についてたような)
なんかこないだから、京一はタマとばっかりお互い解かり合ってるみたいですんごく悔しいなぁ。オレが京一の【相棒】なのに。(タマばっかりズルイ!)
やっぱり、オレみたいな半端者じゃなくて本当の男同士じゃないと京一は嫌だったのかなあ、昔のアイツみたいに。
京一は友達思いで、なんだかんだ言ってたって優しいから、こんなオレ達の事を《嘘つき》呼ばわりや《化け物》扱いされなかっただけ感謝しなきゃいけないのにな。オレってば我が侭だ。
思わず、しょうもない後ろ向きな考えを振り払おうと頭をフルフルとしていると、本来そこに在るべき物が無くなっているのに気付く。
「あ――――――――――っっっっっ!!、無いぃぃぃ。無くなってるぅぅぅぅ。」
「どうした、ひーちゃん?。」
『なに、何がないって?、まさか今日の確保品じゃないだろうね。』
「リっ、リボンが…………。」
無い、いつのまにか無くなってる、さっきまでしていたはずの紅いリボンが。
『へっ?!。………あっ、本当だ。マヌケだねぇ、姉さん。』
うるさい。黙れ、進化できないタマピー。
きっと、あの捨て猫兄ちゃんにグラサン弾き飛ばされた時に、いっしょに解けて落ちちまったんだ。
うわぁぁぁ――ん(泣)。あれ、結構気に入ってたのに。光の加減でキラキラ光る金糸の綺麗な縁取りとか、白いフワフワのボンボンの柔らかい感触とか。
何より、あれは京一からの初めてのプレゼントだったんだぞぉ――ぉぉ。(何で、いきなりオレみたいなのにあんな《可愛らしいリボン》だったのかが謎なんだけど)
あのリボンをオレに差し出した時の京一の顔があんまり可愛かったから、ちょっと照れてぶっきらぼうに受け取っちまって、お礼もちゃんと言えてないのに。今度キチンと何かお返ししようと思ってたのに。
「ふみゅみゅぅ〜〜〜…………(シュン)。」
『これはもう、姉さんの自業自得だよ。』
「あ―――、ひーちゃん…………(汗)。」
あんな可愛らしいリボン、普段のオレには絶対に似合わないから、今日のカッコなら違和感ないかなあと思って(双姉様の選んでくれた白のレースのリボンじゃなく)こっちを結んできたのにぃ。
やっぱ、慣れないことなんかするからか。オレって身の程知らずの大マヌケ。クスン。
「ふにゅーん。(泣)」
「えーと、ひーちゃん。そんなに落ち込むなよ。あれがそんなに気に入ってたんなら、また俺が同じ物買ってくるから。」
「うにゅぅ。いいのぉ?、京一。」
「まかせとけよ♪。」
本当に、京一ってば優しいなぁ。それにつけこんでるオレもオレだけど。(自己嫌悪)
「ありがとぉ――ぉぉぉ♪、京一。」
ぱふっっ。スリスリぃぃ☆。
嬉しいから、抱きついてほっぺスリスリしちゃえ。どうせ今なら誰にも見えないし。
みゅみゅみゅん♪、本当に京一の【氣】って気持ちがいいなぁ。
ズベシャッ☆。
ゴトッ★。
って、おい。京一、今度は後ろにズッコケテ大丈夫なのか、本当に?。しかも今【龍の彫刻】を足の上に落としたろ。本当に具合悪いんじゃないのか?
「うきゅ!!、京一ぃ?。」
『姉さん。貴女が京一に止めさしてどーすんのさ(呆)。この、考えなし!!。』
「だっ、たっ、大丈夫だ、タマ(油汗)。」
あぁ―――ぁぁぁっっ、また二人だけで解かり合ってる。
お前等ばっかり、ずるいぞ。オレを仲間外れにするなよぉぉぉ。ふにゅにゅ。
⇒TO BE NEXT STORY.
□ 第三回「エセ色物だよいいのかな?」対談
京一「おいこら。何だ、今回の話は。」
峠之「えっ?!、…………はははっ(汗)。だからエセ色物だといったろ。いーじゃん、お前もそれなりに良い思いしたんだから。」
龍麻「俺はべつに気にしないよ。今回俺、それなりに活躍できたから。」
峠之「今回は本当に便利君だったからな、タマは。ちなみに、峠之は服装センスも色彩センスもありません。うちの妹のお墨付き。なんで、趣味悪いぞっていうのは覚悟してます。」
京一「威張っていうことか!!。それに、何だ。エセ色物っていうには。」
峠之「いや、某ベイエリアの《冬の祭典》の時言われたんだ。『《レオタード》だけなら別に色物じゃありません。色物っていうのは《メイドさんルック》とか《女王様》とかですよ。』って、だからエセなの。それに、今回の話は最初にいった【リボ○の騎士】のコンセプトにそってるからな。あれが、美少女変身物の走りなんだよ。さすが、偉大なる手塚先生だ。」
龍麻「どっちかって言うと、【神○怪盗ジャ○ヌ】になってなかった?。」
峠之「言うてはならんことを。自分でも書いてて気が付いたんだよ、まずいなぁって。」
(注:その後《キャッツアイ》、《セーラームーン》というコメントも頂いた)
京一「だったら、途中で書き直せ。おまけに、フライングであんにゃろーまで出しやがって。アイツが出てくんのは、【餓狼】だろうが。」
峠之「ああ、壬生のことか。だって、せっかく《次点》なのに可哀想だろうが、出番いつまでも待たせとくのは。別に、おまえがいつまでもグズグズしてるから発破かけてやろうとか思ったわけじゃないぞ。」
京一「思ってるだろーが。だいたい、いつまでも俺のアプローチがひーちゃんに通じないのは誰の所為だと思ってんだよ。」
龍麻「京一の所為でしょ。与えられたチャンスを毎回毎回目先の欲に釣られて潰してるのは京一自身だよ。今まで何回潰した?。」
京一「ぐっ。(汗)」
峠之「また、一つカウントは、終わったからな、あといくつだろうなぁ。クス。」
京一「…………(滝汗)。」
龍麻「まっ、甲斐性無は放っておいて。今回番外編なのに、結構伏線いっぱい張ってあったね。」
峠之「だから本編扱いなんだよ。ちなみに、はった伏線の内3個以上わかった方はご一報下さい。正解者には今回の【胡乱な黒尽くめ男・日本刀付】をプレゼントさせて戴きます。」
龍麻「貰って嬉しい人いるのかなあ?。」
峠之「居るんじゃないか?、日本のどっかには。」
京一「お前等ぁぁ―――ぁぁぁ。(絶対にいつか殺ってやる)」
龍麻「《下僕》は黙ってて。では次回予告いきます。次回は…………。」
峠之「対談までお前が仕切るんじゃない。次回は【魔獣行】の話《ジェラシック・パーク》になるでしょう。一応書く方は其のつもりです。コンセプトは、《押してもダメなら引いてみな》、キーワードは《嫉妬》です。」
龍麻「京一が嫉妬するのは解かるけど。姉さんや俺も?。」
峠之「そっ、とーぜん。………予定ではな。えーっと、次はちょっと間が開いちゃうかもしれませんけど、できるだけ早く書くようにします。」
龍麻「なめくじだもんねぇ。」
峠之「やかましぃ!!!。」
とりあえず、終わる。
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