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イキナリ予告破りの番外編その1でございます。(汗)
いや、【ジェラシック・パーク】書こうとしたら【魔獣行】の内容を一部忘れていたことに気付いて慌ててやり直そうと【京洛〜】から再ロードにチャレンジ。そうしたら、何故かネタが思い浮かんでしまったという………。
まっ、内容は【ジェラシック・パーク】前編の前哨戦みたいなモン(っていうか、前日の話)なんで、軽い気持ちで読んでやってください。(ってまた長いよ。これはとてもじゃないが番外編の長さじゃないわ。)
うちの女主人公は、緋月 龍那(ひーちゃん)といいます。
但し世間様と仲間内(京一と舞子ちゃんは除く)には【龍麻】という男で通してます。
おまけに、特殊事情(夜間限定の女でレンズマンでミニチュアサイズの双子の弟【龍麻】通称:タマを飼っている)持ち。さらに本人女の自覚皆無というこまったちゃんです。
前回ラストで、恋愛感情にも無自覚なお子様なことが判明。
めげるな京一、【陰】に行けるか否かは君の精進にかかっているんだ。でないと、書いてる方も困るんだよ(笑)
では、本文へどうぞ。
* 龍那
オレ、なんか最近変だ。
自分でもよく解らないことを、いつのまにか考えてる。
それは、殆どの場合京一に関することばっかりで、しかもそこを突き詰めて考えようとすると更に変な気持ちになってきちまうんで、そこで深く考えるのを止めてしまう。いや、考えたくなくなるんだ。
おかしい。変だ。こんなのオレじゃない。
いつもだったら、オレの頭に負えないような事は(自称・頭脳労働担当の)タマの奴に相談するんだけど…………。駄目だ、こと京一の事に関してはタマを当てにできない。
っていうか、したくない。
最近タマの奴、京一と二人ですっかり《ツーカーの仲》ってやつになっちまって、オレをつんぼ桟敷にして二人だけで内緒話とかしてる。それが無性に苛ついてくるんだ。京一の【相棒】はオレなのに。
先週だって、《家出》とか言って一日中京一の肩の上に乗っかちゃって、二人で楽しそうにずっと話してた。なのに、タマのヤツってばオレが京一に抱きついたりすると、『この考え無し!。』とか言って怒鳴りつけてくるし。自分ばっかり京一を独り占めして、ズルイじゃないか!。(あれ?、また変なことを………)
京一だって京一だ。前は何でも相談してくれたのに。ナンパだっていつも一緒に行こうって誘ってくれたのに(ナンパ自体は別にオレは興味がなかったけどさ)。最近は相談事はタマだし、ナンパとかは誘うどころか本人も全然行かなくなった、というか話題にも上らない。
ラーメンはいつも皆と一緒だし。(別に、皆と一緒もそれはそれで嬉しいんだけどな。)
この間の一件(思い出すのも恥ずかしい《月天使》の事件だ)の時なんか、一晩中オレの方を見ようともしなかったし、目を合わせてくれなかった。話し掛けても、上の空で生返事しかしてこなかったし。そんなにオレの《あの時の格好》って、目を背けたくなるくらいみっともなかったんだろうか?。
そりゃぁ、せっかくの京一からの初めてのプレゼントを無くしちゃったのは、オレが悪かったんだけどさ。
やっぱり、京一は本当はタマみたいなちゃんとした【男】じゃないと【相棒】としては不満なんだろうか?。半端物のオレを親友にしたことを、後悔してるんじゃないんだろうか?、昔のアイツみたいに。
うみゅぅぅ〜…………、また変な気分になってきた。
ヤメヤメ、不健康な考えは精神衛生上悪い。
「帰ぁーえろっと。」
「あれ、ひーちゃん。もう帰っちゃうの?。」
「ゴメンね、小蒔ちゃん。近所のスーパーの特売が5時までなんだ。(タイムセールもあるし)それに、今日はみんなまだ部活出るんだろ。」
引継ぎが終わったとはいえ、元部長さん達は大変だ。まだまだ後輩達の為にイロイロやる事があるみたいだし。葵ちゃんは、今日はクラス委員会があるってもう行っちゃったし
京一も、今日はHRが終わるなり元副部長と新部長に引きずってかれちゃったしなぁ。
(タマに協力させて逃げようとしたので、オレが殴り倒した後で確保した)まあ、京一の場合はちゃんと引継ぎしてなかったんだから、しょうがないよな。
「うん。ボクはもうちょっと後輩達をシゴイておきたいから。」
「俺もだ。悪いな龍麻。」
「気にすんなって。オレもやりたい事あるからさ。」
「明日は、みんなでラーメン食べにいこうね。」
「そうだな。」
「OK!。じゃあ、また明日な。」
「うん。じゃあね、ひーちゃん。」
「じゃあな、龍麻。」
『いいの?、姉さん。』
『何がだ、タマ。』
校舎を出て校門に向かって歩き出したオレに、タマがなんか含みがあるように話し掛けてくる。
『特売っていっても、さして必要じゃないヤツだし、たかが30%OFFだけなんだからさ。どうせなら、京一の部活でも覗いて行ったら。さっきの新部長さんも「いつでも来て下さい。」って言ってたし。』
ムカっ。まただ。
『何で、オレが京一の部活に行かなきゃ行けないんだ。』
『だって、京一、きっと姉さんが見に来たらハリキって部活に勤しむよ。その方が後輩達の為になるしさ。』
ムカムカムカムカっ。何で、お前にそんな事が解かるんだ。
『そんな事、オレが知るか!。京一の所へ行きたきゃ、お前だけで行け!!。』
『あのねぇ。俺だけで行けるわけないでしょうが(溜息)。だいたい、京一が今日部活出る気になったのは、姉さんにカッコいい所見せる為なんだから。京一の都合だって考えてあげなよ。』
ムカムカムカムカムカムカムカムカっ。(京一の都合だあぁぁぁ)
馬鹿ぬかせ!。自分を殴り倒した人間の為に、わざわざ面倒くさがっている部活に出るようなヤツじゃないだろ、京一は。
だいたい、京一のカッコいい所なんてもう充分に思い知ってるから今更だ。(あれ?)
『だから、もう知らんって言ってるだろーが(怒)。』
『姉さんの意地っ張り。へそ曲がり。根性曲がり。強情っ張り。』
『やかましい!。このポスペ以下の、進化し損ないのデジ○ンの、道端の石っころ。』
『あぁ――ぁぁっっ、言ったなぁ。(怒)』
オレ達が、超不毛な姉弟ゲンカに突入しようとした、その時だ。
「あのぉ、ちょっといいですかぁ?。」
ちょうど校門の所まで来ていたオレを呼びかける声がかかった。
「へっ?!、あの、オレのこと?。」
声の方を見ると、なんかすっごく可愛らしい女の人が校門の所に立ってて、オレのことを手招きしている。
「はぁ――い♪。」
ニコりん☆。そんな、擬音が出てきそうに思いっきり可愛らしい笑顔だ。(いいなぁ)
私服姿だからうちの生徒じゃないみたいだけど、何の用だろ?。
その人は、長い黒髪を一本の三つ編みにして上下2個所に黄色いリボンを結んで、可愛らしい猫さんプリントのペパーミントグリーンのブラウスに白いカーディガン、ミニで蜂蜜色のキュロットスカート、白のルーズソックス。年は二十歳は越えてるみたいなんだけど、とにかく可愛いっていうのが印象的で、ヘタをするとオレとそう変わらないぐらいに見える。その可愛いっていうのもブリッコって感じじゃなく、もっと健康的でナチュラルな感じだ。
『姉さん、ちょっとは見習ったら。』
うるさいぞ、この出来損ないのポケ○ン。
「えーっと、この学園の3−C生徒さんですよね?。」
「そうだけど。何かオレに用?。」
「あのぉ………、すいません。みっ、いえ、蓬莱寺京一君て今日はまだここにいるかどうかご存知ありませんか?。さっきから、皆さんに解からないって言われちゃって、3−Cの人に聞いた方がいいだろうって。」
ギックーン☆。
なんでこんなタイミングで、しかもわざわざオレに来るかなぁ、こういう事が。(それにしても目の良い人だなぁ、あの距離でオレの衿のクラスバッチを見分けるとは)
「たしか、まだ部活の方にいるはずだよ。(脱走してなければだけど)」
「えーっ部活ぅ。珍しい、補習とか居残りじゃないなんて。でも、よかったぁ。なんとか間に合ったみたいで。」
「何か、京一に用なのか?。急ぎとか大事な用なら、オレが呼んで来てやるけど。」
「いいんですかぁ?。じゃあ、お願いしちゃいます。深青[ミサオ]が来てるって言えば、きっとすぐに解かりますから。えへへっ、綺麗で親切な人で本当によかった。私ってば大ラッキー♪。」
うわ、はしゃいでると本当に可愛い人だ。でも、何で胸がチクチクするんだろう?。京一に呼び出しなんて、いつもの事なのに…………。
そりゃ、今までだって、こういう時はイイ気分じゃなかったけどさ。
「わかった、深青さんだね。じゃあ、ちょっと待ってなよ。」
名前ですぐにわかるなんて、本当に親しいんだ。
なんか、余計に増してきた胸のチクチクを振り払うように、オレは道場の方に向かって踵を返し、走り出す。
「よっろしく、おっねがいしまーすぅ♪。」
何故だか、その可愛らしく弾んだ声から早く遠ざかりたかった。
『本当にお人好しだねぇ、姉さんは。』
校庭を全速力で突っ切るオレに、例によってチャチャ入れしてくるのは、タマだ。
やかましい!!。今てめえなんぞの相手をしている暇はねえ(怒)。
『まっ、京一の所へ行く気になってくれたのは、助かるけど…………。あいかわらず、京一もスミに置けないよねぇ。』
だーっっ、わけのわからんことを耳元でウダウダと。ほら見ろ、今誰か弾き飛ばしちゃったじゃねえか。(わりいな、名前も知らん運動部員。)
『あらら…………。』
てめえの所為だ、てめえの。
オレは、なおもしつこくゴタクを並べ立てているタマを黙殺し続け、なんとかそれ以上の被害を出さずに道場に辿り着く。たしか、今日は剣道部が全面使用の日のはずだ。
開けっ放しになっている道場の入り口の所からヒョコッと顔を覗かせると、最初に飛び込んできたのはアイツの力強い声だった。
「おら、最後まで相手の竹刀から目をそらすんじゃねえ!。」
藍色の胴着のまま防具もつけずに、乱打の相手をしている。持っているのも、いつもの木刀ではなく竹刀だ。でも、打ち込む側方が、京一の気迫に腰が引けちゃってる。
「そこの一年、素振りだからっていって気い抜いてんじゃねえ。きっちり上まで挙げてから気合入れて振り下ろせ!。あと100回追加だ。」
打ち込みを受け流しながら、周りのこともちゃんと見ている。戦闘の時とはまた違った真摯な瞳の光。
何だかんだ言っても、こと剣に関する限り京一はいつも真剣だ。
『あいかわらず、すごいねぇ。』
タマも感嘆した声をもらす。これは、今の精悍な京一の姿にだけではなく、道場全部を満たしている眩しいほどの【陽氣】に対してだろう。本当に京一の【陽氣発散体質】っていっそ気持ち良いくらいだよなぁ。なんか、ウットリしちゃうぞ、オレ。(あれ?)
ここに来た目的も忘れて、ボーっと京一のいつもと違った姿に見惚れてたオレに気付いて声を掛けてきたのは、さっきも会った新部長だった。
「あっ!、緋月先輩。来ていただけたんですね。そんな所にいらっしゃらないで、どうぞ中へ入ってください♪。」
へっ?!、いーのかなぁ。オレ、部外者なんだけど。
それにしても、剣道部員の奴等ってどうして皆オレにやたらと親切なんだろう?。
オレ、なんかしたかなぁ。心当たりは無いんだけど。
「今、蓬莱寺先輩をお呼びしますから、どうぞお座りになってください。そこの一年、急いで座布団もってこい!。マネージャー、お茶だ。そこの奴、さっさと先輩の為に場所を開けろ。」
あの――ぉぉ、そこまでされると逆に居心地が悪いぞ(汗)。
「あっ、いや……オレは………。」
「ひーちゃん!!。」
すると、どうしようかと立ち尽くしているオレに気付いたのか、京一が慌てたように駆け寄って来る。なんか、ああいう処は、尻尾をパタパタ振ってる大型犬みたいで、すっげえ可愛い。
「………京一!。」
「なんだ、そんなとこにいないで、あがってこいよ。見学してくんだろ。」
「あのな…………。」
「どうせなら、一緒に帰ろうぜ♪。今日は、ここは5時までの約束だかんな。」
京一は、全開笑顔でまくしたててくる。
ああ、頭撫で撫でしたいくらい可愛いいなあ。バリバリ発散される【陽氣】が良い気持ちだし、京一は髪の毛の手触りもいいいからなぁ。(あれれ?!、また………)
一瞬手を伸ばそうとして、オレはハタッとここまで全力疾走してきた目的を思い出す。
「ひーちゃん?。」
「ドアホウ!!。見学なんかじゃねえ。部外者が用もないのに、こんな所にわざわざ来るか!」
思い出したらまた変な気持ちになってきたんで、声がぶっきらぼうになっちまう。何か、今のオレってばヤナ奴だなぁ。(自己嫌悪)
「校門の所で、すっごぉーく可愛い《おねーちゃん》が蓬莱寺京一君をご指名だ。急ぎの用件みたいだからオレが呼びに来た。」
「…………ひーちゃぁん(泣)。」
あれ、京一ってば今までだったら大喜びしてたのに、あんまり嬉しそうじゃないな。
そんなに剣道やってる方が良いのか?。そりゃあ、世の為人の為、みんなの為にもイイことだ。
『本当に、欠片ったりとも解かってないんだね、姉さんは。(溜息)』
おまえの言う事の方がわからんぞ、タマ。
「本当に大事な用件みたいだから早く行ってやれよ。部活も大事だけど、校門の所でずーっと待ってたみたいだぞ、深青[ミサオ]さんは…………。」
「何ぃ――――――――――ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!。」
なんだよ京一、いきなり大声あげるなよ、ビックリするじゃないか。
っと、京一はガバッとオレの両肩を引っ掴み、真剣な表情で問いただして来た。
「本当に、深青って言ってたのか?、そいつ。他に何か言ってなかったか、何かされたりしなかったか?。」
「ううん、深青が来てるって言えばわかるって。そんだけ………。」
バビュン☆
京一はオレの言葉を最後まで聞かずに、凄まじい速さで道場から飛び出していった。オレが此処に全力疾走して来た時より早いぞ。
『なんか、奥歯カチッ☆といわせてたみたいだね。』
アイツはサイボーグなんかじゃねえぞ、タマ(流石にマッハ2とかじゃないし)。お前、そういうオレもよく知らんような古いネタはやめろ。
それにしても、あんなに急いじゃうくらい大事な人なのかなぁ。オレ、聞いた事ないぞ、あの人の事なんて、【相棒】なのに。
そりゃあ、京一にだって、京一の都合ってもんがあるだろうけどさ。なんかまた胸がチクチクしてきた。
オレは、呆然としたままの剣道部員達に頭を下げると、複雑な気持ちのまま道場を後にした。
校門の所までオレが引き返してくると、京一とさっきの子がまだ何か話をしていた。
話の内容はよく聞き取れないけど、なんかあの子が可愛らしいラッピングの小さな包みを京一に渡している。
『本当にスミにおけないねぇ、京一ってば。ウカウカしてると、姉さんの立場なくなっちゃうよよ。』
イチイチうるさいぞ、今日のタマは。何かオレに恨みでもあんのか?。
それになんだ、オレの立場が無くなるっていうのは。
『別にぃ。只の今までの、積もり積もった鬱憤だよ。深ぁーく気にしてよ。』
だーっっっ(怒)おのれはぁぁ。
オレ達が再び、超不毛×2な姉弟ゲンカに突入しようとしたその時、聞こえてきた京一とあの人の声がオレをフリーズさせた。
「もう、これが《きょーちゃん》への私の捧げる深ーぁい愛なのぅ。」
「だああっ、そんな耳にタコができるくらい聞き飽きた台詞をデカイ声で言うな!。」
「なんでぇー、私、いっぱい言いたいんだもん。いくら言っても飽きないもん。」
《きょーちゃん》・《深い愛》・《耳にタコ》・《聞き飽きた》
耳から入ってきた言葉がフリーズしたままのオレの頭の中をグルグル回る。
『あれ、姉さん?!。』
フリーズが融けたオレは、不審がるタマを無視したままくるりと踵を返すと、今度は裏門に向かって全力疾走にはいった。
『姉さん、ねーさんてば。』
うるさい!!。今は、お前の声なんか聞きたくない。
オレは、何にも考えずにただひたすら学校を出るために走り続けた。
* 龍麻
『姉さんてば、何考えてるんだよ。』
「…………。」
近所のスーパーの特売からの帰り道、学校を出てからずーと無言のままの姉さんに俺は無駄だと思いつつも話し掛ける。
『いくら特売だからって、そんなに買っちゃってどうすんの?。缶詰類はともかくとしてもさ。』
「…………。」
そう、姉さんは今さっきスーパーで死ぬほど食料品を買いこんできちゃったんだ。両手に抱えきれない程のこの量を、顔色一つ変えずに持ち運んでいるのは流石だけどさ。
この状態じゃあ視界が塞がれて危ないし、だいたい、一人暮らしの姉さんがこの量をどうやって短期間で始末する気なんだろう?。いくら俺の分も栄養補給をしなくちゃならない姉さんがよく食べるとはいえ(軽く二人前半はいける)、なま物なんかは厳しいよ。
まったく、《ヤケ食い》ならぬ《ヤケショッピング》とは………………。(でも、買った量全部食べたらヤケ食いと同じか)姉さんってば、自覚無いくせに変な所は女の子なんだから。(溜息)
幸い、やりくりは上手い姉さんと、義母さんの配慮の行き届いた仕送り額のおかげでイキナリ生活苦なんて事は無いけどさ。
そんなに気になるんなら、あの時逃げ出したりしないで、京一にキチンと問いただせばよかったのに。
どうしてそう、京一の関する事になると後ろ向きというか卑屈になるかなぁ、姉さんは。(理由は見当つくんだけどさ)それで俺にヤツ当たって来るのは、とってもやめて欲しいんだけど。
『姉さん、ほら前!!』
「えっ?!。あっ!!!!。」
「あっ!!、きゃぁぁ。」
ドンッ。バキッバキ。ベシャッ。ドサドサッ。バシャバシャ。コロコロ。
『あーあ、言わんこっちゃない。』
案の定、姉さんは曲がり角の所で向こうから来た人とぶつかってしまう。
牛乳パックは潰れるわ、卵はパック丸ごと割れて頭からひっかぶるわ。
あーあ、髪の毛はベタベタだし、学ランは牛乳で酷い有様だし、情けない姿だねえ。ご自慢の反射経はどうしたのさ。まったく、上の空で歩いてるからだよ。
「いやぁーん(泣)。ごっ、ごめんなさい。大丈夫ぅ。」
「いっ、いや。オレがボーっとしてたから…………。」
ぶつかった人の方は被害が無かったみたいだな。良かった。(向こうの人の方が反射神経よかったんじゃない)って、あれ!?、この人さっきの…………。
「大丈夫くないよう、こんなに酷い有様になっちゃって。…………って、あれぇ、貴方、さっきの親切な美形さん。」
「!!?。…………。」
あら、姉さんまたフリーズしちゃったよ。
無理ないか、本日の不機嫌の原因さんにまた会っちゃったんだから。しかも、こんなみっともないタイミングで。
「あぁーん。本当にごめんなさいね。折角のお綺麗さんが台無しになっちゃった。荷物も結構ダメにしちゃったみたいだしぃ。」
「あっ、あの。そんな…………オレの方が………(汗)。」
「そーだ。うち、すぐ近くだからちょっと来てくれるぅ?。とりあえず、髪の毛と制服だけでも早くなんとかしなきゃ。」
「いっ、いえ、その………。」
自称:深青[ミサオ]さんは、さっさと荷物を拾い上げると強引に姉さんの手をとって歩き出す。
うわっ(驚)、この人見かけによらない結構すごい人だなぁ。
多少減ったとはいえ、姉さんが両手で抱えていた荷物を片手で苦も無く運んでいる上に、もう片方の手で姉さんを強引に引っ張って歩いちゃってるよ。うーん、侮れない。
そのまま暫く歩いて、姉さんが深青さんに連れ込まれた家の表札は、案の定【蓬莱寺】。
(結構大きい家だなぁ)
『おい、タマ!?。』
『そっ、京一ん家みたいだね。』
深青さんはそのままあっさりと玄関の戸を開けて、呆然としたままの姉さんを家の中へ引っ張り込む。
「さあ、あがって、あがって。」
「あの…………。」
「いーから、いーから。ほら、こっち。早くしないと、折角の綺麗な髪の毛が固まっちゃうし、制服はシミになっちゃうよ。」
「…………。」
そうして、姉さんが強引に連れ込まれたのはどうやらバスルーム。
あら、ちょっとこれはヤバイ状況かな。(もう日は沈んじゃってるから、姉さん今は正真正銘【女】だよ。)
「はい、早くシャワー浴びちゃってね♪。今着替え持ってくるから。」
「あっ、いや、その、オレは………シャワーまではちょっと………(汗)。」
なんとか、逃げようとする姉さんだが、深青さんはそんなこと許してくれない。
姉さんの方もこういう純粋な厚意を示されると、強く抵抗できないんだよねぇ。どーしようも無いお人好しだから。(小蒔ちゃん達曰く《人外魔境のお人好し》)
「ほら、恥ずかしがることないよ。うちには君くらいの男の子がいるから大丈夫。さあ、制服は洗っちゃうから、脱いじゃってね。」
「あの、あの…………(滝汗)。」
とうとう深青さんは、強引に姉さんの服を脱がしにかかる。
って、姉さん!。そんな、なし崩しに脱がされてどーするのさ。自分の《特殊事情》解かってんの!。
こんな至近距離で直接見られたら【結界】の目晦ましは役に立たないんだよ。
って、あらら………………(汗)。
「あら、貴方…………?!。」
「あっ、あの。こっ、これは……………(油汗)。」
あーあ。どうしよう、これはサラシしてたって誤魔化しきかない状況だよ。
っていうか、サラシしているからこそ言い訳が効かない。
流石の俺もちょっと困っちゃうなぁ。(本当にどうしよう。)
「貴方、………もしかして……まさか………………。」
「………………………(滝汗)。」
『ふにゅう。どーしよう、タマぁ。(泣)』
知らないよ。姉さんがボケボケしてるからでしょうが。逆に俺が聞きたいくらいだよ。
それより姉さん、いい加減にその興奮すると変な擬音喋る癖は止めときなよ。
「素敵☆!。貴方、《男装の麗人》さんなのね。」
「は!?。」
へ!?。
「きゃ〜ん♪。本当にいるんだぁ、こんなすんごく綺麗な《男装の麗人》さんって。ミオりんってばウットリしちゃうよ〜。」
い、いや。確かに今の姉さんは《男装の麗人》ってヤツなのかもしれないけど………(汗)。
「ねえねえ、やっぱり止むに止まれぬ事情っていうので《男装》してるのぉ?。みんな知ってるの?、やっぱり内緒なの?。」
そんな目をキラキラ輝かせて詰め寄られても、姉さん石化しちゃってますから…………。
「あっ、ごめんねぇ。人には言えない事情っていうのよね。もう聞かないね。大丈夫、ミオりん、絶対に内緒にするからね。」
うーん。予想外のリアクション。
流石にこの度胸の据わり方と状況へ順応性は京一の身内(仮定)というべきなのかな。(感心)
「それじゃあ、女の子ならやっぱり綺麗にするためにちゃんとシャワーあびなくっちゃね♪。着替え、私のじゃサイズ合わないみたいだから、今リリちゃんのお洋服持ってくるからね。」
深青さん(自称:ミオりん)はバタバタと、シャンプーだのボディソープ(両方とも柑橘系の香りの女物)だのバスタオルだのを姉さんに手渡すと、変わりに脱がせた姉さんの服をしっかりと抱え込みながら、
「じゃあ、ごゆっくりぃ――ぃぃぃ♪。」
ウィンク一発☆。パタパタとバスルームから出て行ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なあ、どうしよう(汗)」
姉さん、そんないまさら正気に戻って顔に縦線浮かべても遅いって。
『とりあえず、《言うに言えない事情持ちの男装の麗人》で通すしかないんじゃないの。深青さん、折角喜んでくれているみたいだしさ。』
実際、大雑把に言えば間違ってはいないしね。
「だって、オレは…………。」
『折角の京一のお姉さんのご厚意なんだから、このまま甘えちゃえば。京一が帰ってくれば、適当に誤魔化してくれるでしょ。』
「うにゅ!!?、お姉さん!!!?。」
あっ、やっぱり気付いてなかったのか。(相変わらず、ニブイ)
『今更、何言ってんの。ここが京一の家である以上、普通、想像がつくでしょーが。』
深青さんって、いくら京一と顔が全く似て無くても【氣】の波動が少し似てるし、京一には負けるけど結構強い【陽氣体質】だよ。ちょっと注意して見れば、京一の近親者なのはもろ解かりだよ。
だから、俺が平然と姉さんを煽ってたんだよね。(楽しかったなぁ♪)
だいたい、一見軽そうに見えて実は一本気な京一に(しかも眼と頭が腐れちゃうくらい姉さんにベタ惚れしてるだもん)姉さん以外の誰かと二股かけるなんて器用なマネ、絶対にできっこないんだから。実際、最近全然ナンパなんてしてないみたいだし。
『とりあえず、シャワー借りちゃったら。そのままでいても、後でまた「ミオりん、悲しいぃ。」って言われちゃうよ。』
「ふみゅぅ〜、そうする。」
おやおや、姉さん落ち込んじゃってるよ。
ふーむ。今回の《煽り》は姉さんには意外と効いているみたいだなぁ。結構有効かもしれないな、この方向性って。今度はこの《押しても駄目なら、引いてみな。悔しかったらこっちに来てみろ》プランを京一に薦めてみるか。
よーし、姉さんがシャワー浴びている間に、細部を検討しよう。
これは、いつまでも自分の気持ちをちゃんと《自覚》しようとしない姉さんが悪いんだからね。また、俺に八つ当りしてこないでよ。
* 京一
一日の計は朝に在りって、マジかもしれねえ。
あーあ、今日は朝からついてねぇ日だったぜ。
朝飯は食いっぱぐれるは、犬神の野郎にまた課題のレポートくらうは、部活はサボりそこねてひーちゃんにぶん殴られるは(俺はもう引退したんだよ)、うちの《アイツ》が突然やって来てめんどくせえ用件を押し付けていきやがるし。(いや、用件自体はいつもの事なんだが)
さらには、折角の(例によってタマ発案)《どうせなら、部活でカッコ良いトコみせてから二人っきりで帰ろう。今度こそ告白に(再×5)チャレンジだ!!》プランは、何故か機嫌を損ねたひーちゃんが校庭を大爆走して帰っちまって、ポシャっちまったしなぁ。
おまけに、せっかく見学に来たひーちゃんが俺の呼び出しの所為で怒って帰っちまったって、剣道部の奴等には散々文句を言われるし、どっかの奴がチクったのか(多分、校庭にいた連中だな)、帰り際に美里と醍醐と小蒔にとっ捕まって、「ひーちゃんを怒らせたのは京一が悪い。一体何をやらかしたんだ、とっとと謝れ!!。」って思いっきり説教くらっちまうハメになるし。
畜生、誰だか知らねえが余計な事を。(アン子の奴が出てこなかったのが、せめてもの救いだぜ。)
実はひーちゃん、うちの学校の武術系クラブの《隠れアイドル』なんだよな。校内、いや新宿最強といわれる腕っ節と、それに似合わないお綺麗さんな容姿と、気さくな態度とさっぱりした性格(怒らせたら恐いが)から来ているらしいんだが。当然、本人は全く気づいてない。
ちなみに、剣道部の連中の2/3はひーちゃんのファンだ。(柔道部・空手部も似たようなモンだな。レスリング部と弓道部は1/2ってとこか)
とりあえず、めんどくせえ《おつかい》も済ませて、俺はなんとか家に帰り着いた。
だーっっ、かったるい。風呂入って、飯食って、早く寝よ。そうだ、そうするに限る。
「かえったぜ。」
玄関で乱雑に靴を脱ぎ捨てた俺は、滅入った気分のまま自分の部屋へ上がろうとした。
その時、俺の耳に飛び込んできたのは、此処では聞こえるハズの無いだろう悲鳴のような俺の《女神様》の声だった。
「京一ぃ。!!!。」
「へ?!。」
一瞬、俺は我が耳を疑ってしまう。
それに続くように、バタバタと言う音と共に俺の前に現れたのは、いかにも風呂上りといった感じで、バスタオル一枚を巻きつけただけでその理想的なラインを描く姿態を惜しげも無く曝した、《奇跡》のような美しさの今現在の俺の【相棒】。(こっそりと、《想い人》)
「ひっ、ひーちゃん!!!??。」
うっ、嘘だろう!!?。何でひーちゃんが俺んちにいるんだよ。しかも、バスタオル一枚というあられもない姿で。
はうっっ、犯罪だぜ、その格好は。しかも、
「ふみゅうぅ。よかったよう、京一帰ってきてくれて。」
ガバッ☆。スリスリッ。
だあぁぁぁぁぁぁっっ、その格好のまんまの《抱きついてほっぺスリスリ攻撃》は、すんげぇ嬉しいんだけど、滅茶苦茶嬉しいんだけど、頼むからやめてくれぇ――ぇぇ。俺の理性が爆砕されちまう前に。
それでも、手がしっかり抱き締め返しちまうあたりは、俺の自制心の方は惰弱者らしい。
ああああ、ひーちゃん良い匂いがするなぁ。ここが俺の部屋だったら、そのまま一気に………。
って、おい正気に戻れ、俺。さすがに今の状況はヤバイ、ヤバすぎる。根性だ、気合だ、頑張れ、倒れるんじゃない、踏みとどまれ俺の理性!。
だいたい、何でひーちゃんがこんな危ない格好で俺んちに居るんだよ?。
「ひっ、ひーちゃん。たっ、頼む、頼むから落ち着いてくれ。(汗)」
「にゅにゅう。」
更に、スリスリ☆。
だうぅぅぅぅっっ。だから、頼むから認識してくれ、今の自分がどれだけ(俺の理性にとって)凶悪なカッコしてるかを。
凶悪さでいったら、この間の《ハイレグレオタード》なんかの比じゃないぞ。
『いーかげんにしなよ、姉さん!。京一が困ってるだろ。』
「うきゅ!?。」
「タッ、タマ!。」
い、いたのかタマ。(あたりまえか)ホッとするんだけど、何か惜しい気分だ。
『自分がどんなに恥ずかしくて情けない事してるかわかってんの!(怒)。自覚が無いにも程ってもんがあるよ。こんなシュチュエーション、人に見られたら迷惑するのは京一なんだからね。』
「みゅぅ〜。(シュン)」
いや、俺自身は迷惑でもなんでもないんだが。っていうか、本来だったら願ってもそうそう叶わない美味しすぎる状況だよなあ。
タマに一喝されたひーちゃんは、なんとか俺に抱き着いているのを止めて、一旦は体を離してくれる。
どうやら、落ち着いてくれたらしい。(ああ、なんかすごく惜しいことした気がする。)
シュンとしちまったひーちゃんは、それでも俺の手を離さずに謝りはじめる。
「ごめんな、京一。オレ、動転しちゃってて、どうしていいのか解んなくて。京一が帰ってきてくれたのが嬉しくって………………。」
はううううううっ。ひーちゃん、謝るより先にその危険極まりない挑発的な姿を何とかしてくれ。(泣)
問答無用で俺の眼に飛び込んでくる、眩しいほどに白い処女雪のような肌、うなじのライン、豊かな胸元、バスタオルの下ギリギリの線からすんなりと伸びた理想的な程の素晴らしい脚線美。
だあああああああっっ、見るな、見るんじゃない、俺。(でも、眼がいっちまう処が我ながら情けない)頭に(鼻に)血が昇るぅぅぅ。マジで俺の理性は青息吐息の瀕死だ。
とりあえず、俺は応急処置にとガクランを脱いでひーちゃんに着せ掛けようとしたんだ。だが、そこに続くひーちゃんの言葉が俺の手を止めた。
「折角、京一のお姉さんが親切にしてくれたんだけど…………。」
なにぃぃぃ?!!。そんな馬鹿な。あのド腐れ姉貴の奴は、海外研修とかで向こう2ヶ月は家にゃ戻ってこねえハズだぞ。
いや、わからん。あの歩く公害姉貴のことだ、強制送還くらってもおかしくない。
冗談じゃねえぞ、あの変態女。ひーちゃん脱がせて何する気だったんだ。(怒)
「大丈夫だったか?、ひーちゃん。何か変なことされなかったか?、嫌な想いしなかったか?。ゴメンな、俺、さっさと帰って来なくって。」
捲し立てながら、俺は状況を忘れて思わずひーちゃんをガバッと力いっぱい抱しめる。
「………京一。」
『そんな、大袈裟な。(汗)』
うるさい!、タマ。お前は、あのド変態姉貴の恐ろしさを知らねえから。俺は埋められるもんなら、マジで穴掘って埋めてコンクリートで固めてやりたいんだぞ。
「本当にすまねえ、ひーちゃん…………。」
「京一……。」
じっと俺を見つめてくるその潤んだ蒼い瞳、桜色に上気した頬。(しかも、抱き締めあって密着した超至近距離)こっ、コリはもしやチャンスと言うやつなのでは…………。
此処最近の経験で俺の頭に刻み込まれた教訓は、《どんな小さな機会でも、逃がしてしまえば後のまつり、臍を噛む》だ。
ここは、一気に勝負を決めちまって、折角だからこのまま俺の部屋に連れ込んで雪崩れ込み(希望)だ。いくぜ!!。
「ひーちゃん。いや、龍那。俺は…………。」
「ふみゅ??。」
「龍那が…………。」
バッコーンッッ☆
「ぐっっ。」
「きょっ、きょういちぃ!?。」
いってぇ――ぇぇぇぇぇ!!!。畜生、誰だ、折角のチャンスに電話帳なんてぶつけて来る奴は。(怒)
って……………。
「みゃーちゃん、このドスケベ息子!!。こともあろーに、玄関先でお客様の女の子を襲うなんて、お母さん、許さないわよ。(怒)」
「うげっっ、お袋?!。」
「みっ、深青さん!。」
『ありゃ、深青さん!。』
へっ?!。ひーちゃん達、お袋のこと知ってんのか?。まさか、親切にしてくれた俺の姉さんって…………(汗)。
「ミオりん、みゃーちゃんがとってもお馬鹿で、少しくらいスケベなのは、一応はお腹を痛めて産んだ子だから仕方が無いと思ってたけど。こんなケダモノのようなことをしちゃう息子に育てた覚えはないんだからね。」
「息子ぉぉぉぉ??!!。」
『お袋ぉぉぉぉ??!!。』
あっ、ひーちゃん達驚いてるよ。やっぱ、勘違いしてたな。
まあ、仕方がないか、お袋の若作りっていうか童顔は最早犯罪領域だもんなぁ。
「ちょっと待て、お袋、誤解だ。」
だから、電話台を投げつけようとするのはやめろ!。(この馬鹿力)
「みゃーちゃんってば、往生際が悪いわよ。ミオりん、母親として責任もって天誅を下してあげる。」
「だから誤解だ、俺はまだ何にもしてない!。」
「まだとは何よ、まだとは。問答無用ぉぉぉ!!。」
「京一ぃ、どうしよう???(困惑)、うにゅ〜ん(泣)。」
『このスカ姉貴!(怒)。ボケっとしてないで、早く深青さんを止めるんだよ!!。』
ドンガラ・ガッシャーン☆★
だあああぁぁぁっっっっ、収拾がつかねえ。
『はぁー………。』
「一人で溜息ついてんじゃねえよ、タマ。」
溜息なら、俺の方が100回くらいつきたいぜ。
玄関先での阿鼻叫喚の騒ぎは、半泣き状態のひーちゃんの訴えで何とか収拾が付いた。
んったく、お袋のやつ、ロクでもねえ誤解した上に折角のチャンスを邪魔しやがって。
『あの状況じゃ、どんな誤解されても仕方が無いと思うけど………。どっちもどっちって言うヤツじゃないの。』
「あのなぁ、タマ。一人で高みの見物してた奴に言われたかあないぞ。」
『俺が何かできる状況じゃなかったじゃん。だいたい、俺の姿を見せることなんてできないんだからさ。好きで傍観してた訳じゃないよ。』
そりゃそうだ。俺はこれ以上面倒くさい説明をするのは御免だぞ。(いや、コイツの事がお袋にバレた時は、それはそれで怖い事態になるな)
とりあえず、ひーちゃんは俺のクラスメイトの《訳有りの男装の麗人》で、《秘密は数人しか知られていないので他言無用》ということで何とかお袋を言いくるめた。(というか、それ以外にどう説明しろっていうんだ)
そしたら、あんの脳天パー童顔母親、「わぁーい。ネタ、ネタ。神様ありがとう♪。」とかほざいて、こともあろうにひーちゃんに夕食の支度を押し付けて【通称:内職部屋】へ篭っちまいやがった。
普通やるか?!!、仮にも(表向き)専業主婦がてめえが迷惑かけた客(しかも息子の友人)に、食事の支度を押し付けて大きな声では言えない《内職》に没頭するなんて。
非常識なのは、その犯罪領域の童顔だけにしといてくれよ、お袋。
そういう訳で、今このキッチンで鼻歌いたいながら鮮やかな手際で夕食の支度に勤しんでるのは、姉貴の服に着替えたひーちゃんだ。
お袋の用意した(姉貴の)白のキャミソールに淡い桃色のパーカー、臙脂色でミニのフレアスカート、クリーム色の猫模様のエプロン(これはお袋のだ)という、学ラン姿を見慣れた俺には、いつもと違った壮絶な美しさと可憐さに目が痛いくらいだぜ。(特に、そのなま足。)
『ねえ、京一。ほんとぉーに深青さんって、京一のお母さんなわけ?。お姉さんの間違いとか、(ちょっと失礼だけど)継母とかじゃなく。』
「おう。正真正銘、俺の生みの母親だぜ。まっ、疑われても仕方が無いけどな。」
そう言われるのはいつもの事だ。なんせ、10年以上前からお袋の顔って変わってねえからな。
実際、ご近所でも未だにお袋を後妻だと信じてる人間はたくさんいるし、一時期、親父の奴が幼女趣味の変態扱いされたことだってあるくらいだ。「蓬莱寺さん家の奥さんは、若いのにあんなに大きいなさぬ仲の継子の面倒をよく見る良く出来た人。」なんていう、とんでもねえ誤解がまかり通ってるからな。昔から、授業参観とか、PTAとか、はっきり言って良い思い出なんてねえぞ。
あの腐れ変態姉貴といい、この常識に喧嘩売ったお袋といい(いや、親父も結構変わってるか。それでもまだマシが)。
言っちゃあなんだが、うちで一番常識人なのは俺だ!!。
「俺と姉貴は結構年が離れてるからな。聞いて驚け、ああ見えてもお袋は当年とって46歳だ。」
『はいぃぃぃ!!、それマジ?。』
「超マジ。」
『………………(溜息)。うーん。うちの義母さんも結構若作りだけど、思いっきり負けてる。すごいや、深青さん。流石に京一のお母さんだよね。』
「あれに勝ってどうするんだ、勝って。そんな事に感心してんじゃねえ!!。」
すっとぼけたこと言ってんじゃねえぞ、タマ。
『話はかわるけどさ。京一、最近《すっごく好みだ》とか《この子イケテルぞ》とか《激烈に可愛いじゃねえか》って思った女の子って誰かいる?。』
「ひーちゃん。」(キッパリ)
何を今更なことを聞いて来るんだ、タマ。ひーちゃんより綺麗で可愛いくて優しくて、しかもナイスバディでぶっちぎりに強いなんていう超俺好みの魅力的な女の子なんて、生まれてこの方お目にかかったことなんてねえぞ。
『(ガックリ)ごめん。聞いた俺が馬鹿だった。』
何で、そこで脱力するんだ?。変な奴。
『じゃあ、そうだね。たしか京一って、アイドルの舞園さやかちゃんの大ファンだって言ってたよね。天使か妖精みたいに可愛いい上に、アイドルにしては珍しく歌もすごく上手いって。』
「おう。大ファンだぜ。もっとも、目の前にいる《女神様》にゃ比べ物にならねえし、歌だって声だってひーちゃんの方が全然イケテルと思うけどな。」
そうなんだ。さっきから楽しそうな鼻歌を聞いてる限りでは、ひーちゃんってば(声も良いけど)歌もすごく上手いんだよ。何でいつも雨紋とか藤崎とかの《カラオケ行こう》って誘い断ってたんだろう?。出来るもんなら、今MDにでも録音しときたいぞ、俺。
『京一ってば、頭と眼だけじゃなく、とうとう耳まで腐れてきたね。』
「タマ、てめえ、俺のどこが腐れてるっていうんだ!!。(怒)」
『姉さんに関するところ全部。』(キッパリ)
「ぐっっ。」
仕方ねえだろ、そう思っちまうんだから。
だいたいなあ、タマはひーちゃんに免疫ありすぎて不感症なんだよ。世間一般では、俺の美的水準の方が普通だ。(断言)
『まあ弟としては、その腐れっぷりを有り難いとも思うけどね。それでさ、さっきまた新しい《姉さん攻略》プランを思いついたんだけど、試してみる?。ちょっと今ままでと方向性を換えてみたんだけどさ。…………(ボソボソボソボソ)…………なんだけど。』
「何ぃぃぃ?!。……………(ボソボソボソボソ)…………。それ、のった!!。」
今日も2回もチャンス逃したからなぁ。(しかも、両方ともお袋のせいで)
この《必勝攻略本》の情報なら何でも試してみる価値はある。しかし、なんか情けないな、俺。
「何、二人で内緒話してるんだ?。」
「ひっ、ひーちゃん?!。」
『姉さん?!。』
いつのまに。って、前にもこのパターンなかったか?。
しかも、ひーちゃんさっきまで鼻歌歌っちまうほど上機嫌だったのに、またなんか不機嫌になっちまってる。やっぱ食事の支度を一人に押し付けたの不味かったのか?。
『ちがうよ。京一。』
なら、何でなんだろう?。とりあえず、ここは《触らぬ女神様に祟りなし》で、なんでもいうこときくしかないか。
「京一もタマも、二人してオレを仲間外れにして、ロクでもねえこと相談してたんじゃねえだろうなぁ?。」
「ちっ、違うぜ、ひーちゃん。(汗)」
『そーだよ、姉さん。京一に生物のレポートのこと聞かれてただけだって。』
ナイス言い訳だ、タマ。
「ふーん、それならいいけど。とりあえず夕飯できたから、深青お母さんを呼んできてくれ。いい加減に京一も腹が減ったろ。」
「了解。」
やったぜぇ。飯だ、飯だ。しかも、ひーちゃんの作った晩御飯♪。
「いやぁーん♪。すんごく美味しいよぉ。ひーちゃんってば、お料理本当に上手なんだねぇ。」
だああああっっ、意地汚え食べ方してんじゃねえよ、お袋。
「恥ずかしい食い方してんじゃねえ(怒)。てめえ、そのサラダは俺んだ!!。」
「なによぅ。みゃーちゃんこそ、ロールキャベツ5個も食べちゃったくせに。」
「仕方ねえだろ、美味いんだから。ってだから、サラダを食うな!。」
「やっだよ〜ん。もう食べちゃったもんね。ああああっっ、みゃーちゃんズルイ。そのお魚はミオりんのなんだから。」
「手をつけてなかったんだから、誰のでもねえ。サラダの代わりだ。」
「むうぅぅ、じゃあこっちのお芋はミオりんのなんだから。とったら駄目だかんね。」
「…………………………………(汗)」
『こういうとこは、親子だね』
うるさいぞ、タマ。食わんやつは黙ってろ!!。
ああ、幸せだなぁ。なんか、これで今日の不運全部チャラになった気がする。お袋が邪魔だが。
「あのう、深青さん。一つ聞いていいですか?。」
「にゃはにひぃ、ひーひゃん?。」
食い終わってから返事しろ、お袋。息子として恥ずかしいぞ。
それまで、一人言葉少なに食べていた(それでも結構な量は食ってた)ひーちゃんが、何気にお袋に話し掛ける。
「さっきから気になってたんだけど。《みゃーちゃん》って京一の事なんですか?。」
うげっ。しっ、しまったあ―――ぁぁぁ。そっちにきたか。
マズイ(汗)。お袋に口止めするの忘れてた。
『あっ、それそれ。俺も気になってたんだ。』
黙れ、タマ。だあああああああっっっ。お袋止めねえと。
「うん、そうだよ。みゃーちゃんはみゃーちゃんなの。」
「オレがいうのもなんなんですけど。普通は《きょーちゃん》じゃないんですか?」
『そうだよねぇ。』
あああああああ、もう止まらないぞ、これは。ちっくしょう。
「あっ、それ駄目なの。ミオりんには、きょーちゃんは愛しのダーリンだけだから。」
「はい!?。」
「愛しのきょーちゃんは、京介[キョウスケ]だからきょーちゃんなの。だから、みゃーちゃんはきょーちゃんって呼べないの。」
『つまり、最愛の旦那様の京介さんが《きょーちゃん》だから、息子の京一のことはそう呼ばないっていうわけだね。』
要約してるんじゃねえよ、タマ。
「でも、じゃあ、《みゃーちゃん》って何処から……………???。」
「それはねぇ、京[ミヤコ]ちゃんだから、みゃーちゃんなの。」
「うにゅ???。」
小首を傾げるひーちゃんは、そりゃもう激烈に可愛い。だけど、頼むから、それ以上突っ込まないでくれぇぇぇぇぇぇ(泣)。
「みゃーちゃんはねえ、ちっちゃいころは女の子みたいですっごく可愛かったのぉ。おリボンとかフリルとかよく似合ってたんだよ。今は面影もないけどねえ。」
「……………………。」
『おリボンにフリル……………(フルフル)。』
だぁーかぁーらぁー、お袋、もうやめろぉぉぉぉぉ。
「あんまり可愛いから、京一って呼ぶと皆が変な顔するんで、ずーっと京[ミヤコ]ちゃんって呼んでたの。元々、女の子だったらそうするハズだったんだもん。」
「それで……………。」
「うん。おっきくなっちゃったら、今度は京ちゃんって呼んだらすごーく怒るんだもん。似合わなくなっちゃったしね。しょうがないから、きょーちゃんやリリちゃんと話し合って縮めてみたの。だから、みゃーちゃんなんだよ。解かってくれた?、ひーちゃん。」
「・・・・・・・・はい。(汗)」
こんな馬鹿らしいことで、家族会議なんぞを開くのは家だけだ!!。(ちなみに《リリちゃん》っていうのは姉貴のことだ。あれがそんな可愛らしいたまか!!)
だあああああああああっっっっっ(号泣)、ひーちゃんに知られちまったあぁぁぁぁ。
これだから、知り合いを家に連れて来るのは嫌なんだよ。今まで、醍醐の奴だって連れて来た事なんかないんだぜ。その昔、師匠の奴にゃさんざっぱら笑い倒されたからな。
『………………………(絶息)。』
こら、タマてめえ。笑い死んでんじゃねえ(怒)。
前言撤回。今日はやっぱりツイてねえ日だ。
食事が終わってから、流石に後片付けはお袋がやる事になり、『泊まって行ってくれないのぉ。』というお袋の誘いを丁寧に断って、ひーちゃんは帰る事になった。
洗い終わった学ランに着替えたひーちゃんは(ああ、もったいない。なま足が(涙))、何故か嬉しそうで俺を困惑させた。
「京一も《女顔》で苦労したことがあったんだなあ。なんか、オレだけじゃなかったかと思うと安心した。」、
はうううううううっっ、そんなことで親近感持たれても、ちっとも嬉しくなんかないぜ、ひーちゃん。
それに、そもそも《女顔》じゃなきくて、【女】だろひーちゃんは。
「今日は最後に楽しかった。深青お母さんによーくお礼言っといてくれ。じゃあな。」
『じゃあね、みゃーちゃん。(笑)』
タぁーマぁー、貴様ぁ(怒)。
ああああ、ムカツク。《殴ってやれないところが一番ムカツク》っていうひーちゃんの気持ちが良く解かるぜ。【円空旋】の一発もかましてやりたいが、そんなことしたらひーちゃんが傷ついちまう。んにゃろう。
そうして、ひーちゃんが帰った後、お袋の繰り出してきたセリフに、俺は自分の家庭の異常をというか、非常識ぶりに改めて脱力することになる。(親父はあいかわらず研究室に泊り込みらしい。)
「みゃーちゃん、みゃーちゃん♪。」
「何だよ、お袋。後片付けは手伝わないからな。」
「べつに、そんな事みゃーちゃんに期待なんかしてないよ。期待してるのは別の事。」
「へっ?!、何だよ?。」
「あのねぇ、ミオりんね、ひーちゃんを娘に欲しいの。あんなに、綺麗で可愛くって気立てが良くって料理が上手なお嬢さん、めったにいないよ。だからねえ、みゃーちゃんにはいっぱい頑張ってもらって、ひーちゃんをうちの《お嫁さん》に貰って欲しいの。」
ズベッ☆
なっ、なにを言い出すんだ、この童顔パープリン母親は。(汗)
「おっ、おっ、《お嫁さん》って……………。」
「ミオりんってば、今夜はいっぱい我慢してたんだよ。ひーちゃんに『うちのみゃーちゃんのお嫁さんにきてね。お願い♪。』って言うの。だって、やっぱりみゃーちゃん自分で言いたいでしょう、大好きな人への【プロポーズ】は。ねっ♪」
グラリン☆
おっ、おっ、お袋ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
「…………………(滝汗)。」
「そういうわけで、みゃーちゃんは死ぬ気で頑張ってひーちゃんを口説き落としてくるんだよ。でないと、………………。」
「でないと、なんだよ…………………。」
「リリちゃんを、けしかけちゃうからね。」
「やっ、やめろぉぉぉ!!。ひーちゃんを、あの変態姉貴の餌食にするきかぁ(怒)。」
「ふふふふ。それが嫌なら死に物狂いになることだよん。くすっ♪。ミオりん、ひーちゃんがうちの子になってくれれば、それでイイもん。」」
くっそー(怒)。どうしてこう俺の家族っていうのは………………。
やっぱり、今日はツイてねえ日だった。
俺は、絶対負けないからな。いつか見てやがれ!!!。
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