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どうも、峠之紗耶です。今度こそ本編【ジェラシック・パーク】なんですが………。
でも、前編。(汗) はうっ、だってまた無意味に長くなっちゃったんですよ。
やっぱ、ゲームでも前後編だった処を一つにまとめるなんて無理だった。つーか、緋月家の親子大暴走の為、文章無限増殖。おかげでユエの出番は後編に持ち越しです。
あと、今回は京一あんまり苛められてません。(前回の番外編で散々で苛めたから)それどころか……………さーて、後は本編のお楽しみ(笑)。
って、今回もちょっとシリアス入ってます。
うちの女主人公は、緋月龍那(ひーちゃん)といいます。但し世間様と仲間内(京一と舞子ちゃんは除く)には【龍麻】という男で通してます。
おまけに、特殊事情(夜間限定の女でレンズマンでミニチュアサイズの双子の弟【龍麻】通称:タマを飼っている)持ち。更に、本人女の自覚皆無というこまったちゃんです。
さーて、京一。そろそろ足元に火がついてきてるよ。深青さんも待ってるからね。(笑)
それでは、本編へどうぞ………
許してくれとは言わない。だけど、忘れないでいて欲しい。
私達が、どれほどお前達を想っていたのかを。
世界の全てと引き換えにしても、お前達が生き続ける事を願っていたことを。
たとえ、泥にまみれても、血に染まっても、お前達が自らの【運命】を選び取り、その【宿星】に打ち勝つ事ができると信じていることを。
【宿命】は変えられないかもしれない。でも、自分自身の【運命】は己の意志で選び取ることができるはずだ。
生きて、そして、なろうことなら幸せに。それが私達の全てを懸けた《願い》。
たとえ、この《願い》がお前達の《呪縛》にしかならないと判っていても。
だから、望まずにはいられない。見出された【運命】がお前達を、いや龍那、お前を想い、そして護ってくれる事を。
お前自身の《宿命》から…………。
「………弦麻殿。」
「………。」
薄暗い部屋に、何か包みを抱えた一人の老人が入ってくる。
部屋の中にいたのは、一人の青年。そして、その腕に抱かれた一人の赤子。
「《あの御方》は………?。」
「………もう行かれました。」
「そうですか。では………。」
「…………はい。今からこの子が【龍麻】です。」
老人の瞳に浮かぶのは深い悔恨、憐憫。そして、悲しみ。
「…………申し訳有りません。我等の力がたりぬばかりに、迦代殿ばかりか《あの子》まで……。」
「長老………………。いえ、一番責めを追うべきは、護りきることのできなかった俺ですから。」
青年の表情から、その感情を伺う事はできない。いや、人に伺わせない。それほどの剛い意志
「だからといって、貴方様がこれからなさろうとすることは………。」
「裏切りでしょうね。俺に付いて来てくれたあの人達、仲間達、彼の地にいる親友さえ謀ろうとしているのですから。」
「そう思われるのならば、今からでも…………。」
「もう《契約》は始まっています。《この子達》がこうしてここに居るのがその証。」
その腕に抱かれている赤子の手に、淡く光る一つの宝珠。
「それに、もう日本にいる俺の姉に《遺言》を届けていただけるように、お願いしてしまいましたので。」
「《遺言》、ですか?。」
「ええ、《この子達》のことを。どう考えても今ここに居る方々や仲間達も、日本に居るアイツも、お世辞にも子育てに向いているとは思えませんから。それに、《契約》の件もありますし。」
「確かに……。」
そして、青年がこれから為そうとする事を考えれば、この赤子をこのままこの地で育てようと言うのは始めから論外なのだ。
「姉は、俺の知る限りで最も強い《女性》ですから。きっと《この子達》を時が巡って来るまでの間、しっかりと護り育ててくれるでしょう。まあ、きっと冬吾の奴は多少のとばっちりを食うハメになるでしょうが…………。そこの処は、《極めつけの親バカ》を親友に持ってしまったということで、諦らめてもらうしかないですね。」
クスリ。どんな光景を思い描いたのか、青年の顔に微かな笑みが浮かぶ。
「しかし、この地から日本まで届けるとは………?。」
青年の生まれた地と今現在いるこの地の距離を考えると、そうアッサリと納得できるモノでもない。老人の疑問も当然であろう。
「《あの御方》がお使いをして下さるそうです。俺の《命は》なかなか高く買っていただいたようで、お釣の《出血大サービス》だそうですよ。《郵便屋さん》が《契約》の内とは、外見に似合わず結構お茶目な方ですね。」
「…………。」
こともなげに告げられた青年の言葉に、老人は絶句する。自分の命にもう何の執着も持っていないような言葉と、先ほど此処を立ち去ったらしい者を評する言葉に。
少なくとも、この大陸で《あの御方》に関して、『お茶目』だの『出血大サービス』などという表現をする豪胆な者はいない。
ふと、老人は一族の《星見》の言葉を思い出す。
『あの者は王たる【星】を持っている。もし100年前であったら、彼の地全てを統べることもできたであろう。』それほどの器を持っていると。
それ故であろうか、己とその子らに架せられた重き【宿命】すら泰然と受け止め、そして己の全てを賭して敢然とそれを乗り越えて行こうとするその姿は、不器用なまでのその生き方は、あらゆる者を魅き付けてやまない。そして、自ら輝かせているその【星】故に、《あの御方》をこの地に呼び寄せることが叶ったのだ。
「長老…………、貴方には申し訳ないと思います。俺達夫婦の謀の片棒を担がせるような形になってしまって。本来なら、貴方の一族は《この子》の存在を許すことなどできないはずなのに。」
「何をおっしゃる。わしとて人の親、人の祖父。貴方様の《願い》は理解できます。ましてや、《あの御方》が《契約》という形でそれを許された以上、我ら一族はそれに従うのみ。お気になさることはありません。」
老人もまた、この青年の生き方に魅かれた者の一人であることを、自身認めていた。
「そう言っていただけると、俺も安心します。心残りは少ないに越したことはありませんから。」
澄んだ瞳は真っ直ぐに正面を見据えて、揺るがない。これから、己が為す事、そして、己の選んだ【運命】を。
だが、老人にとってその有り様は、心に痛ましさを増すばかりだ。
だから、言葉を紡ぐ。目の前の青年の《想い》に、《願い》に、少しでも希望を示すことができるように。
自分には、その役目がるのだから。
「では、少々ですがお時間を頂けますかな?。一人、貴方様にお引き合わせしたい者がおりますのでな。」
「ですが…………。」
「もう時間が無いのは解かっております。他の方々が戻られる前に事を起こさなければ、いろいろと面倒なことになりましょうからな。《凶星の者》は、今度こそ【龍麻】殿を狙って来るでしょうし。龍山殿や道心殿はともかくも、あの剣術使いの方がお戻りになられたら、貴方様のなさろうとする事は絶対に阻止しようとなされるでしょう。」
「そうですね。アイツなら阻止する為に俺の両手足をへし折りかねない。」
その人物に思いを馳せたのか、瞳の光が僅かに揺れる。
「なれど、是非とも貴方様と【龍麻】殿に御目に掛けたいのです。其の者は、次の巡り来る【時】に関わる者。いずれ、【龍麻】殿を巡る《宿星》の一となる者なれば。」
「長老…………。」
「どうぞ、此方へおいで下さい。お二方にお会いして、始めてあの子の時も回り始めるのですから。」
* 龍麻
「こんのぉ、大勘違い野郎ぉぉぉぉ!!!!。」
バキィッ☆
「ぐっっ!!。ひーちゃん、酷いぜ。」
「やかましい!!(怒)。このデリカシー欠乏赤毛猿。!!!」
ゲシィッ★
『姉さん、京一も悪気があったわけじゃ………(汗)。』
『るさい!!(怒)。てめえは引っ込んでろ、このタマ転がし。』
『……………はい(汗)。』
あーらら、姉さんってばとうとうキレちゃったよ。
うーん、これはちょっと計算違いだったかなぁ。
まあ、さっきのセリフは京一の大失言だからね、しょうがないか。京一の自業自得で、俺の所為じゃないよね。
何でこうなっちゃのかなぁ?、最初は順調だったのに、この《必勝姉さん攻略・押しても駄目なら引いてみな、悔しかったらこっちへ来い》プランは。(溜息)
昨日、京一と打ち合わせした《押しても駄目なら〜》プランは、予定通り放課後を待って開始された。
内容はそう難しくない。単に、京一が姉さんの目の前で他の女の子を誉めて誉めて誉めまくって姉さんに焦ってもらい、あわよくば[嫉妬→気持ちを自覚]に持って行こうというプランである。(もっとも、京一には単に《京一を今以上に意識してもらう為》だけと言ってあるんだけどさ。)
ただ、迂闊な女の子を巻きこんで後でややこしいことになるのを避ける為に、誉める女の子の人選だけは昨日の内によーく考えておいた。
まず、仲間内の女の子は殆ど却下。京一曰く、「雛乃ちゃん以外は誉める気にならん。」だそうだ。まあ、確かにみんな美人ぞろいなんだけど、ちょっと(いや凄く)個性的なんだよねぇ。(マリィちゃんは外見から除外)
アン子ちゃんじゃあ、普段の様子から誉めても説得力無いし。校内の一般女子は論外だしね。(京一ってば本当に我が侭だよ。「俺はひーちゃんで眼が肥えちまってるんだよ。」なんて、馬鹿言ってるし。)
というわけで、白羽の矢が立ったのはアイドルの《舞園さやかちゃん》。
京一は元から大ファンだし、実際、かなり可愛い系の美少女で歌もすごく上手いので、説得力はもうバッチリ。すぐ側にいる訳ではないので、もしも姉さんが嫉妬に狂ったとしても(あんまり可能性無さそうだけど)トバッチリは行かないだろうし、後で「単に、憧れてただけ。相手は雲上人だ。」って言い訳効くもんね。
という入念な打ち合わせの上、小道具(芸能雑誌・水着グラビア有)まで購入して作戦は開始された。
京一も、始めはさりげなーく話題をふって姉さんの興味を惹きつけつつ、ついでにさやかちゃんの歌の【力】についての噂まで織り交ぜて誉めてたんだ。
上手い具合に、小蒔ちゃんや葵ちゃんまで話に参加してくれて説得力倍増。
途中、さりげにマリア先生までネタに使って(ちょっとしたスパイスみたいなモンかな)ダメ押しをして。おーし、このまま帰り道でもう一押しすればOK!なんて思ってたんだよね。実際、姉さんかなり苛ついてたから。
そうしたら、まさかの出会いってヤツ。道端で本物の《舞園さやかちゃん》+1に会っちゃったんだよ。本当に世の中の巡り合わせって解かんないよね
其処からが、転落の始まり。
流石の(姉さんにベタ惚れで眼と頭と耳が腐れてる)京一も実物に会って舞い上がっちゃったのか、誉め方の程度というか気合が違ってきた。
さやかちゃんも噂に違わぬ美少女で、性格も仕草もすっごく可愛い子だったしさ。
更になんていうか、ある意味姉さんの(本人も気付いてない)コンプレックスを思いっきり刺激する子なんだよ。
おかげで、苛つき程度だった姉さんのご機嫌はマリアナ海溝の底まで急速潜行。ちょっとヤバイかなあぁ?、なんて思い始めてたんだよね。
そんで、小蒔ちゃん達が二人をラーメン屋に誘っての恒例のお食事タイム。
食べてりゃ姉さんの機嫌も何とかなるかなぁ、なるといいなあ、なんて思ってた矢先の京一の大失言。「さては、お前不感症だな。」の台詞に姉さんがブチ切れちゃったんだ。
「妖精、天使ぃ。だから物を食うのが信じられないだとぉぉ。クソふざけた戯言をほざいてんじゃねえぞ、おら。言って善い事と悪い事の区別もつかねえのか、この《判断力類人猿》!!。てめえは、何の権利があって、さやかちゃんの人間としての当然権利《好きな物を食べる》を邪魔しやがるんだ。」
ゲシゲシ★。
あーあ、姉さん悪口雑言《堕天使》モード全開。しかも、思いっきり踏んでるよ。
「いや、そのひーちゃん…………(汗)。」
「ファンだから、好きだから許せない、なんてスカしたこと言いやがったら【全技×3】アタックだかんな。てめえみたいな外見しか見ない《脳味噌発酵ヨーグルト野郎》がいるから、さやかちゃんがこんな所でコソコソと塩ラーメン食うハメになってるんだろうが。わかってんのか。(怒)」
グリグリ☆
うーん、確かに京一の脳は腐れきってるけど、でもそれってば姉さんに関してだし。
「…………ひーちゃぁん(泣)」
「それとも何かぁ、此処で妖精のような美少女がラーメン食うのを見てるのは、不感症じゃなきゃ耐えられませんとでも言うつもりか!!。てめえの美意識がそれほど繊細で高尚なモンだったとは知らなかったぜ。てめえと違ってオレは不感症だよ。美意識なんてけったいなもんは理解できねえよ。じゃあ、此処でラーメン食う奴は、てめえの美意識にそぐわないって事だな。そりゃぁ、悪かったな。どーせオレは、此処でとんこつラーメンに餃子にシュウマイにチャーハンも食ってるよ。美意識にそぐわない奴を【相棒】にさせてて申し訳ございませんでした、とでも言えばいいのか、おら。」
さらに、ゲシゲシ★。
なんだ、それが本音か。あいかわらず、素直じゃないねぇ。
でも、姉さん。京一は姉さんが目の前でチャーシューメン大盛2杯と餃子3人前をたいらげても《俺の女神様》って言ってるよ。当人に面と向かって言えないみたいだけどさ。
「………………うううううう(泣)。すいません。ごめんなさい。俺の失言でした。もう、二度と言いません。」
あっ、京一陥落。情けないねぇ。
『馬鹿だねぇ、京一。』
『うるせえぞ!!。話が違うじゃねえか、タマ。』
『京一が、調子に乗り過ぎるから悪いんだよ。俺の所為じゃないもんね。』
本当に、俺は何にもしてないし。
うーん、まさか苛々と鬱憤の矛先が全部京一に行くとは、ちょっと予想外。
まあ、さやかちゃんに当たるなんて姉さんのプライドにかけても出来ないだろうけど。
「わかりゃいいんだ、わかりゃ。さあ、馬鹿はシメといたからね。さやかちゃん、安心して食べてていいよ。」
「はっ、はい。ありがとうございます。(汗)」
「…………。」
さやかちゃんとお連れの子(えーと、霧島くんだったっけ?)、唖然としちゃってるよ。まあ、仕方ないか。
ちなみに、葵ちゃん達は姉さんが拳を握り締めた時点で自分達のラーメンを避難させている。店のオジサンも、全く平然としたもんだ。
この近辺での二人のドッツキ漫才は(此処最近は無かったけど)、名物みたいなモンだったからね。
あれ、何か霧島君の様子が変だなぁ。
まさか、姉さんに怯えたなんてことないよね?。確かに、姉さんの顔と言動と行動には、相当のギャップがあるけどさ。
それにしても、京一と姉さんってある意味どうしようもないというか、いかんともし難いカップルだよね。
なんせ、二人共両想いで(但し、京一は気付いてなくて姉さんは無自覚)、ファーストキスは済んでて(但し、姉さんは知らない)、お互いにマメなアプローチは欠かしてないのに(但し、姉さんは無意識)、本人達だけ【相棒】から進展してないつもりだなんて。
あっ、並べ立ててみると殆ど姉さんが悪いのか。でも、京一も肝心な所で詰めが甘いからなぁ。姉さんは俺が何言ったって聞きゃしないし。
本当に、京一に頑張って貰わなきゃ俺の使命達成は覚束無いんだけど………。(溜息)
なんせ、姉さんってばこっち方面に関してはとんと疎い、っていうか、果てし無く無知な《超箱入娘》なんだから。
義母さんと義姉様達で寄って集って純粋培養しちゃった上に、特殊事情の所為で東京に来る迄その手の事に関する話題を提供してくれるような親しい友達なんていなかったからね。(どうやら、一般人にはなんか近寄り難いイメージがあったらしい)
いくらなんでも、俺達の特殊事情(とりあえず、仲間内には男と認識させている)がある以上、他の仲間(特に女性陣)に協力を頼むわけにはいかないんだから。(舞子ちゃんだけじゃあ、ちょっと頼りないし)
俺の存在だって、皆にはバラしてないんだし。本当に困っちゃうよなぁ。
ちなみに、俺が耳年増なのは暇を持て余しての情報収集の所為。だって、それしか出来なかったんだもん。
そうして、ラーメン屋から出てきたら、これまたアッという間に話は転がっていった。
なんと、霧島君が京一に憧れてるなんて言ってる。様子がおかしかったのは、京一に見惚れてた所為だったらしい。
あの、姉さんにボコボコにされてる処を見ても尊敬してるなんて言えるのは、ある意味凄いよ。「京一先輩。」なんて言っちゃって眼をキラキラさせてて、姉さんは毒気を抜かれちゃってるし、京一は困惑してるし、皆は呆然としてるし、あー可笑しい。
それにしても、このパターンって結構新鮮だなぁ。今までは大抵姉さんに惚れ込んでか(男女共って処が問題)、葵ちゃんに憧れてってパターンだったんだけど。
更には、帯脇なんていうストーカーの事とか(此処で姉さんの《人外魔境のお人好し》モードが発動。確かにさやかちゃんは気の毒だよ。)さやかちゃんの【歌】の力の事とか、なんか又しても厄介事てんこ盛りの予感みたいだ。(東京って、道端歩くと厄介事にぶつかる所なんだよねえ)
ところで、京一。【力】については、醍醐や葵ちゃんに負ける(そりゃぁ【四神・白虎】に【菩薩眼】だけど)なんて言ってるけど、君の方がよっぽど常識外れの体質してるって解かってる?。なんせ、【龍脈】に関係ない生来の超【陽気発散体質】なんだから。
道端を歩くだけでその辺の浮遊霊だの自縛霊なんかを片っ端から弾き飛ばしてるなんて(舞子ちゃんが嘆いてたよ、《友達》が可哀想だって)、日本全国規模でも尋常じゃないレベルなんだよ。
まあ、非常識っていうんなら、俺と姉さんが一番なんだけどさ。
結局、ストーカー野郎の件は姉さん達が調べておくっていうことで(どうせ、アン子ちゃんに頼むか俺がネットに潜って来るんだろうけど)、大事をとってみんなで二人を駅まで送って行くことになった。
歩きながら更に話を聞いてると、なんかアイドルってイロイロ大変みたいだなぁ。
《只の普通の女の子に戻りたい》だなんて。
でも、俺にもちょっと解かるよその気持ち。《護りたいから特別な【力】が欲しい》っていう霧島君の気持ちも解かるけど、やっぱ俺憧れちゃうよ、《普通の姉弟》ってヤツに。そうすれば、こんなアホらしい苦労を毎日しなくて済んでたのかと思うと。(涙)
一回でいいから姉さんに言わせてみたいよ、《普通の女の子になりたい》だなんて。
なんていう、他愛も無い世間話をしながら駅に着いたら、出て来ちゃったんだよ、当の話題の変態ストーカー男が。
うわぁ、信じられないセンス。よくあんなけった糞な御面相と格好で、さやかちゃんを俺の女呼ばわりできるよね。帯脇って、鏡見たことないのかな?。
なんか頭も悪いみたいで、霧島君だけじゃなく、二人を庇って出た京一達にまでイチャモン付けてる。バカだの巨漢だの男女だの、本当に命知らずな奴。
って・・・・。
「なんだ、そっちの奴はデータがねえなぁ。何ていうんだぁ?」
「ハッ。常識どころか、記憶力もねえんだな。この、モヒカン脳天パー腐れ蛇男。オレはそっちの木刀馬鹿の相棒で緋月龍麻っていうんだよ。その自前の少ない脳味噌の皺に、よーく刻み込んでおいたら、その薄汚え面隠してここからとっとと失せろ!!。(怒)」
「ヒヒヒッ。貴様も俺様の《抹殺リスト》に名前を乗せといてやるぜ。それにしても、何の相棒なんだか、ケケッ。男女は聞いてるが、オカマが混ざってるとは誰も報告してこなかったぜぇ。それとも、女男なのか?、フヘへッ。」
うわぁ―ぁぁっっ。それってば、死刑宣告書にサインしたも同じのセリフ。でも、ここ(新宿駅前)じゃあヤバイよ。
『京一、姉さん止めて!!!。』
バキィッ☆。
だが、俺のセリフより一瞬早く、怒涛のような京一の拳が帯脇を打っ飛ばしていた。
怒り狂ってる姉さんを片手で庇うように制して、京一はさっきまでとは別人のような底冷えのする眼光で帯脇を睨みつける。
「いいか、帯脇。さやかちゃんのストーカーだけなら兎も角、そのてめえの薄汚え口でひーちゃんを愚弄するなんざ、絶対にこの俺が許さん!!。」
立ち昇り、叩き付けられる絶対零度の【闘氣】に、帯脇は殴り飛ばされてへたり込んだまま起き上がることも出来ない。
「《抹殺リスト》なんて、クソふざけたことヌカシてんじゃねえぞ。そんなこと企もうもんなら、《新宿を五体満足で出て行く》どころか、この東京で呼吸していられなくしてやるからな!。よーく覚えておけ!!!。」
「京一………。」
あまりの京一の豹変ぶりに、姉さんは怒ることも忘れてその腕に縋り付く。
姉さんのその行動で京一の【闘氣】がすーっと引くと、帯脇が慌てたように身を起こし後ずさる。
「畜生。覚えていやがれぇぇ!!!。」
お約束の捨て台詞を残して、帯脇はその姿を雑踏の中に消した。
「………京一。」
「京一先輩………。(キラキラ)」
ちなみに、この時点で霧島君は、憧れを通り越して崇拝の眼で京一を見詰めちゃってる。(ありゃ)姉さんは姉さんで、京一の腕に縋り付いたままだしさ。
うーん、俺、ちょっと驚いちゃった。
まあ、実際帯脇が姉さんを抹殺しようと企んだとして、その場合相手にするのは、京一以外にも邪眼の菩薩様と、巨漢の白虎と、光炎の弓使いと、帯電槍使いバンドマンと、霊感看護婦さんと、鞭使いの女王様と、闇の魔方陣の魔女と、ドッペルゲンガーの空手家と、忍者の玄武と、スナイパーの青龍と、破魔の剣の巫女さん姉妹と、炎使い金髪美少女の朱雀、更にローカルな正義の味方戦隊という、錚々たるメンバーだよ。
東京で呼吸出来なくなる所か、地上から髪の毛一本、いや、細胞一片残さず消滅させられること請け合いだね。
案の定、葵ちゃんは「うふふ………。」なんて言って眼が妖しく光ってるし、小蒔ちゃんも醍醐も手をワキワキさせてる。
おかげで、京一と姉さんの様子に全く気付いてないみたいだ。よかったなあ。これ以上ややこしい事にならなくて。
さやかちゃん一人が呆然として、眼を白黒させてる。
うーん、この一件どうなっちゃうんだろう?。
それに、(京一は、スッパリと忘れちゃってるみたいだけど)今回の計画は?。俺の使命達成は?。(義母さんが怖いんだよぉぉ)
はうぅぅ、どうしよう………………???。(焦)
とりあえず、帯脇の命は風前の灯火。もって三日ってとこだね。いい気味だ。
* 龍那
「ちっくしょう、あのモヒカンストーカー野郎。(怒)ふざけたマネを!!。」
オレ達5人と舞子ちゃんは、桜ヶ丘に向かって、急いでいた。
こともあろうに、霧島が意識不明の重傷で桜ヶ丘に運び込まれた、って舞子ちゃんが知らせに来てくれたんだ。
放課後、アン子ちゃんに情報収集を頼んで、なんか葵ちゃん達みんなもえらくヤル気になってて(確かに帯脇って爬虫類臭くて嫌な奴だけど、なんで皆あんなに殺気だってたんだろう?)さあ、これから対策を練ろうって矢先の不意打ちだ。
まさか昨日の今日で、しかも霧島の方に仕掛けて来るとは。
オレ達すっかり油断してた。矛先をこっちに向けさせる為に、あんだけ挑発しておいたのに。(いや、鬱憤晴らしの八つ当りも兼ねてたけどさ)
まさか、昨日のあの時の京一の剣幕にビビッタなんて事はないよな。
さやかちゃんの方も心配だけど、まず霧島君の容態と相手の状況の確認が先だ。
「霧島、霧島!。おいっ、先生。霧島の奴は無事なんだろうな。?!!」
京一の叩き付ける様な声と共に、オレ達は桜ヶ丘病院のロビーへ雪崩れ込んだ。
無人のロビーに苛立ったように、更に京一は霧島君の安否を問う言葉を続ける。
昨日は困惑してたみたいだけど、実は京一がかなり霧島の事を気に入ってたのはわかってた。元から、一旦懐に入った人間には無茶苦茶甘い上に、あんなに純粋な好意と尊敬の目を向けられて無下にできる奴じゃあない。(しかも、女子供に弱いし)じゃなきゃ、《俺の一番弟子》なんて言ったりしないだろう。
実際、霧島は最近ではちょっと見かけないくらい純粋で礼儀正しくて素直な可愛い子だからな。
なんせ、オレにわざわざ「蓬莱時さんを尊敬してもいいですよね?」なんて確認してくるぐらいなんだから。(オレだって、あんな純真な子が弟だったら良かったなぁって一瞬思ったぞ)
なのに、何で焦ってうろたえている京一を見てると、変な気持ちに成るんだろう?。
気持ちを切り替えようと、奥の診察室に進もうとしたオレをタマの声が引き止める。
『駄目だ、姉さん!!。そっちから《奴》が来る。』
そこで一瞬足を止めたオレの耳に、今度は舞子ちゃんと葵ちゃんの声が続いて飛び込んでくる。
「なんかぁ、変なかんじがするぅ。」
「何か、来るわ。」
その二人の声に注意を向けていたオレは、次の瞬間に奥の方から感じた底知れないの害意を含んだ【氣】に、一瞬身体の動きが麻痺したように止まってしまう。
「来る!!。」
葵ちゃんの切羽詰った声と同時に、奥からたか子先生の悲鳴のような声が掛かる。
「おまえ達、早く逃げるんだよ!!!。」
次の瞬間オレの目の前に出現したのは、おぞましいまでの【陰氣】と【瘴気】を立ち昇らせた異形の怨念の塊。それが、意味を為さない呻き声を上げながら此方に迫って来る。
『逃げて、姉さん!!!。』
「ひーちゃん!!!。」
駄目だ。今逃げたら後ろの舞子ちゃん達が……………………。
『我の邪魔をぉぉぉ…………、我の邪魔をするものはァァァァァ。』
「緋月ぃ!!!。」
異形の怨念を前に立ち尽くしていたオレに、その【瘴気】が触れようとしたその時。
「ひーちゃん!!、させるかぁぁ!!。」
『させない!!!。』
京一がオレを横から抱き込むようにして庇い、閃光のような【陽氣】を発してそれに叩きつけるのと、タマが強化した【氣】の【結界】を俺達の前に障壁のように展開するのがほぼ同時だった。
『ウウ・・・・ゥ・・・ッ・・・・・ワァ・・・・・何だァ、この氣はアァァァァ!!!ひぎゃああああぁぁぁぁ・・・・!!!!。』
峻烈な閃光に曝され、氣の障壁に弾き飛ばされ、異形の怨念が断末魔の悲鳴を上げながら消滅する。
「龍麻!!。」
「大丈夫か?。龍麻、京一。」
「ひーちゃん、京一!!!。」
みんなが心配そうに駆け寄ってくる。
あの怨念が帯脇なのか?。どう見たって人間捨ててる《怪奇・妖怪蛇男の襲撃》だぞ。
『でも、確かに昨日の帯脇と同じ【氣】を感じたよ。実体じゃないけどね。大体、人間辞めちゃってる妖怪モドキなんて、姉さん達にとって今更じゃん。』
『そりゃそうだ。じゃあ、あれの本体は別の何処かにいるってことか?。』
『たぶんね。でも、今ので本体の方にも結構ダメージ入ってるんじゃないかな?【呪詛返し】を食らったようなもんだから。やっぱ【氣】のトレースしておく?。』
『一応やっとけ、タマ。』
『いや、絶対やれタマ!!。(断定)』
『あれ、京一。もしかして物凄ーく怒ってる?。』
『あったりめえだ!!。あんにゃろう、霧島だけでなくひーちゃんにまでチョッカイ出してきやがって。言った通り、俺が両手足へし折ってから呼吸出来なくしてやる。(怒)』
『おー怖。OK、任せといてよ。』
『どあほう!。この単細胞!!。意趣返しより先に、たか子先生に霧島の容態の確認だろうが!!!。』
『そうだった。すまねえ、ひーちゃん。』
それから、いつまでもオレを抱き込んでんじゃねえよ。たか子先生や葵ちゃん達が変な目で見てるだろ。オレは嬉しいんだけどさ。(あれ?!)
そうして、鳳銘高校での帯脇との決戦は(オレにとっては)わりとアッサリ決着がついてしまった。
殆どブチ切れていた京一と、何故か異様なまでに帯脇に敵意を燃やしていた応援の皆の活躍により、初戦(帯脇+手下)は文字通り《瞬殺》。(あの翡翠が【玄武変】してたもんな、いつも嫌がってるのに。葵ちゃんも【熾天使の紅】使ってたし)
オレなんか、さやかちゃん庇って突っ立てたら終わっちまった。だって、みんな手出しさせてくんなかったんだ。
そんで、帯脇の奴がお約束の《変生》。(桜ヶ丘に出た《怪奇蛇男》の実体バージョン)たか子先生の言ってた通り、自分は《八俣大蛇》だなんぞとほざき、さやかちゃんが《クシナダ姫》で元は自分のモンだなんて寝言ぬかしやがる。
さやかちゃんがお姫様なのはともかく、単なる《蛇皮被り男》の分際で神様名乗るなんて、おこがましいヤツ。(注:《八俣大蛇》は一応国津神)
罰当たりめ、今度こそオレが止めを刺してやる。と思ったら、なんと霧島が病院抜け出して来て颯爽と登場。瀕死の重傷なんてものともせず、ご丁寧に【力】にまで目覚めてくれて、「さやかちゃんは僕が護る!!」って言って獅子奮迅の大活躍。(小蒔ちゃんが「愛だよ、愛のパワーだよ。ボク感動しちゃう。」だって)
結局、蛇妖怪モドキな帯脇の止めも京一との新方陣技【阿修羅活殺陣】で決めてくれちゃったんだよ。
うにゅぅ、オレ何にもできなかった(泣)。
『アホの末路だね。三日も保たなかったとは…………。』
なんじゃ、タマ。三日って?。
それに、帯脇の奴なんか変な事言ってたし。ふにゅ、今度は《怪奇ミミズ男》とか出てきちゃったら、ちょっと(実はすごく)嫌だなあ。
そうして、皆で一緒に桜ヶ丘への帰り道。
霧島に肩を貸してやってる京一とか、一生懸命に霧島を支えて歩いているさやかちゃんを見ていて、オレ、また変な気持ちになってきちまった。
霧島が、昨日知り合ったばっかりなのにもう京一に「諸羽!」って呼ばれてて悔しいなぁとか、(オレだって、一ヶ月かかったのに)京一と二人っきりの方陣技があってズルイなぁとか。
さやかちゃんが、ああやって大好きな人に大っぴらにくっついてても誰も邪魔しないなんて羨ましいなあとか、あんなに二人でほんわかと出来上がっちゃってて良いなあなんて(あれれ!?)、絶対・断固・思ってなんかない。ふみゅみゅぅ。思ってないったら、思ってない!。
自分でもよくわからない考えで《頭グルグル》状態だったオレは、迂闊にも最後のタマの呟きを聞き流してしまった。
『なーんか、あの嫌な【氣】の残り香。どっかで感じたことがあるような………。うーん、何処だったかなぁ?。』
「緋月さん。あっ、あのこれは?。」
「一応、見舞いのつもりなんだけど。食い物じゃなく、花とかの方がよかったか?。」
「いっ、いえ、そんなとんでもありません。光栄です。(喜)」
あれから2日後、オレは五人の代表で霧島の見舞いに来ていた。
やっぱ、オレが一番暇で身軽だし(帰宅部)、他の皆は部活とか委員会とか進路指導とかあるし、当然だよな。
「そりゃよかった。一応、消化の良いモノをと思って作ってきたんだけどさ。本当に良かったよな。さっき先生に聞いたらもう殆ど大丈夫だって言ってたから。」
流石、たか子先生。あんだけの重傷だった霧島も今は全然元気になって、あと2・3日で退院だそうだ。いや、めでたい。
ちなみに、タマはそのままたか子先生に付いて行っちまった。何か、この病院のパソコン使わせてもらうって言ってた。(家のノーパソじゃ容量足んないんだと)
最近タマのヤツ分身の飛距離を伸ばしてやがって、病院の敷地内ぐらいはカバーできるらしい。本当に芸の細かい奴。
タマ曰く『精進、精進。どっかの誰かさんとは違うんだよ♪。』だと。うにゅぅ、おにょれ。
「作ったって…………。これ、緋月さんの手作りなんですか?。」
「そうだけど。プリンって嫌いか?。好みの相違を考えて、各種バリエーションを揃えてみたんだけど……………。」
カスタード・チョコ・カボチャ・にんじん・バナナのプリンに、ミルクティーとブルーベリーと林檎のババロア、それぞれクレープ皮で包んで、ソースもカラメルの他に蜂蜜レモンとヨーグルトを用意しておいたんだけどさ。
やっぱ、オレくらいだよなぁ。茶碗蒸しとプリン食いたさに、自宅のキッチンに高性能圧力鍋を常備しちゃう惰弱な男子高校生って
。だって市販のプリンって甘さ足んないんだよ(だから自力更生)。欲を言えばオーブンレンジも欲しい(好きなだけチョコレートケーキが焼ける)けど、流石に東京で一人暮らしさせてもらってる扶養家族の身分で、そんな贅沢なこと言えないよなぁ……………。
「すっ、好きです!。いただかせていただきます!!。そんなわざわざ手作りなんて、勿体無くって…………。感激です。(キラキラ)」
うっっっ(汗)、そんなに目を輝かせて喜ばれると、嬉しいけど良心が痛むなぁ。
何せ、殆どはこの間の買い過ぎた食材の流用だから………。うーん、オレって貧乏性。
「喜んでくれるんなら良かった。さやかちゃんと分けて食べてくれよな。今日も来るんだろ?。」
「はい!!。さやかちゃんもきっと喜びます♪。えーとっ……あの……それで、……今日は、京一先輩はご一緒じゃないんですか?。」
「アイツは、今日は部活。でも、面会時間に間に合うようなら来るってさ。」
大嘘。例によって、居残って生物のレポートだ。
でも、京一を崇拝してる霧島にそのまま正直にはちょっと言えないよなぁ。京一の面子ってモンがあるし。
「そうですか…………。(シュン)」
そんな残念そうな顔するなよぉ。何か、オレが意地悪したみたいじゃないか。
それにしても、本当に霧島って純真で素直で可愛いよな。(これで《スサノオ》の生れ変りだなんて嘘みたいだ)うちの根性曲がりの腹黒愚弟に爪の垢を煎じての呑ませてやりたいぞ、って無理か。(タマは飲み食いできないや)ちっ。
「あ―――…………、霧島あのな…………。」
「あっ、でも丁度いいかもしれません。えーと、………あの…………、僕、緋月さんにお願いしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?。」
「へ?!、オレに出来ることなら別にかまわないけど…………。」
そんなに、緊張して言うような事なのか。なんだろ? 。やっぱ、京一絡みなのかな。
「………あの、………その、緋月さんのこと《龍麻先輩》ってお呼びしてもよろしいですか?。それで、僕のことは京一先輩みたいに、《諸羽》って呼んでいただきたいんですけど…………。ダメですか?。」
うにゅっ!? 。何故そうくる??。
「………いっ、いや、オレは全然かまわないけどな………。(困惑)」
「本当ですか!!。よかった。ありがとうございます、龍麻先輩♪。」
そんな、全開笑顔で喜ぶようなことなのか?。第一、霧島が今すっごく尊敬(崇拝!?)してるのは京一だろ。なんで、オレまで……………????。
「でも、なんでイキナリ……………????。」
「イキナリじゃないですよ。僕、本当は初めてお会いした時から龍麻先輩にも憧れてたんです。なんて綺麗で素敵な人なんだろうって。」
うきゅきゅっ!!?。すっ、すてきぃ????
「はっ、初めからって………。すっ、素敵って………、京一は?……………。(汗)」
「京一先輩はすっごく格好良い方なんです。当たり前です。それで、龍麻先輩はとっても綺麗で素敵な方なんです。(断言)しかも、龍麻先輩は京一先輩に優るとも劣らないくらい強いんですから。これで、お二人に憧れないなんて変です。初めてお二人が揃っているのを見た時は、僕、すごく感動したんです。こんな人達が本当にいるなんて《奇跡》みたいだと思いました。」
きっ、きっ、奇跡って…………。しかも諸羽お前、どっかで見たような《お目めキラキラ》モード。
「特に、龍麻先輩がさやかちゃんの為に京一先輩をドついていらしゃったのを見てた時なんか、嬉しくってどうしようかと思ってましたよ。あんなに格好良くって強い京一先輩が、龍麻先輩には無抵抗で《ふみふみ》されてる所なんて、妙に様になってて、ウットリしちゃって、思わず自分のラーメン食べるの忘れてましたから。」
うきゅぅ〜。様になってて………、うっとりって、うっとりって…………。(滝汗)
「おまけに、あの帯脇を威しつけた時の京一先輩の格好良さって言ったらもうサイコーでした。僕、思ったんですけど。龍麻先輩と一緒にいらっしゃる時の京一先輩って、格好良さ(当社比)三割増って感じじゃないでしょうか?。」
にゅにゅ。オレってば、京一の格好良さを割増するスパイスみたいなモン、ってことなのか?。
でもなんか、今のセリフすんごく嬉しかったような………………。(あれ?)
「京一先輩お一人だけでも、そりゃもう充分に格好よくって感動なんですけど。龍麻先輩が一緒にいらっしゃるのを見てると、まるで後光が指しているようで。僕にとっては、《眼福》って言うより《眼至福》って感じです。あの光景を邪魔する人間は、さやかちゃんにチョッカイ掛けて来る人間と同じくらい許せません。(キッパリ)」
ふみゅ〜。どうしよう(汗)。なんか、困るんだけど嬉しくて。嬉しいんだけど、頭がグラグラするよう。(諸羽お前、さやかちゃんの立場は?)
「本当はあの時、京一先輩だけでなく龍麻先輩にも憧れてますって言いたかったんですけど、会ったばっかりで二人ともなんて図々しい奴って思われたら悲しいんで、龍麻先輩のことは我慢してたんです。」
はははははは………………我慢してたのね、あれで。がっくり。(脱力)
「諸羽の言いたいことは、よぉーくっ解かった。今度は、ちゃーんと京一と一緒に来るから。」
「はい♪。ありがとうございます、龍麻先輩!!!。」
オレはなんとか体制を立て直すと、病室を出ようと立ち上がった。
「それじゃあ、オレ、舞子ちゃんの所へ行くから。」
「あっ、今日は本当にありがとうごさいました。これ、ちゃんと全部いただかせて貰いますから。」
「だから、さやかちゃんと分けろよ。じゃあまたな、諸羽。」
「はい♪、お待ちしてます。龍麻先輩!!。」
この話はタマには絶対に話せないなぁ。京一にはどうしよう、うにゅっ??。
思いっきり脱力しきってヘロヘロだったオレの頭は、その後に微かに囁かれた諸羽の言葉の意味を深く考えることは無かった。
「本当によく似ているんですね、貴方は………。あの《桜下の天女》に…………。」
「あれ?、さやかちゃん。」
「あっ!、緋月さん。」
そうして、舞子ちゃんに会うべくナース・ステーションに向かってたオレは、受付窓口の所で、霧島の所にお見舞いに来たさやかちゃんに会った。
学校と仕事の兼業アイドルでとっても忙しい筈なのに、さやかちゃんは毎日たとえ僅かな時間でも此処にきているらしい。本当に健気で良い子なんだよな。
でも、何でだろう。さやかちゃんの顔を見る度に、声を、歌を聞く度に、オレの心に不可解な重い痛みが刺さって行く。
「さやかちゃん、今日も諸羽のお見舞い?。大変だね、仕事も忙しいのに。」
「いいえ。元はと言えば霧島君の怪我は私の所為ですから。緋月さんこそ、霧島君のお見舞いに来て下さったんですか?。」
「うん、そうだよ。大勢で押し掛けたら悪いから、俺がみんなの代表なんだ。手作りのプリンを持って来たから、諸羽と二人で食べてくれ。オレの味の好みに合わせちゃったから口に合うかどうか解かんないけど…………。」
オレの言葉に、僅かにさやかちゃんの表情が曇る。
「………緋月さんも《諸羽》って呼ぶんですね。」
「え?!。」
「…………いえ、何でもありません。プリンって私も大好きです。霧島君、きっと喜んでたんですよね、ありがとうございます。あっ………えーっと………ところで、今日は蓬莱寺さんはご一緒じゃないんですか?。」
さやかちゃんの口から京一の名前が出ると、オレの胸がまたチクチクする。
このチクチクって何なんだろう?。何でこんな可愛くて良い子なのに、苦手だなぁなんて思うんだろう?。
「京一は、今日は例によって補習だよ。毎日毎日馬鹿ばっかりやってるからね。だから今日はオレ一人なんだ。」
何でさやかちゃんの前だと、京一の事を貶してしまうんだろう。やっぱり変だ、オレ。
「そうですか……………。良かった。」
「へ?!、よかった??。」
「私、実は蓬莱寺さんのこと苦手なんです。っていうか嫌いなんです。」
「嫌い??。」
「だって、霧島君は皆さんと知り合ってから毎日蓬莱寺さんのことばっかり楽しそうに話してるんです。私と一緒にいても、『京一先輩は、京一先輩は』って……………。別に蓬莱寺さんが悪い所為じゃないって解かってるんですけど。霧島君の一番が盗られちゃったみたいで、それを蓬莱寺さんの所為にする自分がどんどん情けないな人間になっていくみたいで、凄く嫌なんです。」
「……………。」
なんか、どっかで聞いたような話だな。
それに何でだろう、変な事言われてるハズなのに、さっきからの鬱陶しい胸のチクチクが治まっていく。
「あっ、すいません。蓬莱寺さんは緋月さんの大事な親友なのに、凄く失礼なこと言っちゃいました。やっぱり、私って霧島君に相応しくない本当に嫌な子ですね………。」
そう、腹を立ててもいい筈なのに、何で不思議と良かったなんて思っちゃうんだろう。
「オレも、諸羽のこと苦手だよ。」
「え?!!。」
「だって、オレを差し置いて会ってから2日で京一に《諸羽》って呼ばせてたし、オレにも無い京一との二人だけの方陣技あるし、なのに凄く素直で可愛いヤツじゃないか。嫌いになれないんだから困っちゃうよ。」
実は、もっとさやかちゃんの方が苦手だったとは、流石に本人にはちょっと言えない。
「緋月さん……………?。」
「と言う訳で、お互いの大切な人のことを悪く言っちゃったから、これでおあいこだよ。京一と諸羽には、お互い、内緒にしておこうね。嫌な子同士二人だけの秘密だよ。なんで対等の同士ということで、オレのことは《龍麻》でいいからね。」
「……………はい、ありがとうございます。龍麻さん♪。」
さやかちゃんは、さっきまでの沈んだ顔が嘘みたいな笑顔になる。
これが《エンジェル・スマイル》ってヤツなんだなぁ。オレにはできないよな。でも、なんか、オレもすっきりした気分だからいいや。
「じゃあ、オレ行くね。諸羽にヨロシク。プリン、諸羽に独り占めさせたりしちゃダメだよ。」
「ふふ、霧島君は絶対に独り占めしたりなんかしません。」
「京一もしないよ。オレの分まではね。じゃあね♪。」
「はい、龍麻さん♪」
「というわけで、舞子ちゃん。これ、どういう訳だか解かる?。」
「う〜ん。舞子ぉ、ちょっと困っちゃうなぁ〜。」
ナース・ステーションで舞子ちゃんを捕まえたオレは、いつもの控え室で舞子ちゃんとの恒例の《お茶会》に突入していた。
舞子ちゃんはオレの《特殊事情》にも通じている数少ない相談相手で、しかも貴重な《甘い物メイト》なんだよな。(なんせ、趣味で幽霊のお話相手をしているくらいなんで)
聞き上手の上に、ほんわかしているようで結構鋭い指摘をする、全く有り難い茶飲み友達なんだ。
お茶を飲むだけなら翡翠もいいヤツなんだけど(出してくれる和菓子が、すごく美味しいし)、京一はオレと翡翠が二人でお茶を飲むのを凄く嫌がるんだよ。
それに、なんか舞子ちゃんて不思議な安心感があるんだよな。
ちなみに、オレ達二人のの前にあるのは、さっき諸羽に渡したモノとは砂糖の量が倍以上違うオレ仕様のプリンとたか子先生特製ハーブティーだ。タマなんかは、見ているだけで甘いから嫌だって言って、近づいて来ないシロモノなんだ。(だから今日も逃げやがったんだな。)
「ダーリンが自分で解からないことでぇ、タマちゃんがちゃんと言えないようなことを、舞子が勝手に《こうだよ》なんて言っちゃえないようぉ。舞子だって、いっぱい解かんないことあるのにぃ。」
「でも、オレこのままじゃ、どんどん嫌なヤツになっちゃうよ。オレ、こんな変な気持ちなんて初めてなんだもん。このままだったら、その内京一にも愛想つかされちゃう。もしも京一の見捨てられて【相棒】でさえもいられなくなったら、オレ、どうなっちゃうんだか解かんないよ。京一に嫌われるのだけは絶対にイヤなんだ。」
もう、あの時みたいな想いは絶対にしたくない。
それに、あの時とは今の京一への気持ちって、なんか違う気がする。
だって、アイツにはこんな変な胸がチクチクしたり、モヤモヤした感じなんかしなかった。他の人に盗られたらイヤだ、なんて思わなかったし。(あれれ?!)
「だからぁ、ダーリンはどうしたいのぉ?。」
「うにゅっ?!どうって…………???。」
「大事なのはぁ、変な気持ちになっちゃうのは何なのかじゃなくてぇ、どうしたらその変な気持ちが無くなるかだと思うよぉ。そうしたら、ダーリンが京一くんに嫌われるって怖がってなくてもよくなるんじゃないかなぁ。」
「ふにゅう。確かに…………。」
「変な気持ちにならなくなったら、ゆっくりと考えればいいんだよぉ。変な気持ちにならないでイイ方法を考えてるうちに、ちゃんと解かるかもしれないしぃ。」
「うきゅーん。解かるかなぁ?。」
「それはぁ、ダーリンと京一くん次第だ思うよぉ。だからぁ、ダーリンが変な気持ちにならないで済むにはどうしたいのかが大事なのぉ。それから、京一くんにどうして欲しいのかもねぇ。だってぇ、一方通行じゃ意味無いんだよぉ。ずーっと二人で一緒にいたいんならねぇ。」
そう、何時までも二人で一緒にいたい。ずっと側に、オレの側にいて欲しい。だから、絶対に嫌われたくない。嫌われたら、一緒にいられないから。あの時みたいに、オレが一人で置いていかれてしまうから……………。
「ダーリンはぁ、今京一くんにどうしたいのぉ?。どうしたら、変な気持ちにならないですむのぉ?。」
「オレ………オレは…………、京一の側にいたい。それから、京一にオレの側にいてくれって言いたい。それで、髪の毛撫で撫でして、抱き付いてぎゅーってして、スリスリして、ずーと其のままで居たい。」
京一に触れていたい。
「それなら、京一くんにはどうして欲しいのぉ?。」
「……………ずーっとオレの側にいて欲しい。オレのことを見てて欲しい。オレ以外の他の奴が一番側にいるのはイヤだ。それで、できれば京一の方からオレを抱き締めていて欲しい。オレが変な気持にならないで済むように、気が済むまでずーっとそのままでいて欲しい。」
そう、オレに触れてて欲しい。
何でだろう、言葉が止まらない。オレにこんな事言われても、舞子ちゃんが困るだけなのに。オレの一方的な我が儘なのに。こんな事言っちゃいけないのに…………。
「でも実際、オレはそんなことできないし、言えないよ。」
「どうしてぇ?。」
「だって、京一が好きなのは《可愛いおネーちゃん》なんだから。半端者で可愛げの無いオレなんかにこんな事言われても困るだろうし、【相棒】はちゃんとした男じゃないといけないのに、アイツの背中を護れるように、皆を護れるくらいに強くなくちゃいけないのに、しっかりしなくちゃいけないのに、女々しい奴だって思われて、きっと嫌われちゃうよ…………。」
だって、今の京一が一番信頼して何でも話せるのは、【相棒】のオレじゃなくてちゃんとした【男】のタマなんだから。
「京一くんはぁ、ぜぇ――ぇったいにそんな事くらいでダーリンを嫌いになったりしないよぉ。だって、京一くんなんだもん。それは、舞子が保証してあげるぅ。」
うにゅぅ。舞子ちゃんに保証されてもなぁ………。
「でも、京一ってば、オレが本当のことを話してから前と違うんだ。やっぱり、半端者のオレに触られたりするのって本当はイヤなんだよ。」
タマとばっかり一緒にいて内緒話をしてるし(オレ、仲間外れ)。昼はそうでもないんだけど、夜はよく目を逸らしてるか視線の焦点が合ってないかだし、抱きついても声が上ずって緊張して身体を硬くしちゃってる。どう考えても、困って嫌がってるって感じだ。
「京一くんが、ダーリンにイヤだっていったのぉ?。」
「(フルフル)うううん。…………でもそれはアイツが優しいからで…………。」
(普段そうは見えないけど)実は義理人情と女子供に弱くて、他人に厳しく見えるけど、本当はすんごく優しいから…………。
「ダーリン、それ違うよぉ。京一くんはぁ確かに優しいけどぉ、それでもぉイヤなことはちゃーんとイヤっていうよぉ。」
「……………。」
「ダーリン、ちゃんと京一くんに聞いてみればいいんだよぉ。」
「うみゅうぅ。でも……………。」
「いっぺんに全部聞いちゃうのが不安ならぁ、一回一回ダーリンがしたいことを『これならイヤじゃない?』って確認していけばいんだよぉ。イヤじゃない、って言われたらドンドンやればイイんだしぃ、イヤって言われたら如何してか聞いてぇ、納得いったらもうやらなければいいんだもん。京一くんにして欲しい事も同じだよぉ。小さな事からちょっとずつ解かり合っていけば、最後には全部になるんだよぉ。」
「そうなのかなぁ?。」
「そうだよぉ。ちゃんと言葉にした方が解かり易いって、京一くんも喜ぶよぉ。また、もっと早く言ってくれればよかったのに、って言われちゃうかも知れないよねぇ。」
ああ、そういえばあの時そんなこと言ってたっけ。
「うん、じゃあそうしてみる。ありがとう、舞子ちゃん♪。」
「えへへ、ダーリン、イイお顔になったねえ♪。良かったぁ、ダーリンにはぁ、いつもみんな【勇気】を貰ってるからぁ、少しでもお返しできたみたいで、舞子嬉しい。」
【勇気】をあげてる、オレが!?。
「でも、ちょっと妬けちゃうかなぁ。そんなにダーリンの《特別の大好き》になってる京一くんって。だって《絶対に嫌われたくない、ずーっと側にいたい》って《特別》で《一番》の大好きってことだよぉ。」
「《特別の大好き》・・・・・・。」
他のみんなを好きなのと違う《特別な大好き》。さやかちゃんが諸羽を想ってるのと同じ、一番でなきゃイヤな大好き。
うきゅうぅぅ〜。なんか顔がホカホカして、頭がポーっとしてきた。胸がチクチクじゃなくてキュンとして、心臓もバクバクしてきたよぉ。どうしよう??。
とりあえず、お茶でも飲んで頭を落ち着けよう……………。
「高見沢さん!!。もう医院長先生の回診の時間よ。」
「あっ、はーいぃ。今いきますぅ。」
「あっ、ごめん舞子ちゃん、忙しいのに。って、わぁっっっ。」
ガチャン☆ ガチャン★ ベチャっ☆
うわっ、オレってば大マヌケ。変なところで声を掛けられた所為で、飲みかけてたお茶をひっくり返しちゃったよ。おまけに、勢い余ってプリンの器まで膝の上に落っことしちゃった。
あ――――っっっ。また、制服を汚しちゃったよぉぉ。(泣)
「あぁーん、ダーリン、大丈夫ぅ?」
「大丈夫くないよぉ。ごめんね、舞子ちゃん。うきゅきゅ、どうしよう??。」
サラシにまでお茶が染み込んできて、気持ち悪いよう。おまけに、食べ掛けのプリンは膝の上でグシャグシャになってる。うみゅうぅ。
「うーん、どうしようぅ?。あっ!!、そうだ、もう日が沈んでるから舞子の着替え貸して上げるよぉ。そんでぇ、たか子先生の回診終わったらランドリールームで舞子が洗っておいて上げる。それまで、ダーリンは《あそこ》で待ってればいいんだよぉ。」
「いいの?、なんか申し訳ないなぁ」
「いいの、いいのぉ。その代わりぃ、残りのプリンとババロアは舞子が貰ってもいいかなぁ?。」
「ぜんぜん、OK。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。」
「うん。じゃあ早く更衣室いこ♪。たか子先生が怒っちゃう。」
「ふにゅ、うん。」
あーあ、オレ、最近他人に迷惑かけてばっかりだ。
なんとかしないと、本当に京一に愛想を尽かされちゃうなぁ。うにゅにゅん。
* 京一
あーあ、すかっかり遅くなっちまったぜ。犬神の野郎、さっさとレポートにOKだしゃあいいものを。ちっ。あいかわらず、イヤミな奴だ。
第一、 レポートをスッパリ忘れてたのは、俺の所為ばっかりじゃない。
レポートを出されたその日に、ひーちゃんのあの《悩殺・バスタオル一枚チラリズム》攻撃と、お袋の戦略核兵器威力の《ひーちゃんをお嫁さんにもらってね♪》爆弾宣言をくらって《頭グルグル》状態だった上に、翌日から今度は《さやかちゃんモヒカン蛇男ストーカー騒ぎ》だったんだぜ。覚えてろっていう方が無茶なんだよ。
それでもなんとかこの時間に終わることが出来たのは、帰り際にこっそりとひーちゃんが渡してくれた要点メモのおかげだ。(なんせ、ひーちゃんは俺と違って数学以外の成績は美里とタメ張ってるから。数学だって他の科目に比べたら出来ないって程度だもんな)
「もう、面会時間は終わってるよなあ。」
一人ごちながら、それでも急いで桜ヶ丘に向かっているのは、ひとえに今日先に諸羽の見舞いに行ったハズのひーちゃんに会いたい為だ。
たとえ恐怖の医院長先生がいようとも、夜のひーちゃん(龍那)に会えるんならその程度なんざどーってことない。別に、あわよくば二人だけで一緒に帰って告白に及びたいなんて考えてなんかいない…………いや、いるか。っていうか切実に希望しているぜ。
俺って、正直者だよなあ。
「あっ、京一くんだぁ。いらっしゃいませぇ〜。」
桜ヶ丘に入って、真っ先に俺に脳天気な声を掛けて来たのは、毎度お馴染み高見沢だ。
「しーっっっ。デカイ声だすなよ。医院長に見つかっちまうだろ。」
いくらどーってことないとはいえ、見つからんで済むに越した事はない。(最近、俺ってどうしようもない惰弱者かもしんないな)
「えへへ。京一くんってばぁ、あいかわずだよねぇ。えーとぉ、霧島くんのお見舞いならぁ、もう面会時間とっくに終わっちゃてるからダメだようぉ。」
「そんな事わかってるよ。見舞いならこんな手ぶらでくるか!。それより、ひーちゃんはもう帰っちまったのか?。」
この間タマから仕入れた情報では、高見沢はひーちゃんの《隠れ甘い物メイト》らしい。ここに来る以上、高見沢となんぞ食ってるはずだ。まだ帰ってない可能性は高い。
「ダーリンならまだいるよぉ。タマちゃんもまだ先生の部屋にいるしぃ。」
「タマなんかどうだっていい。ひーちゃんは何処にいるんだ?。」
「えーっとぉ、京一くんはダーリンのことを知ってるから大丈夫だよねぇ。じゃあ、丁度イイから《お使い》頼んじゃおうかなぁ。その方がダーリンも喜ぶよねぇ。」
何だ、《お使い》って。(その言葉に不安を感じる俺ってば、やっぱり惰弱者)いつも、一人で納得してないでくれ。俺はひーちゃんの居る所を聞いてるんだからよ。
「あのなあ、高見沢…………。」
「京一くん、はい!!。これダーリンに届けてくれるぅ?。」
高見沢から押し付けられたのは、結構大きな風呂敷包みだった。何だこれ?。
「届けるって…………(汗)。だから、ひーちゃんが何処にいるか聞いてるんだろ。教えてくれたら何だって届けてやるよ。」
「あっ、ごめんねぇ。舞子、ウッカリさんだよねぇ。えーとぉ、ダーリンはぁ、医院長先生の温室にいるよぉ。京一くん場所わかるぅ?。」
温室ぅぅぅぅ?!。
確か、ずいぶん前に師匠の奴にいっぺんだけ引き摺っていかれたことがあったけ。あの鬱陶しい草茫々の部屋か。ひーちゃんもなんでまた。
「わかるぜ。じゃあな、ありがとよ高見沢。これは、ひーちゃんに渡しておくからな。」
もう用無しとばかりに、俺は目的地に向かって走り出す。
「うん、またねぇ。えへへへ。京一くん、ダーリン、頑張ってねぇ。」
なんじゃ、頑張ってねっていうのは?。しかもひーちゃんまで。(たかが《お使い》で)
やっぱり、高見沢はよく解からん。
おぼろげな記憶を頼りに、なんとか温室らしい所の扉まで辿り着いた俺は、逸る気持を抑えて中にいるであろうひーちゃんを驚かせない為にゆっくりと扉を開けた。
すると、俺の耳に聞こえてきたのは、今まで聞いたことないような神秘的で透明な旋律の歌声だった。
――― そう、傷つく為に生きてる 貴方の魂を抱いた。
ねえ、今は全てを忘れ 私の胸で眠って。
孤独な戦士のように戦い続ける、貴方の安らぎになりたい。
今まで漏れ聞いたことのある歌声とは明らかに違う、どんな鳥囀りさえの叶わない妙なる歌声。
耳ではなく、心に染み透ってくるように奏でられる声だけの旋律。
泣きたい時には泣いてもいいの、
溢れ出す熱い涙が心癒す
その天使さえも叶わない至上の《女神の旋律》を紡ぎだしているのは、三日月の密やかな光の中に降臨している、奇跡のような美貌の《月光の女神》。
Do'nt you,Stay with me,Stay with me
抱しめて 口移しで勇気をあげる。
言葉をかけることすらも忘れて立ち尽くしている、俺の【相棒】で【想い人】。
You're Rolling stone,Rolling stone
ボロボロのその体、その心で何処へ行くの?
Soldier Blue ――――――――
「………………ひーちゃん。」
「えっっ!、…………きょう………い……ち…………?。」
おもわず、呟かれてしまった呼びかけに、その妙なる旋律が途切れる。
そうして、その《女神の声》の方に注目した俺の目に飛び込んできたその姿は………。
グラリッ☆
ひっ、ひーちゃん、また何て格好してんだよ。(グラグラ)
柔らかな月の光の中、温室の草花の手入れ用らしい小さな梯子に、さりげなく足を組んで腰掛けている俺の【想い人】の格好とは……………。
なんと、身体にピッタリとしたピンクのナース服。しかもスカート丈はミニ。おまけに、白く浮かび上がるすんばらしい脚線美が眩しいなま足。さらには、その白い胸の谷間がバッチリよく判るように、前が胸の下まではだけられているという(当然ながらサラシは巻いていない)、ある意味徹底したエロチックなスタイルである。(ここはイメクラか!!。病院じゃなかったのか?!)
しっ、知らなかったぁ―――ぁぁ。桜ヶ丘の制服って、こんなにエッチ臭かったのか。そういえば、おばさんのナースか高見沢しか見た事なかったもんなあ。
インパクトという点でこの間の《バスタオル一枚》には負けるが、エッチ臭さという点ではいい勝負、エロチックならこっちの方が、っていうくらい妖しさ大爆発な艶姿だぜ。
そんなにひーちゃんは俺の理性を暗殺したいのか!って感じだ。(頼む、鼻血でるなよ)
「京一!!、ふみゅっ♪」
思わず、ボケッと突っ立ってひーちゃんの魅惑的な格好に見惚れてた俺に、ひーちゃんが梯子からヒラリッと飛び降りて駆け寄ってくる。
ぱふっっ☆、スリスリぃ★。
はううううっっ、ひーちゃんの《抱き付いてほっぺスリスリ》攻撃炸裂!!。
しかも、スリスリするたびにはだけられたナース服の胸元が広がっていくので、鎖骨やうなじのラインがジワジワと視界に飛び込んでくるとか、バスタオルより布地が薄いので胸の感触がよりリアル(それどころか場所によっては直接そのなま胸が触れている)という、前回より俺の理性への打撃力がアップしている恐ろしい攻撃だ。
嬉しいんだけど、死ぬほど嬉しいんだけど、七転八倒するほど嬉しいんだけど、誰か俺の理性を救ってくれぇぇぇぇぇ。
当然のことながら、とっくの昔に滅殺されている俺の自制心の方は役に立たず、俺の腕はしっかりとひーちゃんを抱き締め返している。
「ひっ、ひーちゃん。あっ、あのな………………。」
なんとか生き残っている理性が、必死に声を絞り出す。
駄目だ。何とかしないと俺の理性が完全に昇天しちまう。
そんなことになったら、俺は確実にひーちゃんを襲っちまうぞ。その結果、返り討ちでブチ殺されるぐらいならともかく、本気で嫌われて親友・相棒でさえもいられなくなったら目も当てらんねえ。マジで生きていくのが辛くなっちまうじゃねえか。
「うきゅ!!。あっっ、ゴメン。」
なんとか、俺の様子に気がついたらしいひーちゃんは、スルリっと身体を離す。毎度の事ながら、離れちまうとそれはそれで寂しいんだよなあ。(うーん、残念)
「あのな、京一。その…………。俺にこういう事されるの、すんごくイヤか?。」
上目遣いに、おずおずとひーちゃんが尋ねてくる。
ダぁ―――ぁぁぁっっ、激烈に可愛いぜ。イヤどころか、条件さえ揃っていればこっちから頼んでやってもらいたいぐらい嬉しい事なんだけどな。
でも、今は正直には言えねえよなあ。
「べっ、べっ、別にイヤなんかじゃねえよ。ただ、いつも不意打ちなんで驚いちまうだけだ。ひーちゃんがやりたいっていうんなら俺はぜんぜん構わないぜ。」
っていうか、普段ならどんどんやって下さい。お願いします。
「そうか、ちゃんと先に『するよ。』って言えばいいんだな。よかった、イヤがられてなくって。ありがとう、京一♪。」
《全開笑顔》攻撃までいただいちまったよ。
うーん、ドキドキ。俺の心臓、もうひーちゃんにしか反応しないかもなあ。
「ところで、ひーちゃん。何でまたそんな格好してるんだ?。しかも、前をはだけたまんまで。」
うっっ、真正面からみるとさっきより胸元が広がってる。はうっ、せめてその危険な前開き状態だけはなんとかしてくれ。(り、理性が…………。)
「しょうがないだろ、制服にお茶とプリン溢しちゃったんだから。だから、洗濯終わるまで舞子ちゃんの予備の制服借りたんだよ。前だって好きで開けてるんじゃない、胸がキツクて閉まんないんだ。」
グラリン★。
いや、ひーちゃんがナイスバディなのは知ってるけど、そうか、高見沢より結構胸が大きいってことか、推定サイズ変更しておいた方いいな。(はっ、鼻血が………。)
「じゃあ、高見沢から預かってきたこれ、ひーちゃんの制服か。」
納得。(それにしても高見沢、一体何を考えて俺に《お使い》なんて頼んだんだ?)
「あっ、サンキュー。舞子ちゃんから貰ってきてくれたんだ。よかった、そろそろ寒いかなあって思ってたところなんだ。」
そう思うんなら、学ランだけでもはおってくれぇぇ。なんでそんな胸を前に突き出すようなポーズの持ち方するんだ。(風呂敷包みを後ろに抱え込んでいる)グラグラ。
「そういえば、ひーちゃんって本当に歌がすんごく上手いんだなあ。さっき始めて聞いて驚いちまったぜ。なんで、人前で歌わないんだ。もったいない。」
とりあえず、話題を逸らす為に先日から疑問に思っていたことを言ってみる。(じゃあ、今からもう一回とかいってスリスリされたら、今度こそ理性の滅殺のピンチだ。)
「聞いてたのか?、恥ずかしいなあ。別に、お世辞いってくれても何にも出ないぞ。」
いや、その格好とポーズだけで充分サービスだよ、ひーちゃん。
第一、お世辞いえるようなレベルの上手さじゃないぜ。(【力】抜きなら)さやかちゃんを張り倒して勝ってるよ。
「お世辞なんかじゃねえよ。俺がそんな器用なことできる人間かひーちゃんが一番解かってるだろ。だから、何でみんなとかと一緒に歌わないんだ。いつも雨紋や藤咲のカラオケの誘い断ってるだろ。あいつ等その度に俺に文句言ってくるんだぜ。」
断る口実が、俺がらみの場合が多いからな。実際、口実だけじゃないことも多々あるんだがよ。
「京一には悪いと思ってるよ。でも、仕方ないじゃないか。オレは昼と夜じゃ声が違うんだから。」
ああ、そうか。ひーちゃんは昼間は俗に言うボーイソプラノっていうやつだけど、夜は鈴の音を転がすような純然たる女の子の声だもんな。
「【結界】で姿は完璧に目晦ましがかかるけど、声はそうはいかない。多少の錯覚はさせるようになってるけど、いつも夜は注意して低くなるように喋ってるんだ。でも、歌っている時はそうはいかないからな。オレ、歌ってる時はそっちに神経集中しちゃって他の事なんて全部判らなくなっちゃうらしいから・・・・・・。本当は歌うの大好きなんだけどな。ヘタの横好きで申し訳ないんだけど・・・・・・・・・・。」
そう言った、ひーちゃんの横顔は凄く寂しそうだった。
ひーちゃんは、その抱え込んだ複雑な事情の所為で、どれだけ孤独な思いを抱え込んできたんだろう?。ずーっと、タマと家族以外の人間から疎外感をもってたんだろうか。
あんなに仲間達に囲まれていても、その思いの鎖に囚われているんだろうか?。
今は、もう俺という【相棒】だっているのに。俺じゃあ、ひーちゃんをその《思い》から開放してやることは出来ないんだろうか。
「じゃあ、俺の前だけならならさっきみたいに歌ってくれるか?。さっき言ったのはお世辞なんかじゃなくて、マジでずーっと聞いていたいと思っちまったからよ。」
でも、少しずつだっていい、俺がその鎖を切り離してやりたい。できないと思っちまったら、そこで終わりだ。諦めなきゃなんとかなる。そう信じるしかねえ。
「京一………。」
「俺だけに歌ってりゃいいじゃねえか。聞きたくてしょうがない、って言ってんだから。」
その解き放った鎖で、今度は俺だけにひーちゃんを繋ぎ止めておきたいって思うのは、解き放つ事で俺が独占していたいって考えるのは、罪深いことなんだろうか。
「本当に、馬鹿でお人好しだなあ、京一は。」
「俺の何処が馬鹿でお人好しなんだよ。《人外魔境のお人好し》のひーちゃんにだけは言われたくないぜ。だいたい、俺のお人好しはひーちゃん限定だ。」
「嘘つけ。みんなとおねーちゃんにも範囲が広がってるくせに。」
「ひーちゃんの方が誤解してるんだ。いい加減、俺のいう事信用しろよ。」
「じゃあ、さっきのお世辞に免じて、これからは信用してやる。だから、これからは何でも正直に答えろよ。オレ達、【相棒】なんだから。」
「だから、さっきのはお世辞じゃねえって言ってるだろ!。」
ああああああっ、なんかすんごくいい感じだなあ。いつもチャチャいれしてくるタマもいないし。(医院長の所にいるって言ってたな。なんつう物好きな)
って、これは千載一遇のチャンスっていうんじゃないか!!。これを逃せば男がスタルってモンだぜ。
「龍那。」
「京一。」
勢い込んだ俺とひーちゃんの声が重なる。ひーちゃんからも何か言いたそうだ。
「えーっと、ひーちゃんから先に言えよ。」
俺のは用件的に後の方がいいだろう。なんせ、続かなかったらそれで終わりだ。(あっ、それはそれで困るな。なんせ、それって俺が《フラレル》って事なんだから)
「いいのか?。じゃあな、………えーとな、さっきの歌はフレーズが気に入って覚えてたんだ。だから、タイトルも知らないんだ。」
何の関係があるのか解からないが、ひーちゃんの言う事だ、俺は黙って聞いている。
「今日、舞子ちゃんが言ってたんだ、オレがみんなに【勇気】あげてるって。それで、オレは誰に貰ってるんだろうって思ったんだ。」
さりげなく伸びてきた、ひーちゃんのしなやかな手が俺の頭にふわりと触れる。
「……………『口移しで勇気をあげる』…………か…………。」
「えっ?!、ひーちゃん。今、何って…………。」
聞き逃してしまった、微かな囁き。
頭に触れていた手が、ゆっくりと俺の髪を撫でる。
「イヤならそう言えよ、京一。」
「え!!!???。」
次の瞬間、俺は髪を撫でていた手でグイっとひーちゃんの方に引き寄せられて………。
「!」
間近に見える、ひーちゃんの閉じられた瞼。
そして、唇に触れる柔らかくて、暖かくて、僅かに湿った感触。
――――――――――――俺の時が、思考が凍る。
「なんか、口移しで【勇気】だけじゃなく【陽氣】まで貰っちゃったみたいだな。」
ほのかに頬を染めたひーちゃんが、どこか遠い所で言葉を紡いでる。
「えーっと、イヤだったか?京一」
「いや…………じ……な…い…………。」
凍ってしまった俺には、満足に言葉を発することもできない。
それでも、ここでは言葉を、俺の本心からの肯定の言葉を口にしなくてはいけないと思った。だから全身の力を振り絞って口を動かす。
「そうか、それらよかった。オレの勝手な我が儘で、京一にイヤな思いさせるわけにはいかないもんな。」
「………………。」
「じゃあオレ、また更衣室借りて着替えてくるから、京一は表で待っててくれよ。途中まで一緒に帰ろう♪。」
「……………。」
今度は、何とか肯く。それも、まどろっこしいような緩慢な動作だ。
「じゃあ、また後でな。」
そのまま、ひーちゃんは踵を返すと、足早にこの場を立ち去っていった。
そのまま、どれほどの時が過ぎたのだろうか?
俺の視線は、温室の中に咲く小さな黄色い花を見つけた。
【大待宵草】―――― 夜の中だけに咲く花。月光の下にこそ最も美しく可憐に咲く花。
確か、お袋だったけ、言ってたのは。『あの花が本当の【月下美人】だと思う。』と。
何故だろう、美しさも艶やかさも比べ物にならないはずなのに、その時の俺にはあの花がひーちゃんに重なって見えた。
けっして、太陽の光の中に咲くことのできない花。
月光に下でこれほどなら、と陽に当てる事を望んでも叶わない花。
そのまま、俺は飽きることなく、その花を見つめ続けていた。
『ちょっと、京一。姉さん待ってるよ。ねえ、京一ってばぁ。』
「…………。」
『ねえってばぁ、京一ぃ。姉さんもちょっと変だし、俺のいない間にここで二人で何をやってたのさ。白状しないと、《みゃーちゃん》って呼ぶよ!!!。』
「…………。」
『もう。とりあえず、白状はいいから。ねえ、早くいこうよぉ。じゃないと、また俺が姉さんに《ポストペット以下の出来損ない》っていわれちゃうよぉ。』
「…………。」
『京一ってば、ねえ。』
小煩い、お邪魔虫の声が途絶えるまで……………。
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【ジェラシック・パーク】後編