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どもども、今度こそ正真正銘の番外編「大和撫子乱舞☆」です。
ああああ、すいません、すいません(ペコペコ)。なんと、最初に予告してから3ヶ月以上もたっちゃってます。(マジでヤバイ)
いい加減、皆さんに見捨てられてるかもしれないんじゃないか?とも思いますが、予告した以上はキチンとヤルのがポリシーなんで、艱難辛苦(大げさ)を越えて頑張りました。
ちなみに、今回の番外編の内容については、もう読んでのお楽しみ(笑)。
あいかわらず、峠之の書く話に出てくるキャラ=暴走です。
果たして暴走キャラを向こうに回して、若旦那は予告通り方陣技仲間からのハブンチョの雪辱、及び、京一への逆襲なるか?!。


《女の自覚》は兎も角、《恋愛感情の自覚》は進んでいる我等が《色ボケ暴走娘》。
前回の話で、一般常識もちょっと学習していることが判明。このまま一気にイケルのか?!。
そして、忍者様の逆襲に対して、京一の野望(《告白》して雪崩れ込み)は達成できるのか?!。
(この話が今ここ(来楽堂様)にある以上、雪崩れ込みは絶対に無理。ていうか、させないが・・・・)
タマはその《使命達成》が果たせるのか?!。
って、番外編でそう上手くいくわきゃないんである。(笑)


 では、本文へいってみましょう♪。


 EX.3  大和撫子乱舞☆





 * 翡翠


 世の中、わかっていても認めたくない事実と言うモノは多々有る。
だが、それがこんなに多いのが僕の宿星と言うなら、時々その宿星すら認めたくないと思ってしまうのは、僕の心が弱い所為でしょうか、・・・・・・・御祖父様。


「龍麻はともかく、何故貴様までここにいる?、蓬莱寺。(ムッツリ)」
僕は、思わず目の前に不機嫌そうに立っている脳天パー赤毛男(あいも変わらず木刀オプション付)を睨みつける。
貴様を見ていると、折角の文化祭、しかも招待するのを諦めていた人物の突然の来訪に天にも昇るような気分であったのが、一気に下降してしまうではないか。
「知るか!。俺が来たくて今日ここ(王蘭学院)に来た訳じゃねえ。俺とひーちゃんをセットでここに呼んだのは、てめえの彼女だろうが。そっちに聞けよ!!!。」
「誰が彼女だ!!。僕には、そんなモノおらん!!!。」
《彼》の前でワザワザ誤解を招くような事を。本当に気に食わん男だ。
「えぇ――ぇぇ。違うのか?、朱日さんだっけ・・・・・・・、アランが言ってたぞ、『とってもしっかりしていて、知的な美人でヒスーイにお似合いな人ネ。本当にスミにおけないヨ♪。』って。オレ、翡翠の彼女に会えるの楽しみにしてきたのに。」
「・・・・・・龍麻(汗)。」
しっかり誤解されてる(涙)。
あんな馬鹿の言葉を真に受けるなんて、純粋で素直すぎるのも困り者だよ、龍麻。
(それが数ある美点の一つであっても)
それにしても、アラン、余計なことを、あのお調子者が!!(怒)。あれが四神の仲間の一人かと思うと情けない。今度会った時には、邪妖滅殺で【水流尖の術】×5だ!!。
っと、それは後回しにしておいて。まずは龍麻の誤解を解いておくのが先だ。
(でないと、龍麻の認識=仲間内全ての認識で定着してしまう)
「橘さんはあくまで大事なクラスメイトで友人だよ。とても貴重なことに、僕達の事情に理解の有るね。そんな風に勝手に決めつけられたら、彼女の方が迷惑すると思うよ、龍麻。」
まあ、彼女、橘朱日さんはただの一般人(クラスメイト)というには度胸が据わりすぎているというか、神経が千年杉並みに図太い侮れない人ではあるが。
僕が知る限りの真ッ更な一般人(カタギ)の女性の中で、その侮れなさは五本指に入るのではないかと常々思っているくらいだから。
(えっ!、何故一般人に限定するかって?。仲間内の女性は、程度の差こそ有れ全員が侮れない人間ばかりだからだ)
なんせ彼女は、あの鬼道衆の一件の時に、家の中で血塗れで昏倒していた僕を発見しても慌てず騒がず、更には救急車も呼ばずたった一人で寝かしつけて適切な手当てした上に(言っておくが、その時僕は刺し傷に毒を食らっていたのだ)、その後そのまま初めて上がり込んだハズの僕の家の台所で勝手にお粥を作ってのける程の肝の座りきった女性なのである。
オマケに、その異常事態の後にもたいした詰問もせずに僕の店(一般人から見たらかなり胡乱な店)で板に付ききった接客のアルバイトをした挙句に、初対面の雨紋と雪乃さん達の来訪にもまったく動じず(雪乃さん達はともかく、雨紋のヤツは普通の女の子なら一歩引かれるぞ)、鬼道衆という怪しげな面を付けた忍者の一群と《牛鬼》なんぞという常識外れの化け物3匹に取り囲まれていながら、悲鳴の一つも上げず取り乱しもせずに、あくまで冷静沈着に「逃げましょう。今の如月くんじゃあんなの相手にするのは無理よ」と言ってのけるクソ度胸の持ち主で、トドメに、その後の戦闘で弓、槍、薙刀に銃、果ては怪しげな火と水が飛び交い、【白虎変】した醍醐くんにさえ全く頓着せず、逃げ出しもぜずに僕達の心配をした上に、あの異常事態の説明も求めず僕に文化祭実行委員を依頼しようとし、化け物との戦闘後の夜道を護衛も断ってたった一人で帰っていけるという神経の太さもここに極まれりという大人物なのだ。
こうして改めて振りかえってみると、本当に侮れない女性である。
「そうなのか?。オレ、決めつけちゃってるのかなあ。翡翠って、一般人には近寄りがたい所が有って、よく誤解されてるみたいだから、彼女っていうか大事な人ができたのって、すごくイイ事だって喜んでたんだけどなあ。勝手に決めつけちゃうのって、良くない事だったんだもんなあ。そっかぁ、オレ朱日さんに迷惑かけちゃったのかぁ・・・・・・・(シュン)。」
「あっ、龍麻・・・・・・・・・。(汗)」
「おい!!。(怒)」
はっっ!!!!。し、しまったあぁぁぁ。言い方をしくじってしまった。
僕としたことが、龍麻の世俗の垢に塗れていない純粋無垢で《究極のお人好し》な所を失念していた。オマケに、やたらと自責癖があるんだ。
マズイ(汗)、【緋月龍麻お大事同盟】筆頭を自任している僕が、こんなことで当の彼を落ち込ませてしまってどうするんだ。(これが某女性にバレたら、流石の僕でもヤバイ状況だ)
って、蓬莱寺。貴様に睨みつけられんでも、自分の失言はわかっているから、そう殺気立った【氣】をぶつけてくるな。
だいたい、普段から龍麻を落ち込ませる(若しくは、怒らせる&迷惑をかける)筆頭は、貴様だろうが!!。龍麻自らが認めた【相棒】という事実と、それにふさわしい技量の持ち主でなかったら、例え【宿星】の仲間であろうともとっくの昔に貴様など排除されているぞ!!。
(そう、僕的には非常に気に食わない事だが、この蓬莱寺京一と言う男、こと総合的戦闘力と言う事に関してなら仲間内では龍麻と並んで一・二を争う力量の持ち主なのである。ハッキリ言って、知り合った頃ならともかく現在なら僕でもタイマン勝負で勝てる保証は皆無に近い。これも判ってはいても認めたくない事実の一つだ)
さて、どうやって誤解を解きつつこの落ち込んだ龍麻を浮上させようか?と思案し出したところで、話題の当の本人から絶妙の助けの声がかかった。
「あら、そんなことぐらい、私は迷惑でもなんでもないわよ。」
「うにゅ?!。」
「お?!。」
「たっ、橘さん!!。」
思わず僕等が慌てて背後を振りかえって見ると、その声の主、パンフレットの束を持った橘朱日嬢がニッコリと微笑みながら立っているではないか。
そうやって柔らかく微笑んでいると、「《冷血女》、それ誰?。」と言う感じの溢れんばかりの知性を感じさせる美女ぶりだ。
実際、ここ最近で雰囲気が変わったと評判の彼女は、今年の《ミス・王蘭》にほぼ当確しつつあるそうだから、人間の美的感覚というのは実に曖昧なモノである。
ただ、世間一般においてこの《雰囲気が変わった》事の原因が、何故か僕に起因するとみなされていて、『三年四組の《ツンドラ気候零下氷山コンビ》が2人揃って春を迎えて、《雪解け水カップル》になった。』なんぞと誤解も甚だしいことを言われているのが、僕的には非常に腹立たしいことなのだが・・・・・・・・・。
(当然、それを最初に言い出した人間にはキッチリと報いをくれてやっている)
いや、別に僕が橘さんが嫌だと言う訳ではない。むしろ、その度胸や神経の太さ、侮れないまでの行き届いた細かい配慮など、友人として大変信頼できる得難い人だと思ってはいる。
だがいかんせん、彼女はあくまで大切な友人であり、僕にはこの世で一番大切な《想い人》と言う存在が別にいるのだ。

そう、性別が性別だけに大きな声では言えないが、今現在目の前で困惑した表情で立っている《彼》である。(まかり間違っても、その隣で馬鹿面晒して立っている木刀持った赤毛猿の方ではない)

 ―――――――― 緋月龍麻。
今年の春に東京にやってきたという《転校生》。あらゆる意味で、全ての中心となる存在。
そして、《宿星》に従うなら僕が何をおいても、そう、この《東京》と同じくらいに絶対に護らなければならないであろう人間。

だが、初めはともかくとして、今はもうそんな《宿星》なんぞそっちのけにしても、その存在全てで僕を魅き付けてやまない、あらゆる事態において僕の《最重要優先保護対象》なのである。

その性別を何処かに忘れてきたような綺麗な顔立ち、くるくる変わる表情、宝石のような蒼く煌く瞳、しなやかな仕草、そしてなにより、いっそ不器用なほどにまっすぐで澄んだ純粋な心。
次から次へと現れる、変化するその心を現した瞳の光が、行動が、僕を、いや彼を取り巻く全ての人々を魅了する。目が離せなくなる。放っておけなくなる。
性別だの、その圧倒的な強さなどに関係無く、《自分が護ってあげたい》と思わせる人間なのだ。
だから、《想い人》とは言っても、実際僕は《彼》をそう言う意味で《どうこうしたい》などとは思ったことはない。ので、厳密な意味では、この気持ちは《恋》だの《愛》だのという生々しい感情ではないのだと思っていたのだが・・・・・・・・・。

実は、ここ最近彼に対する崇高ともいっていいその気持ちがグラついてきている事実が、僕を少なからず動揺させているのだ・・・・・・・。まったくもって修行が足りないことに。
そう、元々、正体不明の胡乱な気配を纏い付かせていたり、かなり高度な《術具》によるらしい用途不明の【結界】を常時身に纏っていたり、昼と夜では微妙に感じる【氣】の印象が違っていたりなど、挙動不審を感じさせる彼だったが(そこいら辺りについては、彼の背負っているだろう《宿星》の意味をを考えれば簡単に納得できる。どんな事情があっても不思議ではない)、最近の彼から受ける印象といったら、なんというか、その・・・・・・・・・。
性別不祥を通り越して、やたらと《女性化》してきているのだ。
ハッキリ言って、《彼》に魅かれていると自覚した時点でその【性別】なんぞ、さっさと認識の遥か彼方に放り投げてしまった僕だが(誰だ!、《カミングアウト》したなどと埒も無いことを言う奴は)、こう彼の何気ない仕草に心臓の鼓動を跳ね上げたり、ふとした時に何か甘い芳香のようなモノを感じて頭に血を昇らせて動揺しているようでは、その心に誓った最重要使命である《彼を護る事》にさえ支障を来たしかねなく、《無》=平常心を旨とする忍びとして内心忸怩たるモノがあるのだ。
ええい!、まったくもって僕も修行が足りん。
しかも、その著しい《女性化》&さらなる挙動不審の原因が、どうやら今現在アホ面で隣に立っている赤毛猿木刀馬鹿に有るらしいと言う不条理極まりない事態に至っては、腹立たしいを通り越して頭の中が煮え繰り返っている昨今なのだ。
(そう、これも判ってはいても絶対に認めたくない噴飯モノの事実の一つなのである)
ああ、なんか改めて考えると余計に腹が立ってきた。

いかん、いかん。目の前にいる龍麻の為にも、ここは平常心だ。


「ちょっと、如月君。さっきからボケッと無言の百面相をしてないで、さっさとそちらの二人を紹介してくれない?。私は一応初対面なんだから。」
はっ、しまった!。僕としたことが。さっきから醜態を晒してばかりじゃないか。
って、橘さん。その言い草って、あんまりじゃないのかい。
「誰が百面相なんだい?。ちょっと予想外のことが起こったから、思索にふけっていただけだよ。だいたい、初対面も何も、そこの木刀男の弁によれば、この二人を(こともあろうに、セットで)今日ここ(王蘭学園の文化祭)に招待したのは、君だそうじゃないか。」
「ええそうよ、私が二人をご招待しました。だって、貴方が『招待しない』って言ってたからよ。でも、招待状は送っても、二人には逢うのも話すのも初めてなんだから、貴方がキチンと紹介してくれないと困るわ。っていうか、失礼でしょ。」
あのねえ、橘さん・・・・・・・・(汗)。
「何故、僕が二人を招待しないと、君が代わりにするんだい?。」
そりゃ、今日、龍麻がここに来てくれたのはかなり(と言うか、とっても)喜ばしいことなので、その点については君に感謝するが、こっちにはこっちの事情と言うモノがあるのだ。
そう、今回あちこちで開催される仲間内各校の文化祭については、【お大事同盟】内で『龍麻を自校の文化祭に無理な招待しない』という取り決めが為されている。(一部例外有り)
なにせ、龍麻は仲間内のリーダー兼アイドル。仲間内どころか、ちょっとでも関係のあった人間から招待状が殺到するであろうことは目に見えている。
当然、お祭り大好きの上、《人外魔境のお人好し》で律義者の龍麻のことだ、まず間違いなく全部に出かけて行こうとするだろう。
そうすると、龍麻は、こともあろうにわずか2週間の間に《東京23区東西南北各校文化祭巡りオリエンテーリング》をするハメになるのだ、確実に。なんせ、《仲間》は東京各地に分散しているのだから。(オマケに、王蘭と神代のように日程が重なっている場合、一日に2〜3校の梯子もある)これは、はっきり言って、かかる労力も金も馬鹿にはできない。
しかも、龍麻には、自分の学校の文化祭の準備なんぞというモノもあるのだから、ここで無理をさせて、いざ多発する《突発的非常事態》において疲労の為になんぞ齟齬が生じようモノなら、本当に洒落にならない事態になってしまう。
と言うわけで、【緋月龍麻お大事同盟】としては龍麻の体調を鑑みて、『涙を飲んで龍麻を自校の文化祭に呼ばない。その代わり真神学園の文化祭に全員招待してもらう』という取り決めが通達されることとなったのだ。
唯一の例外は、近場の上に金もかからないであろう《マリィの中学の文化祭》のみである。
(いや、マリィのあの『マリィ、龍麻オニイチャンにマリィのお歌を聴いてもらいたいノ!。』というウルウルお目々の御願いに、僕も某女性も勝てなかっただけなんだが)
以上が、本人の前で大っぴらには言えないこちらの事情である。
【お大事同盟】男性サイド筆頭の僕としては、今日ここに龍麻がきてくれるのは、予想外で非常に喜ばしいんだが、他の仲間の手前、複雑な事態ではあるな、これは。
(うーん。自分で呼べない場合、関係ない部外者に招待してもらうという《裏技》は、なかなかの盲点だった。)
「大丈夫、私は、そちらの事情っていうのは、ちゃんと承知しているわ。」
なっっ?!・・・・・・。橘さん、僕は君に話した覚えは全くないんだが。
「だ・か・ら、私が如月君の代わりに招待したのよ。この文化祭の間だけとはいえ、私は貴方の【相棒】なんだから、文化祭実行委員のね。(ニヤ)」
たーちーばーなーさーん。やめてくれないかい、その【相棒】という表現は。
「・・・・・(汗)。だから、何で君がこの二人を呼ぶ必要があるんだい。」
「如月くんが、いつまでたっても私に紹介してくれないからよ、貴方の大事お大事な《噂の緋月君》をね。だったら自力更生するしかないじゃない。」
うっ、《噂の緋月君》って・・・・・(汗)。自力更生って・・・・・(汗)×2。
(いや、た、確かに人材不足に嘆いた橘さんの自力更生の結果、僕がこうやって文化祭実行委員なんてやってるんだから、その実行力が侮れないのはよぉーく知ってはいたが)
「僕は、君に龍麻のことを話した覚えなんてなかったはずだが・・・・。」
「あら、名前だけなら《あの時》に口走ってたじゃない、醍醐君と貴方自身が。」
そ、そういえば・・・・・・(回想)。
って、君は《あの状況》で、自己紹介もしていない醍醐君の名前ばかりか、会話に端にしか出てこなかった龍麻の名前にまでチェックを入れていたのかい?!!。
神経が図太いとか、度胸が据わっているとかいうレベルのじゃないぞ、これは。
「だからと言って・・・・・。(汗)」
「それに、或るスジから聞いた所によると、噂の《彼》って、眼福ぞろいの如月君の知り合いの中でも群を抜いた目に嬉しい容姿の持ち主で、更には、とっても私好みの《ツーショット》ができる《パートナー》っていうか、親友がいるっていうじゃないの。(指差し)そこの彼ね。」
「・・・・・・。」
たっ、確かに、龍麻は世間一般的にも、《少女漫画に出てくる麗しの中性的美少年》というレベルの目に嬉しい容姿の持ち主ではあるが・・・・・・・。
聞き捨てならないな、今の後半部分。君は、そこの木刀常時携帯猿男が好みのタイプなのかい?!。
(何か一瞬、かなり理不尽な憤りを感じたぞ)
「私好みの《ツーショット》って・・・・・・・・。」
「オマケに、《王蘭学園の氷の貴公子》に《茫洋とした春の陽気のような微笑》をさせることのできる唯一の人間だっていう話じゃない。これは是非ともお目にかかってみたいって思うのが人情っていうモノだわ。ましてや、私は今現在、この文化祭中の貴方の【相方】の《冷血女》なんだもの。断固として、貴方は私に彼等を紹介する義務が有るはずよ。」(キッパリ)
こ、《氷の貴公子》って・・・・。何時の間に《氷男》からランクアップしてたんだい?!。
言っておくが、君だって《冷血女》じゃなく《零下の女王》って呼ばれてるそうじゃないか。
(ところで、その《春の陽気〜云々〜》の表現。そこだけ聞いてると、まるで龍麻が件の童話の《ゲルダ》みたいに聞こえるんだが・・・・・・。僕は《カイ》かい?!)
「ぎっ、義務って・・・・・(汗)。」
絶対に、何か違う気がするんだが・・・・。
「もう、しょうがないわねえ。ほら、貴方があんまり聞き分けがないから、折角ご招待した二人が呆れてしまってるじゃない。」
っと、その橘さんの言葉に慌てて意識をそちらに向けると、(何故か)蓬莱寺の方は気の毒そうなというか、同病相憐れむという表情で、龍麻の方はいかにもワクワクというか、目をキラキラとさせた表情で此方の状況を見守っている。

「(ボソッ)アン子並みの女がこんな所にもいるとはなあ。世間ってのは、狭いっていうのか、広いっていうのか・・・・・・・。あのクソ亀にも勝てんおネーちゃんがいるのは驚きだぜ。」
こぉぉら、蓬莱寺。聞こえてるぞ!!。(が、悔しい事に言い返せん)
「なーんだ、やっぱり聞いてた通り二人共お似合いじゃないか。北区一くらいには《ラブラブ》だぞ、うん。(ワクワク)」
たーつーまーぁぁ(滝汗)。ご、誤解が深まってる。(今の会話の何処を聞いて、その表現が出て来るんだい?)
『なんだかんだ言っても、いいコンビだねえ。これは中々おもろいカップルじゃん♪。』
なっ、何だ?!。今の怪しげな声は????。
『あっ、ヤバヤバ(汗)。・・・・・・・・・(シーン)。』
????。僕には霊感なんぞ無いはずなんだが。何処かに誰ぞの【式神】でもいるのか?!。
(この間、醍醐君も『最近、やたらと空耳が聞こえるんだ』とボヤイていたな)

「さあ、如月翡翠君。今や貴方に残された道は唯一つ。さっさと此処で私に二人を紹介をして、その後自分の果たすべき職務を速やかに遂行することよ。確か、茶道部の野点の午後の部が、後10分で開始の筈だわ。」
たーちーばーなーさーん(汗)。君ねえ・・・・・・。

と、まるで追い討ちをかけるように、更に事態(というか、僕を)を混乱させる声がかかった。
もしかして、今日は僕にとっての《厄日》なんじゃないだろうか?。(折角の、龍麻が来てくれた《文化祭》なのに。認めたくない。断固として認めたくないぞ!)

「そうですわ。このような御様子、いつもの如月様らしくないと思います。」
「まあ、わいには、よくわからんけど。雛乃はんがそう言うんなら、そうなんやろ。」
ひ、雛乃さんに、腐れ関西弁しゃべり中国人!!。な、何故?!。

「ひっ、雛乃ちゃん?!。」
「うきゅっ?!、ユエ??。」
あっちの二人も驚いている。どうやら、龍麻達にも予想外の出来事だったらしい。
そう、何時の間にやら龍麻達の背後に立っていた二人連れは、かの織部巫女さん姉妹の片割れ、織部雛乃嬢と、最近に仲間になったばかりの怪しげな関西弁を操る謎の中国人留学生、劉 弦月なのである。
(僕に言わせれば、この劉という胡乱な男も気に食わないと言えば気に食わない。イカレた関西弁を操る上に、刀術仲間だか知らんが、こと龍麻に関する限りやたらと蓬莱寺を庇う。オマケに、何故か龍麻が《弟》として溺愛しているのだ。《前人未踏・不可侵聖域》の自宅に引っ張り込んで、手作りの晩餐を振舞ってしまうくらいには)
一体ぜんたい、どういう組み合わせなんだい??。
「ご無沙汰しております、龍麻様、蓬莱寺様。お二方ともお元気そうで何よりですわ。」
「よっ♪、アニキ、京一はん。」
「劉、お前、なんでこんな所に・・・・。オマケに雛乃ちゃんと・・・・・???。そりゃあ、この間《旧校舎》で『雛乃ちゃんが好みのタイプや!』と言ってたのは聞いたが。」
「ユエ、何時の間に雛乃ちゃんとそんなに仲良しになったんだ??。オレ、聞いてないぞ。」
「仲良しって・・・・・。いやあ、なんや、アニキ達ににそんな風に言われると恥ずかしいわ。ま、ちょっとしたキッカケなんやけどな。」
「先日、私がお祖父様の《お使い》でさる御方の所へお伺いいたしました時に、未熟にも不覚をとってしまいまして、劉様に危ない所をお助けいただいたのです。(筆者注:朧綺譚・《螺旋洞》第28問参照のこと)是非お礼をと思っておりましたら、折よく朱日様から本日の招待状を2枚いただきまして、私の方からお誘い申し上げたのです。」
「当たり前のことなんで、お礼なんて気にすることあらへんって言うたんやけど。折角の招待なのに一人で行くのも心細い言うことやったんでな。」
なるほど。って、心細い???。
「雛乃ちゃんが一人で・・・・・?。って、雪乃のヤツはどうしたんだよ。アイツが雛乃ちゃんを一人にしておくなんて、そうそうあるこっちゃねえだろ。」
「そうだよな。いつも二人で一緒にいるのに。うにゅ?。」
当然上がる疑問の声に、雛乃さんはあっさりと返答をする。
「姉様は、本日、雨紋様にお誘いをいただいて神代高校の文化祭へお出かけになられております。なんでも、是非とも《ライブ》を聞きに来ていただきたいとのことで・・・・・。実は私にもとお声をかけていただいたのですが、私、どうも雨紋様の得意となさる曲はあまり相性が良くないようなので、ご遠慮させていただきました。」
ゆ、雪乃さんとは・・・・。雨紋、お前、何時の間に?!。(それに、雛乃さん。相性が良くないのは雨紋の曲じゃなく、髪の毛じゃないのかい?)
「つうわけで、わいが代わりに今日一日雛乃はんの《ボディーガード》っていうわけや。」
「そんな、《ボディガード》だなんて・・・・。私、そのようなつもりは・・・・。(ポッ)」
「なるほどねえ。それにしても、雨紋ヤツ、意外な組み合わせだな。」
まったくだ。単なる《方陣技仲間》じゃなかったんだな。
「みゅみゅ。翡翠だけでなく、雨紋やユエまで。なんか最近みんな《ラブラブ》だなあ。オレ、どうしよう??。」
だーかーらー、違うんだ、龍麻。頼むから、そこに僕を入れないでくれ。(泣)

なんぞと、僕が惰弱な泣き言を言っている(あくまで、心中においてのみだが)間に、僕をツンボ桟敷においたまま更に事態は転がっていった。
何と言えば、この場を仕切っているのは、僕的に《侮れない一般人第2位》の座に先ほどついた人間、《王蘭学園の零下の女王》なのだ。(1位じゃないあたりが、僕の修行不足の証明かもしれない。まだまだ未熟者だ)

「いらっしゃい、雛乃さん。招待状がお役にたったようで良かったわ。そちらの彼と一緒に今日は楽しんでいってね♪。」
「まあ、朱日様。この度はお招きありがとうございます。久方ぶりにお目にかかれて嬉しゅうございますわ。・・・・・・あっ、ご紹介いたします、此方が中国からの留学生で、劉弦月様です。私の命の恩人で、あと、そちらの龍麻様の弟同然の方でもいらっしゃいますわ。」
「どうも、わい、劉弦月いいます。よろしゅうたのんますわ。」
「まあ♪、こちらこそ。私はこの王蘭学園の橘朱日。そこにいる如月君のクラスメイトで、この文化祭の間は一応【相棒】っていうことになっているわね。」
だーかーらー、その【相棒】という表現は止めてくれと、何度言ったらわかるんだい、橘さん!!。
「いかがでしたか?、朱日様。龍麻様と蓬莱寺様とお会いになって。是非ともご感想を伺いしたいですわ。」
「それがねえ、如月君がちゃんと紹介してくれないから、まだ顔を会わせただけなのよ。」
「まあ、如月様らしくない不手際ですわ。折角の朱日様のご尽力ですのに。」
「しょうがないわね、不意打ちと言えば不意打ちだし。でも、こうやって噂の二人の顔を見れただけでも良しとするわ。ほんと、聞いていた通りに目に嬉しいカップリングね♪。特に、木刀を持ってる彼。」
「でございましょう。ご同意をいただけて嬉しゅうございますわ。龍麻様はともかく、姉様方はイマヒトツ蓬莱寺様のことを正しくご評価下さらなくて・・・・。(嘆)」
「何故?!。こんなに私の理想的っていうか、ピッタリはまってる人間なんて、そういないわよ。」
「ですわよねえ。(ニッコリ)」
りっ、理想的ぃぃぃぃ?!!。こんなドスケベ木刀馬鹿猿が理想的・・・・・・・(汗)。
橘さん、君の趣味って一体???・・・・・・・・。何か、前葉頭部を鈍器で殴打されたようにショックだ。(世も末とは、この事だ)
って、この二人のやたらと親しげな様子。(いつのまに?!)まさか、橘さんの一連の情報源は、君なのかい?、雛乃さん!!。
「たっ、橘さん!!。」
「何?、如月君。素直に運命に殉じる気になったの?。」
「誰が何の運命に殉じるっていうんだい?!。そんなことじゃない。君達のその様子だと、どうやら、君のさっき言ってた《或るスジ》っていうのは、雛乃さんのようだが・・・・。」
「そうよ(アッサリ)。だって、如月君ってば、まぁーだ他人に秘密主義な所が抜けてないんだもの。自力更生の足がかりを作っておくのは当然の手配りってモノよ。まあ、雛乃さんとは、それだけの関係じゃあないんですけどね。」
「関係ぃ???。」
「そうですわ。朱日様は、私にとって得がたい方です。」
「《あの時》にね、ひょんなことから雛乃さんと私の共通の嗜好と言うか、お互いに同じモノを愛好してる、《同好の士》っていうのがわかってね。あれから会う機会はあんまり無くても、情報交換だけは頻繁にしてるのよ。」
「なんといっても、姉様はこちら方面については最初から興味薄でしたから。朱日様からは貴重な情報をいろいろとご提供いただきました。」
「私達みたいに、真っ直ぐにこの《道》に進んできた人間ってあんまりいないみたいでね。だいたい、もうこの年じゃ《卒業》しちゃってるか、でなきゃ、《あらぬ方向へ》邁進しちゃってるかだから。」
そういいながら、二人が揃って取り出したのは、俗に言う《少女向恋愛小説》。特にその方面において大家というか、第一人者といわれる作家《志守巳緒》の最新刊、『貴方に撫子の花束を・・・』であったのだ。
「うっ!!。(汗)」
「はあ??。(キョトン)」
「うげっっ!!。(ザアッ)」
「あっ♪。(ルン)」
『うわっ!!。』
つまり、朱日さんと雛乃さん。二人して、《少女恋愛小説愛好家》というわけなのかい。それも、主として純愛路線の。
いや、この場合のありがちな反応、《?》な顔でポカンとしている劉や、最近少女漫画に凝っているという龍麻の嬉しそうな顔(そう、これも醍醐君がボヤいていたのだ。しかも、その供給元がこともあろうに蓬莱寺で、毎日学校で本を交換しているという立派に怪談なオチかついてくる)は置いておいて、とある事情により、あまりそっち方面に係わり合いたくない僕の口元が引き攣ってしまうのは当然なのだが、こういう話にはおおよそ縁も所縁もさらには知識の欠片もなさそうな蓬莱寺が、顔面蒼白にして油汗を流しているというのは一体何故なのだろう?。
(また空耳が聞こえるし)
「わーい♪。それ、みさ・・・、ううん、《志守巳緒》さんの《貴方に花束をシリーズ》の最新刊だよね。オレも買ったよ。まだ読んでないけど。」
「まあ、龍麻様も志守先生がお好きなんですか?。」
「うーん。好きっていうか、《勉強》しようと思って最近読み始めたんだ。元々、姉様達は好きな話だったらしくて、実家にはその作家さんの本は全部揃ってるから、今、昔の話の分は少しずつこっちに送ってもらってる。だから、オレはまだちょっとしか話は知らないんだ。」
龍麻、べっ、《勉強》って・・・、一体何の??。しかも、全巻を実家から取り寄せ?!。(汗)
「あら、それじゃあ、突っ込んだ話はできないわね。ネタばれになっちゃたら申し訳ないもの。」
「そうですわね。全巻読破なさったら、是非ともご感想を伺いたいですわ。」
「うん♪。その時は、舞子ちゃんも混ぜて一緒に《お茶会》しようよ。舞子ちゃんも好きだって言ってたからさ、みさ・・・ううん、志守さんのお話。」
「まあ、高見沢様もですか?!。それは良い事を伺いました。是非とも参加させて下さいませ♪。」
「私もその話、のらせてちょうだい。ちなみに、私のオススメは《S&Lビートシリーズ》よ。なんといっても、主役のコンビが最高でね。緋月くんなら、絶対にハマルこと請け合いだから。なんせ、コンビの片割れの《シェル》ってば、そっくりだもの、そこの蓬莱寺君に。もう、理想的までにピッタリよ♪。」
橘さん、なんだ、《理想的》とは、そっちに関してなのかい。(ちょっとホッ)
「あら、朱日様。私は、《桜ヶ丘事件簿シリーズ》の方が・・・。あちらの《京》様も蓬莱寺様にたいそうよく似ておられますもの。まるでモデルにでもしたように・・・・。」
「そうなのか?。ならその二つから読み始めればいいのかなあ・・・・・。うーん。」
「なあ、アニキ、雛乃はん。わいにもようわかるように、話してくれへんか。」
「・・・・・。」
っと、ここまでで僕が思わず脱力してしまったとしても、きっと誰も責められまい。
(龍麻、君、自己紹介もすんでないのに、すっかり橘さんになじんでるね。流石というべきなんだろうか・・・・)
ちなみに、蓬莱寺はといえば、顔面蒼白を通り越して石化してしまっていた。
此処には、《人形》とかはいないはずだが・・・・・・・。不可解な奴だ。
(なんぞトラウマでもあるのか?)


そうして、この時点で盛り上がりきった女性陣+龍麻に対して僕ができたのは、運命に殉じるように今更な自己紹介の後、事態を混乱させている諸悪の根源、橘さんから引き離すべく、茶道部の《野点》に引き摺って行くことだった。

「おお、日本文化や!!。茶の湯や!!」
「劉様ったら・・・・・。(クスッ)」
「わーい♪、お茶、お茶。翡翠、今日のお茶菓子はぁ?。略式なら薄茶だろ。なら干菓子だよな。オレ、落雁だったら嬉しいなあ。」
「・・・・・・・。」
なんとか、気をそらせたようで良かった。(これ以上あの話題を聞いているのは、心臓に悪い)


余談であるが、その橘さんとの別れしなに、まるで話題を中断させた意趣返しとばかりに彼女が僕に耳打ちしたコメントは、件の龍麻の『オレと京一は《本州一のラブラブ》なんだ』石化攻撃を食らった時よりも僕を打ちのめすこととなった。

「なにか、あれねえ。緋月君と蓬莱寺君に対する如月君の態度って、友情を競うとか、男友達のじゃれあいとかいうよりは、大事お大事な溺愛の《妹》にチョッカイ出されて逆上している危ない《シスコン》のお兄さんって感じだわ。」
し、《シスコン》?!(汗)。
「ま、おかげでホモ臭く見えないから、それはそれで良かったみたいだけど。」
たーちーばーなーさーん(激汗)。君、僕に何か恨みでもあるのかい??。

『うわっ、此処にもまた侮れない女の人がいるよ。今日は本当に大丈夫なのかなあ。』
また、空耳が・・・・。

僕が一体何をしたっていうんだ!!。



 * 龍麻



 カコーンッ☆
王蘭学園の中庭。静まり返った茶道部の特設野点の席に、鹿おどしの音が響き渡る。
(さすが、私立王蘭学園。中庭にこんなものがあるとは)

あーあ、翡翠なんて目ん玉ひん剥いて硬直しちゃってるよ。
まあ、俺だって一瞬呆然としちゃったから、無理もないけどね。って言うか、俺達の知り合いで、この状況で驚かない人間はきっといないだろう、って言うくらいの異常事態だもん。
雛乃ちゃんだって、流石に平静ではいられないのか手がワナワナ震えちゃってる。
平然としてるのは、この事態を引き起こした当の本人の京一と、目の前で起こったことの意味が全然理解できてないユエと、こちらは我が家の特殊な家庭事情により、今起こった事が至極当たり前のことだと思い込まされてる姉さんだけだ。


本日は、王蘭学園の文化祭。
なんか、お祭り大好きなのに仲間内からの誰からも各校の文化祭に招待してもらえず、ちょっと沈んでいた姉さんは、翡翠の彼女らしい(と聞いている)人からの代理招待状を貰って、喜びいさんでやって来た。
場所が場所だけに初めは渋っていた京一も、「帰り道にまた池袋あたりでデートすればいいじゃん。これもチャンスだよ。」の俺の言葉に、アッサリと態度を豹変させて同行を承諾した。
それに関して、本日、京一と姉さん二人だけのご指名の招待だったことは、さっきのやり取りで何やら複雑な背景がありそうなことが判明したけど、まあ、俺と姉さんに実害がなさそうなので、詮索するのはやめておくことにしようっと。
(侮れなさそうな女の人には、あんまり近づかないに限る。これは今までの経験からの教訓だよ)
話題に上がった朱日さんと雛乃ちゃんの共通の趣味については、もう何をいわんやかやだ。
だって、深青さんの作品の内で純愛路線や友情路線が好きだなんて、今日びの女子高生にしては珍しい正統派だもん。あのくらいのレベルなら、俗に言う《ウォーターフロントのイベント》にはきっと行ってたりしてないだろうから、可愛いもんだよ。(朱日さん言う所の、《あらぬ方向へ邁進してる》人達はあの業界でも結構な規模になるらしい。なんせ、某大祭典で《志守巳緒》で単独ジャンルコードがあるって聞いてるもん)
ま、京一の精神衛生上には、イマイチ悪そうだけど、俺的には全然OK♪。
京一、話の途中で石化しちゃってたもんなあ。たかが《あの程度》で動揺してどうすんだか。
《あっちの世界》にはもっと《聞きたくない怖い話》なんてゴロゴロころがってるっていうのに。
(自分がモデルになってるキャラの《18禁やおいカップリング本》なんて見たら、世を儚んで失踪しちゃいそうだよねえ)
まあ、なんだね。そこで判明した雪乃ちゃん・雛乃ちゃん織部姉妹の只今の恋愛人間関係については、俺としてもちょっと意外なセンだったけどさ。
流石に正反対の双子。選んだ男性のタイプが全然違う。無理やり共通点を探すとしたら、やたらとノリがイイ人間っていう事と、あと何故か二人そろって年下ってとこかなあ。(つまり、姉妹揃って《年下趣味》が共通点ってこと?!)
まあ、よく考えてみれば、同じ双子の俺と姉さんでも、好きになった人間の共通点って、全然無いもんねえ。(もはや《血の呪い》のメンクイはおいておいて)あの二人に何か共通点ってあったかなあ?。せいぜい、薄い髪の毛の色くらいだよねえ。それだって微妙に違うし。(姉弟そろって《茶髪フェチ》っていうもの中々怖い)
って、それはおいておいて・・・・・。
そうして、なにか必死の形相の翡翠に引っ張ってこられた茶道部の野点の場、(当然、お茶菓子めあてに、姉さんがウカレていたのは言うまでもない)静かに設けられた茶席において、それはおこったのだ。

初めに、これは当然のように翡翠が見事な手つきで点前をみせ(そりゃ、茶道部の部長なんだもん、当然かな)正客に姉さんをおき、雛乃ちゃん、ユエ、京一の順番の席次になって(このごにおよんで、翡翠も大人気ない席次を組むよねえ)、干菓子、薄茶の順で茶事がすすんできて、まあ、当然のように姉さんも雛乃ちゃんも作法にのっとって静かにお茶を頂いた。(義母さんの厳しい教育により、姉さん、茶道は裏千家の名取りである)まあ、ユエも一生懸命姉さんと雛乃ちゃんのみようみまねでなんとかやり過ごしたところで、京一の順番になって・・・・・・・・。
いや、本来ならどーってことないことなんだろうけどね。ただ、京一がキチンと茶道においての末客の作法をこなして見せたってだけなんだから。
これがまた堂にいった手つきでねえ。菓子の器のかえしといい、茶巾代わりのハンカチの扱いといい(いくらなんでも茶巾や帛紗まで持ち歩いてたら怖いよ)、いわはんや、言われもしないのに、茶碗の拝見までやってのけたてるんだもん。
いや、マジで雛乃ちゃんよりも上手い。名取りの姉さんにも負けてないよ。(驚)
「どうした、二服目にいかねえのか?。(ニヤリ)」
「・・・・・・・(汗)。」
京一、翡翠ってば硬直がとけてないから、ちょっと無理だって。(わかっててやってるね。それって、普段の意趣返し?)
「そうだよな。どしたんだ、翡翠?。手が止まったまんまだぞ。まだお菓子あるし、オレももう一服はしたいんだけど。な、ユエもだろ。」
「まあ、もらえるいうんなら、わい、何杯でももらうけど。」
「・・・・・。」
姉さんてば、止めさしてるよ。翡翠にしてみれば、もう一回《あれ》を見せられるのは避けたいだろうに。(なんせ、ヘタをすれば京一ってば、翡翠より上手いかもしれないんだもん、茶道が)
「・・・・・・・ああ、すまないね、龍麻、不調法で。すぐ次を・・・・。」
そういって、慌てて次の一服を立て始める。なんとか体制を立て直したみたいだな、翡翠。
それにしても・・・・・・。
『京一ってば、どうしたの?。なんていうか、オレもコメントし辛いんだけど・・・。』
『ああ?、これか。さては、お前も俺が茶碗ガブ飲みするんだと思ってたクチだな。』
『まあ、その・・・・・・。(汗)』
そうなんだもん。って言うか、誰だって思うよ。
『しゃあねえな。武士の情けだ、これ以上突っ込まないでおいてやる。言っとくが、俺も客の方の作法しかできねえからな。』
『へえ、そうなの。にしても、客だけでもここまでできたら、立派だよ。』
『《門前の小僧〜》ってヤツだ。お袋の実家が京都でな。一応料亭をやってるらしいんだが。そこの爺がまた、これが好きで。5才かそこいらの時から、行くたんびに、離れの茶席に引っ張り込まれてた。』
『そりゃ、良かったね。』
『良いわけあるか!!。茶は苦えは、足は痺れるは。おまけに、ちゃんとできねえと菓子は取り上げられるは、柄杓でボコボコにされるは、できるまで正座させられるは。精神修行だかなんだか知らんが、んったくロクデモねえ。あのクソ爺!!。』
なあるほど。(それにしても、京都の料亭ねえ。あの新宿駅近辺にあるにしては結構大きい家といい、京一って、結構イイとこのお坊っちゃんなんだね)
『おかげで、これだけは死ぬ気で覚えざるおえなかった。場合によっては飯も抜かれたからな。』
確かに、それは京一にとっては死活問題だもんね。
『俺はてっきり、深青さんあたりが京一を騙くらかして仕込んでたのかと思ったよ。なんてったって、《ミヤコちゃん》だもんねえ、京一ってば。他にも何か隠し技とかありそうじゃん。』
『こぉぉの、ドアホ――!!。洒落にならねえこと言ってんじゃねえ!!(怒)。』
うーん。それにしても、京一の意外なスキル発見!。これを義母さんに報告したら、また京一のポイント上がっちゃうなあ。(うちの実家には、ちゃんと庭に別建ての茶室があるもん。義母さんも義父さんも結構好きだし)
本当に、婿養子街道最短距離を突っ走ってるよね。逃げられない、って言うか、逃がせないよ。

なんて、話しながらも、京一はさっき以上の見事な手つきで、亭主である翡翠に茶碗を返す。
あっ、翡翠ってば、とうとう茶釜ひっくり返しちゃったよ。火傷しなきゃいいけど・・・。


そうして、全く持って当たり前だが、ここでトラブルは打ち止めになんかなったりしなかった。
って言うか、東京に来てから日々グレードアップを続ける《厄介事ゴキブリホイホイ体質》の姉さんと、これまた日進月歩の進化を続ける《新宿一星の巡りの悪い男》の京一が揃っている以上、すんなりと事が治まるわけはないのだ。(こうやって振り返ってみると、姉さんと京一って、とんでもなく迷惑な《割れ鍋に閉じ蓋・無自覚バカップル》だよねえ。社会の平和の為に、ちょっと心配になってきちゃった)

まずは、茶道部の野点に続き、都内のコンクールでも結構優秀な成績を誇っているという華道部の展示スペースに通りかかったら、突如として出現したでっかいゴキブリにパニクった姉さんと雛乃ちゃんの為に(流石の姉さんも、ゴキブリとムカデは苦手なんだよ)、京一とユエが大暴走。折角の展示してあった綺麗な作品群を滅茶苦茶にしてしまうというトラブルを皮切りに、次から次へとまあ。(溜息)
とりあえず、その場は京一とユエに一回づつ鉄拳制裁を下し、「本当にすいません。オレが責任取って直します!」と大慌てで姉さんがその場の復旧にかかれば(姉さん、華道も名取りなんだよねえ。本当に徹底してるよ、義母さんの教育って)、30分後に出来上がった姉さんの作品群を見た華道部の人達が、自信喪失のあまり泣き伏しちゃうし。
何処からだか情報が回ったのか、この学園の空手部・柔道部・レスリング部・オマケに剣道部の人間に「是非とも手合わせを!!」とか言われて、追い掛け回されるし。(この際、逃げ切れずに2・3人程吹っ飛ばして、保健室送りにしちゃってたりして・・・・)
生物部に行けば、飼育されていたハムスターが大量に逃げ出して、一大捜索線に巻き込まれるし、美術部に行けば、何故か石膏像が将棋倒しになって迫ってくるし。(当然、像は全滅)
極めつけは、参考にと覗きに入ったお化け屋敷をやってるクラス(来週のうちの文化祭、3−Cはお化け屋敷をやるのだ)では、たまたま本当に出てきた怨霊(弱っちいヤツ)に、つい全員が揃って【技】を出しちゃったもんだから、そのクラスを展示物ごと壊滅させちゃうという大惨事になっちゃったもんなあ(とりあえず、人死には出なかったけど)。
そんで、止めに・・・・・。


「へ?!、代役ですか??。」
「そうなの。さっきのお化け屋敷壊滅に巻き込まれて、この子が怪我しちゃってねえ。」
呼び出しを受けてやってきた保健室で、足に包帯を巻かれて座っている女の子を俺達に紹介してくれたのは、さっきの事態を収拾してくれた(当然、今までのトラブルの後始末もしてくれているらしい)文化祭総実行委員長だという橘朱日さんだった。
まあ、本日の文化祭において図らずもあちこちでトラブルを巻き起こしているのが、自分が招待した人間+自分の【相方】(注:翡翠のことだよ)じゃあ、どんなに奔走するハメになっても誰にも文句を言いようが無いとは思うけど・・・・・。
本当にすいませんねえ、朱日さん。でも、俺達が好きで破壊活動をしているわけじゃないんです。そこんとこは、わかってくださいね。
って、そいういえば、今日の俺達が王蘭学園に与えた被害総額って、いくらになるんだろう?。真面目に考えると、ちょっと怖いかも。
流石に、いつもの戦闘の時みたいに知らん振りしてトンズラするわけにはいかないだろうから。これって、翡翠がもってくれるのかなあ?。(うーん。今回の請求書を俺達の方に送りつけられたら、精算するのに《旧校舎》何階潜るハメになることやら)
「この子、この後舞台に出なきゃいけないんだけど、これじゃあ無理なのよ。全治2週間の捻挫だそうだから。無理をさせて後遺症でも残ったら洒落にならないし。」
「そうだよなあ、ゴメンな、オレ達の所為で。」
「本当に申し訳ございませんでしたわ、朱日様。」
「ほんまに・・・・、つい反射的にやってしもうて。」
「まあ、その、なんだ・・・・。悪かった。」
流石に、一般人(カタギのひと)にこんな被害を与えたとなると、姉さん達も殊勝に頭を下げる。
あれでも、みんな比較的威力の低い【技】だったんだけどねえ。(ちなみに、一番被害を与えたのは、京一の【剣掌・発剄】だったりする。【掌底・発剄】や【鳴弦・草薙】とじゃ、威力は別にして有効範囲や吹き飛ばし範囲が違うんだ)
オマケに、モノが捻挫じゃあ、ユエに【活剄】で治療させるってわけにもいかないし。
「というわけで、この子の代役を早急に立てなきゃいけないわけなの。次の舞台って、一応我が校のメンツがかかってたりするんですって。なんせ、ゲストとして皇神学院から人を呼んじゃったらしいから。」
「あの皇神学院の方をですか?。まあ、それは困ったことですわ。」
「にゅにゅ、確かに他の学校の人にまで迷惑をかけるわけにはいかないもんなあ。」
なんか、どんどん大変そうな話になってっちゃうなあ(汗)。どうしよう。
「うちの学校の文科系部の人間って、どうもあそこの人達に妙な対抗意識をもってるみたいなの。系統が似てる所為らしいんだけど。困ったもんだわ。」
まあ、よくある話だね。真神の空手部だって、鎧扇寺っていう因縁のライバル校があるもん。
「特に華道部と日本舞踊部が激烈でねえ。この3年間、都内のあらゆるコンクールで優勝を争ってるんだけど、全敗してるとかで。これが煩いのなんのって。まあ華道部の方は、今日緋月君が鼻っ柱へし折ってプライドを粉微塵に粉砕してくれたから、暫くは大人しくなるでしょうけど。」
「うっ、・・・・・・・・す、すいません。(汗)」
あうううううう・・・。
あれは不可抗力だったんだけどなあ。単に京一とユエの大暴走の後始末をしただけで、人様の所の部活動を邪魔する気なんて、姉さんには欠片ったりともなかったんだから。
(大笑いなことに、一度どん底まで落ち込んだ王蘭学園の華道部員ご一同様は、その後、茶道部・日本舞踊部の皆様方と共に、またぞろ姉さんのシンパというか、追っかけとして復活を果たしたそうな。姉さんてば、まーたこんな所でいらんシンパなんぞ増やしてくれて・・・・。頭痛い)
「気にしないで緋月君。こっちとしては、あれはあれで鬱陶しかったから。むしろ静かになって助かったわ。それで、この子がもう一つの煩い連中の、つまり日本舞踊部の今回の《期待の星》ってわけなんだけど・・・・・。」
あのぉぉ・・・・(汗)。良いんですか、朱日さん。当の部員の前でそんな事言って。
「つまり代役って・・・・・・・・(汗)。」
「そう、この子の舞台の代役ってわけ。緋月君には、代わりにこの後の舞台で日舞を踊って欲しいのよ。それも、ゲストの皇神の人と一緒に《二人舞》を。緋月君、踊れるんでしょ、日本舞踊。」
「えっ、えーっと・・・・・、はい、一応は。」
ちょ、ちょっと、姉さん・・・・。(汗)
「あっ、やっぱり。だと思ったのよ、きっと。だって、茶道ができて、華道もあれだけできるってことは、日本舞踊だって絶対にイケルはずだもの。緋月君なら、サマになるしねぇ。」
「にゅにゅぅ、サマになるかどうかは解らないけど、ちゃんと責任はとらなきゃいけないから、オレの出来る限りは頑張ります。」
「有難う、緋月君。本当に貴方良い人だわ。」(ヒシッ)
はううううううううううう(汗)。ね、姉さん、いくら朱日さんに罪悪感があるからっていって、なにもそんな馬鹿正直に答えなくても。
あのねえ、姉さん。わかってるとは思うけど、姉さんは世間様では【龍麻】っていう男子高校生として認識されてるんだよ。(って言うか、させるようにしてるんだからね)自分だって、女扱いやオカマ呼ばわりした人間を片っ端から殴り倒して歩いてるくせに、おかしいと思わないの?!。「オレは男だぁぁ!!」って日々強行に主張して歩いてる人間の特技が《お茶に、お花に、日舞なんです》なんて。
って、思うわけないか。(溜息)
そうだよなあ、姉さん、義母さん達に騙くらかされて、「緋月の家に生まれた男子たる者、これぐらいはできて当たり前。」って言われて続けて家事と各種習い事を叩き込まれてるんだもん。
(よって、京一が茶道に精通してても、姉さんにとっては至極当たり前の事なのだ)
ううううううううう、《特殊事情》に通じてる京一やユエはいいとしても、翡翠や雛乃ちゃんとか、どうしよう??。絶対に、不審がられるよ。妖しい以外の何者でもない。
実際、此処に同席しているにもかかわらず今までの会話に一切口を挟めなたった翡翠は(翡翠って、本当に朱日さんに弱いんだね。まあ、自分もトラブルの片棒担いでる形になってるから、後始末に奔走してくれた朱日さんに口答えなんて出来ないだろうけど)、《何てコメントしたらいいかわからないけど、絶対に何か変だ!》って顔で、姉さんを見ている。
(ちなみに、京一とユエはもうコメントを差し挟む気力もないらしい。隅っこで小さくなってる)
「それじゃあ、急いで着替えてくれる、あんまり時間がないから。それから、えーっと、演目はこれなんだけど、大丈夫?。」
「あ、それなら割と簡単なヤツだから、大丈夫。着付けも慣れてるから、着物も一人で着れる。控え室だけ貸してもらっていいかな?。」
「OK。小物と一緒に至急用意させるわ。」
って、ねーえーさーん(油汗)。あのねえ、何処の世の中に女物の小袖を着慣れてる男子高校生がいるのさ!!。
本当にこれっぽっちもわかってない。この考えなしのお間抜け者ぉぉぉぉ。(怒)

なんていってる間にも、あっという間に準備は整えられ、姉さんは「やはりお手伝いさせてくださいませ」と言う雛乃ちゃんの申し出を丁寧に断り、提供してもらった控え室で一人でとっとと着付けを始めた。
『ちょっと、姉さん。本当にやる気なの?。』
「だって、仕方が無いだろ。怪我人出しちゃったのはオレ達の所為なんだから、これ以上朱日さんに迷惑かけるわけにもいかないじゃないか。このままトンズラしたら、翡翠だって後々の学園生活に支障がでるぞ。」
『って言ったって、まーた他人様の部活動の邪魔をするハメになるんだよ。絶対に華道部の時の二の舞になるからね。』
そりゃ、姉さんが代役に立てば対外的な皇神学園に対する王蘭学園のメンツは保てるだろうけど、校内的に日本舞踊部のメンツが丸潰れになっちゃうんじゃないだろうか?。
なんせ、姉さん、(当然、日舞だって名取りだが)習得したお茶、お花、日舞の各種技能の中で、いっちゃん得意としているのは主に体を動かすこの日舞なのだ。
どっちかって言うと得意な方じゃなかった華道で《あの始末》だったんだから、(王蘭の部員様方のレベルがどうだか知らないけど)こっちの方だって、朱日さんじゃないけど日本舞踊部の皆様方の鼻っ柱へし折ってプライドを粉微塵に粉砕しちゃうハメになること請け合いだよ、きっと。自信喪失のあまり「もう二度と踊れません!」なんて人が出ちゃったら、どうするのさ。
(まさか、朱日さん。それも狙って姉さんに代役を振ってきたんじゃないだろうね。鬱陶しいって言ってたし。うーん)
「こうなったら、一度も二度も同じだ。この際、朱日さんと翡翠のメンツが保てればそれで良しとする。その他の非難は甘んじてオレが受ければいいんだから。」
いや、非難されるんじゃなく、姉さんが賞賛されちゃうのが問題なんだけど・・・・。
と、着付けが終わった姉さんは、おもむろにいつもしている黒い指なしの【手袋】をはずすと、さっきこっそりと保健室から取ってきた包帯を、はずした手に巻き始める。
『姉さん?!。【術具】はずしちゃってどうすんのさ?。目晦ましが効かなくなるよ。』
「アホ!。こんな妖しげな手袋したまま舞台で踊れるか!!。扇とか持たなきゃいけないんだぞ。これでなんとか誤魔化すしかないだろうが。流石に、お前の本体を晒して歩くわけにはいかないんだから。だから、お前、邪魔だからユエの所にでも行ってろ。」
って言ったってねえ。もうすぐ、夕方なのに。
それにしても、言うに事欠いて邪魔だぁぁ。オマケに、いつもの京一の所じゃなくユエの所へなんて、まーた俺と京一のこと疑ってるね。ムカツク!!。
いい加減に、俺と京一の間を邪推して嫉妬するの止めて欲しいんだけど。(こっちは、その姉さんと京一をくっつけようと躍起になってるっていうのに。何が悲しゅうて、その当の相手の親友との仲を疑われなきゃならないんだ!。情けなくて涙が出るよ)
「やるとなったら、徹底的にやる。後の事は舞台が終わったら考える。」
そう言いながら、今度は後ろで髪をくくっていた黒いゴムをはずすと、何処に持っていたのか、こないだ京一から貰った《三度目の正直》の水色のリボンで髪を結わきなおす。
それも徹底的の一環なわけ?。
『わかりましたよ。またしても出たとこ勝負なんだね。(溜息)』
あーあ、こりゃ京一達と相談して、フォローの為の前後策を考えておかなきゃいけないな。
今日は、このまま無事に終わるんだろうか?。絶対にもう一波乱はありそうな気がする。
注意っていうか、いざという時の覚悟を決めておいた方がいいかもしんない。


それにしても、この妖しい以外の何者でもない姉さんの各種の所業に全くと言って動じず、どころか、万全の手配りをしてのける朱日さんって、本当に侮れない人だよねえ。
神経が図太いとか、度胸が据わってるってレベルじゃないよ。(流石に、うちの義母さんや、深青さんには負けてるみたいだけど)
翡翠って、よくこんな怖い人を彼女にする気になったよなあ。これも愛ってヤツなのかなあ?。俺、ちょっと尊敬しちゃう。



 * 京一



 舞台の上で《天女》が舞っている。
あそこにいるのは、羽衣なんかなくっても俺の《天女》だ。
いや、いっそ羽衣なんて無い方が良い。そうしたら決して天に帰ってしまったりはしないから。
ずっと、俺の傍に留めておけるから・・・・・・・・・。


「ああああ。ひーちゃん、激烈に綺麗だぜ。流石だよなあ。」
舞台の上で曲に合わせて、着物姿のひーちゃんが舞っている。
いや、俺にとっての《女神様》なのは変わらないが、こないだ諸羽の言ってた《夢幻天女様》っていうフレーズも納得できちまう艶姿だぜ。
『京一ってば、相変わらず頭と五感のすべてが腐れてるね。』
ええい!、いちいち頭の上でやかましいわ、この不感症のビー玉愚弟!!。
実際、傍でどこぞの学校からのゲストとかいうオネーチャンが一緒に踊ってるが、はっきり言って、門外漢の俺から見たって今のひーちゃんとは比べ物にならねえぞ。見栄えといい、優雅さといい、引立て役にすらなっとらん。
だいたい、ちょっと周りを見回したって、雛乃ちゃんや劉は言うに及ばず、ここいらの席の奴等はみんな揃ってひーちゃんの方に見惚れてるんだぞ。
いやあ、あの朱日さんとかいったっけ、あの腐れ亀忍者の彼女にしては、ずいぶんとよく出来たオネーチャンでな(雛乃ちゃんとの共通だとかいう《あの趣味》だけは、絶対に勘弁して欲しいシロモノだが)。しっかりと、俺達に最前列の席を確保してくれたんだよ。
おかげで、ひーちゃんの踊りながらの無意識の流し目までよく見える。(ついでに、俺がこないだ贈ったリボンまではっきりと。う、嬉しい)
「本当に、うっとりするほど綺麗だぜ。」
『煩いのは、京一の方だよ。さっきから何度も何度も。そんなわかりきったことにイチイチ感心なんてしてないで、よく注意しててよね。何が起こるか解らないんだから。』
ふん、わかってるよ。このひーちゃんの華麗な舞台を邪魔するモノは、この蓬莱寺京一様が何人たりとも許さん!!。
『いや、それはちょっと注意の方向が違うんだけど・・・・(汗)。』
それにしても、ひーちゃんが無意識領域で無茶苦茶女の子らしいのは知ってたけど、今日のはなんつーか、予想を上回る凄さだったよなあ。
もともと、茶道についてはかなりできる方だっていうのは聞いてたけど、更に華道に日舞もだときたもんだ。しかも、本職の部員のオネーチャン達が揃って茫然自失・自信喪失に追い込まれちまう腕前なんだぜ。(さっき日舞の部員のヤツらに「実力を見せろ!」とか言われて試しにちょろっと踊ってみせたら、全員へたり込んじまってたからなあ)
それにしても毎度のことの疑問だが、【男】として育ててる娘にこれだけの技能を教え込んじまうひーちゃんちの家族って一体??。
『緋月の家の謳い文句は、《何時でも何処でも、素敵なお嫁さん・お婿さん》だからねえ。うちの人間にとっては、家事・育児に加えて、茶道・華道・日舞は必須技能なんだよ。』
必須技能ぉぉぉ?!。それって、野郎もなのか?。
『そっ。義母さん曰く「茶道は精神修行の為、華道は自然に根ざした美的感覚を養う為、日舞は《舞は武に通ず》で、武道を志す者は嗜んでおくべきです」だそうだから。』
あ――、確かに言ってる事は間違いはねえんだけど・・・・・(汗)。
なるほど、ひーちゃんのあの戦闘時のやたらと綺麗な流れるような動作(正しく舞うようなって感じなんだ)はそこから来てるわけか。
それにしたって、《特技は、お茶にお花に日舞です》ときたら、思わず俺の頭の中に《ひーちゃんてば、理想的な大和撫子じゃねえか》なんて考えがよぎっちまっても、罪はねえよなあ。
今日もまた、惚れ直しちまったぞ、うん。
『アホ草ぁ。これも毎度毎度いってるけど、俺にノロケてないで直接本人に言ってやってよ。』
だーかーらぁぁぁ、それが簡単にできてたら、今ごろこんな苦労はしとらんわ!!。
(どういう訳だか、毎度毎度邪魔が入るんだよ。本当に呪われてるんじゃないだろうか?)
『でも半分は、京一の自業自得でしょ。』
だうううううう(泣)。忘れていたい事実をさらっと言うな!!。

なんてタマのヤツと馬鹿話をしてたら、曲がいつのまにか終わってる。
そして、満場の拍手の内にひーちゃんの相方を務めていたゲストのオネーチャンが舞台から下がって行き・・・・。

って、何で二曲目がはじまってるんだよ?。日舞にアンコールがあるなんて聞いたことねえぞ。
一方、此方も一瞬戸惑ったひーちゃんだが、流石に曲を無視するわけにはいかないのかさっきとは違う曲に合わせて、先ほどに劣らぬ流麗な動作で一人で舞はじめる。
おい?!、これってどうなってるんだ???。

『ヤバイよ、これぇぇ!!!。』
って、タマ、今度はなんだ?!。
『この曲、結構長い曲なんだよ。このままじゃ曲が終わる前に日が沈んじゃうよぉぉ。姉さん、今、手袋してないのにぃぃぃ。』
って、そういえばひーちゃんの左手は、いつもの手袋じゃなく白い包帯に包まれていたっけ。
つーことは・・・・・・・・。
『・・・・目晦ましが使えない。』
それって、ヤバイなんてもんじゃねえじゃねえか!!。このまま踊りつづけてたら、日が沈んだ瞬間に、舞台の上で《ひーちゃん》が《龍那》に変わっちまう。つまり、この大観衆の目の前で《性別不詳の美少年》がいなくなり、代わりに人類の限界に挑戦した艶麗さの《絶世の美女》が出現するという誤魔化しようがない事態になるってことで・・・・・・。
あの根性曲がり亀忍者だけではなく、ここにいる王蘭学園の生徒にまでひーちゃんの《特殊事情》がバレちまうってことかよ。冗談じゃねえぞ、おい!!。
『あああああああああああ、やっぱりロクデモない事が起こっちゃったよぉぉぉぉ。(泣)』
ドアホ―――ぉぉぉ。泣き言いってる暇があるんだったら、何とか誤魔化す方法を考えろ!!。
お前からこういう時の悪知恵をとったら、何が残るっていうんだ。ええ、頭脳労働しかできないオマケのタマっころ!!。
『(ムカッ)このごに及んでそう言うこと言うわけ、脳味噌マッスルな肉体労働専門木刀男の分際で。いいよ、なんとかしようじゃん。その代わり、後はどうなったたって知らないからね。』
誰が脳味噌マッスルだ、誰が!!。後の事なんて、誤魔化しきれたらその時考えりゃいいんだ。
『こっちも出たとこ勝負なわけね。本当に《割れ鍋に閉じ蓋カップル》っていうか、流石【相棒】だよねえ。(溜息)』
悪かったな、まだ【相棒】だけで。(くそぉぉ、近い内に必ず【相棒兼恋人】にランクアップしてやるからな!!)
『ま、その後のことはとりあえずおいておいて、今はさっさと行動を起こす。っと、ユエ!!、聞いてる?。』
『なんや?、タマはん。折角アネキの綺麗なとこ堪能してるのに、何ぞまた厄介事かいな?。』
『ユエ、君にまで京一の腐れ具合が伝染してるの?。まあいいけどさ。そう、本日最大の厄介事が発生しちゃったんだよ。だから、急いで対応しないといけないんだ。悪いんだけど、そっと出て行って、控え室にある姉さんの着がえ一式を確保してきてくれる?。』
『きっ、着がえって・・・・・。(汗)』
『その中に姉さんの目晦まし用の【術具】も入ってるから。・・・・って言えば、どんだけ厄介かわかってくれるよね。』
『あの【手袋】かいな。・・・・・って、もうすぐ日暮れやないか。そりゃ、ごっつう厄介やな。わかったで、ほな行ってくるわ。』
そう言って、劉のヤツはさっさと気配を消すとあっという間に、その場からいなくなった。
うーん、あいかわらずイマイチよく解らないが、便利なヤツ。
『京一は、俺が合図したら姉さんの身柄を確保してここからトンズラしちゃってくれる?。そんで、誰もいない所に二人で隠れてて。すぐにユエと合流できるようにするから。』
そりゃかまわねえけど、その確保目標人物が全館の注目を集めてるこの状態で、どうやってあの舞台の上からひーちゃんをテイクアウトするんだよ?。そっちの方がヤバくねえか。
『ふふん、そんなこと。大丈夫、みんなが姉さんに見惚れてなんかいられないような騒ぎを起こしちゃえばいいんだもん。この程度なら翡翠がなんとか後始末をしてくれると思うし。んじゃあ、いくよ!。カウントダウン開始。5・4・3・・・。』
おい?!、ちょっと待て。そんなすぐに・・・・・・・。
『・2・1・・・GO!!!。』

 ジリリリリリリリリィィィィ☆

タマの強引な合図に俺が席から立ち上がるのと同時に、講堂内に凄まじいベルの音が響き渡り、そしてなんと頭上からスコールのような勢いの水が降り注いできやがった。
当然、講堂内は全館大パニックの坩堝と化す。
タマ、あんにゃろう、火災報知機とスプリンクラーを誤作動させやがったな。(毎度毎度思うが、便利なヤツだよな、コイツ)
俺は慌てて一足飛びにに舞台の上に飛び上がると、
「ひーちゃん、非常事態だ!!。」
「えっ?!、きょ、京一???。」
と、着物姿で動きにくいであろうひーちゃんを抱えあげ(当然、お姫様ダッコだぜ)、そのままの勢いでその場から遁走した。

なんつーか、今日の俺達って、《王蘭学園の文化祭を壊滅させる為に、真神学園から送り込まれた破壊工作員》って言われても仕方が無いようなことやっちまってるよなあ。
あの腐れ守銭奴忍者野郎のメンツがどれだけ潰れ様と心は痛まんが、他の一般人の生徒にゃ悪いことしちまったぜ。本当に悪かったな。謝ってすむこっちゃないとは思うけど・・・。


「くしゅん!!。」
「あっ、わりい。大丈夫か?、ひーちゃん。」
なんとか人気のない所を探し出した俺達は、誰にも見つからないようにそっと建物の影に潜り込んだ。(これはたいして手間はかからなかった。タマのヤツ、スプリンクラーは講堂内だけだが、火災報知機は全校にわたって誤作動させたらしい。校内全域パニック状態になってやんの。本当に抜け目のないヤツ)
うーん、よく見たら俺達二人とも全身濡れ鼠になっちまってるじゃねえか。そりゃ、この季節にさっきの格好のまんまじゃあ、ちょっとばっかし肌寒いよなあ。
「うん、平気。ちょっと待っててくれ。着物汚したら不味いから、とりあえず脱いじゃうから。」
「って、これ以上薄着になってどうすんだよ。劉のヤツが着がえ持ってくるまで待ってればいいじゃねえか。」
「駄目だ。このままじゃ皺になる。それに・・・・・・・これじゃあ、胸がキツイんだ。」
はううううううううう(汗)。いつのまにやら、ひーちゃん既に《夜間・絶世の美女バージョン》になってる。
そりゃ、胸の無い状態で着た着物が、今の《激烈ナイスバディ》なひーちゃんにはキツクなるのはわかるけど、頼むから、そんなとこで脱ぐのはちょっと待ってくれ!!。(俺の理性が・・・)
 シュルリッ☆
だが、そんな内心焦りまくってる俺には問答無用で、ひーちゃんはさっさと帯を解いて着物の上を脱いじまった。(そんで、帯も着物もこれまた手際よく綺麗にたたんでんだ)
 ゴクリッ☆
「どうした?、京一。寒いのか?。」
「・・・・・・・・。」
いや、寒いどころか、一気に体が熱くなっちまったよ、ひーちゃん。
あ――――あ、ひーちゃん、いや、龍那。きっとそうだと思うけど、今の自分の格好がどんだけヤラシげっていうか、エッチ臭いのかわかってないだろ。
肌襦袢一枚なんだぞ!!、それも濡れて体に張り付いて、あちこち透けまくってる。(胸のあたりなんかバッチリ透けて見えてるんだ)
オマケに、胸元とか足のあたりとかが思いっきり着崩れてて、豊かな胸の谷間といい、黄昏に白く浮かび上がる極上の脚線美といい、もうチラリズムの極地!って感じで・・・・。
だあああああああ、龍那。お前の魅力はよーくわかってるから、これ以上はないっていうくらい思い知ってるから、後生だから他所様の校内で俺の自制心の鼻っ柱をへし折って、理性を粉微塵に粉砕するのを企むのはヤメテくれ!!。
「京一??、うにゅ??。」
「・・・・・。」
あうううううう(滝汗)。そんな角度で見上げられたら、胸の谷間が更に・・・・・・。
「やっぱり、寒いのか?。手が震えてるぞ。・・・うーん、そうだよな、オレもちょっと肌寒いし。うん。・・・・・ふみゅ♪。」
 ぱふっ、スリスリィ☆
「×○■☆@××△◎★××!!!」
ああああ、そんな駄目押しの、威力倍増・必殺の《抱きついてほっぺスリスリ攻撃》まで・・・。
「こうやってれば、暖かいよな。にゅにゅ。きょーいちって、あったかい。」
 更に、スリスリ☆
クッ、クリティカル★。防御点無視のダメージ1.5倍。
自制心はとっくの昔に撤退完了。俺の理性のHPはレッドゾーンに突入だ!!
「・・・・・・りゅ、龍那!!。」
ええい!!。例えここが他所様の学校だろうが構うもんか!!。どうせ今なら誰も見とらん!。
俺の理性に【底力】は発動しないんだよ、こと龍那に関する限りはな!。
俺は、力いっぱい龍那を抱きしめ返すと、そのまま唇を奪う。
「京一?!。・・・・・ん・・・・・。」
そのまま啄ばむように口付けを繰り返し、抱きしめたそのしなやかな体から抵抗が無いのをいいことに片手を背中を辿るように、胸へと移動させ・・・・・。
 むにっ☆。
「!!」
あっ、やっぱりイイ感触♪。濡れてる肌襦袢の感触がこれまたヤラシげだよなあ。
「ちょっ(汗)、・・・・きょっ、京一ぃぃぃ??!!。」
流石に驚いた顔をしてる龍那の額に、頬に、そして唇にもう一回掠めるようにキスをして、
「折角だから、もっと暖まって気持ちイイ事ことしようぜ、龍那。」
ほんのちょっぴりと生き残ってる理性が『順番間違ってるぞ!。場所もわきまえろ!。』と必死に訴えているが、今の俺には頭を素通りするだけだ。
「うきゅ???。」
「だって、俺は・・・・・・。」
そのまま一気に勝負を決めちまおうとした時に・・・・・・・。

「うぉっほん。(怒)」

って、まるで邪魔するように聞こえた、やたらとわざとらしい咳払いと背中に、走った凄まじい殺気に思わず台詞を中断させて背後を振り返ってみると・・・・・、

「人様の学校、それもよりによってうちの部室の影で、なぁ――にを不埒なことをやっとるか、このドスケベ木刀赤毛猿が!!。」
こめかみに巨大な米印を浮かばせて、既に忍者刀を構えている根性ひねこびた腐れ亀が立っているじゃねえか。
「うげっ!!。」
「うきゅ、ひ、翡翠ぃぃ!!!」
こ、これは無茶苦茶ヤバイ状況じゃあ・・・・・・・。
と、慌てて周囲を見回したら、怒り心頭という亀忍者の背後には、止めとばかりに見知った人間達もいつのまにかやってきているじゃねえか、おい!。

『ゴメーン、京一、姉さん。なんとかならなかったみたい。バレちゃった(テヘッ)。』
「すまんなあ、アネキ、京一はん。わいが見つかってしもうて。」
悪気なんて全くありませんって顔のタマと、それを頭の上に乗っけてすまなさそうに頭を下げてる劉。そして・・・・・・、
「複雑な事情持ちの美貌の男装の麗人。ホモの疑惑を省みずにそれを助ける内緒の恋人。それをフォローする可愛い弟達。美味しい、美味しすぎるわ。なんて素敵な話なの♪。こんなよく出来た話、志守先生の作品にだってそうそうないわよ。マジでうっとりだわ。」
「本当にそうですわ。こんな素敵なお話、いくら事情があったとはいえ、黙っていらっしゃるなんて、私悲しいですわ。龍麻様、劉様。言って下さればいくらでもご協力いたしましたのに。」
目をキラキラさせた朱日さんとやらと、こちらは目をウルウルさせた雛乃ちゃんだった。

あ―――――(滝汗)。この状況で俺にどうしろと・・・・。
(えーっと、朱日さん。言いたくないが、志守巳緒の次の新刊はその《事情持ちの男装の麗人とそれを助ける恋人》の話だよ。しかも、シリーズ化するっていってたし。頭痛え)
俺とひーちゃんがそろって茫然自失のあまり硬直しちまっても、仕方が無いよな。

「ええい!。さっさとその不埒な手を龍麻から離さんかぁぁぁぁぁ!!!!!。」
って、おい、この逆上亀、こんな所で【玄武変】なんてするんじゃねえ。
ヤバイ!!、反撃を・・・・・って、しまった。木刀、さっきひーちゃん抱き締める時に落としちまってたんだぁぁぁぁ。(焦)

「この慮外者が、天誅だ。飛水流奥義、【瀧遡刃】――――ンンン!!!!!。」
この状況で奥義をだすなぁぁぁぁぁ!!

 ちゅっどぉぉぉぉ――――ん★。

「どわぁぁぁぁぁぁ―――――――ぁぁぁぁ!!!!!。」
「きょっ、京一ぃぃぃぃぃ。」
阿鼻叫喚★。
それでも、ひーちゃんに被害の行かないようにする当たりは認めてやるぜ、亀野郎。(ガクッ)


そうして、薄れ行く意識の向こうで、これまた背筋に悪寒が走るような会話が聞こえてきた。
『え――っと(汗)、これの後始末も御願いしてもいいのかなあ、朱日さん。』
「任せて頂戴♪。もうこうなったら面倒臭いから、タマくん、校庭の方のスプリンクラーも作動させちゃって。その方が後腐れがなくていいわ。」
『いっ、イイんですか?、そこまでしちゃって・・・・。(汗)』
「いいのよ。景気よくやっちゃって。どうせもう収拾つかない事態だから。まとめてウヤムヤにしちゃうわ。被害総額は如月君の方に全部請求書回すようにするから。」
『えーっと・・・・・・・(油汗)。』
「東京に起こった《水害》なら、如月君の管轄だものねえ。」
そ、そうなのか?!。

うわっ、あのタマのヤツが油汗流してるよ。
このオネ―チャン、本当に侮れない侮れないオネーチャンだな。(それでも、うちのお袋やあの腐れ変態姉貴にゃ負けるが)
ちょっとだけ(ほんのちょっとだけ)、根性曲がり亀忍者に同情しちまったぜ。
なんせ、ひーちゃんの方ははトンでもなくに綺麗で激烈に可愛くて素直で優しくて、裏表なんて無い上に、(無意識の)サービス精神満点だもんな。

『やっぱり、京一の頭が一番腐れてるね。』
ええい、煩い!。この朴念仁のタマっころ!!。腐れて発酵してチーズになって青カビが湧いてきたって、俺はひーちゃんの為なら本望だ!。
其処までで、本格的に俺の意識は闇に沈んでいった。



 * 翡翠



 そして、認めたくない事実は無限増殖する。


「なあ、翡翠。もう京一達のことを怒んないでやってくれ。みんなに知られるのが怖くて、黙っててくれって頼んだのオレなんだ。京一達はなんにも悪くないんだ。(グスッ)」
さっきから半ベソ状態で、一生懸命に弁解してくるのは龍麻だ。
ああああ、そんな顔で訴えられたら、僕の方がトンでもない悪人のような気分になってしまうじゃないか。
「さっきのも翡翠の誤解だ。オレが濡れてて寒がったから、京一が暖めてくれようとしたんだ。先に抱きついたのオレなんだ。京一は悪くないんだ。だから・・・・だから・・・・。(エグエグ)」
嘘だ。龍麻にとってはそうかもしれないが、あのドスケベ木刀男の方は、絶対に不埒な行為に及ぼうとしていたぞ。でなきゃ、暖めるだけなのにキスを何度もしたり、胸に手をもっていく必要がどこにある!!。
だああああああ、思い出したら、また腹が立ってきた。
やはり、龍麻の為にはあの男の止めはキッチリ刺しておいた方がイイのかもしれん。
「大丈夫ですわ、龍麻様。如月様はもうわかって下さっていらっしゃいます。」
「雛乃ちゃん・・・・・。ゴメンね、オレ・・・・。」
「仕方が無いことですもの。そんなにお気になさることはありません。事情の方はもうタマ様や劉様から伺いましたから・・・・・・。本当にもう大丈夫ですわよねえ、如月様。」
「うにゅ?。翡翠ぃぃ?。」
はうううううう(汗)。そんな雛乃さんとダブルで《必殺・じーっと見つめちゃうぞ攻撃》なんかされたら、僕に抵抗できるわけが無いじゃないか。
しかも、そんな極めつけに眼の毒な格好で・・・・・・。
「わかった。もう、わかったから、龍麻。」
いや、この【龍麻】という呼び方も既に正しくないのかもしれないが。
「だから、龍麻。頼むから、早く着がえてくれ。」
本当に心臓に悪いんだ、その格好は。(胸元が非常にヤバイ)
「・・・・・・・うん。有難う、翡翠♪。」
止めの《全開笑顔攻撃》☆。
龍麻、・・・・・君は本当に罪な人だ。


いや、本当にさっきまで頭の中がグルグル状態だったんだ。

本日、文化祭を回っている間、いつにも増して挙動不審が目立った龍麻&その他オマケ共だが(何といっても、茶道以外にも華道に日舞だからな。ちなみに野点の席の蓬莱寺に関しては、もう忘れることにした。あれは無かった事なのだ)橘さんのちょっとしたお茶目な《日舞のアンコール》の時に、それがピークに達した。
突然の火災報知機とスプリンクラーの暴走の果てに、蓬莱寺に舞台の上から強引にテイクアウトされた龍麻を追いかければ、これまた不審人物の劉と、なんとミニチュアな龍麻を発見!。
パニクリながらも、二人を問い詰めながら更に追跡を続行したら、ぶち当たったのは、こともあろうに女性化した龍麻(しかも、これ以上はないというくらいの常識外れの美貌の)と蓬莱寺のまさしく濡れ場というか、ラブシーンだったんだから(ああ、これも認めたくないぞ、絶対に)、僕が思わず暫くの間意識を飛ばしていたとしても、誰も責められまい。
そうして、今度は僕を追いかけて来たという(気付かなかったんだ。不覚!!)橘さんと雛乃さんの乱入による、《緋月龍麻の特殊事情説明会》の果てに、僕がブチ切れたというわけなのだ。

『あのねえ、翡翠。本人達が気付いてないだけで、あの二人はあれで立派な両想いなんだ。頼むから、これ以上邪魔しないでね。馬に蹴られるの嫌でしょ。』
という、ミニ龍麻(通称はタマというらしい)の言葉や、
「なあ、如月はん、あんま詳しく言えないんやけど、二人の邪魔するのって、ごっつうヤバイ事になるんや。申し訳ないんやけど、心静かに見守ってくれへんか。」
なんぞという劉の言葉は、本当に聞かなかったことにしたい。
ましてや、止めの言葉、
『これも本人知らないけどね、京一ってば、もう実家の義母さんの大のお気に入りになっちゃってるんだよ。我が家の婿養子街道最短距離爆進中なんだ。横槍なんて入れようモノなら、うちの一族総出でトンでもない報復が来るから、我が身が可愛かったら静観してた方がいいよ。どうせ一人っ子の翡翠じゃ、うちに婿養子にこれないし、朱日さんがいるんだからいいでしょ。』
なんぞは、記憶の中から排除したい。削除したい。徹底して、断固として認めたくないぞ!!。
(だから、何故そこに橘さんが出てくるんだ!!)

って、いつも間にやら、着がえに行った龍麻の代わりに、後始末にいったはずの橘さんが戻ってきてる。
そういえば、さっきもあのタマくんと何か不穏な会話をしていたようだが・・・・。
(ちなみに、劉はさっきから意識が戻った蓬莱寺に【活剄】をかけ続けている。余計なことを)

「こっちは、OKよ。あとは後夜祭の準備に入っちゃうから、そっちはドサクサ紛れに帰っちゃって大丈夫。被害の方も、布関係のクリーニング代くらいで済みそうよ。」
『よかったぁぁ。じゃあ、さっきのようにという事でヨロシク御願いしますね。』
「まかせておいて!。でも、いいの?、もう一つの話。口止め料なんて気にすることないのよ。あんな美味しい話を聞かせてもらっただけで、立派な報酬なんだから。」
「そうですわ。龍麻様の秘密なんて。それだけで万金の価値がありますもの。私、姉様にも話すつもりなどございませんのに・・・・。」
『いえいえ、今日は一日本当にご迷惑をかけちゃいましたから。どうせ、元手はかかんないんですから。此方の誠意だと思ってください。』
「そうなの。こっちは嬉しいけどね。志守先生の次回の新刊に名指しのサイン付きなんて。」
「本当に。しかも未発表の裏話をつけていただけるなんて。一体どうやったら??。」
『俺のハッキングの腕とちょっとしたコネです。ねーぇぇ、大丈夫だよね、京一。』
「だああああああ(汗)。煩い!!、この極悪タマっころ。好きにすればいいだろ。」
「好きにするよ〜ん♪。」
何だ?、今の会話は。
だが、突っ込むのはやめておこう。僕もあの話題には脛に傷を持つ身なのだ。


そうして、僕が文化祭実行委員なんぞというものを務めた始めての文化祭は、僕に認めたくない事実をこれ以上は無いというくらい突き付けて、その波乱に満ちた幕を閉じた。

ああああ、認めたくない事実が忘れられたら、どんなに良いことか。


更に、後日、橘さんから回された今回の被害についての請求書の額も、僕的には断固として認めたくないシロモノだった。
「如月君。貴方の大事お大事な《妹》の龍麻君の為よ、これくらいは負担してくれるわよね。
ねえ、《シスコン》のお兄さん。」
たーちーばーなーさーん(滝汗)。君ねえ・・・・・・。
「あっ、言っておくけど。腹立ち紛れにこの請求書を蓬莱寺君に回したりしたら、絶対に駄目よ。そんなことしたら、龍麻君にいいつけちゃうんだからね♪。」
はううううううううう。(号泣)


本当に、一体僕が何をしたっていうんだ!!!。


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 □ 「これって、誰の逆襲かな?、困っちゃうよ対談」


峠之「はああああああ。やっと書き上がったぞ。本当にロクデモない話だった。」
龍麻「へえ、何処が?。そりゃ、一部の人間にとってはロクデモない話だったけど。それを考えて書いたの、あんたじゃないの?。」
峠之「いや、内容云々よりも、書いてる間に起こったことがロクデモなかったんだ。」
弦月「なんや、そりゃ、確かに予告まで打っときながら、前の《こぼれ話》よりごっつう間があいてしもうとるけど。」
峠之「そうなんだよ。その間が空いちゃったのがロクデモない出来事の所為なの。1〜6章まで直しを入れて、さあ、って書き出したら、パソコンのビデオカードがイカレて画面がブラックアウトするわ、治そうとしたら今度はHDDがぶっ壊れて、メーカー修理になるは。帰ってきたら、今度は母親が足を骨折。次は父親が食中り。しまいにゃ、峠之本人が歯痛にのた打ち回ってなあ。痛み止めの全然効かない歯痛の原因聞いて青くなったぞ、歯の内部の神経が腐り落ちてたんだっていうから。おかげで、麻酔無しで腐った神経を削りだされたんだ。」(注:実はアップ直後プリンターも壊れた)
龍麻「おやおや。」
峠之「思わず、メールした人に端から「これは呪われたSSなんだ!」って言って歩いちゃったもんなあ。きっと、若旦那の呪いに違いない。」
龍麻「あ、やっぱりぃ。俺でもそう思うよ。この内容じゃあ。」
翡翠「そう思っているんなら、今すぐ書き直せ!!。何処が僕の《逆襲話》なんだ。」
弦月「そうやなあ。今回の話って《亀様逆襲編》やなくて《亀様逆襲されちゃう編》だと思うで、わいからみたら。」
龍麻「さもなきゃ、《亀様も一緒に踏みつけになろう♪編》だよね。」
峠之「ドアホ!!。ここまでやっと漕ぎ着けたのに、今更書き直すなんてゴメンだ。だいたい、これでも手加減したんだぞ。」
龍麻「今回の話の一体何処が?。まあ、京一の《天国と地獄の反復横跳び》と《寸止め》はいつものことだからおいておいて。」
峠之「ファンの人が怖かったんで、朱日さんと雛乃ちゃんを《やおい同人作家》にするのはやめておいた。嫌だろう、雛乃ちゃんに、「まあ、龍麻様は女の方なんですか?。それなら、タマ×京一か、タマ×劉にするしかありませんねえ。」なんぞと言われるのは。」
弦月「ご、後生だから、そ、それだけはやめといてんかぁぁぁぁ(号泣)。」
龍麻「・・・・・・・・(汗)。(何で俺が《攻め》なの?)」
峠之「若旦那だって、朱日さんから「じゃあ、私は京一×如月書こうかしら」なんて言われたくないわな。」
翡翠「この馬鹿者ぉぉぉぉ(怒)。見ろ、聞いただけでも鳥肌がたってしまったではないか。今度言ったら、例え仮定であっても殺す!!。」
峠之「・・・・(汗)。ま、済んでしまったことはおいておいて。んじゃ、次回予告行ってみよう。」
京一(突然)「よっしゃぁぁぁぁ、次回こそは・・・・・。」
峠之「【餓狼】じゃないぞ。(アッサリ)。」
京一「なっにぃぃぃぃぃ!!!。(絶叫)」
龍麻「はれ?。こないだ【予告編】まで書いておいて、いいの?」
峠之「いや、本当は良くはないんだが。パソコン故障中にネタができちゃったんでな。そんで、既に一部の人達にはポストカードにして配っちゃったし・・・・、という事で、次回はもう一回番外編になっちゃったりするんだ。今回の王蘭学園の文化祭に対して、真神学園の文化祭の話になる。配ったポストカードが結構好評だったんで、この際、調子に乗ることにした。」
京一「だうううううううううううう(号泣)。畜生。後一回だと思ったから、今回の《寸止め》も我慢したんだぞぉぉぉぉぉぉ。(滝涙)」
峠之「だって、お前の《寸止め》書くのって、楽しいんだもん♪。皆さん、喜んでくれるし。」
龍麻「《魔人一寸止めの似合う男》だもんねえ。(ニヤニヤ)」
翡翠「このたわけ者が!!。人様の学校でことに及ぶ気だったのか?!。そんなことは、僕の目の黒いうちは断固として許さんぞ!!。僕は絶対に認めんからな。貴様なんぞ永久に《寸止め》でいるがいい!!。」
峠之「いや、永久には困るんだけど・・・・・(汗)。まあ、後一回、次回も《寸止め》で行ってみような♪。」
龍麻「《寸止め》で行ってみようね♪。」
京一「貴様等、鬼だ!!。鬼畜だ、外道だ、悪魔だぁ!!。畜生、こうなったら・・・・・。」
龍麻「言っとくけど、家出するなんて言ったって、無駄だよ。どうせ、その次で失踪するハメになるんだから。素直に運命に殉じてなよ。」
京一「あううううううううううう。(汗)」
弦月「ま、諦めとった方がいいで、京一はん。」
京一「だううううううううううう。(血涙)」
峠之「じゃま、そういうことで、次回をお楽しみにね。」




っという訳で、ここからは毎度恒例のオマケSSに続いちゃいます。
いやあ、まあなんです、若旦那が更に突き落とされるのが見たいというお茶目な方のみそちらへお進み下さい。
そんで、若旦那のファンの方は申し訳ありませんが、見なかったことにしていただけると嬉しいです。


「逆襲の紫龍黎光方陣対談」へ行く

このままオマケSSに行く



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