* 弦月 《四日後の幕間》
食べ終わって(腹いっぱいや、ほんまアネキって料理が上手いんやな)一息ついて、
「なあ、タマはん。もしかして、わい、またアネキ達のこと何や邪魔してもうたんかいな?。」
わいは、こっそりとすぐ側に浮かんでるタマはんに、問い掛ける。
視線の先に居るのは、わいが来てからズーっとぶっちょう面したまんまで、今はテレビに向かってボーっとしとる京一はんや。(アネキは台所で食事の後片付け中や)
『何だ、気づいてたの。もしかしなくても、そりゃもう思いっきり邪魔したよ。だから、さっき《それ》を顔面にくらうハメになったんでしょ。』
そう言うて、こちらもえらく不機嫌そうな顔で、わいの抱え込んでいた大っきな《ひよちゃんのぬいぐるみ》をちらりと見る。
なるほど、そうやったんか。
いや、あん時はちょっと(いや、すごく)驚いてもうたで。
アネキの《あの格好》にぶったまげて(わい、よくあん時鼻血拭かへんかったなぁ)、逃げるように此処へ上がり込んできたら、いきなり京一はんに、このひよちゃんを顔面にぶっつけられたんやから。(その後、京一はんはアネキに一撃くらっとったけどな。)
まあ、アネキの《あの格好》を見て血迷うなって言う方が無理なのもわかっとるさかいに。(しかも、京一はん、アネキにベタ惚れみたいやし)それなら、納得や。
わい、また悪い事してもうたんやな、京一はんに。本当にすまんことしてもうたわ。(やっぱ、大人気ないとも思うけど)
『本当に、もうちょっとだったのにぃ(悔)。まあ、いきなり最後までいかれるのも困るけどさ。京一には、せめてちゃんとした《愛の告白》は成功してもらわないと、姉さんが自分の気持ちに自覚もってくれないじゃないか!(怒)。君だけじゃないけど、ほんとーぉに、みんなよく邪魔してくれるよね。(ムカムカ)』
「はぁ―――ぁぁ?!!。」
なんや、今、わい、怖いこと聞かへんかったか。
「気持ちの自覚っていうたかて、もうあのお二人さん、両想いなんやろ。」
普通、こないだみたいな事は、出来上がった恋人同士でするもんやと思うんやけど………。
『確かに、両想いだよ。但し、本人達だけがお互いの気持ちに気がついてないってだけで………。なんせ、京一の《愛の告白》が一回も成功してないからね。』
「はいぃぃ?!!」
嘘やろ!!。京一はん、あんた、今迄なにやっとったんや!!。
この間の《あれ》だけやない。今やって、アネキの首筋には俗に言う《情痕》ってやつがチラホラ残っとるやないか(あれがアネキの《あの格好》を余計にエッチ臭くしてるんやで)。
アネキがそういう事に鈍そうなのは仕方がないとして、あんさん健全な男子高校生やろ。何で、わいでも気づくアネキの気持ちに気づかへんのや!!。
しかも、気づいてへんのにあないな事やこないな事だけ先にやってるっていうんか?!。神経疑ってしまうで。(まあ、やられて気づかんアネキもアネキやけど)
『ちょっとユエ、大きな声ださないでよ。まあ、いくら京一だって、完璧に純粋培養されちゃった《超箱入り娘》相手じゃ分が悪いんだよ。それでなくても、京一も姉さんもお互いの《優しさ》と《思いやり》を誤解してるんだもん。二人共、お互い相手に対してだけ、やたらと卑屈と言おうか、弱腰と言おうか、何かしたことに対して《これが相手の愛情の証だ》って思わないんだよ。《この程度は認めてくれてるんだな、大丈夫かな?》って発想になっちゃってるみたいなんだ。だから、京一から告白してくんないと困るんだよ。姉さんの方は無自覚なんだから。それがまた失敗ばっかりでさ、情けないことにね。』
そりゃ、ほんまに、情けないなあ。
『俺が余計な手出しをして、拗らせるわけにはいかないし。こないだの二の舞はゴメンだもん。本当に困っちゃうよ。』
「なんつーていいのか、コメントに困るわ。」
『それ、最大のチャンスを二回も潰してのけた人間に言われたくないよ(怒)。わかってんの?。』
「うっっっ(汗)。」
『今度やったら、京一に本当に殺されるよ。其の時、俺は止めないからね。(ギロリ)。』
そんな、せっしょうな。勘弁してえな。
『だいたいねぇ、京一はやっと見つけた貴重なターゲットなんだから。逃げられたら困るんだよ。なんとか姉さんとまとまってもらわないと………。姉さんが京一を好きなことを別にしてもさ。だいたい、こんな特殊事情持ちの上に、可愛げがなくて、ガサツで、大ボケで、実はお子様で、やたらと厄介事ばっかり拾ってくるどうしようもない《お人好し》の《夜間限定女》の姉さんに、目と耳と頭が腐れるくらい惚れ込んでくれる人間なんて、京一以外にまた出てくるかどうか疑問なんだから。なんせ姉さんの取柄と言えば、義母さんが叩き込んだ家事能力とちょっとやそっとじゃ壊れない丈夫さだけなんだもん。』
はあぁ?なんや、またおかしなこと言ってへんか、タマはん。
なんやねん、取り柄が家事と丈夫さだけっていうんは。《あの》アネキを捕まえて。
「なに言うてんのや、タマはん。ハッキリいうてアネキの本来の姿(夜バージョン)なら、あのやたらとお綺麗さんな顔一つで、道端歩くだけで男の100人や200人簡単にひっかかるで。あないに、ぶっちぎりの美人さんなんやから。オマケにスタイルも抜群や。その気になって流し目の一つもくれれば、100人どころか軽く1000人は男共が門前市をなすやろ。今だって、仲間内ではあないに(男女問わず)モテまくっとるやないか。それに、この部屋だけ見たって、可愛げやって売るほどあるのがわかるで。さっきの料理も極上やった。気立ても良くって、気配りもようできて、わいが言うのもなんやけど、あの言葉使いを除けばアネキはとんでもない《絶品のお買い得品》やで。京一はんに逃げられたって後釜に困る事なんてあらへんやろ。それこそ、アネキの気持ちを別にすればやけど………。」
まあ、寄って来る男共の中じゃあ、京一はんは(顔も腕っぷしも【氣】も)かなり上等の部類に入る(もうちょいと頭が良ければ、極上品なんやけど)やろから、確かに逃げられたら困るんやろうけど………。
でも、京一はんが逃げ出すなんて、アネキに思いっきりフリ飛ばされでもしなきゃ有り得んわな。あないにベタ惚れなんやから。
『…………ユエ(汗)。君の頭まで腐れてるんだね。姉さんの何処がすごい美人なの?。そりゃ、まあ顔立ち自体は並よりちょっとマシな程度には整ってる方だと思うし、体型も夜なら結構メリハリはあるみたいだけどさ。でも、そんなに大袈裟に言う程のレベルじゃないよ。仲間内にモテてるのだって、姉さんが所謂《変わり者》に不思議とウケる性格してるからでしょ。あの《人外魔境のお人好し》の所が放っておけないっていうか、異様にそういう人達の保護欲をそそっちゃうからじゃないの?。なんでも、俺達の死んじゃった実の父さんもそういう人だったって、義母さんが言ってから。』
「タッ、タッ、タッ、タマはん(汗)。あんた、それ本気でいうとんのか?!。」
あんな常識外れの《絶世の佳人》つかまえて、《並よりちょっとマシ》やとぉ。タマはんの審美眼っていうか、美的水準ってどうなってんのや!。
しかも、《変わり者》にウケる性格って………(汗)。(わいも、その《変わり者》の中に入っとるんやろな、きっと………)
オマケに、実の姉と父親つかまえて、その言い草ってあんまりやないか。(ああああ、弦麻はんのイメージが………)
『本気に決ってんでしょ。こんなの冗談でいって、俺に何の得があるのさ。オマケに、可愛げが売るほどあるぅぅ?。それって、とんでもない誤解だよ。姉さんのは単に精神年齢がガキなだけだって。その証拠に、ちょっと寝室の方を覗いてみなよ。』
そう言って、タマはんは奥の方の部屋を指差した。
わいは、その言葉にちょっとばかしの好奇心と後ろめたい気持ちの複雑な心境で(なんせ、女性の寝室やで)、示された部屋の戸を開けて、その隙間から中を覗き込んだ。
すると中の方は、机とクローゼットとベッドとが綺麗に整えられて配置されていて、その隙間を埋めるようにリビングにあるよりも更に倍の数はあろうかというぬいぐるみが溢れておった。
(ところで、何で枕元にある《巨大な紅いインコのぬいぐるみ》の頭の上にちっさい《黒猫のぬいぐるみ》がくっついてんのや?)
その中で、わいを唖然とさせたのは、その大量のぬいぐるみの群の内、セミダブルのベッドの上にでーんと鎮座しましている………。
「…………タマはん。あの《木刀を背中に括り付けられているでっかいライオンのぬいぐるみ》って、一体何の意味があるんや…………(汗)。」
なんや、わい、腰からどっと力が抜けてきたわ。
『あれが姉さんの東京(こっち)に来てからの一番のお気に入り。鬣のフサフサの感触が気持ち良いんだってさ。毎晩抱え込んで寝てるから、あそこが定位置なんだよ。まったく、ぬいぐるみを毎晩抱き締めて眠るなんて……………(憤)。だからガキだって言うのが判るだろ。間違っても可愛いなんていうレベルじゃないんだからね。』
いや、それでも可愛いと思うんやけど………。あかん。めっ、眩暈までしてきたわ………。
「だから、あの背中の木刀は………(汗)。」
『なんとなくだって。なんかイメージ的にそんな感じがするって言ってた。それと、京一の髪の毛の感触とあのフサフサの感じが似てるらしいし。姉さん、京一の髪の毛の感触が大のお気に入りだから。………まあ、そこで本人のぬいぐるみを作っちゃわない程度には無自覚なんだよねえ。姉さんもさ、どうせだったら、本人に「抱っこして寝たいから、一緒に住まない?」くらい言ってやればいいのに。まったく素直じゃないんだから(溜息)。そうしたら、チャンスも増えるし、京一に逃げられる心配も減るんだけどねぇ。』
本人のぬいぐるみ作られても、コメントに困るで。ましてや、『抱っこして寝たいから、一緒に住もう』なんて、論外中の論外や。
さっきの《並よりちょっとマシ》といい、タマはんの方も相当ズレとるで。
ああ、とうとう頭まで痛とうなってきたわ。(ズキズキするやんか)
『あっ、そうだ!。《これ》見せてやれば京一も少しは浮上して少しはやる気が出るかな?。京一は頭が腐れきってるから、これ見ても姉さんをガキ臭いとは言わないだろうし………。』
「たっ、タマはん(汗)。頼むから、それはわいと京一はんの精神衛生上の為にやめといてんか。」
いっかな(アネキにベタ惚れしてる)京一はんやて、思いっきり脱力すること請け合いや。
こともあろうに、ぬいぐるみと同レベルやなんて………。
『そうかなあ?。』
「そうや(断言)。京一はんを浮上させるなら別の方法にしたってや。それから、『一緒に住もう』も二人がちゃんと両想いになってからの話にしといてんか。お願いやから。」
間違いなく、またぞろ拗れるで。
『わかったよ。しょうがないから、やっぱり支援はスペアキー程度にしておくか。いつでもお出入り自由ならちょっとは進展するだろうし。あっ、ユエ!。今度は邪魔しないどいてね。』
「タマはん…………(汗)」
そうして、わいと京一はんはそれぞれ手土産を貰ってアネキの部屋を後にした。
デザートに出されたケーキ風のイチゴミルク杏仁豆腐(これがまた絶品やったんや。やたらと甘かったんやけど)の残りと、京一はんはアネキの部屋のスペアキー(手作りのキーホルダー付)、わいはズーっと抱えこんどった《大っきなひよちゃんのぬいぐるみ》をもたされて。(アネキ曰く、「そんなに手放せないほど気に入ったんなら、ユエのところに里子に出すよ。可愛がってやってくれ。オレはまた作るから。」やて。)
マンションの下で、別れる前に思わず京一はんに愚痴ってもうたんや。
「なあ、京一はん。アネキとタマはんて、アネキの事に関してものすごう無自覚っていうかズレてるっていうか、ごっつう不安にならへんか?。」
「ああぁ??。なんだイキナリ。そりゃまあ、ひーちゃんはナルシストじゃないんだから、自覚が無くてもしょうがないし、そういう所がまた激烈に可愛いんだから良いんじゃないか。タマのヤツは、ひーちゃんを(文字どうり四六時中)見慣れすぎて感覚が麻痺してるっていうか、美的水準が異様に高いからなあ。まあ、アイツが不感症のおかげでひーちゃんへのガードが甘いんだから、これもしょうがねえわな。それくらいで不安になってたら、ひーちゃん達の相棒なんてやってられねえよ。」
きょっ、京一はん。あんさん、実はごっつう苦労症なお人やったんやなあ。
おまけに、意外とできた所があるし(こうやって、わいに律儀に返答しとるし)。わい、あんさんを見直したわ。
「京一はん!!。」
「なっ、なんだよ。イキナリ手をにぎるな!!。」
「こないだといい、今日といい、邪魔してもうて本当にスマンかったわ。お詫びに、これからはわいのできる限りであんさんに協力させてもらうから、それで勘弁しとってや。だから、あんさんはこれからも精進を積んでアネキを幸せにできるように頑張って欲しいんや。」
「はあぁぁぁ?!。」
タマはんが《あの状態》のままやったら、冗談抜きでアネキの【運命】のお人(この場合は伴侶やな)には、世界の命運が懸かっとるんやから。(あっ、なんか改めて不安になってきたわ)
痴話喧嘩で世界が崩壊しましたなんて、ほんまに洒落にならん未来やで。
あの《約束》。弦麻はん、まさかこんな事態を予想してたわけやないやろな。(違うと思いたいわ。)
「だから、あの程度でメゲんとこれからも気張ってアネキをモノにしたって欲しいんや。そんで、あんさんはせめて《世界最強の恋人》程度にはなっとってや。」
「………おい(汗)。何だそりゃ。また訳のわからんことを。」
「とりあえず、わいも応援してるって思っといてくれればいいんや。」
その内嫌でもわかるやろ。この東京に、アネキの側にいる限り。
まあ、アネキと上手くいって全部片付いたら、この間マケとこう思った《約束》の2発ぶんと、わいの苦労分の上乗せ1発分はキッチリくらってもらうつもりやけど。
なんせ、わいもアネキの《弟》なんやから、《お義兄さん》になる人間を殴る権利ぐらいあるやろ。
タマはんじゃあ無理みたいやから。(タマはん、アネキ以上に京一はんに甘すぎや)
「ほな、またな。」
そういって、わいはその場を後にした。
「だから、なんなんだよ。訳がわかるように説明しやがれ―――――――!!!!」
スマンな、京一はん。いずれな・・・・・・・・。
とりあえず、えんど☆。
→次のSSに続く