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どもども、1を読んでも見捨てないで下さって有難うございます(喜)の峠之紗耶です。
引き続いての2です。プロローグ終わっての、本編突入。
ちなみに、今回の犠牲者は誰でしょう??
って、もうバレバレじゃん(笑)。
それでは、本編に行ってみましょう♪
Side.1 彼方から・・・ 2
* 俊
GYAAAA―――!!
「クッ―――。」
「うッ―――。」
バサバサッ★
俺は、伊涼に襲い掛かろうとした鴉をとっさに自分の腕で払いのける。
すると、微かだがその腕に痛みが走った。どうやら、鴉の爪で腕を引っ掻かれたらしい。
やはり、《符》を使ってしまった方がいいのだろうか?。
だが、まだ調査のとっかかり、この後何が起こるか分からない状況で乱発するには、俺の唯一の武器である《符》は数に限りがある。そうそう無駄遣いはできない。(実は先ほど、ちょっとした事情で無駄遣いをしてしまったばっかりなのだ。ああ、未熟者な俺・・・)
GYAAAA―――!!
AHHHHH―――!!
「くっ―――、鴉どもめッ。散れ!!。」
バシュッッ☆
だが、イキナリ群れて襲い掛かってきた鴉の勢いに、前言撤回とばかりに俺は思わず《符》を使ってしまう。
ハッ☆。俺ってば、やっぱり未熟者・・・・(涙)。
「ちッ。《符》で一羽づつ攻撃したところでラチがあかないな。」
思わず愚痴る。
実は3羽ほどまとめて祓ってやるつもりだったのだが、出す符を間違えたのだ。
(範囲攻撃可能符をだすつもりが、単体攻撃符をだしてしまった。やっぱりちゃんと符は分類しておけばよかったかもしれない)
「こ、この鴉たち、どう見ても普通じゃないよッ!!。」
あらためて言われんでも一目瞭然だぞ、伊涼。
だいたい、目を真っ赤に光らせた通常の倍の大きさの鴉が10羽近くまとめて人に襲い掛かってくるのをみて、『これってば、普通じゃないか』と言いきれる人間が何処にいる!!。
そもそも俺達二人は、ここに立て続けに起こる猟奇事件と尋常じゃないレベルで感じる《邪気》の調査にきたんだからな。
これで、《結局出会ったのが普通の鴉だけでした》などという方が、逆に虚しいぞ。
(そう考えれば、これは願ったり適ったりの状況なのかもしれない)
「俊、《氏神》様を呼ぼう!!。」
「だ、駄目だッ。これしきの事で《氏神》様の手を煩わせる訳にはいかないッ。」
つい先日、やっと閻羅様から『ほう・・・、そなたもやっと一人前かのう。心強いことじゃ。』という有難いお言葉を頂いたがばかりなのだ。
(その後、音信不通になってしまわれた。まあ、2・3日音沙汰無しというのは結構よくやられる方なので、心配はしてはいないが・・・)
それなのに、その舌の根も渇かぬうちに、たかが鴉に怯えて早々に『お助け下さい(泣)』では、俺の面子に初っ端から往復ビンタではないか!。
(まあ、実際に喰らうなら、キレた伊涼の《必殺・神鈴アタック☆》の方がよほど痛いがな)
―――AHHHHHッ!!。
だが、更に攻撃してくる鴉の数が増える。
「俊ッ!!。」
こ、こら、伊涼(汗)。俺に向かって鈴を構えるな!!。ヤルなら、鴉の方にしろ!!。
お前の《必殺・神鈴アタック☆》で鼓膜を破るのはもうゴメンだ!!。
って、よく見たら、伊涼の手の甲に3条の引っかき傷が・・・・・。
あううう(汗)。傷の所為で伊涼がキレかかってる。
幼馴染の俺だからこそ骨の髄まで思い知っているが、普段《可愛い・明るい・気配り上手》でご近所や学校で親しまれている伊涼は、一度キレようものなら《夜叉か鬼子母神か》という程の凄まじい行動にでるのである。
もう5年以上前になるが、道端で絡んできたあげく不埒な行為に及ぼうとしたチンピラを、眼光一つでビビらせた後、持っていた鞄で殴りつけ一撃の元に昏倒→病院送りにしたのは、《扶桑中の戦乙女》の伝説として未だ語られる武勇談なのだ。
しかも、ここへきて例の神鈴を使いこなすようになってからというもの、新たな《必殺技》まで習得し、最早怖いモノなし状態なのである。(今のところ、被害者は俺だけなのだが・・・)
仕方が無い。キレた伊涼に鼓膜を破られる(&キレた後の伊涼のアフターケア)よりも、面子に往復ビンタの方がマシだ。
「くッ。坂を覆う《邪気》の渦も大きくなってきた。やむを得ない。少し早いがお来し願おう!!。」
もうしわけありません、閻羅様(涙)。俺は、符術の技量よりも心がまだ未熟なようです。
俺は、なけなしの精神を集中して印をきり、声を張り上げる。
「勧請ッ!!。氏神・閻羅大明神ッ!!。」
すると、今までのように、空中の一点から金色の光がまるで花火のように広がり・・・・。
「?!!。」
ぽか―――ん☆
次の瞬間、俺(と多分伊涼もだろう)が思わず自分達の置かれている状況を忘れ果て、光が収まった後に出現した《人物》に見惚れてというか、茫然自失の態になってしまったとしても、誰も責められまい。
本来なら其処に現れるべきなのは、我が一族の氏神であり、且つまた俺の符術の師でもある閻羅様 ―――― 見た目はヨレヨレの枯れ果てた老人、但し眼光だけは鋭い(ああ、すいません、閻羅様。でも本当のことなので・・・・)――――― ではなく・・・・・・。
なんと、超ミニの白いセーラー服姿☆!(しかも、ご丁寧にうさミミヘアバンド付)の、正しく女神とも言うべき、人間離れをした絶世の美貌の女性(少女?!)だったのである。
しかも、その殆ど犯罪領域のセーラー服姿の所為で強調される豊かな胸元といい、折れそうな細さのウエストといい(どう見ても、伊涼より5cm以上は細い)、ギリギリのラインを保ったミニスカートから伸びた白く眩しい脚線美といい、スタイルも抜群で・・・。
魂を抜かれるようなというか、一瞬、真面目に自分の正気を疑ってしまったシロモノだったのだ。
(後から思えば、よくその時俺は鼻血を吹かなかったモノである。少し自分の精神修行に自信が持てた)
「う・・・《氏神》―――――様ッ?!。」
ゴクリッ★
自分の唾を飲み込む音が、この時ほど大きく聞こえたことはない。ハッキリいって、持っていた符を取り落とさなかったのは奇跡だ。
「お爺ちゃんが女の子に・・・(汗)。」
こちらは多少声は震えているが、幾分俺よりも動揺がないらしい、伊涼。
あのなあ、伊涼・・・・・。
「違う!!。そんな訳ないだろッ。」
というか、断固認めたくない!。この麗しい女神様(うさミミだが)の正体が、あんな枯れ果てた老人だなんて。(だから、すいません、閻羅様。他意はないんです)
「じゃあ、何?。失敗したの??。」
「それも違う!!。」
伊涼、お前それって、思いっきり俺を突き落とした台詞だって気がついてるか?。
落ち着け。落ちつくんだ、俺!。第一印象が大事なんだぞ!!。[←何のだよ]
だが・・・・・・・。
リ―――――ン、リ――――ン☆。
伊涼の持っていた神鈴が、まるで共鳴するかのように澄んだ音を響かせる。
「――――――― 鈴が――――――?!。」
手にしている持ち主の伊涼が、呆然とした表情で神鈴とその《女神様》を交互に見つめている。
ということは――――――。
そう思った瞬間に俺は腹をくくり、表情を引き締める。
「お初にお目にかかります。《氏神》様。」
この場合、《氏女神》様と言うべきなのかもしれないが・・・。
「ついては、―――― 御名を伺いたく存じます。」
突き詰めて考えると、この台詞は、下手なナンパじみているな。
だが、これは俺の《勧請師》としての重要な儀式なのである。断じて下心などない!。(断言)
「えーっと・・・・・(困惑)。」
すると、《女神様》は一瞬戸惑ったような顔をされたが、すぐにその宝玉のように煌く瑠璃色の瞳を俺の方に向けてお答え下された。
「こちらこそ、はじめましてだな。オレは緋月 龍那(ヒヅキリュウナ)。突然で悪いんだけど、これから暫くヨロシクな♪。」
ああ、そのお声も、容姿を裏切らないまるで鈴の音を転がすような、そして凛とした麗しい声。
(其処でガンガン鳴ってる神鈴の音が、100円ショップで買った安物に聞こえるぞ)
だが言葉遣いの方は、とっても違和感というか、そぐわないというか、なんというか・・・(汗)。
「緋月龍那―――様?。・・・あ、あのう、閻羅様とはどういう御関係です?。お孫さんか何か?」
いーすーずぅ(汗)。お前なあ。こんなに月とスッポンほど似ておられないお美しい《女神様》を捕まえて何を言う!。(だから、決して貴方に他意はないんです、閻羅様。比較対照が素晴らしすぎるだけで・・・)
ご機嫌を損ねてお帰りになられてしまったら、一体どうするつもりだ!!。
「動揺するな、伊涼。そんなことを聞いている場合じゃない!。」
とっさに出てきた台詞で、俺自身が自分達の置かれていた状況を思い出した。
俺たちは、今かなり追い詰められていたんじゃなかろうか?!。
GYAAAA―――!!
AHHHHH―――!!
なんて、言ってるそばから鴉どもがこちらに襲い掛かろうとしている。(幸いなことに、さっきの女神様御降臨時の光で、鴉どもが怯んでいたらしい)
俺は、心ならずも(思いっきり不本意だ)、恥も外聞も無く《女神様》におすがりしてしまった。
「緋月大明神様。どうかお願いします。その御《力》で我々をお救い下さいッ。」
ああああ、我ながら情けない。が、今は背に腹は代えられないのだ。明日に精進する為に、今を生き延びなくては!。
「まっかせとけよ♪。オレ、その為に呼ばれてきたんだからさ。」
すると返ってきたのは、至って友好的な御返事。(また、言葉使いが・・・・)
「・・・・良かった。」
伊涼、お前、喜ぶのはまだ早いんじゃないか。
あまりに楽観的な伊涼の言葉に思わずジト目で見たら、次の瞬間肘鉄が帰ってきた。
「・・・・(グッッ)・・・(汗)。」
「・・・・(ボソッ)誰の所為だと思っているの・・・・。」
しまった!!。伊涼のヤツ、また《キレ夜叉モード》に入りかけてる(汗)。
(この《キレ》がなかったら、友人としてもパートナーとしても実にイイヤツなのだが・・・)
「うにゅ?。どうした、怪我してるのか?。」
「・・・い、いえ(汗)。なんでもありません。・・・この者の持つ鈴は《邪気》に接した際、我々を導いてくれると伝えられる神鈴。我々は信じます、神鈴の音を・・・。」
と、《女神様》――――いや、緋月大明神様(この呼び方、我ながら違和感だが、仕方が無い)は、俺の言葉に満足なされたのか、ゆるりと俺に微笑みかけられると、次にまるで何かの声に耳を傾けているような視線を俺たちの背後に向けて言葉を紡がれた。
「・・・・わかってるよ、じいちゃん。二人ともイイヤツみたいだし。心配なんて1ミクロンもいらないって。・・・・ちゃっちゃと片付けちゃうから、そこで高みの見物してていいよ。」
な?!。い、今のお言葉からすると、まるで俺たちの背後に閻羅様がいらっしゃるとでもいうような感じだが・・・・・。
「さっ、二人とも俺の後ろに下がってて。大丈夫。この程度だったら3分かかんないから。・・・いくぞ、ピカ!。」
緋月大明神様は、その日に煌く黒曜石の糸のような艶やかな髪を翻し、俺達を庇うように一歩進み出られると、何かに呼びかける声と共に手を中空に差し出される。
すると、その肩口から拳程度の大きさの光る球体がふわりっと飛び出してきて、その差し出された手の上で光を点滅させると、どうやら符の束らしいモノが出現した。(あの光の珠は一体?)
そして、その符を鴉どもに向かってかまえた瞬間・・・・・。
ガックンッッ☆
バサッッ☆
俺は、今度こそ本当に自分の持っていた符の束をとりおとてしまった。(ついでに、顎も外れた)
緋月大明神様が符を構えた次の瞬間、その麗しい御姿が変わったのだ。
――――――――――― 黒いメイド服に・・・・・・・(激汗)。
な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、何故、メイド服?!。
(しかも、これまた超ミニの上に、胸元強調のハート型カット入り。殆どイメクラ仕様である。いや、白いバニーセーラー服もそうだといったら、そうなんだが・・・・)
緋月大明神様は、その素晴らしい御姿のまま、俺など足元にも及ばない圧倒的な《力》で鴉どもを片っ端から薙倒される。本当に3分とかからないだろうことは一目瞭然。
一方、先ほどの正体不明の光る球体はといえば、まるでうろたえているかのように、その背後でグルグルと旋回を繰り返している。
『し、しんじらんない(汗)。きがえろとはいったけど、またなんつうモンに・・・・・。おれ、ショウジンたんなかったかも・・・。』
い、今の声は・・・・。まさか、あの珠なのか?!。
「一体どうなってるんだ???。」
最近の氏女神様というのは、サービス精神まで旺盛なんだろうか・・・?。
それとも、有難い御心使いで、初対面の俺達の年齢や趣味にに合わせてくださってるんだろうか?。
(ちなみに、俺の趣味ではない。断固としてだ!)
「素敵・・・・。(ウットリ)」
案の定、伊涼のヤツ・・・・(溜息)。
実は、伊涼は小さなころから人形遊び、それも着せ替え人形をこよなく愛しており。将来の夢は《スタイリスト》という、とにかく気に入ったモノや面白いモノを飾り立てるのを最大の趣味としているのである。
学校の部活が《工芸部》なのは、単にうちの学校に《手芸部》が無かったので仕方なくというわけで、服が駄目ならとばかりにインテリア小物&アクセサリー類を作りまくり、去年の文化祭の折には部の売上を一人で前年の300%UPに持っていった実績があるのだ。
その伊涼にとって緋月大明神様は、これ以上はあるまいというキワめつけに飾り立てがいのある存在であるのは間違いない。(なんと言っても、これだけ常識を蹴倒してお美しいのだから)
その尋常でない目の輝き。伊涼、お前まさか、こともあろうにこの麗しの《氏女神》様で《着せ替え人形ゴッコ》しようなんて不埒なことを考えてないだろうな?。
い、いかん。いかんぞ!。
言ってはなんだが、伊涼のセンスというのはちょっとばかりズレているというか、オタクじみているのだ。しかも、少女趣味も入っている。その結果出来上がるのモノといったら・・・・。
駄目だ。俺が断固として緋月様が伊涼の道楽の餌食になるのを阻止せねば!。
これは、勧請師としての俺の義務だ!。[←んなもの義務にするな!]
「伊涼・・・。」
「何よ、俊?」
「言っておくが・・・・・・。氏神様に実体はないぞ。(キッパリ)」
「うっ・・・・・(汗)。」
やっぱり、図星か。
だが、世の理というものは無情なのだ。お前が彼の御方をいくら飾り立てようと望もうが、実体がなければどうにもならん。潔く諦めて、大人しく今の御姿だけを堪能していてくれ。
(言ってはなんだが、俺にとってバニーセーラー服とメイド服だけでも、文字通り出血大サービスのシロモノだ)
「うふふ・・・・。甘いわね、俊。」
ん?!。(な、何か、一瞬お前から《邪気》を感じたぞ)
「乙女の一念、岩をも通す。為せば為る。人は己の想いの為になら不可能をも可能にするのよ。始めから出来ないと諦めたら、それが終わりの時だわ。私は負けない!!。」
「・・・・・・・・・(汗)。」
あうううう(激汗)。すいません、閻羅様。俺はやっぱり修行が足りません(泣)。
[・・・・しまった。伊涼ちゃんに○○○が既に入っちゃったよ(汗)]
なんて、俺と伊涼の密かな攻防戦の間に、ハッと気づくと鴉どもは一羽残らず姿を消していた。
なんと素晴らしい御力でしょう、緋月大明神様(喜)。
その後、イキナリ怪しげな黒い渦が現れて消えたりとか、何やら緋月大明神様と閻羅様の俺には見えないやりとりがあったようだが、――――――――(伊涼曰く「閻羅様の【氣】を感じたの」だそうだ。緋月様も「まっかせとけよ、閻羅のじいちゃん。オレ、人生前向きに生きることにしたから、二人まとめてドーンと面倒見てやるって♪。」というお言葉もあったことだし。それにしても、俺にはなんのお言葉もないんですか、閻羅様)―――――なんというか、疾風怒濤の成り行きだな、これは。
「い、今のは一体?。」
「・・・・・閻羅様と緋月様が交代なされた――――。その境目に際し、閻羅様が現れていらっしゃった・・・。あの黒い渦とつながりがあるのかは判らないが、俺にはそう思える・・・。」
「うん・・・・。そうだよね、きっと・・・。」
おっ、珍しく殊勝だな。(落差の激しいヤツだ)
「・・・・・・。」
ところで、閻羅様―――――――、やっぱり俺には一言も無しなんですか・・・(涙)。
(せめて事情の説明くらいはあってもバチはあたらないと思うのですが・・・・)
と、ブルーにはいっても何もいい事などないのは明白だったので、俺達は新しい(しかも、若くて超美人な)氏神様との人生を心を切り替えて前向きに生きることにした。
(老人から美女―――――考えようによっては、とてつもなく幸福なことかもしれない)
「緋月大明神様。閻羅様にも劣らない強力な御力。有難く存じます。」
まったくもって。しかもメイド服(イメクラ仕様)でだしな。
ちなみに、緋月大明神様のお姿は、戦闘が終わると同時にバニーセーラー服に戻っている。
(つまり、あれが《氏神様の戦装束》ということなのだろうか?。――――い、いかん。閻羅様のを想像してしまった。今のは忘れろ、俺。)
「自分は勧請師、矢村 俊。そしてこれが巫女の水兼 伊涼にございます。お見知りおきを。」
よく考えたら、俺たちの方の自己紹介はまだだったしな。
俺は精一杯の恭しい態度で、それぞれの名を緋月様になのる。(第一印象、第一印象)
「よろしくね。緋月――――――。」
ん?!。なんだ伊涼のヤツ挨拶を途中で止めるなど無礼な。
「どうした?。」
「う――ん。なんだかしっくりこなくて。ねえ―――――龍那・・・ちゃん。」
「い、伊涼ッ?!。なんだ、その口の利き方はッ。氏神様に失礼だぞ!!。」
この麗しの女神様に、こともあろうに《名前呼び捨て+ちゃん付け》とは。なんと、不遜な。
「でも、見た目は私達と同じくらいの歳に見えるよ?。制服だし。」
といって、何故うさ耳の方を指差す!。
「駄目だッ。力をお借りする以上俺たちは常に氏神様に敬意を払うべきだ。」
たとえ、お姿がバニーでもメイドさんでも。
だいたい、お前の下心などお見通しだ。親しくなって、あわよくば・・・などと考えているんだろうが、俺の目の黒いうちは絶対にさせんからな!。
(本当に、この趣味とあの《キレ》さえなければ、コイツは幼馴染の欲目を引いても容姿・性格・技量ひっくるめて《お買い得品》なんだが・・・)
「えっ。別にオレは構わないけど・・・・。オレもヨロシクな、伊涼ちゃん♪。それと、そっちの彼は俊でいいのか?。」
あうううう。緋月様。大変有難いお言葉ですが、伊涼を甘くみては駄目です。コイツは趣味が絡むと、人格が変わるんですってば。
身に過ぎるお情けは、貴女の御為になりません!。
「あっ、それから、忘れてたけど、コイツはオレのオマケで《ピカ》って言うんだ。時々無駄に喚きたてるけど、オマケなんで気にしないでくれ。」
そういって、先ほどの光る球体を指差される。なるほど、従属式神か何かなのだろうか?。
『だれがムダにわめきたてるオマケなんだよぉ。ひどいや!。しかも、また《ピカ》って紹介したね。さっきからやりなおしをようきゅうするって、いってるのにぃぃ(泣)。』
「それが無駄に喚き立ててるっていうんだ。第一、其の件は却下だと何度言わせる。閻羅のじいちゃんの時といい、往生際が悪いぞ。」
『ひゅるるるぅぅぅ〜(涙)。』
あの・・・・・・(汗)。
「・・・・って、龍那ちゃんも言ってるじゃない。」
「だから、駄目だと言ってる。己の職務を考えろ!。お前は巫女なんだぞ、巫女!!。」
「ちェッ。」
ちェッじゃない、ちェッじゃ。
「と・も・か・く・だ!。小言は後にまわすとして――――― 伊涼。そろそろ本題に戻るぞ。」
「・・・・(ジトッ)・・・・うん。」
「そうだな。そうしてくれると助かる。」
なんか、初めだというのにドッと疲れてきたぞ。(めげるな、俺)
「緋月様。どうかお聞き下さい。この坂に満ちる《邪気》――――この坂で残虐な通り魔殺人を繰り返し、鴉をも凶暴化させ人を襲わせている悪しき【氣】・・・。それを放つ為の元凶を静める為、自分たちは恐らくこれから闘うことになると思われます。」
「うん・・・。今日はいつもより《邪気》が濃い。もうすぐその元凶が現れるのかもしれないの・・・・。」
『おれも・・・すんごくイヤな【キ】をさっきからかんじるよ。これって、ぜったいヘン。』
「だろうな。さっきの鴉たちも尋常じゃなかったぞ。《旧校舎》以外の外であんなのがポコポコ出てくるなんて、絶対に異常だもん。・・・・ところで、ピカ。お前の感知能力ってタマぐらいはあるんだな。なかなか便利なヤツ。見直したぞ。」
『あのねえ、それっってとってもシンガイがおことばだよ。ぷん!。』
は?!。タマ?、《旧校舎》??。(氏神様の学校には、あんなモノがボロボロいるのだろうか?)
いかん、いかん。横道に思考を逸らすな、俺。
「その元凶を突き止めることが出来れば、この坂を《邪気》から開放することができる・・・。
緋月様。何卒御力添えを。」
「氏神様。とても神様には見えないけど、力を貸して下さい。」
いーすーずぅ(怒)。お前はまた・・・。
「・・・・今のは失礼だぞ。完全に失礼だぞ。」
「そんなこと言ったって――――。」
りーん。りーん。
「?!。」
「また鈴が・・・・・?。」
次の瞬間、俺でも感じ取れるほどに、その場の《邪気》が増大する。
「―――――――!!。ね、ねえッ。俊、あそこ・・・。見て!!。」
流石の伊涼も、いや、俺以上に《邪気》に敏感な伊涼だからこそ、声に動揺が走る。
俺がすぐ様、伊涼が指し示した方向に視線を向けると―――――――。
そこに、気持ち悪くなるような【氣】の乱れ、そして淀みと、その中心にまるで焦点を結んでいない瞳の、だが尋常でない【氣】を放つ女性が蹲っていた。
まさか?!――――――。
「不気味な【氣】の乱れ――――。警戒した方がいいな。」
「来るよッ。」
『うわぁ――ん(泣)。この【キ】のかんしょく、きもちワルイよぉぉ。(ウリュゥ〜)』
「ええい!。泣き言を言ってる場合か。感覚くらい遮断しろ!!。」
「ううううううううう・・・・・・・。」
その女から発せられたのは、まるで血を吐くような呻き声。
「・・・・・。」
「うううううう・・・・・・・・。」
その呻き声に呼応するかの様に、【氣】の乱れが俺たちの方に押し寄せてくる。
俺は、その背筋が寒くなる感覚に耐え切れなる前にと、思わず女に声をかける。
「おい―――。」
「――――?。」
「あんた、一人で平気なのか?。この坂は最近―――――――。」
我ながら虚しくなる問いだ。多分この女性は・・・・・・。
だが、予想に反して、その女性からは至って理性的な返答が帰ってきた。
「・・・・《姿なき通り魔が襲う魔の坂道》週刊誌で読みましたわ。ふふふ・・・。平気で人命を奪う・・・。犯人はきっと正気の者ではないのでしょうね。」
「・・・・。」
「ううう・・・。人が死ぬ悲しみ。痛いほど分かる。私にも赤ちゃんがいてね・・・。もうじき―――――貴方達と同じくらいの歳よ。生きていれば、ですけれどもね・・・・・。」
「死んだ・・・のか?。」
そこで、何故だか氏神様の息を飲む気配が感じられた・・・。
そして、それを宥めるように点滅する光。―――――???。
「ええ。でも、もう悲しくはない。分かったから。もうすぐ、戻ってくるって――――。」
―――――― も、戻ってくるぅぅぅ??!!。
「きょ、今日こそは・・・・、今日こそは間違いないッ。あなた――――。」
そうして、女性が指差したのは・・・お、俺?!。
「は―――――?。」
「あなたよ、――――赤ちゃん。さあ――――、戻っておいでェ。」
そうして、その顔を上げた瞳に浮かぶのは――――赤い狂気の色。
「な、何を言って―――――。」
「お母さんを忘れてしまったの?。だ、大丈夫よ・・・。お母さんにはちゃんと分かる・・・。その首筋―――――――。」
言葉を紡いでいた口の中に光っているのは―――――まるで獣のような牙。
「――――――とても美味しそうですものッ。」
「――――!!。」
『うわ―-――ん(涙)。やっぱりぃぃぃ。』
「この程度でビビるな!。この惰弱モノ!!。」
『うえ――ぇぇん。だってぇぇ(泣)。おれ、タマさんほどバカズふんでないんだよぉぉ。ワカバマークなんだからぁぁ。』
「やかましい!。場数もクソもあるか。男も女も、人間の価値は土壇場の度胸と気迫だ!!。」
あううう(汗)。氏神様、なんて耳に痛いお言葉。
「―――さあ、早く戻ってきてッ。もう一度お腹にッ。」
その、最早鬼女と化した女の腕が俺に身向かって翻る。―――――伸びた紅い爪とともに。
「俊?!。危ないッ!!。」
「・・・くッ!。」
紙一重。かわせたのは、さっきの氏神様のお言葉のおかげかもしれないな。
「うううう――――――。」
「あんた―――――、この坂で何をしているッ?。あんたからは・・・血の匂いがする。」
そして感じる圧倒的なほどに澱んだ【氣】・・・・。
「血ィ――――?。ふふふふッ!!。ち、血の匂い―――――!!。みんなに言われたッ!!。
血の匂いがするって!!。」
伊涼の持つ神鈴が、よりいっそう高く鳴る。
「こ、この【氣】は――――《邪気》ッ!!。」
「緋月様!!。戦闘の準備をッ。こいつが元凶です。」
「まかせろ!!。・・・ピカ!!。」
『はうううう(汗)。わかりましたぁ。このきもちわるいの、はやくなんとかしてっっ!!。』
光の点滅と共に符の束が再び緋月様の手に収まり。そして―――――――。
やっぱり、メイド服に・・・・・・(汗)。
「―――――?。ふふふッ。なあに、あなた――――?。私をどうするの?。殺す?。殺すの?。殺すのねッ!!。私と――――私の赤ちゃんをッ!!。」
「違う!!。」
緋月様?!。
「オレは――――、貴女に思い出して欲しいだけだ。本当の母親の気持ちってヤツを・・・・。そして、もういない本当の子のことを・・・。その子の為の今の姿なら・・・。そして、流れた血なら・・・。貴女もその子も悲しすぎる。だから、・・・・・闘う。貴女とその子を―――――開放する為に。」
「そん事ォ――――許さないッ!!。」
放たれるよりいっそうの《邪気》。
「きゃああああツ!!。」
「な、何て《邪気》だッ!!。」
「ウウウウウウッ。絶対にィ、許さないッ!!。みんな、みんな食ってやる!!。あの子と同じようにイィィッ!!。」
――――坂が、空間さえも歪ませる《邪気》が渦を巻く。
「じゃ、《邪気》に操られている・・・。」
「ひるむな、伊涼ッ。」
怯んだら、きっと巻き込まれる、俺たちもこの《邪気》に・・・。
「おい、あんたッ。――――あんたの子がどうなったのかは知らない。だが、何にせよあんたはあまりに多くの犠牲を出した。俺はあんたを止めるッ!!。」
そうだ。人間、いざと言う時は度胸と気迫だ!!。
「―――――貴様の邪気、祓ってやるッ!!。」
と俺が豪語しても、やっぱり戦闘は緋月様の一人舞台だったが・・・(汗)。
実際、本当に緋月様はお強かった。
あれだけの怖気が走るような《邪気》に対しても、まったく怯むところはなく。敵を射抜くような瞳の光は、まるで燃えたつ蒼き炎のごとく。次々と符を繰り出される仕草さえ、澱むことなく流麗たる舞のようで。
先ほどの鴉の群れに比べれば多少梃子摺っておられたようだが、それが逆にその神々しくも麗しい顔に艶やかな闘志と微笑をうかべさせているとも感じられて・・・・・。
最後の《あれ》さえなければ、俺はきっと魂までその光景に捕らわれていたのではないだろうか?。
そう、最後の・・・・。
「これで、キメる!!。」
麗しいお声による高らかな宣言と共に、緋月様はその白魚のような御手を胸元に翳され。おもむろに、符を取り出されたのだ。
―――――― その豊かな胸の谷間から・・・・(汗)。
(た、た、た、た、た、た、た、谷間だぞ。胸の谷間☆)
更に、その取り出した符に御自ら軽く口付けられ(?!)、
「頼むぜ、相棒。・・・・・ダイスキダヨ・・・・。」
どう考えても女神様にあるまじきお言葉と、俺に聞き取れなかった微かな囁きと共に、敵にその符を繰り出されになり・・・・・。
『うっそぉぉ☆。ほんとにやる?!。』
「やっぱり違う!!。私の赤ちゃんじゃないッ!!。」
その符から放たれた光によって、哀れな鬼女は断末魔の悲鳴をあげた。
あううううううう(汗)。今のはいったい??。
何か、何か、何か、何か・・・・・・・(激汗)。
「か・・・・・カッコイイ♪。ヤダ、俊。今の見た?。」
いーすーずぅぅぅ(涙)。お前なあ・・・・。
さっきまで《邪気》に怯みかかっていたのが嘘のような、目を輝かせた表情の伊涼。
言ってる内容と現在俺たちが置かれた状況さえ忘れれば、十分に魅力的な可愛いといっていい顔なのだが・・・・。(もちろん、緋月様のお美しさにはめーいっぱい負けてはいる)
「あれこそ、《闘う乙女のお約束》よ。なんて素敵なの♪。できるものなら、私もやってみたい。さすが、龍那ちゃんよね。閻羅様とは一味も二味も違うわ。」
「あのなあ、伊涼。(ガックリ)」
いくらなんでも、閻羅様に《あれ》をやられたら、流石の俺もその場から逃げるぞ。
第一、 お前が《あれ》をやるには、ちょっとばかり胸の谷間が心もとないだろうが!!。
って、俺まで何を考えているんだ!。(すいません、閻羅様。やっぱり修行が足りません)
『すいませんねえ、カンジョウシのおにいさん。いや、ゲンキョウのおれがいうのもなんですが、あのヒト、あれでもオオマジメなんです。ハラをくくってこれからもおつきあいしてほしいなあ、なんて・・・・。だって、ちょっとひとりでフォローしきれるジシンないんだもん、おれ。』
思わずへたり込みかけていた俺にかかった声が、虚しく心に響いた。
(腹をくくるも何も、今更俺に選択肢なんかないのだ)
そうして、それでもなんとか体制を立て直した俺は、緋月大明神様の予想外の《キメ技》に意識をあらぬ方向に向けていた伊涼を叱咤し、その事態の元凶である《邪気》をさっさと封印させた。
(なんだ。伊涼もそうやってれば巫女としてちゃんと様になってるじゃないか。頼むから、これからもその巫女としての正しい姿を貫いてくれよ。)
「可哀想な私の赤ちゃん―――――。産まれてすぐに死んでしまった。」
《邪気》から開放された女性(の霊)は、俺たちからの問うような視線と緋月様の悲しげなでも労わるような視線に促されて、ぽつぽつと語りだした。――――――己が何故、《邪気》に囚われたかを。
「私はそのショックに耐えられなかった――――。私、食べてしまったの!。赤ちゃんの亡骸を・・・・。壊れてしまった意識の中で赤ちゃんを―――――、お腹に戻せると信じてッ!。」
哀れな、そして悲しい告白。
この女性は愛していたのだ、己の子を、育み紡いだ命を。失われてしまった命を。狂気に囚われてしまうほどに・・・。
愛故に狂い・・・・、狂気に囚われ・・・・・、そして、
「―――――その《罪》は私を捕らえて離さなかった。赤ちゃんがお腹に戻ってくるという幻想に溺れ、それを現実にしたいと願えば、腕は勝手に人を殺し、口は勝手に血肉を啜った・・・。
何度も、何度も――――。」
そして、闇に嵌っていった、まるで蟻地獄のように己と周囲を巻き込んで・・・・。
流された血がより一層この女性とこの坂を《邪気》に染めた。
「自分はもう死んでいて、この世界の人間ではないと分かっているのに――――。」
それは、―――――俺が始めて聞く《魂の慟哭》だった。
「もう・・・・・、いいんだよ。貴女は血を流さなくてもいいんだ。」
すると、その告白に言葉もなく動くことも出来なかった俺の目の前で、緋月様がその慟哭する女性を柔らかく抱きしめられる。なんともいえないような、それでも、労りと大いなる慈悲に満ちた神々しい表情で。
「もう大丈夫だよ。安心して。《邪気》は封印したわ。もう貴女は虜じゃない。きっと、其の子の元にたどり着けるよ・・・・。」
するとまるで続くように、伊涼もゆっくりと微笑んでその女性に手を差し伸べる。触れられないと解っているハズなのに。
こういう時に俺は思い知らされる、女性の持つ強さを。男には真似できない心の柔軟さを。
「―――――こんなに愛されてたんだ。きっと其の子も、今度も貴女から産まれたいって思っているよ。そして、貴女に育ててもらいたいって。またお母さんになって欲しいって。
だから、きっと貴女を待っていてくれる。これから貴女の行く場所で、まだかな?って待っててくれるよ。――――早く言ってあげなきゃな。」
腕の中の女性の髪を優しく撫でながら、緋月様はまるで聖母のような微笑を浮かべる。
それは・・・・全てを癒し許す慈愛の微笑み――――。
そして、その背後を照らす柔らかく暖かな光の球体が、まるで後光のようで・・・・。
「心配しなくてもいい。貴女の流した血と《罪》はオレが代わりに負ってあげられるから・・・。」
「本当に?。本当に―――?。」
「ああ・・・。」
「嬉しい・・・。ありがとう・・・・。」
その女性の言葉と共に《邪気》が本当に晴れていく。この坂に暖かい光が満ちていく。
「ありがとう・・・。」
そうして、女性は光りの中へ溶け込むように消えていった。
あとに残されていたのは、さっき伊涼が封じた一枚の符――――――。
「消えた―――――。」
「いったんだよ。きっと、自分が本当にいきたかった場所へ・・・。やっと・・・・。だから、喜んでやらなきゃな・・・。」
緋月様・・・・・。
だが、伊涼の方は、緋月様のようには納得し難いという表情だった。
「《邪気》にとり憑かれ、苦しむ為だけにこの世界に縛り付けられる・・・。」
「伊涼、そんな顔をするな。俺たちは其処から彼女を救ったんじゃないか。」
「でもッ!。あの人は悪くないよッ。私―――、彼女の気持ち分かる気かするものッ・・・。
・・・・なのに。《邪気》にとり憑かれるなんて――――――。」
ある意味、とても女性らしい心情ってヤツなんだろう。男の俺には、きっと一生理解できないのかもしれない。だが・・・・。
「・・・・・・・。何が《罪》で何が《罪》ではないのか・・・・。どうして《邪気》は彼女を選んだのか?。はっきりとは分からない。だが、これだけは確かだ。《罪》を持たない人間なんていやしない―――。」
「俊―――。」
「彼女の言うように、犯した《罪》が《邪気》のとり憑く拠り所となるとすれば、誰もが《邪気》に狙われる可能性があるんだ。・・・・・無論、それは俺たちだって例外じゃない。」
心に走る、苦い想い出。
そう、あの時差し伸べられた手がなかったら、俺も落ちていたかもしれない・・・・・闇に。
「そう・・・例外じゃない。でも、それは自分自身で選ぶんだ。己の心に負け《罪》囚われるか、それとも、それを乗り越え克服し、己の未来の為に前へ進むか―――――。人はそうして生きていくんだ。それを繰り返して・・・・。」
緋月様・・・・。ああ、なんという心に響くお言葉。(ジーン)
「だが、俺たちは《邪気》を封じる事ができる。もう彼女のような不幸を生み出さない為にも、俺たちは一日でも早く全ての《邪気》を封印するしかないんだッ―――――。」
其れが、俺たちに今ある《力》の意味なんだと思う。きっと――――。
「・・・・・。うん。そうだね。・・・・。」
伊涼、お前にそんな表情は似合わないぞ。
調子が狂うから、さっさといつも調子に戻ってくれよ。
ともかく、一件落着はした。(本当にまだ一件だけだが・・・)
俺は姿勢を正して、まだ彼方を見つめられていた緋月様に向かった声をかけた。
「どうあれ、自分たちは彼女――――――。いや、この坂から《邪気》を祓うことが出来ました。これも、一概に氏神様のおかげです。」
いや、正しく。なにせ、緋月様がいらっしゃらなかったら、最初の鴉の段階で俺たちはズタボロだったろう。情けなくも・・・・。
「緋月様ッ!。お力添え感謝いたします。」
もう、日本海溝よりも深く深く。
「うん。ありがとう、龍那ちゃん。」
だから、伊涼。ちゃんは止めろ、ちゃんは!!。無礼だといったら無礼なんだぞ。
さっきの御力やお言葉を聞いて、まだそんな呼び方ができるとは、信じられん神経だ。
って、ここまできたら、これ以上俺が何を言っても無駄かもしれんなあ。(溜息)
「《邪気》を封じた符・・・・。こいつは緋月様のお力で管理して下さい。二度と人にとり憑くことの無いように――――――。」
「うん。分かった。頼むぞ、ピカ。」
『はーい。わっかりましたぁ。』
そういって、緋月様が先ほど戦闘に使った符と一緒に封印した符を光の珠に差し出すと、次の瞬間には全ての符が光に溶けて消える。
どうやら、符はあの光の珠が(ピカというとおっしゃっていた。何かポケ○モンみたいだな)が管理しているらしい。
だが、例外的に―――――。
「あ、そうそう♪・・・ありがとな。(チュッ)」
「・・・・・☆。」
『あうううっ(汗)。』
先ほど戦闘のキメ技に使われ、女性を慰める間もずーっとその手に握り締めたままだった符だけは、・・・・・そ、その、さりげなくキス(?!)されてから、ゴソゴソと違う場所に仕舞い込まれたのだ。
―――――さっきとり出したのと同じ胸の谷間に・・・・・(汗)。
あ、あ、あ、あ、あの符は一体??。
だが、いかに疑問に思おうか女神様に対する礼儀を弁えて沈黙を保っていた(何か、本当に深い事情がおありかもしれないじゃないか)俺と違って、既に平素の状態に戻っている為己の好奇心の為には容赦がない伊涼がそのまま引っ込んでいるハズがなかった。
「ねえねえ、龍那ちゃん」
「ん?。何だ、伊涼ちゃん。」
「さっきから其の符だけは《特別扱い》って感じなんだけど。何か意味があるの?。」
「うきゅっ?!。(ポッ)」
伊涼、お前なんて真正面からのツッコミを。(しかも、またちゃん付けか)
「あの・・・・・、その・・・・・、この符は・・・・・(困)。」
顔を真っ赤にして、胸に手を当てたまま焦る緋月様。
そういえば、前に閻羅様に聞いたことがあった。符は《邪気》や式神・法術以外にも、《人の想い》や《念》などが昇華・凝縮された物もあると・・・・。
って、あの、緋月様。その反応はなんだか・・・。
「もしかして、その符の結構カッコイイ人って、龍那ちゃんの恋人?。」
「あうううっ(焦)。」
伊涼の一気に核心をついた追求に、顔を苺のように真っ赤に染めたまま、頭をブンブン振りながらワタワタと焦りまくる女神様の姿。
そのモロバレな態度だけで、伊涼の問いを肯定しているも同然です、緋月様(泣)。
(それにしても、相変わらす目聡いな、伊涼。あの状況で、符の人物の容姿までチェックしているとは・・・。って、結構カッコイイっって本当なのか?!)
「あ、あの、ち、違うんだ。こ、恋人なんかじゃなくて・・・。そりゃ、オレはとっても・死ぬほど・この世っていうか、世界で一番大好きなんだけどだけど・・・・。ずっと一生一緒にいたくて、離れたら胸がつぶれちゃうほど好きなんだけど・・・。アイツの方も、オレとずっと一緒にいてイイって言ってくれて、抱きついたりキスしたりしてもイイ程度には好きだって判ってるんだけど・・・・。でも、そんな恋人なんて立派なもんじゃないんだ。そりゃ、ホントにそうだったら、オレは嬉しいんだけど。アイツにはアイツの都合ってもんがあるしぃ・・・。オレが勝手にそんなこと名乗れないんだ。ふみゅ。」
あの・・・・、それは立派な恋人同士っていうと思うのですが・・・・(汗)。
「ええ――ぇ!!。違うなんて、嘘!。だって、その指輪ってその人から貰ったんじゃないの?。普通、そういうのって、恋人同士っていうんだよ、龍那ちゃん。」
伊涼、お前本当に目聡いな。
確かに、言われてから改めてよく見ると、緋月様の形のよろしい指、それも左手の薬指には白銀に輝く指輪が・・・・。しかも、その簡素なデザイン(多分、プラチナ製・輝石なし)の指輪は、はどう見ても婚約指輪(エンゲージリング)などではなく、結婚指輪(マリッジリング)??!!。
ま、ま、まさか、緋月様が人妻?!!!。(んな、馬鹿な☆)
「ち、ち、ち、ち、違うよお。それってば、伊涼ちゃんの誤解だ!。これは・・・、その、・・・お古の貰いモノで、・・・仮免みたいなモンで・・・。そりゃ、実際指に嵌めてくれたのはアイツなんだけど・・・・。アイツも一応ペアのモノを嵌めてるハズなんだけど・・・。」
だから緋月様。それでは違いません。思いっきり肯定してますってば(涙)。
こうなると、伊涼も殆どムキになっている。
「じゃあ、龍那ちゃん、聞くけどね。お互い好きあってて、抱き合ってキスして、更に指輪も嵌めてて。なんていうのに恋人同士じゃないなんて、絶対に違うよ。それが違うっていうんなら、他に何て言ったらイイの?。一体どんな関係なの?。」
「えーっと・・・・、《アジア一のラブラブな関係》。(キッパリ)」
ズンベシャッッ☆
緋月様のあんまりな御言葉に、その場で派手にけっ躓いてしまった俺は、あわや坂から転がり落ちるところだった。(《邪気》を封印し終わった坂で、その直後に病院送りになるのは、いくらなんでも情けなさずぎるじゃないか)踏みとどまれたのは、単なる運である。
「だから、そういうのって恋人同士っていんだってばぁ。」
「違うもん。とってもラブラブな相棒だもん。」
二人の不毛な言い合いは、まだ納まる気配がない(汗)。
『おにいさん、おたがいファイトだよ。さきはながいから・・・。』
そうだな。まだ封じられた《邪気》は一つめだし・・・。
しかし閻羅様、本当に俺たちは無事《使命》が果たせるのでしょうか・・・(溜息)。
そうして、その後俺たちは、家路に向かう道すがら緋月様から詳しい事情を伺った。
と言っても、閻羅様はかなり慌しくかつ一方的に緋月様との引継ぎを行われたらしく、緋月様ににとっても怒濤の出来事だったらしい。
いや、閻羅様が結構唐突な行動をされる方だというのは、俺には周知の事実だったんだが。
「――――――まさか、閻羅様がそんな御話しをされていたとは。無論、そういう事であれば、自分たちは緋月様を精一杯歓迎いたします。」
というか、この状況でこんな強く且つ超絶に麗しい女神様を歓迎しない人間の方がオカシイ。
諸手どころか、両足まで揚げたいくらいである。(その有難い代理氏神の人選ををなされた閻羅様にも大きく感謝せねば)
たとえ、ヘンなオマケ付でも。売約済みでも・・・・(涙)。
「新しい氏神様って訳ね。」
ここまで来て、何を今さら。
ところで、伊涼。お前、また目つきが怪しいぞ。さっきの殊勝な表情はどうした!!。
なんて、四方山な話をしている間に俺の家に着いた。そのまま、庭の一角にある閻羅様がご滞在為されていた場所までご案内する。
「――――さて、着きました。これが我が家に代々伝わる――――由緒ある氏神様の祠です。」
そうして、指し示す小さな祠。閻羅様は、大層重宝がっておられたんだが・・・。
「閻羅様はこの祠に住まい、自分たちを見守って――――?。緋月様、どうなさいました??。」
な、何だ?。何故、緋月様がそんな戸惑った表情をなさるんだろう??。しかも、俺の頭の周りをグルグル回りながら点滅を続ける例の光りの珠。
それに、これはまるで針を投げつけてくるような伊涼の視線。
『これって、ちょ――っとナニなガイカンだとおもっちゃうんですけどぉぉ。りっちじょうけんはもんだいないみたいだけどねぇ。』
「こら!、ピカ。うきゅ。あの・・・え――っと・・・・・。」
あうううう(汗)。その・・・・・モジモジされると、後ろの尻尾が揺れて、すばらしく御可愛らしいです、緋月様。
「ははあ。やっぱりね。」
伊涼。お前のその勝ち誇ったような笑みは、一体?。
「やっぱりぃ?!。」
「考えてもみなよ。こんな(コ汚い)祠を前にして、『今日からは此処が貴女の住まいです。』なんて言われたら、誰だって戸惑うよ。古い、汚い、狭い。イイとこなしだもん。」
はううううう(汗)。耳に痛い。お前、それは言葉の暴力ってヤツだぞ、伊涼。
「私が龍那ちゃんの立場だったら、今のだけで3万ポイントは減点するね。(ニヤッ)」
「くッ――――――。」
さ、3万?!。いくらなんでも4ケタは減点しすぎだぞ、お前。
・・・って、俺の現在の持ち点は一体何点なんだ?。
きっと、マイナス領域じゃないと信じたいんだが・・・。なんせ、付き合いが古すぎて何処から計算していいのか判断できん。
いや、計算不能な伊涼はおいて置いて、緋月様に関しては、俺はイキナリマイナススタートということか?!。(それも4ケタ)それはちと悲しすぎる。なんとか何処かで挽回せねば。(グッ)
「・・・・(キョトン)。3万ポイント減点って、何をだ、伊涼ちゃん?。」
「えっ?!。」
緋月様??。
「えーっと、ほら普通、ちょっと気になる人とか、彼氏の評価基準っていうのかな。プレゼントしてくれたから千点プラスとか、デートに変なことをやったら五千点マイナスとか。どんなに好きだって、イロイロ乙女の都合とか心情ってあるでしょう。龍那ちゃんとかは、やんなかったの?。さっきのカッコイイ彼氏とかさ。」
「やんなかった。だって・・・・、アイツに点数なんてつけらんないよ。(ポッ)」
これまた、桜色に頬を染めて伊涼に答える緋月様。無意識なのか、さりげなくブンブン振られる左手の指にある光が目に痛いです、緋月様(涙)。
「点数つけられないって・・・・。そんなにポイント高いってこと?。」
「ううん。そうじゃなくってぇ。もう、アイツってば、顔良し、体良しで。オマケに腕も良し。すっごぉ―――く強くてカッコ良くってさ。」
これ以上はないというくらい、幸せそうな緋月様の声。
それにしても、顔に体に腕っ節か・・・。やはり、氏神様でも顔が良い方がいいんだろうか?。
「なんていうか、こう精悍で、でも愛嬌があって。頭は良いんだけど、学校の勉強は苦手なんだ。でも、そこはオレが面倒みてやれるから嬉しいし。ちょっとヌケてるところもあるんだけど、そこがまたお茶目で可愛いし。」
あううううう。愛嬌。俺には逆さに振っても出てこない。
オマケに、ヌケてるところがお茶目で可愛い、可愛い、可愛い・・・・・(そのままエコー)
「結構(っていうか、かなり)スケベなんだけど、その分女の人には分け隔てなく優しいんだ。おかげで、こんな半端モノのオレにまですんごく優しくって気をつかってくれてさ。オマケに、この間《今度からスケベはひーちゃん限定にする!》って言ってくれたし。あうううう(ポッ)。恥ずかしいこと言っちゃった。」
す、スケベぇぇぇ。おまけに、女の人に分け隔てなく優しいって・・・・。それって、一般的には《女たらし》とか《ナンパ野郎》っていいませんか?。
それに一体なんなんです、その《ひーちゃん限定スケベ》っていうのは!!。
(察するところ、《ひーちゃん》とは緋月様のことを指すようだが)―――――それって、つまり《緋月様だけには遠慮なくスケベなことをする》ってことなのか?!。
な、な、な、な、な、な、なんて事を。いったいどんな奴なんだ、その不埒な男は。
(って、あの符の奴なんだよな。あの《神速の剣士》の・・・)
「・・・・そんで、髪の毛の手触りも良くって、暖かくて抱きごこちよくって。本当に、オレなんかが点数つけるなんて、身の程知らずなことできないよ。にゅにゅにゅ。オレの方が、アイツに捨てられないようにガンバんなきゃって感じなんだ。」
だうううううう。緋月様。俺、頭がグラグラしてきました(涙)。
「つまり、仮に点数をつけるとしたら、那由多とか無量大数レベルになっちゃうくらいで、しかも、たとえどんなことがあっても減点できない好きだってことだよね。っていうか、減点対象になるどころが、どんなことでもポイントが上がちゃうんで点数つけても無駄と。」
「うん(キッパリ)。・・・って、そんなにハッキリ言われると、照れちゃうなあ、オレ。(テヘヘ)」
「照れることないよ、龍那ちゃん。そんなに好きになれる人に出会えたなんて、すっごく素敵なことだから。うらやましいなあ。なんかもう、《世界一のラブラブ》って感じ。」
「ふみゅ。世界一だなんて・・・。オレ、そこまではまだまだだよぉ。でも、ありがとう、伊涼ちゃん。伊涼ちゃんて、すっごく良い人だ。オレ、知り合えて嬉しいや。」
「そういってくれると、私も嬉しいよ、龍那ちゃん♪。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あの、すいません、緋月様。俺、ここで砂を吐いてもいいでしょうか?。(砂糖も吐けます)
『ガンバレ、おにいさん!。まけないで!!。』
すまない、ピカ君。俺、なんか【衰弱】の符を喰らったみたいなんだ。(汗)
(↑HP半分)
とりあえず、これ以上精神のHPが減られては堪らないので、俺は精一杯の努力で話題を戻す。
「・・・・ま、まあ、見た目は冴えませんが、この祠は大地の【氣】の流れの上にあり、氏神様の消耗した【氣】を癒す事ができるのです。(グッタリ)。」
そうだ。何事も外見じゃない、中身だ。
(だから、ポイントも彼氏の話も今は忘れて下さい、緋月様)
判ってるのか、伊涼。この服装倒錯趣味着せ替えマニア。どんなに外見を飾り立てても、中身がモンダイなんだぞ。
「あっ、それは私も聞いたことがある。」
「ふっ。(フッカツ)」
勝利☆。そして、さらに追い討ち。(ここで伊涼には、釘を徹底的に打っておこう。緋月様の為だ)
「ところが、それだけではないのだ。伊涼ッ。」
「ええッ?。」
「うにゅ?。」
『へえぇ。』
「緋月様。自分は以前閻羅様から氏神様がそのお力を保つ為に有効な何かがこの祠の中にあると言う話を聞いた事がありますッ。残念ながら、それが何なのかまでは我々には分かりませんが。緋月様のお役に立つのは間違いないハズです。」
絶対に立つ。役に立ってくれねば、俺が困る。なんせ、初っ端から減点3万ポイントなんだから。
ここで大見得きったのに、実は役立たずでしたなんてことになったら、一気に10万点くらいは減点されそうだ。
いや、《那由多ポイント減点不可能の彼氏》がいらっしゃる以上、俺が何ポイントでも、緋月様にとっては所詮は無駄なあがきかもしれないが・・・。
「龍那ちゃん。今日はお疲れさま。龍那ちゃんみたいな氏神様が来てくれて、私嬉しいよ。《邪気》は怖いけど・・・。また、よろしくね♪。」
やっぱり、ちゃん付け。伊涼、お前、最後まで不埒な野望を捨てとらんな。
「伊涼ッ!!。せめて最後くらいは氏神様に感謝の意を込めてだな・・・。」
「もう、堅いこと言わない。閻羅のおじいちゃんならまだしも、龍那ちゃんに敬語使う気にはなれないよ。仲良く慣れそうだもん。ねえ?。」
「うん。オレも、神様扱いなんてされるよりも、友達になりたいよ。(ニパッ)」
「えへへ。そうだよねッ。龍那ちゃんは、氏神様っていうより友達って感じだよ。」
「うきゅ。もう友達だよ。」
「・・・・・・。」
だううううう(涙)。それでは、俺の立場はどうなるんでしょう、緋月様。
だが、確かにそれも一理ある。
閻羅様と緋月様―――――。老爺と(超)美少女では、とても同じ氏神様とは―――――。
(しかも、バニーさんでメイドさんで、あんなに可愛らしくても、売約済・・・・・)
・・・・ん?。い、いかんッ!!。俺としたことが―――――!!。
危うく伊涼の術中に嵌るところだった。このまま伊涼と緋月様が《私達親友だよね♪モード》に入られてしまったら、緋月様は伊涼の着せ替え服装倒錯の餌食一直線じゃないか!。
(しかも、俺の立場がない!)
いかん、負けるな、俺!!。
そう奮起した俺を、だが緋月様は、(無意識だろうが・・・)更に追い落とされる(泣)。
「あっ、でも・・・、俊はオレのこと《龍那》って呼ばないで欲しいんだけど・・・。」
はい?!。そりゃ、元々呼び捨てなんて、無礼なことするつもりは毛頭ありませんでしたが。
あの・・・・俺、何か御気に障るようなことでもいたしましたでしょうか?。
「はあ・・・・。(コックリ)」
「えっ!。どうして俊だけ駄目なの?、龍那ちゃん。」
「だって・・・・。」
これまた、頬を桜色に染めて、緋月様。
「アイツが嫌がるんだ。・・・・オレの名前を他の男に呼ばせるの。(ポッ)」
ガックン★
思いっきり膝から力が抜けた。
そ、それはあんまりな御言葉です、緋月様(涙)。
「つまり、彼氏だけが特別ってことだね。ほんとにラブラブだね、龍那ちゃんのところは。」
「うきゅ。ラブラブなんだ♪。」
・・・・・・・・・・・・(汗)。
『あの・・・・、おにいさん、ダイジョウブ?。』
すまない、ピカ君。今度は【猛毒の沼】の符(←問答無用でダメージ20喰らう)を出されたようなんだ(涙)。
(お、おのれ、《神速の剣士》!!。全部、お前が悪い)
それでも、俺は勧請師としてのなけなしのプライドを総動員して体勢を立て直す。
「緋月殿ッ!!。」
妥協点。そして、少しだけでも伊涼を牽制せねば。
「この町に漂う《邪気》は、今日。自分たちが封印したものだけではありません。《邪気》が哀れな境遇を背負ってしまった人間の心を捉える―――――。あのような悲劇を生まない為にも一日も早くこの町の全ての《邪気》を封印する必要がある―――――。その為にも緋月殿には、またお力を貸していただくことになると思います。」
そう、其れが俺たちに与えられた使命。第一優先事項。
住宅事情だの、ポイントだのにかまけて忘れてはいけないのだ。
特に、お力を振るわれる時は、目に嬉しいメイドさんだし・・・・。
「うん。私も一緒に闘うよッ。龍那ちゃんの力があれば、《邪気》だって怖くないッ☆。何だか、やる気出てきた―――――。」
なんという現金なヤツだ。
第一、お前の場合、緋月殿の御力があればじゃなく、緋月殿を着せ替え人形にできればだろ。
ちゃんと本音を言え、本音を。
「はははッ。」
「何よぉ、俊。(プウッ)」
「これからももう一つ行けそうな勢いだな、伊涼。」
どうせ、今から家に帰ったら、(緋月殿用の)服だのアクセサリーだのの資料を集めまくる気に決まってる。その気力があるんなら、《邪気》のもう一つくらい封印なんぞ軽いモノだろ。
「あ、あのねぇ―――――。」
こら、伊涼!。お前、鈴を出すなって(汗)。
「・・・・(汗)。冗談、冗談。緋月殿もあまり気張らず、今日のところはゆっくりお休み下さい。緋月殿のお力が万全であれば、自分たちはきっと《邪気》を封じることが出来る・・・・。そう信じています。」
「そうだね。これからよろしくね、龍那ちゃん。」
「うん。有難う二人とも。オレも頑張るから。」
じゃあね。と、微笑まれて緋月殿は祠の方に消えかけて・・・・。
って、消えない?!。
何か言い忘れたことでもあるのか、緋月殿はクルリと振り返られ・・・・。
(揺れる耳とシッポが、激烈にお可愛らしいぞ)
「・・・・・・なあなあ、俊。聞いてもいいか?。」
「はい。何でしょう、緋月殿。」
一体なんだろう?。
「この祠の中って、台所はあるのかなあ?。」
「はい??!。」
だ、台所ぉ???。
「だって、オレ、ご飯とかおやつ食べたい。どう見たって、食べ物とかは無さそうだから。自分で作るしかないかな?って・・・。」
おやつ、おやつ、おやつ、おやつ、おやつ、おやつ、・・・・・・・(汗)。
『・・・あのねえ(汗)。またバカなことをいって、おにいさんをこまらせたらダメでしょうが!。あなたいま《うじがみ》なんだよ。たべなくてもしなないんだよ。おなかもへらないの!!。』
「お腹がへらなくっても、甘いモノ食べたいもん☆。買って来いなんて、頼めないじゃないか。」
『なんどいったらわかるの!!。あなた、いまじったいじゃないって。たとえ、カンジョウシのおにいさんが30号ホールケーキをさしいれしてくれたって、ぜったいにたべられないの!!。』
「そんなのヤダ!!。」
『ヤダでも、ダメなものはダメなの。(キッパリ)』
「ちぇッ。・・・・折角だから、二人に挨拶代わりのプリンとかババロアくらいは作ろうと思ったのに・・・。《作業服》にはなれるから、お給仕もしようと思ったのに・・・・。」
お、お給仕ぃぃぃ?!!。
「りゅ、龍那ちゃん。お給仕って・・・・?。」
「・・・・うん。さっき戦闘の時に来てた服って、本当は《汚れても構わない作業服》なんだ。本来は家事をする時に着るんだけど、戦闘でこの制服が汚れたら困るから、仕方なく間に合わせに着てた。」
《汚れても構わない作業服》――――た、確かに間違ってはいないが・・・・・(汗)。
「そう・・・。あれは間に合わせなの。つまり・・・、《汚れても構わない戦闘用の服》なら着てくれるのね。(フフフッ)」
伊涼。今、一瞬、お前から《邪気》が・・・・(汗)。
「アイツ、この格好でご飯とか作るとすっごく喜んでくれるんだ。だから、俊や伊涼ちゃんにも喜んでもらおうと思ったのに・・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あの・・・・・。緋月殿。つかぬ事をお聞きしますが、緋月殿は先ほどの格好でいつも家事をなされるんですか?。」
何か、氏神様にするには違和感ある質問だな。
「えっ、いつもじゃないよ。アイツんちの家で家事する時か、アイツがオレの部屋へご飯食べにきた時だけだよ。」
ズベッッ★
なっっにぃぃぃぃぃ?!!。
ふ、ふ、ふ、普通、させるのか?!。自分の彼女(しかも、相手はこの超麗しの女神様だぞ)にイメクラ仕様メイド服でお給仕を!。(しかも、自分の家の家事もさせてるだとぉぉ。俺なんか、この15年間というもの、無駄にだだっ広いこの家を自力更生するしかなかったのに。ムカッ)
やっぱり、許せん。《神速の剣士》!!!(怒)。
そうして、頭の中がグルグル状態の俺と、怪しげな野望に向かって思考を邁進させている伊涼を尻目に、緋月殿は最後に深い溜息をおつきになった。
「そうすると、あれもやっぱり駄目なのかなあ・・・・・・(溜息)。」
今度は一体なんだろう。
ええい!。毒を喰らわば、皿から机まで齧れ。
この際だ。全部お伺いいたしましょう、緋月殿。
「まだ、何かご不満か疑問でもありますでしょうか。」
「うーん。・・・・・不満とかじゃなくって。これはあくまでオレの都合なんだけど・・・。」
小首を傾げて緋月様はおっしゃった。
「オレ、ぬいぐるみ抱いてないとよく眠れないんだ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)
「いつもは、《みゃー》っていう大きいライオンのぬいぐるみをダッコしてるんだけどさ、アイツが泊まりに来る時以外は。」
と、と、と、と、と、泊まりにくるぅぅ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗×5)
「アイツがいる時は、アイツをダッコしてれば良かったけど。・・・・・・あっ、アイツってば、とっても暖かくて【氣】が気持ち良くって抱きごごちいいんだよ。フカフカじゃないけど。」
だ、だ、だ、だ、だ、ダッコしてねるぅぅ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗×10)
「でも、流石にこの符じゃ暖かくないし。髪の毛のフサフサの手触りないし。ギュッて出来ないし。困ったよなあ。実体ないんじゃ、代わりのぬいぐるみの調達もできないしぃ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗×20)
「なあ。どうにかならないかなあ?、俊、ピカ。やっぱり、安眠できないと、休息にならないと思うんだけど・・・・・・(ジーッ)。」
あうううううううううう(汗)。お、お願いですから、緋月様。そんな瞳で見つめないで下さい。
そんな瞳をされると、俺、自分がとんでもない悪人になったような気がするんです(泣)。
それに、やっぱり俺にはどうもこうもしようがないです。っていうか、俺にはもうまともな思考能力がありません。(ガックリ)
『・・・・・しかたないなあ。(溜息)』
そして、こちらも脱力しきった声がして・・・・・。
ポンッ☆。
俺の目の前で、イキナリ光の珠が変化した。―――――――――ぬいぐるみに(汗)。
大きさはだいたい40pくらいの人型(殆ど、等身大ピ○チュウと同じだな)、何故か黒い学ラン姿(それも改造単ラン)で白い靴。髪の毛も、前髪と後ろ髪の色が違う(前髪部分が赤茶。後ろが黒。なんかロッカーじみた色合わせである)という、可愛いが異色な作りになっている。
「やだ、可愛い♪。」
伊涼、お前、少しは状況に疑問を持て!!。
「ピカ・・・なのか?。」
『そうだよ。』
ぬいぐるみがプカプカ宙に浮かんだままでコックリと頷く。
『おれでもこれくらいならなんとかできるからさ。あんみんできないとレイリョクカイフクできないからしょうがないしね。しゅっけつだいサービスなんだから、かんしゃしてよ。(エッヘン)』
だが、緋月様はご満足なさらなかった。
「木刀がない。(キッパリ)」
『はううううう(汗)』
「髪の毛の色が半分が違う。(更にキッパリ)」
『あううううう(汗)』
「出血大サービスっていうんなら、そこまでしろ。(思いっきりキッパリ)」
『るるるうぅぅぅぅ(号泣)。わかったよぉぉぉ。やればいいんでしょ、やれば。(ヤケクソ)』
次の瞬間、その《ピカ変化・神速の剣士モドキぬいぐるみ》の背中には紫色の布に入った棒状のモノが括り付けられていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)
(あれが多分木刀モドキなんだろうなあ)
『これでもんくないでしょ。かみのけのいろくらいはゆずってよね。はんぶんはおんなしいろなんだから。』
「うん。わかった。・・・・・・わーい♪、フカフカ。」
ぎゅむっ☆
緋月様は、心底満足そうな至上の笑顔を浮かべられて、そのぬいぐるみを抱きしめられる。
『ちょ、ちょっとくるしいってば。』
「えへへ♪。髪の毛も同じ感触。エライぞ、ピカ。ご褒美に、今晩は子守唄唄ってやるからな。」
『そんなの・・・・、いら・・な・、って、くるし・・ぃ・・。(グエ)』
「くふふ♪・・・・・。」
そうして、喜色満面の緋月様は、
「こーれで問題解決。今度こそ本当に、じゃあな。俊、伊涼ちゃん」
と、見惚れるような微笑を残し、祠の中に消えて行かれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗×30)
「・・・・・俊。」
「何だ、伊涼。」
いっかな強心臓のお前といえども、疲れたか?。
「・・・・さっすが、龍那ちゃんよね。やっぱり《お約束》をちゃんとやってくれたわ。」
はあ?!。お、《お約束》ぅ??。
「《変身美少女には、ぬいぐるみモドキの口煩いお目付け役が必須》。これぞ、真理!。」
ズンベシャッ☆
「あれ、俊?。なに自分ちの庭でけっ躓いてのよ。ちょっとマヌケだよ。」
「・・・・・・・・・。」
「もう、しかたがないなあ。あ、私も帰るね。早く帰って資料そろえて、あと、カメラの準備もしなきゃ。大丈夫。私も巫女だもん。ちゃんと《邪気》の封印できたんだから、《念写》くらい出来るハズだもんね。」
ね、《念写》ぁ。お前、まさか緋月様を撮るつもり・・・・・なんだろうなあ(溜息)。
「じゃあね。俊。また明日。」
「ああ・・・・。」
もう、どうなとしてくれ(泣)。
――――― その夜。
我が家の庭からは、透明な、それでいてまるで夢のような美しい歌声が響いていた。
それは、まさしく天上の旋律。女神の歌声。
――――――― 孤独に震えて挫けそうでも、貴方を思えば暖かくなる
耳を澄まし、目を閉じて、遠い日の夢をみよう
いつでもその愛に導かれてここまできた・・・
どこにいても感じてる、貴方の優しい瞳
いつか逢えるその日まで見つめていて
星のララバイ・・・・・・・
どうやら、本当に緋月殿はあのぬいぐるみモドキの為に子守唄を唄っておられるようだった。
それが、例の彼氏へのラブソングに聞こえてしまうのは、俺の気の所為なんだろうか?。
風は流れ、星は巡り、幾度月は満ち欠けて
遠い夢も必ず叶うこと、信じている。
いつか逢えるその日まで見つめていて・・・・
そうして、昼間散々にノロケられて脱力しきっていた俺にとっては、なにか子守唄でまでノロケられているようで、余計に気持ちがメリ込んでいった。
とりあえず、その唄を聞きながらを心に誓ったことが一つ。
―――――――――《神速の剣士》。いつか・・・・・・。
貴様の邪気、祓ってやる!!!!!!!。
⇒ 3へ続く☆
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