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はい、《下》です。ここからが勝負の本番。乱入有り、暴走有り、オマケに長さと言ったら更にここから《上》の1.5倍くらい長いです。(汗)
それでもイイと言う方はこのまま読み進んで下さい。
断っておきますが、色物ですよ。(笑)


 では、本文の続きにいってみましょう♪。


 ACT.6 非乙女的恋愛講座 《下》



* 京一



「じゃあな。俺はひーちゃんが待ってるから、もう帰るぜ。」
俺は、其処にいた仲間達にそう言い残して、真神学園を後にした。
フン。あの根性曲がりのスカシ亀とその他共、これだけ疲れさせとけば(ゆうに30階分は降りたからな)、これから俺の跡を付けて来たり、俺んちにひーちゃん目当てで押しかけてこようなんて気は起こるまい。体力勝負なら俺に軍配が上がるんだよ、あの亀優男。
まあ、俺の方も劉のヤツが突然助っ人に来てくれて【活剄】かけてくんなきゃ、ちょっとヤバかったが………。(アイツ、本当に何考えているかわからんヤツだな。助けてくれたのは感謝してるけどよ)
今日は、朝と昼と両方共ひーちゃんの手作り御飯(弁当)を食ってんだ。この程度の疲労なんざどってことねえわ。
しかも、これからまたひーちゃんの手作り晩御飯が待ってるんだぜ。それを考えただけで、足取りも軽くなろうってモンだ。
そう考えながら、俺は足早に家への道を辿る。勿論、念の為だが、気配を探って誰も跡を付けたりしてこないことを確認しながらにだ。(侮れん奴等が多いからな)
こんなに《早く家へ帰りてえ》なんて考えたのは、何年ぶりだろう。しかも、腹が減ってる所為じゃなくよ。やっぱり、家で待っててくれる人間がいるってことは、気持まで違ってくるモンなんだなあ。
俺は、その(多分、きっと)待っていてくれるであろう《奇跡の女神様》のような俺の想い人兼相棒に、想いを馳せる。
だが、その《女神様》のことを思い浮かべた途端、そこで、本来なら浮き立つであろう俺の気持は何故か重く沈んできちまった。(足取りは変わらねえんだが)
実は最近ちょっと悩んでる事があるんだよな。当然、それはひーちゃんについてなんだが。
この間の一連の騒動で、ひーちゃんが俺のことを《キスしてもOKなくらいには、ただの相棒以上な存在》に想っていてくれることはわかったんだ。
しかも、公衆の面前で《オレと京一は東京一のラブラブ》なんて激烈に嬉しいことを公言してくれちまうんだぜ(いや、初めて聞いた時には、流石の俺も照れ臭さの余り思考が麻痺しちまったもんだ)。
それでまあ、最初は浮かれ上がって『これなら焦ってコクること無いかもしんねえ』なんて一瞬思っちまってたんだがな。
ある時ハタっと思いついちまったんだよ、怖い考えをよ。それがあんまりにも説得力があるんで、頭の中から振り払えねえんだ、ここ2・3日の間。
それでまた眠れねえ夜を過ごしてるんだから、まるで修学旅行前に戻っちまったみてえで、マジで笑えねえ。
その考えってのは………、なんつうか、俺ってひーちゃんにとってはあくまで《相棒の延長線上で大事な存在》ってだけで、《恋愛対象としての男》として認識されてないんじゃないかっていう弱腰な考えなんだよなあ。
なんせひーちゃんは《人外魔境のお人好し》って言われてるくらいで、ひーちゃんの《特殊事情》を知る前の俺が《そこにつけこめばキスくらいはOKかもしんない》なんて思っちまったくらいなんだから、実はひーちゃんにとってキスはたいしたことじゃあないかもしんないし。
度々俺の理性を追い詰める《あんな格好》の時も《こんな格好》の時も、あんまりにも警戒心が無さ過ぎて(しかも俺だけに)やっぱ男として見られてないんじゃないかって不安になってきちまったんだ。気を許してくれてるんだなあって、喜べないんだよ。
実際、《弟》と見なしているらしい劉のヤツにも警戒心を欠片ッ足りとも持ってないしなあ。
更には、俺を喜ばせてやまないあの《抱き付いてほっぺスリスリ攻撃》も《髪の毛撫で撫で》も、いわはんや、最近の《キスして・上目遣いのおねだり攻撃》がアッサリと繰り出されてくるところなんか、もしかしなくても《ペットにジャレついて、ジャレつかれてるのと同じ感覚》なんじゃあないのか?、なんて思っちまったんだよ。
だってよう、この前ひーちゃんの部屋で理性が滅殺されて押し倒しちまって《寸前》までいってたのに(マジでヤバかった。流石に冷静に考えてみると、コクる前にアレはマズイかった思ってるんだ、俺も)、その後全く平然としてたんだよ。まるで《たいした事じゃないよ。こんなの犬に噛まれたみたいなもんだ》って感じでよ。
普通は、あんな事されたら意識しちまって警戒心もたれるとか(なんせ、痴漢呼ばわりされても仕方が無いことだったし)、最低でも《一歩引かれる》なんてことくらいはあるんじゃないのか?、一人の《男》と認識されてたらよ。
あの《俺たち東京一のラブラブ》発言も、あんまりにもノホホンと乱発されるんで、感覚的には『オレはうちのワンちゃんをこんなに愛してるんだよ』っていうのと、同じなんじゃないかと思っちまえるんだよなあ。
とにかく、考え始めると端から端から説得力がありすぎる事実が思い出されて、マジで不安になってきちまうんだ。
《ペット(動物)と同レベル》なんて、あんりにも情けなさすぎるじゃねえか。
畜生!!。卑屈だ、卑屈すぎるぞ、俺。
どうしてこう、ひーちゃんに関することって、弱腰っていうか卑屈極まりない情けない思考になっちまうんだろう。
やっぱ、今まで付き合った女の子達とは勝手が違いすぎるからだろうなあ。お定まりの《恋愛における常識》ってやつが通用しねえし。かと言って、常識を全部無視してるって訳じゃあないし。
なんせ、自分で言うのもなんだが、《そういうちょっとズレてる処も、なんか新鮮で可愛いじゃねえか。ああいう処もひーちゃんの魅力の一つだぜ》なんて俺自身が思っちまってる所が、終わってるっちゃ終わってる処だかんなあ。はあ…………(溜息)
結局、こんなバカバカしい考えを振り払う一番の方法ってのは、さっさと《愛の告白》っていうのを敢行しちまって、ひーちゃんの気持ちを確かめてみるしかねえんだよ。
それで、俺をちゃんと《一人の男》として好きで認めてくれてるから《ああいう行動》をとっていた、もしくは俺の行動を黙認してくれてたならそれで良し。違ったなら(つまりペットレベルだったら。それはできれば考えたくないぞ)、その時は、平身低頭で頼み込むしかねえだろうなあ、《俺を男としてちゃんと認識して付き合うことを考えてくれ》ってな。
うっ(汗)、なんて惰弱な考えなんだ。情けなさ過ぎるぞ、俺。

なんて、クサクサ考えているうちに家についちまった。
やめやめ、うじうじ悩んでるのは本来の俺の性分じゃねえんだ。
折角の、《ひーちゃんの手作り晩御飯》をこんなバカバカしい考えで不味くするこたあねえだろ。素直に、暫くは続くであろうこの幸せを享受しよう。
また不審は行動をとって変な誤解されちまって、折角進んだ今の関係までパーにしちまったら泣くに泣けねえもんなあ。(嫌われるくらいならペット扱いの方がマシだ)
よく考えたら、ひーちゃんが暫くうちに通う以上、コクる機会も増えるはずだし。

「だっだいま――――ぁぁ!!。今帰ったぜ♪。」
俺は、景気よく玄関のドアを開けてから、家の中で待っているであろうひーちゃんの為に、盛大に声を上げる。(なんか、新婚さんみたいだな♪。)
すると、バタバタという足音に続いて、ひーちゃんの返事が返ってきた。
「あっ、おっかえりぃ―――――――ぃ!!。お疲れ様だな♪。」
って、お出迎えに出て来てくれたひーちゃんは、って…………。

 ○×▲□◎◇@*▽★・・・・・・?!!!。
 ガックン☆。

「あれ、どうしたんだ?、京一。早く上がってきて、着替えてこいよ。御飯、もう出来てるぞ。」
「い、いや、ひーちゃん。その格好は…………(汗)。」
俺をドアに懐かせたそのひーちゃんの格好は……………。
なんと、野郎なら一度は憧れる《メイドさんルック》!!。
しかも、タイプは勿論オーソドックスな白いヒラヒラのヘアバンドに白いブラウス・フリル付きの白いエプロン、胸元に紅いリボンで紺色のワンピースタイプのスカート。
とはいえ、そのスカートが思いっ切り胸を強調したデザイン(名高いアンミラも真っ青だぞ)で、当然のようにスカート丈は膝上25cmにはなろうかというミニ、その下からペチコートらしきモノがひらひらと見え隠れしているんだ(グラグラ)。
更にその素晴らしい脚線美は、今までのように生足ではない代わりに白い膝上20cmのロングのストッキングをガーダーで留めているという、それだけで妙にエッチ臭い感じに仕上がっている。
おまけに、その白いブラウスは胸元がハート型にカットされているという徹底ぶりだ。(胸の谷間がもろわかりじゃねえか………。)
髪型も、いつもの黒いゴムで一括りじゃなくメイド服に合わせたように、二本に分けて編んだ三つ編みを細くて紅いリボンで結んで両サイドで輪っかになっている形になってるし。
もう、エロチック&エッチ臭さ大爆発って格好だぞ。いつから俺んちは《イメクラ喫茶》もどきになったんだよ。(こないだの《胸空きナース服》とどっちが勝つか判定がつかねえ)
ひーちゃん。もうわかってくれていると思うが、俺の理性はまだ命を惜しがってるんだ、マジで。頼むからそんなに度々暗殺を企まないでくれ、って感じだ。
「あっ、この格好か?。これは制服を汚さない為の、深青お母さんご推薦の《作業服》なんだ。まだそんなに汚してないはずなんだけど………。え――――っと、似合わないかなあ?。タマは大丈夫だろうって言ってたんだけど…………。」
おーふーくーろーぉぉぉ。あんの童顔ぶっちぎり非常識母親、何考えていやがるんだ!!(怒)。
普通はさせねえぞ!、母親が率先してこんなヤバイ格好を。しかも息子の想い人に。
息子の理性を、実の母親が暗殺企んでどうするんだよ。毎度毎度言ってるじゃねえか、犯罪なのはその非常識領域の童顔だけにしとけって。
確かに、《作業服》っていうのは間違っちゃいねえが………(汗)。だからってなあ、ひーちゃんも、まんま信じるなよ。タマがこれを止めるわきゃねえのも解かっているが。(っていうか、言い出しっぺがお袋なら、タマじゃ止め様がねえわな)
って、ひーちゃんの方はというとモジモジって感じで、俺の返答を待っている。
ヤバイ!。ここでちゃんと答えねえと、またあらぬ誤解をされる。《極寒地獄》はもうゴメンだ。
「…………(汗)すっ、すげえ似合ってるよ。あんまり似合ってるんで、どう誉めていいのか解からなかったぜ。髪型とかも新鮮だな。いや、マジで。」
これは、本当に心の底から思っていることなので、気合いっぱいで断言する。
そうだ、ひーちゃんは悪くない。悪いのは常識を蹴倒して、自分の野望の為に俺の理性の暗殺を謀っているあの極悪外道の若作りの母親だ。(いや、滅茶苦茶嬉しいのも本音なんで、一概にお袋を責められねえんだが)
「そうか?。ちょっと心配だったんだ、また目を背けられたらどうしようって。本当に良かった。わーい♪。誉めてくれて、ありがとう、京一!!。」
 ぱふっっ、スリスリィィ☆。
はうぅぅぅぅぅ。ひーちゃんの必殺《抱き付いてほっぺスリスリ攻撃》炸裂☆!!。
むっ、胸の感触が…………。うなじのラインが…………。
おい!!。保てよ、俺の惰弱な理性。状態はほぼ《ナース服》の時と一緒なんだ。あの時も保ったんだ。今回も頑張れ。いい加減に慣れて、ちっとはそのまま堪能しようっていう余裕を見せろ。
しかも、ここは俺の家の玄関先なんだ。前回みたいに、ここで理性を飛ばして我を忘れてみろ、賭けてもいいが、またぞろ【寸止め】くらった挙句、お袋の小説の《ネタ》にされて、3ヵ月後くらいには、全国の本屋に山積みだぞ。
くそう、ここが玄関でなく俺の部屋の前だったら、そのまま部屋の中に連れ込んで鍵をしっかりかけてから、コクって一気に雪崩込みなのに…………。(流石に鍵をかけちまえば、大丈夫だろう。いくらお袋とはいえ、邪魔はできんはずだ)
ところで、ひーちゃん。そろそろ離れてくれないと、俺の理性が…………(汗)。
そうしたら、ひーちゃんが抱きついたまま、何かを思い出したように訪ねて来た。
「なあ、京一。そういえば、《ただいまのキス》は?。」
「は?!。」
ひっ、ひーちゃん。今、一体何を……(汗)。この間の《あのキス》じゃあないよな?。
(しっかり上目遣いになってるが。うっ、死ぬ気になって踏ん張れ、俺の理性!!)
「だって、深青お母さんが言ってたぞ。《この家では、おはようと行ってきますとただいまとオヤスミなさいのキスはちゃんとする》って。だから、オレも京一にちゃんとしてもらわなきゃダメなんだろ。それとも、オレからした方がいいのか?。そこの家の決まりは守らなきゃな。外国では、そういうキスって普通の事らしいし。」
おーふーくーろーぉぉぉぉ。素直なひーちゃんに何を吹き込んでるんだ!!(怒)。あの子悪魔。(そんな決まり、俺が生まれてこの方この家で聞いた事なんぞねえわ!。お袋と親父で勝手にやってろ!。冗談でも、俺は絶対にやりたくねえぞ、お袋や姉貴になんて)
でも、嬉しいから利用させてもらおう。俺も所詮は誘惑に弱い男だ。(この際、ペットと同レベルでもかまうもんかよ)
「俺からやるからいいよ。ひーちゃんは、そのまま目を閉じててくれ。」
「…ん。」
そうして、俺はひーちゃんをしっかり抱き締めると、その薔薇の花弁を思わせるのような唇に掠めるようなキスをする。
そうしたら、次の瞬間…………。
キュウ〜〜〜〜グルグルグルぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜。
俺の腹の虫が盛大に自己主張をしやがったんだ。
ううううう(泣)シマラねえなあ、俺。
『本当にシマラないねえ。折角気を利かせたのに』
うげっっ?!。タマ、てめえ、またデバガメしてやがったな。どっかいっちまえ!!。
『ハイハイ。んじゃ俺、深青さんのパソコンのとこに行ってるよ。ところで、カメラの準備は忘れないでね。この姿の姉さんを撮って置いて欲しいから。(クスッ)じゃあね♪。』
お前に言われんでも、キッチリ撮っておくに決まってるだろうが!。ひーちゃんのこんな美味しい姿、保存しないでおくものか!!(拡大サイズ額縁入りの永久保存版に決まってる)。
「(クスクス)お腹すいてるみたいだな。悪いな、こんな所で時間とらせちゃって。京一は早く着替えてこいよ。もう、深青お母さんは《味噌煮込みうどん雑炊・緋月家スペシャル》を食べ終わって、お仕事してるからな。俺達は一緒に食べような♪。」
「おっ、おう(汗)」
そうして、俺は自分の部屋に向かって慌てて階段を上り始めた。


バターン★。
「こら!。お袋、ひーちゃんの《あの格好》はなんだ!!。ふざけるのも大概にしとけよ。」
俺は、食事が終わるなり、後片付けとキッチンの掃除に勤しみ出したひーちゃんを残して、お袋の《内職部屋》に怒り心頭で怒鳴り込んだ。
「あっ、みゃーちゃん!。えへへ♪。よく似合ってたでしょ、ひーちゃん。ミオりんのセンスの良さを誉めてよね。やっぱり、可愛い女の子っていいよねえ。」
案の定、疚しい所なんて欠片ったりともございませんって顔で(それどころか、嬉しくてしょうがありませんって感じだな)、パソコンの前に座って《内職》に勤しんでいたらしいお袋から予想通りの返答が返って来る。
「何考えてやがるんだ、この脳天パー考えなし母親!!。てめえ、あんな服その他一式なんて、どっから引っ張り出してきやがった。しかも、ひーちゃんにサイズバッチリじゃあねえか。こんなタイムリーにあんなモノがうちにあるなんて、普通じゃ絶対に考えられねえぞ。まさか今回の風邪騒動は、計画的に買ってきておいてひーちゃんハメる為の仮病じゃねえだろうなあ?。」
冗談抜きでお袋ならやりかねん。意地汚い上に、ネタになりそうな事は何でもやる、人類の限界に挑戦した常識知らずの母親だからな。
ひーちゃんの手作り御飯と(こないだも「また作りにきてくんないかなあ。みゃーちゃん頼んでみてよ。」なんぞとホザイてたからな)、《ネタ》になりそうなことの為なら、体温計を誤魔化して具合の悪いフリをするくらい朝飯前でやってのけるぞ。
実際、締め切りに追われてた時に、何回かその手で編集の人間を騙くらかして締め切り延ばさせたの知ってるんだからな。
「やっだなあ、みゃーちゃん。そんなに怖い顔で睨まないでよ。みゃーちゃんは嬉しくなかったのぉ?、ひーちゃんのあの格好でのお出迎え。嬉しくないハズないよねえ。くす♪。」
うっ、た、確かに激烈に嬉しかったが…………(汗)。
っていうか、嬉しくない男がいるのかよ。あんな超絶に綺麗な麗しの《女神様》が、これ以上はないって感じで似合っているメイドさんルック(しかも激烈にエッチ臭い)でお出迎えしてくれた挙句、《ただいまのキス》をせがまれて、オマケに夕御飯のお給仕までしてくれたんだぞ。
(テーブルに座った俺の目の前を、あのギリギリのミニスカートが行き来する様は、本当に目線のやり場に困っちまったんだからな)
よくもったなあって、俺は自分の理性に称賛を惜しまないぜ。
「そりゃ…………(汗)。」
「ねっ♪。………それに、仮病なんかじゃないよ、ミオりんのこの風邪。今だいぶ良くなったのは、原因が拗らせたのが寝不足と栄養失調の為だった所為だもん。ひーちゃんのあんなに美味しい御飯をお腹いっぱい食べて、お薬呑んで熟睡したから治るの当然だよ。元々、ミオりんは丈夫さについては保証付きなんだから。それからあの服はねえ、この間編集さんと取材でコスプレショップに行った時に買ってきたの。とにかく、可愛いデザインのを片っ端から衝動買いしちゃったんだけど、持って帰ってきたらミオりんにサイズが合わなかったんだもん。あれ、グラマーな人じゃないと似合わないような形になってたみたいで。だから、このままタンスの肥やしにしちゃうよりはと思って、ひーちゃんに着てもらったの。んもう、本当に偶然にタイムリーだったんだよ。やっぱ、ミオりんて大ラッキーだよね。目の保養になっちゃったよ、うん。」
何が目の保養だ。イイ年したおばサン(実年齢)が、メイドさんを見て喜ぶな!!。
「フン。とりあえず嘘じゃねえみたいだな。そりゃ、ひーちゃんにサイズがぴったりだったら、ウエストはともかくとして、その《洗濯板の胸》にあの服があうわきゃねえわな。」
「むう(ムカッ)。今回の幸運の功労者のお母さんに向かってそういう事言うの、みゃーちゃん。」
「言われて仕方がねえこと普段からやってるだろうが(怒)。てめえ、心当たりがねえとは言わせねえぞ。てめえの本が本屋に並ぶ度に、戦々恐々としている息子の気持ちが解かるか!!。」
「だって、使えるネタは何でも使うって言うのが、モノ書き魂ってもんだもん。いいじゃない、実名出してるわけじゃないんだから。ぷう。」
いくら童顔のほっぺた膨らましたって、てめえのやってることは誤魔化せねえぞ。
『なあるほど。そうすると、やっぱり【S&Lビート】シリーズの《シェル》と【桜ヶ丘事件簿】シリーズの《常盤 京》と【ハンター・ケイン】シリーズの《ケイン》は、京一がモデルだった訳ね。言われて見れば、まんまだもんねえ。フフフ、イイ事聞いちゃったなあ。』
うげっ。タ、タマ?!(汗)。いつから、そこに?。
『さっき、パソコンのとこにいるっていったじゃん。(クスクス)いや、本当に似てるとは思ってたけどねえ。《シェル》の剣術馬鹿で《ユニコーン》なんて異名を貰っちゃう程女好きだけど女運が悪くて、でも相棒である男の《ラン》に絶対に頭が上がらないとこなんかさ。マジで、大うけ。』
てめえ。この腐れ根性のビー玉野郎。人の不幸を大笑いしてんじゃねえ!!。
それと訂正しとくが、《ケイン》のモデルは親父だ!。
『はれ?!。ずいぶんイメージと違わない?。研究一筋の大学教授さんなんでしょ、お父さん。』
『若い頃、それも結婚前の親父だよ。爺に聞いた話だとな。』
『つまり、女好きと女運の悪さは《血の呪い》なわけね。まあ、結婚したら修まってるってことは安心材料だから、これもイイ事きいたけどさ。《血の呪い》なら姉さんもイイ勝負だもん。』
あのなあ、その《血の呪い》っていうの洒落にならないからヤメロ。遡って、先祖代々からのなんてマジで怖いから。(それに、安心材料って何だ?)
だいたい、モデルにされた被害者なんて俺や親父だけじゃねえ。とにかく、出逢った面白そうな人間は端からネタに使ってやがるからな。あの師匠や桜ヶ丘の化け物医院長、果ては犬神の野郎まで使ってやがるんだぞ。
てめえなんて、言うまでもなく、バレたら速攻で本が一冊でるからな。全国ネットでアニメ化とかされてえのか?。
『うっ、それはチョット遠慮したいなあ。』
解かったら、大人しく引っ込んでろ!!。
「とーにーかーくー。いいか、お袋。モノ書き魂もいいけどな。これ以上の余計なチョッカイで、息子の恋路の邪魔はやめとけよ。大人しくその《内職》に没頭してろ。そうしたら、最近てめえがやってるロクでもない事は不問にしといてやる。」
今そこで書いてる次回発売予定の新シリーズが《男装の麗人》ネタ(主人公のモデルって、やっぱひーちゃんなんだろうなあ)なのは、おいておくとしてもだ。
知ってんだぞ、こっそりとペンネームを変えて今流行りの《ボーイズ・ラブ》モノにまで手を出してる事を。
しかも、その一作目のキャラにまた俺をモデルに使いやがって(怒)。
いや、その…………(汗)、ひーちゃんを【男】だと信じてこの気持ちに悩んでた時に、何ぞ参考になるかと思ってこっそりと本屋で立ち読みした時に偶然ぶち当たって、マジでその本を破り捨てたい衝動に駆られたぞ。(文体でバレバレだぜ。)
しかも最低なことに、相手役があの根性曲がり業突く張り亀忍者に似てやがったんだ。(どっかで出会って、モデルにしてねえって保証は何処にもないんだぞ)おぞましさの余り全身総毛だって、本屋から逃げ出すハメになっちまったじゃねえか。その晩、悪夢にうなされちまったし。
『そりゃ、災難だったねえ(溜息)。』
「え―――――っっ。何のことかなあ(シラジラ)。第一、邪魔なんかしてないよぉぉ。応援してるんじゃないのぉ。ミオりん、ひーちゃんを娘に欲しいって言ってあったでしょ。みゃ―ちゃんが煮え切らないんだもん。ミオりん心配なんだよ。あんな素敵なお嬢さん、他のおうちに取られちゃったらどうしようって。」
「誰が煮え切らねえんだ、誰が!!(怒)。この脳天パー若作り扁平胸母親!!!。だからって、やっていい事と悪い事があるんだからな。今度ひーちゃんに変なチョッカイかけてみろ、二度とひーちゃんをうちには連れてこないからな。」
俺がひーちゃんの部屋に行けばいいだけの話だ。お出入り自由の証明のスペアキーは、こないだ貰ってあるからな。
「フフン。そんな脅し、ミオりんには無駄だよぉ――だ。もうひーちゃんにうちのスペアキーをあげちゃったもんね。携帯b熾キいちゃったし。いつでも呼んで下さいって言ってくれたもん。みゃーちゃんが何をいっても無駄だよ――ん。ミオりんの勝利ぃぃぃ。(Vサイン)」
…………………(汗)。お袋、いつのまに…………………。
『あのねえ、京一。うちの義母さんと互角に勝負ができるであろう、深青さんに勝とうと思う事が間違ってるよ。いったい何年この人の息子をやってんの?。醍醐じゃないけど、本当に学習能力ないんだね。』
タマ、そうシミジミというなよ。今、切実思い知ってるとこだから。
だが、俺が改めて思い知りきる寸前のお袋の更なる攻撃に、俺はまたも内心のた打ち回ることになる。
「あっ、そうだ。イイ機会だもんね。前から聞こうと思ってた事があるんだよ。みゃーちゃんのお部屋に貼ってある、等身大の大きさのすんごく素敵な格好のひーちゃんの写真はなあにぃ?。ずるいよう、みゃーちゃんばっかり堪能してさ。《メイドさん》より格好良いじゃない。ちゃんと事情を説明してくれるよね。ヤバそうなら、ネタに使ったりしないからさ。」
ななななな、何だとぉぉぉ?!!。お袋、今何て言った。等身大って、あの《月天使様》のヤツの事か。
何でお袋が知ってんだよ。《あれ》を貼ってからは、出かけるときは言うに及ばず家にいる時だってキッチリと部屋に鍵をかけてるんだぞ。絶対にバレたら不味いからな。
『はれ?!、そんなことしてたの。ネガを隠し持ってたのは知ってたけどさ。相変わらず、迂闊だねえ。霧島君のこと言えないよ。』
「な、な、何で知ってんだよ、お袋が(汗)。鍵はキッチリかけてあったハズだぞ。窓からも絶対に見えない位置に貼ってあるし…………。」
「へへへ♪。あの程度の鍵なんてミオりんの前じゃあ、無いも同然だよ――――ん。くす。」
そうして、お袋がおもむろに取り出したのは1本のヘアピン。(おい)
「古来からの《女の子のたしなみ》っていうやつだよ。これくらいはね。だって、今年の春からみゃーちゃんてば挙動不審じゃない?。やっぱ、母親としては一応気にしてたんだよ、一人息子の動向にはね。だから、ちょくちょくお部屋をチェックしてたの。おかげで、良いモノ見れちゃった。さあ、キリキリ全部白状してね。大丈夫、ひーちゃんには内緒にしておいてあげるから。あの、ベッドの下のエッチ本のこともね。」
…………おい(汗)。俺のプライバシーってのは何処へいたんだ。このデバガメ母親。
「白状なんぞできるか!!。あれは、ひーちゃんのプライベートに関わることなんだぞ。第一、てめえの《ネタにしない》ほど信用できねえ言葉はねえ!!。」
これだから、モノ書きの女っていうのは嫌なんだよ。アン子のヤツもそうだが、油断も隙もあったもんじゃねえ。(ただし、エリちゃんは別だ。顔に人の良さが滲み出てるからな)
『確かに、そうだよねえ………(溜息)。とりあえず、あの時の事情は死んでもバラさないでね。一応、犯罪行為なんだから。その為に京一がどんな目にあっても俺の知ったこっちゃないし』
「ああああ、そういうことまた言うのぉぉ。なら、ミオりんは…………。」
どうせ、いつもの脅し文句「リリちゃんを嗾ける」を出して来る気だろう。させてたまるか!!。
ここは、一時撤退だ。
俺は、お袋の言葉を遮るように後ずさって言葉を発する。
「じゃあ、俺はひーちゃんを手伝って風呂掃除でもしてくるからな。お袋はさっさとその原稿を上げろよ。通ってくれるひーちゃんの為にな。」
それだけ言い捨てると、俺はその場から遁走した。
「あっ、みゃーちゃん。それ、卑怯だよ――――――――ぉぉぉ。」
知ったこっちゃねえわ。なんとでも言いやがれ。

そうして、お袋の部屋を飛び出した所で、タマのヤツ、またいらん突っ込みをいれてきやがった。(チッ)
『そういえば、京一。何だかんだ言って、深青さんの書いてる話について随分詳しいじゃない。全巻完全読破してる俺の話にちゃんと返答してるし。立ち読み状態なのに、文体で気付いちゃうなんて、普段の現国の成績からは考えられないよ。ほら、ついでだから白状しちゃいなよ。』
うっ、イヤなとこに気付きやがって。(あいかわらずチェックの厳しいヤツ)
そうだよ、悪かったな。小さい頃から騙くらかされて、お袋の話しは全部読んでるよ。変態姉貴のヤツまでグルになって、中坊になるまで何の疑問も持たなかったんだぜ。
ついでに、少女漫画だって、有名なヤツはみんな読まされてるよ。
ふんっ。笑わば、笑え。どうせ俺は《ミヤコちゃん》だったんだからな。
『なるほどねえ。大丈夫、そういう所は俺も笑えないから。姉様達に騙くらかされてたのは、俺も御同類だもん。まあ、その後今に至るまで止められないで読み続けてるんだから、俺の方が情けないかもしんないけどさ。』
そりゃそうだな。確かに情けねえわな。
『あのねえ、真っ正面から肯定されると、それはそれでムカツクんだけど。京一だって、中学の時に気付いたって言うわりには、最近のヤツにもチェック入ってるじゃない。そっちも、気付いても止められなかったクチなの?。』
この、ドアホウ!!(怒)。惰弱なてめえと一緒にするな!!。
俺の方は、好きであんな腐れ話しにチェック入れてるんじゃねえよ。何時・何処で・どんな事をお袋のヤツにネタにされてるかわかんねえから、目を通しておかないわけにはいかねえんだよ。
てめえに解るっていうのか、あの恐怖が。一歩間違ったら、全国展開で己の恥を暴露なんだぞ。
実名出されてないし、多少の脚色はされてるとはいえ(っていうか、脚色されてるから余計始末に負えねえんだ)、毎度毎度、穴があったら入りたい気分になるんだからな。
鋭いヤツに感づかれたらと思うと、夜も眠れねえんだぞ。
『…………(汗)。ゴメン。俺が悪かった。』
わかりゃいいんだ、わかりゃ。そのまま大人しくしてろよ。お前もアニメ化は嫌だろうが。
『………うん。(汗)』
それにしても、何が情けないって、こんな常識外れで『恥も外聞も知ったこっちゃありません』なんていう非常識童顔母親でも、あのど変態姉貴よりはまだマシってとこだよなあ。(親父の方が更にマシだが)真っ当な神経持ってるのは、俺だけなんだぜ。
畜生ぉぉ!!。俺んちの家族って一体?。
ひーちゃんが、内情を全部知って逃げちまったらどうするんだよ。
『あっ、それはないから大丈夫。うちも、非常識では負けてないから。』
タマ。それってフォローになってねえぞ。


そうして、日々はあっという間に過ぎていった。

それからは、もう毎日毎日が理性の《トライアスロン》だったんだぞ。
朝は流石に学校へ行く為に制服姿だったが、《おはようのキス》と《行ってきますのキス》は、すっかり信じ込んじまったひーちゃん(いや、信じさせたのはお袋と俺だけど)によって恒例行事と化しちまったし。
夕方になると、帰ってきたとたんに、これまた毎日毎日違う色やデザインのメイド服でお出迎えがあるんだよ。《ただいまのキス》のおねだり付きで。
お袋が片っ端から衝動買いをしたと言うだけあって、バリエーションもみんなそれぞれにエッチ臭くってなあ。
白いエプロンと白いひらひらのヘアバンドだけが全部共通で、ワンピースの色が臙脂色、ピンク、ブルーと白の縦ストライプ、黒とあって、スカート部分もミニは変わらないが、フリル付きとか下のペチコートが見えるように大きくカットが入ってるやつだとか、巻きスカートタイプだとか、胸元もカットが入ってなきゃ背中が大きく開いているのとかな。
足も、初日の白い奴の他に、同タイプのピンク、黒のストッキング薔薇模様付きとか、白いソックス三つ折とか。その脚線美を強調しこそすれ、隠すデザインのモノなんてありゃしねえ。
おまけに、お袋の奴が毎日頼み込んで結わせてもらってるらしく、髪型も両サイド二本三つ編みの他に、一本編み込み三つ編み、結いげてお団子、両サイドでお団子二個、等。
俺にどうしろって言うんだ!!。って感じだぞ。
今までのパターンと違って、毎日毎日の理性への攻撃に、本当によく保ってるって自分の理性を表彰したいくらいだ。
生活の方も、ひーちゃんを遅刻させるわけにいかないんで、毎日早起きはしなきゃならねえし。
放課後は連日亀忍者の煽動による(絶対、僻んでの妨害工作だよな)《旧校舎潜り》だし。
夜は夜で、早起きと戦闘の疲れで、食ってひーちゃんを送り出したら速攻で《夢の国》だし。
なんていう、規則正しい生活と適度な運動、栄養満点・質も量も充実したひーちゃんの手料理を毎回食べている所為で、何か体力充実・体調万全・顔色良好・お肌艶々って感じだ。(それが余計に【緋月龍麻お大事同盟】奴等の鬱憤を煽ってるらしいんだが)
家の中だって、俺と姉貴の部屋以外は綺麗に掃除されていて、埃の一つも見つからないって感じだし、洗濯物はきっちりアイロンかけまでされてるし。(ひーちゃん、自力でドライクリーニングまでしてるんだぜ)
驚いたことに、ジャングルもどきだった家の庭までキチンとガーデニングされてるんだよ。
いや、植えられてることも知らなかった金木犀の花が、季節外れに甘い芳香と共に咲きはじめたのを見た時は、マジで《ひーちゃんて本当に女神様だったんじゃあ》なんて馬鹿なことを考えちまったぜ。(あれには流石のお袋の魂消てたなあ)
もう、家中全部が生まれて初めてのスーパー快適空間って感じだ。(この状態をして、ひーちゃんが《家事の達人》なのか、はたまた、お袋が《家事無能力者》だったのかは、判断に迷う。って、両方か………)
なのによう、今までに無くひーちゃんと一緒にいる時間が多いハズなのに、俺ってばお袋にネタにされるの怖さに《愛の告白》の機会を作る事も出来ずにいるんだぜ。(なんせ部屋に鍵をかけても無駄なことがわかっちまったからな)
畜生。惰弱だ、惰弱過ぎるぞ、俺。お袋怖さにコクることも出来ないなんて………。
一年前の、《女子高生キラー》と言われた俺は何処へ行っちまったんだ。


なんて、どん底まで落ち込みきった不健康な考えで、俺は家への道を今日も急ぐ。
今日は日曜日だったんで、ひーちゃんは一日中うちにいるんだよ。
ちなみに、本日の《メイド服》は初日に戻った一番オーソドックスなタイプの奴で、髪型だけがポニーテールを二段止めに、こないだ俺がプレゼントした白いリボンを結んでる、という感じにちょっと違う。
これがまたよく似合ってて、なんか送った当人としては顔がニヤケてきちまったんだ。
しかも、その格好でおはようと行って来ますのキスだったしな。(朝っぱらから俺の理性に大打撃だったぜ)
一方、俺はというと、上がったお袋の原稿を届けに出版社まで《お使い》だったんだ。
あの恥知らず。こうやって時々締め切り破った時に『申し訳なくって、あそこに顔を出せないの。編集さんに取りにきてもらうのも恥ずかしいしぃ。ねっ♪』ってヌカシくさって、俺に詫びいれついでに届けさせるんだよ。それを、小遣いにつられて唯々諾々とやっちまう俺も俺っちゃ、俺だがな。
そうしたら、いつも俺に親切なそのビルのオーナー社長に捕まっちまって、長々とお茶するハメになっちまんたんだ。
あのじーさん、何で俺なんかがお気に入りなんだろう?。
なんか、でっかい新聞社とか、出版社とかのオーナーを兼任しててやたらと忙しいハズなのに、俺を見つけるとお茶に誘って来るんだよなあ。普段の俺なら野郎に誘われたって無視するんだが、あの爺さんだけは邪険にでいねえんだよ。なんか不思議と親しみやすいって感じだし。毎回毎回美味い物奢ってくれるし。
龍山の爺なんかとは印象が違うんだ。中坊の時からの付き合いだしな。

なんか引き止めちまったお詫びにって貰ったその喫茶店の名物ケーキを土産に持って、俺は家に向かって急いでいた。(ひーちゃん、喜ぶぞ。美味いらしいから)
お袋とひーちゃんを二人っきりで長時間家に置いとくなんて、無茶苦茶不安だ。何を吹き込まれるかわかったもんじゃない。
ひーちゃんてば、どういう訳だかあのお袋のことを尊敬しちまってるみたいなんで、言われた事をまんま信じちまうんだよ。タマは頼りにならねえし。マジで不安だ。


「ただいま――――ぁぁ!!。ひーちゃん。今帰ったぜ♪。」
ところが、俺が玄関のドアを開けて声を掛けても、何の返答もなかった。
「??????。」
オカシイ。ここ毎日は、元気な返事と共にひーちゃんが飛び出してきて、『今日のは似合うか?』の質疑応答から《抱き付いてほっぺスリスリ攻撃》→《ただいまのキスのおねだり攻撃》という俺の理性へのコンビネーションアタックが仕掛けられてくるハズなのに。(本当に、よく頑張ってたんだな、俺の理性。偉いぞ。)
「お――い?。ひーちゃん、ただいまぁぁ。」
俺は、続いて声をかけながら家の中をひーちゃんの姿を求めて、歩き回る。
と、丁度お袋の《内職部屋》の前にさしかかった所で…………。

 ドンッ☆。

「うわ?!!。」
「わ??!!。」
部屋の中から飛び出して来たひーちゃんにぶつかっちまった。(さり気に、そのまま抱き締めるのを忘れない)
「…………ってて。ひーちゃん、大丈夫か?。わりい。」
「…………きょ、京一ぃ??」
そうしたら、ひーちゃんってば、ぶつかったままその身体を抱き締めていた俺の腕を、イキナリはじきとばしたんだ。
「触るな!!。」
「?!!。」
一瞬、呆然としちまった俺だが、よく見るとひーちゃんの瞳は今にも涙が零れそうに潤んでいる。
「オレに触っちゃダメだ!!。」
「ひーちゃん。一体???。」
「ゴメン!!。」
俯いたまま、そう一言俺に告げると、ひーちゃんは踵を返して、そのまま家を飛び出して行っちまった。
「…………???。」
すると、何が何だか解からず、呆気にとられていた俺を一気に正気に戻す声が掛かる。
『ゴメン、京一。姉さん、またロクでもない誤解してるから、急いで追っかけて来てくれる?。俺もできる処はフォローするからさ。事情説明は後回しね。じゃ!。』
タマは、慌てたようにそう言い残すと、次の瞬間にはもう俺の目の前から消えた。(本体の中に戻ったらしい)
不安的中。
この家の中に二人っきりでいた以上、またぞろロクでもない誤解の基になったことをひーちゃんに吹き込んだのはお袋に決まってる。
あんの、腐れ根性の非常識母親どうしてくれよう。絶対に、〆てやる!!。(断言)
だかしかし、今はひーちゃんを追い駆けて誤解を解くのが先だ。
あの格好のひーちゃん(しかも、いつもの目晦まし無しだぞ)をこの新宿で野放しにしておくなんて言語道断だ。どんな悪い虫が寄ってくるか解かったもんじゃない。
おまけに、今の東京じゃあ、どっから変な【力】の持ち主が沸いて出てくるかわかんないんだぞ。貞操の危機だってありうる。
「冗談じゃねえ!!。」
俺はそう叫ぶと、いつも手放さない木刀を力いっぱい握り直して、家を飛び出した。



 * 龍麻



「ねえねえ、ひーちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、イイ??。」
「は、はい。深青お母さん。今行きます。」
あ――あ、姉さん、もうすっかり深青さんに懐柔されちゃってるなあ。

今日は日曜日なので、姉さん(と、当然俺)は朝も早よから京一の家にやってきて、ここ毎日の定番となった《メイド服》で家事に勤しんでいる。
一方の京一はといえば、朝っぱらから深青さんに叩き起こされて朝御飯を食べ終わるなり、昨日の夜に仕上がったと言う《原稿その1》を届けに出版社へお使いに出されちゃった。
本当に、深青さんを見てると京一の女運の悪さっていうのが解かるよね。
なんか、お姉さんも凄い人らしいけど。うちの姉さんと関わっちゃったことといい、あの仲間内の女の子達の一部(特に菩薩様とかね)といい、本当に女運悪いよ、京一。
しかも、本人に全然その自覚がないみたいだしさ。
あれなら、深青さんの話の中の《シェル》の方がマシかもしれないと思うもん。だって、あっちはちゃんと美人でおしとやかで正真正銘心清らかな聖女様のような婚約者がいるんだから。
俺が言うのもなんだけど、あの姉さんに惚れきってる京一の方が、救い様がないよ。うん。
「何ですか?。深青お母さん。まだお昼には間がありますから、じっくり聞いて下さい。オレに答えられることなら何でも答えますから。」
「えへへ、わ――い♪。だからひーちゃんて好きだよ。」
姉さん、安請け合いしちゃっていいの?。俺達、人には迂闊に言えない秘密っていっぱいあるんだよ。特殊事情持ちなんだからさ。
『ああ、そうかぁ。忘れてた。(テヘッ)』
ま―――た、馬鹿言って。(溜息)
だいたいねえ。今だって、姉さんがそうやってその格好で平然と深青さんの前にいられるのだって、俺のおかげなんだよ。昼間は女の子の体型じゃなくなっちゃう姉さんの為に、結界を細工して夜と同じ姿に見えるように目晦ましがかかるようにしてるのは、誰だとおもってるの?。
だから、あれほど『今日は夕方になるまで、できるだけ深青さんに近づかないでね。あんまり、至近距離では役に立たないんだから』って言ったのスッパリ忘れてるし。もう。
「それで何です?。オレ自身のことって、イロイロ言うに言えない事情ってのがあるんで、全部お答えするって訳にはいかないんですけど。京一の学校でのこととかですか?。それなら………。」
「う―ん。ひーちゃんとみゃーちゃんのことっていうんならそうだけどね。あのねえ、ちょっと不躾な質問なんだけど。正直に教えて欲しいのぉ。」
「(ゴクリ)はい。」
「ひーちゃんとみゃーちゃんて何処まで進んでるの?。次のお話の参考にしたいの。」
「はい?!。」
み、深青さん、なんて直接的な…………。やっぱり侮れない人だな。うん。
「え――っと。何処までって………?。オレと京一はとりあえず【相棒】ですけど。」
「あぁ――ん。違うの。学校での関係じゃなくって。二人の個人的関係のこと。ほら、よくあるじゃない。テレビとかでさ。」
でも、無自覚の姉さんじゃ、深青さんの望むような答えは無理だと思うんですけど。
姉さんは、一瞬小首を傾げると、ここ最近覚えた《関係》に関する言葉を深青さんに答えた。
「オレと京一は、とりあえず《東京一のラブラブ》な関係です。(キッパリ)」
「………………。」
あちゃ―――ぁぁ。流石の深青さんも呆れちゃったかな?。ヤバイよ。京一の留守に。
「深青お母さん?。」
「…………素敵♪。そのフレーズ、今度の話で使わせてもらうね。ミオりん応援してるからさ、ひーちゃんもみゃーちゃんももっと頑張って《東京一》なんてケチ臭いこと言わずに、《日本一の熱列ラブラブ》カップルになってね。」
…………さ、流石、深青さん。ここでそういう返し技で来るとは…………(汗)。
俺、どうしよう、京一(困惑)。
それにしても、姉さんと深青さんって、成り立っているようで、実は意思の疎通が成り立ってない会話だなあ。
何せ、姉さんが無自覚で自分の恋愛感情をほんの少ししか理解してないんだもん。深青さんの言ってることの真意が全部伝わっているとは思えないんだよねえ。
「みゅみゅ。そういう関係ってあるんですね。」
「うん、そうだよ。ミオりんときょーちゃんなんかそうだもん。大丈夫だよ、ここ暫くの朝夕の《ご挨拶のキス》を見てる限りじゃ二人とも《東京一》の関係はもうクリアしてるよ。《関東一のラブラブ》、ううん、《本州中部一のラブラブ》カップルだよ。」
「ふみゅ。《本州中部一のラブラブ》ですか?。いいのかなあ、そんな風に言ってもらって。(喜)」
「いいの、いいのぉ。ミオりんが言うんだから、間違いないって。」
「うきゅきゅう〜〜(ポッ)。」
ああああああああ。またロクでもない攻撃を覚えてるよ。
やめてください、深青さん。姉さんは世間様には【男】で通してるんです。母親の貴方自らが、息子の外聞踏み付けにする攻撃教えてどうするんですか(泣)。
ううううううう(汗)。口を出せないのが辛い。
でも、ここで変なことして俺の事がバレたら、間違いなく三ヵ月後には俺のことがネタにされて本屋に帯び付き山積みになっちゃうよぉ。(きっと、実名出さなきゃ大丈夫だよの技がでるだろうなあ)ヘタをすると、一年後には冗談抜きで全国ネットでアニメ化だ。
嫌だ、それだけは絶対に。(完璧、断固、心底に)
そんなことになったら、俺、義母さんにどんな目にあわされることか(怖)。
だって、隠そうったってバレるよ、《志守 巳緒》の本は今だ必ず買ってるんだもん、姉様達が。内容読まれてたら、誤魔化しなんてきかないよ。どうしよう、どうしよう(汗)。
早く帰ってきてよぉぉ、京一。うえ―――ぇぇん(泣)。

なんて、俺が密かに泣きを入れている間にも、更に深青さんの追求は続く。
「え―――と。関係については良く解かったんだけど。で、具体的には何処までいってるの?。とりあえず、《A》まで言ってるのはこっそりと見せてもらったから、わかってるけど。」
「うきゅ。《A》???。」
み、深青さん。貴方やっぱり、毎日デバガメしてたんですね、息子のラブシーン。(いや、俺もしてるから、深青さんを一概に責められないんだけど)
でも、それってある意味凄いです。姉さんや京一は兎も角として、【氣】に敏感な俺にも気配も悟らせないなんて。
「みゃーちゃんのあの様子だと《C》はまだみたいだけど。あの《来る者拒まず去る者追わず》の遊び人のみゃーちゃんがまだ手を出してない所も見ると、ひーちゃんには本気みたいだもんね。《B》くらいまでは行ってるの?。ねえ、恥ずかしいなら肯くだけでいいからさあ。ひーちゃん、ミオりんに教えてくれるよねえ。教えてよぉ。」
あの……(汗)。イイ歳した母親が息子のそういうネタで、そういうことをせがんでいいんですか?。なんか、侮れないってレベルを超えてきたような………。
だが、そこは流石、《無自覚恋愛オンチ》の姉さんだった。
「ふみゅ。あの………。深青お母さん、《ABC》って何ですか?。意味が解からないと答え様がないんですけど。」
「え??!!。ひーちゃん、知らないの?、《ABCDE》って………。」
「はい(キッパリ)。それって、一体どんな意味があるんですか??。英語のαベットとは違うのはわかるんですけど。」
「……………えーっと。……………。」
これは、深青さんも困ってるなあ。姉さんの《クロスカウンター攻撃》有効ってとこだね。
そうなんだよ。《純粋培養超箱入り娘》の姉さんがそんな単語の意味がわかるわけないんだよ。
この手のモノからは完璧にシャットアウトされちゃってたんだから。
だから、深青さん。もう諦めて下さい。せめて、京一の《告白》がしてちゃんと成功して、姉さんが恋愛感情に自覚を完全に持って、二人がちゃんとした恋人同士になってから好きなだけ京一を追及して下さい。その時は、俺は止めませんから。
だが、其処は義母さんと互角の勝負の侮れない母親、深青さん。この程度でメゲたりなんぞはしなかったのだ。
「………わかったよ。もしかして、ひーちゃんてこういうことあんまり詳しくないんでしょう。興味もあんまりなかった。違う?。」
「え―――と、はい、そうです。すいません。(コックリ)。」
「ひーちゃん、頭下げて謝ることなんてないんだよ。人間誰しも事情ってモンがあるんだから。でも、みゃーちゃんと付き合い始めて、こういうことに興味をもってくれてんでしょう?。」
「…………え――っと。まあ、その……………。」
『付き合うって、【相棒】としてだろうか………??。』
あっ、やっぱ意思の疎通がされてない。
「そういうことならミオりんに任しておいてよ。自慢じゃないけど《女の子の為の恋愛バイブル》を書きつづけて15年。ひーちゃんに説明できるネタも資料も腐るほどあるんだから。みゃーちゃんの為にも二人でお勉強しようよ。《恋愛に関するイロハ》って奴をね。」
「………《恋愛に関するイロハ》…………京一の為…………。」
「大丈夫。はじめは簡単な資料代わりに、みんなが一般的によく読む本を紹介してあげるから。本格的なのはそれからね。」
「みんなが一般的に読む本から…………。わかりました。オレ、頑張って勉強します。だから、深青お母さん何から読んだらいいのか教えて下さい。(必死)」
「OK!。よ―し。ひーちゃんの為にミオりんも頑張っちゃう。さっ、ミオりんの部屋へ行こう。」
「はい!!。」
って、二人とも気合いっぱいに出て行っちゃたよ。どうなんの、これから。
姉さんに、恋愛知識を教授してくれるのは有り難いけど、何か不安だ。(汗)


そうして、姉さんは深青さんから渡された《資料》となる本を一心不乱に読み始めた。
とりあえず、はじめにちょっとレクチャーを受けて、それから深青さんの仕事部屋兼資料室の中に閉じこもってたんだけど(もちろん、途中で自分と深青さんのお昼御飯を作るのは忘れなかったけど。でも、片手で読みながら作ってた所は凄いよ)
元々、一旦エンジンがかかるとF1マシンの暴走並みの姉さんは、深青さんから渡された40冊近くの本を、なんと夕方までに読み終わってしまったのだ。
(ちなみに、その間深青さんは寝室の方にノートパソコンを持ち込んで作業していたらしい)
ところが、最初の10冊くらいまでは良かったが、読み進んでいくうちにどんどん姉さんの肩は落ちていき、最後の10冊近くでは顔面蒼白になってしまった。
読み終わった本を全て棚に戻し終わった姉さんは、まるで今にもここから逃げ出したいというような表情で、何かブツブツいいながら部屋を出ていこうと部屋のドアを開けた。
その時だ。

ドンッ☆。

「うわ?!!。」
「わ??!!。」
ようやく帰ってきたらしい京一と、思いっきりぶつかっちゃった。(そういえば、さっき声が聞こえてたような………)
「………ってて。ひーちゃん、大丈夫か?。わりい。」
「…………きょ、京一ぃ??。」
そうしたら、姉さんはぶつかったまま、その身体を抱き締めていた京一の腕を、イキナリはじきとばしたんだ。
「触るな!!。」
「?!!。」
京一は突然の姉さんの反応に呆然としてる。姉さんの方はというと、泣きそうな顔で京一を一瞥した後に俯いちゃった。
そうして、次にオレすらも予想外の言葉を京一に向かって告げたのだ。
「オレに触っちゃダメだ!。」
『オレに触ったら、京一が汚れる。』
姉さん、何言ってんの。何でそんな発想がイキナリ出て来るわけ?。あの本を読んで。
「ひーちゃん。一体???。」
「ゴメン!!。」
俯いたまま、そう一言京一に告げると、姉さんは踵を返して、そのまま家を飛び出して行っちゃったんだ。
「…………???」
俺は、何が何だか解からず呆気にとられているらしい京一に、俺は慌てて状況を説明する。
『ゴメン、京一。姉さん、またロクでもない誤解してるから、急いで追っかけて来てくれる?。俺もできる処はフォローするからさ。事情説明は後回しね。じゃ!。』
そう言うだけ言ってから、俺はそろそろ《分身》の有効圏外を出かけている姉さんの手の本体へ戻った。(こういう時は姉さんの足の速さが恨めしい。)
『ちょっと、姉さん。一体どうしたのさ!!。汚れるってどういうことなの?!。』
『うるさい!!。黙れ、タマ。オレのことなんか、放って置いてくれよぉぉぉ。』
あのねえ、俺の本体がここにある以上、放ってなんか置きたくても置けないんだよ。
『うわぁ――――――んん(泣)。オレって、オレって…………。』
だから、何?。早く言ってよ。どうせまたロクでもない早とちりなんでしょ。
『………オレって、《淫乱》なんだぁぁぁ――――ぁぁ!!。ふえぇぇ―――ん(泣)。』
はあぁぁぁ?!!。
『京一、きっと本当は呆れてたんだ。オレ、あんなにいっぱいはしたない事しちゃったんだもん。なのに、京一は優しいから、オレが馬鹿だから、相棒を見捨てられなくって付き合ってくれてたんだ。うにゅう。内心イヤラシイ奴だって軽蔑されてたんだ。どうしようぉぉぉ。』
あのねえ、【○ャンディ・キャ○ディ】と【ベル○イユのバ○】と【オ○フェウ○の窓】を読んだだけで、どうしてそういう発想が出てくるのさ。
『(グスッ)たまたま近くにあったんで【風と○の詩】も半分読んだ。うみゅみゅ〜。』
……………(汗)。また、なんてモンを人が目を離した隙に読んでんのさ。(イキナリそれはヤバ過ぎじゃん)せめて【摩○と新○】にしといてよ。って、そんな場合じゃないか。
(つまり、50冊以上の少女漫画を一気読みしたってこと?、あの時間で。凄い集中力だよね。それを別の処に生かそうって思わないのかなあ)
いい加減にしなよ、この短絡思考の脳天パー。早とちりもいい所じゃないか。
確かに、はしたない事は結構してたけどねぇ。ちゃんと深青さんの講習全部聞いてから考えなよ。中途半端なところで、変な発想するんじゃないの。
おまけに、《淫乱》って言葉の意味を取り違えてるしさ。
姉さんが《淫乱》なら、京一なんて《色情狂》だよ。わかってんの、姉さん!!。
こないだ自分がされかけた事、思い出しなよ。
『ふえぇぇ――――――ん(泣)。もう、京一に恥ずかしくて顔を合わせられないよぉぉぉぉ。』
だから、人の話を聞きなっていう―――の。
それと、いい加減止まってよ。京一が追いついてこれないじゃないか。このまま歌舞伎町に突っ込んだら、どうなると思ってんの。自分の今の格好の方がヤバイって気がついてよぉ。
もう、俺、嫌だ。京一、早く追いついてきてくんなきゃ駄目じゃないか。
この、《短絡思考の爆裂恋愛オンチ世間知らず娘》をなんとかしてぇぇぇ。

 嫌いだ、少女漫画なんて――――――――!!。



 * 祇孔



俺は、いつもの如く浜離宮を出てから、ふらふらと歌舞伎町でその夜のカモを探していた。
あいかわらずこの街は、闇が巣食っている。
人が負った闇を喰らって、より暗い光を放ちながら闇を育む街。
此処は、この東京で最も深い闇を抱え込んだ場所かもしれねえなあ。
そう、らしくもねえ事を考えながら、俺はふかしていたタバコを吸殻入れに突っ込んで(うるせえヤツがいるんだよ、こういう事にな)、辺りを見回した。
と、その時、俺の耳にえらく威勢のいい啖呵が飛び込んできた。
「オレに触るんじゃねえ!!」
 ドゴッ★
更に、凄まじい何かに叩きつけられるような音が続く。
その声と音に興味を惹かれて、声の方に俺は向かったみた。
そうして、その場に辿りついた俺の目に飛び込んできたのは、この歌舞伎町でなら当たり前と言えば当たり前、非常識と言えば非常識な光景だった。

ネオンの光が届かぬ路地裏に、その非常識な光景の大元の存在がすらりと立っていた。
案の定、声から察した通り、それは女だった。
今までこの俺がみたこともねえような、極上の女。
その姿態は男共の視線を惹き付けてやまないだろう、理想的なラインを描いている。
その身に纏っているのは、野郎の煩悩を刺激するしかねえだろうって感じの、俗にいう《メイド服》(やたらとエッチ臭いデザインのイメクラ向け)ってヤツだ。
いや、此処が歌舞伎町である以上、確かにありなんだけどな。
そして、俺の気配に気付いたのか、此方を振り向いたその容貌。
まるで人類の限界に挑戦してるとしか思えねえ絶妙な整い方をしてる。だが、決して冷たさは感じさせねえ、華麗で凄絶で圧倒的な程の美貌。俺の知っているどんな華に譬える事もできねえ、全てを魅き付けてやまない、まるで《百華の女王》とも言うべき奇跡の美しさ。
その美の集合体と言うべき容貌の中でも特に俺を魅き付けたのは、宝玉のように煌めく蒼い瞳。
その時俺が思い浮かべたのは、けっして存在する事がないと言われている《蒼い薔薇》だった。
今まで俺の知っている極上の女は、《芙蓉の花》と《紫苑の花》だからな。
よく見ると、その女の周りには、さっきの音の原因であろう男共らしいヤツ等が累々と横たわっている。あんまり考えたくないが、このおねえちゃんがこいつ等をノシたってことだよな。それも、一撃で。(音が一回しか聞こえなかったからな)
やってきたものの、どうしたらいいか考えあぐねちまってた俺の耳が喧騒以外の音を捉える。
どうやら、ここでマグロになってるヤツ等の仲間の足音らしい。
俺は慌ててその女に近づくと、その手を強引に取って走り出した。
「!!。」
「イイから黙ってついてきな。これ以上騒ぎを大きくしたくねえだろ。悪いようにはしねえよ。」
あの程度の人数、舎弟どもを呼び集めるまでもなく札の一枚で始末はつくが、そうすると余計なモノまで呼び寄せかねねえからな。(絶対に出てくるぞ、特にアイツが)
そのまま暫く走りつづけて、俺達は歌舞伎町の外れの路地裏まで辿り着く。
「おい!。いい加減に離せ。」
「おお、悪かったな。でも一応は助けてやったんだぜ。そう邪険にするこたあねえんじゃねか。」
「………ああ、そっちは悪かった。ありがとうよ。じゃあな。」
そうして、その女はあっさりと踵を返す。
間近で見ると、身体といい顔といい本当に極上の女だな。(言葉使いは悪いが)
でも、何故か気になったのは、その頬に涙の跡があったってことだ。場所が歌舞伎町で、格好が格好だけに詮索の一つもしてみたくなるじゃねえか。
まあ、単にこのめったにお目にかかれないであろう極上の《メイドさん》と、別れ難かっただけかもしれねえが。
「待てよ。礼は言葉だけかい?。そりゃねえだろうよ。」
そう言って、俺はもう一度その女の腕をとる。
「なんだよ。オレは今、金なんか持ってないんだからな。他にどうしろっていうんだ。」
「いや、他にって…………。」
金をもってねえっていうのは解かるぜ。そのメイド服に財布なんて無粋なモノをを入れてる様子はねえからな。
第一、《裸足のメイドさん》から金を巻き上げようなんて、俺がするわきゃねえだろうが。って、このメイドさんにそんな事解かるわきゃねえか、さっき初めてあったんだからな。
「それに、いつまでもオレ触ってると、イヤラシイのがうつるぞ。」
「はあ?!。」
なんだぁ、その《イヤラシイのがうつる》っていうのは。この歌舞伎町で聞くにゃ、ある意味正しい台詞だが。ましてや、格好が格好だからな。
「オレは《淫乱》なんだからな。巻き込まれたくなかったらその手を離せ!!。」
おい、メイドのねえさん。それはなんか違くねえか、《淫乱》って意味わかって言ってんのかよ。
「あのなあ、《淫乱》って…………(汗)。」
「オレ、《淫乱》だから。もう、アイツや他の仲間に顔を合わせられないんだ。(グス)」
「ちょ、ちょっと待て(汗)。いきなりベソなんてかかないでくれ。何か解からんが、事情を説明してみねえか?。俺には、どうみてもあんたが《淫乱》なんて女にゃ見えねえぞ。」
なんか、そんな顔されると(何もしてねえハズなのに)俺がとんでもねえ悪人になったみてえな気分になるじゃねえか。
なんていうか、えらく、外見と言動にギャップのある《極上のメイドさん》だな。

そうして、掻い摘んで話を聞いてみると…………。
思わず、天を仰いじまったぞ。俺は。
なんのこたあない、自分が恋人に(なんだろうな、話を聞く限りでは。名前は教えてくれなかったが)仕掛けていたモーションが、どれだけ積極的なのか知らなかっただけじゃねえか。
聞くだけでも、このメイドさんがその男にゾッコンなのがわかるぞ。
そして、その相手の男の方も満更でもねえってこともだ。
っていうか、この極上のメイドさんにそんなに積極的にせまり倒されて、陥落しねえ野郎がいるのかよ?。いるとしたら、そいつはとんでもねえ《冷血人間》か《不感症》か《朴念仁》だぞ。今頃、浜離宮で扇子を口にあてて、仏頂面してる奴とかな。(ああ、オカマも無理か)
そのモーションの数々を《淫乱》って言っちまったら、世の恋人たちは殆ど全て《淫乱》だぞ。
俺なんか、《色情狂》呼ばわりされそうだ。
一体、その相手の男は何をしてるんだ?。こんな危なっかしいメイドさんを、こんな状態でこの歌舞伎町に野放しにしてるなんて。
今すぐ此処へ出て来い!。監督不行き届きで【四光夢幻殺】くらいはカマしてやるぞ!!。
「うきゅう。オレって、やっぱりアイツに負担をかけてるんだ。軽蔑されてるんだ(シュン)。」
まあ、確かに神経にゃくるだろうなあ、そいつがあんたに惚れてればな。
だから、メイドさんよ。少しは、相手の反応ってヤツを正しく認識した方がいいぞ。(それから、自分のそのやたらとお綺麗さんな顔と御立派なプロポーションの価値もだ)
「あのなあ………(汗)。軽蔑してる奴に、あんたの言う所の《気持ちの良いキス》を自分からする奴はいねえと思うぜ。第一、あんたのお誘いに乗って来たってことは、ソイツも同レベルってことだぞ。」
「ふみゅみゅ?。」
「それになあ、《淫乱》っていうのは、《相手構わず》ってニュアンスもあるんだよ。あんた、ソイツ以外の男に同じことをしたことあるのかい?。」
「ないよ。アイツ以外の男になんて、しようって考えたこともない。」
また、キッパリ言いきってってくれるなあ。(なんかムカツイたぞ)
前言撤回!。えーい、その男。合わせて【五光狂幻殺】も喰らって貰うぞ。
「なら、話は簡単じゃねえか。あんたは、《淫乱》じゃねえ。その男に顔を会わせられねえって、ベソかいてることもねえだろうよ。違うかい?」
「みゅみゅ?。そうなのかなあ…………。」
まだ納得いかねえって顔だな。ふむ。
その時、俺の頭にホンノちょっとした悪戯心が涌いたたとしても、誰も責められんはずだよな。
「そんなに納得いかねえんなら、実地で試してみるかい?。」
「??。」
 ドンッ☆
俺は、唐突にそのメイドさんを俺の体と路地の壁に挟み込むように押し付け、片手を顎にかける。
「うきゅ?!!」
「俺としてみればいいのさ、ソイツにやったのと同じことをよ。」
「なっ?!。」
「そうすれば、わかるだろうよ。誰とでも簡単に《そういうこと》ができるほど、あんたが本当に《淫乱》かどうかがな。」
そうして、そのまま逃がさねえように、顔を近づけていった次の瞬間…………。
「いっ、嫌だぁぁ―――――――ぁぁぁ。」
「てめえ、俺の女に何してやがるんだ!!!。奥義、【円空旋】―――ンン!!。」

 ドカッ!!☆

「ウオッ!!。」
俺は後頭部に凄まじい衝撃を喰らって、思いっきり壁に叩きつけられる。
そのまま暗闇に落ちていく意識の中で、俺はさっき【五光狂幻殺】を喰らわせてやろうと思った相手(多分)の声と、遠ざかっていく足音を聞いた。
「龍那、大丈夫か?。」
「ふえ―――ん(泣)。どうしようかと思ったよう。」
「事情の説明は後だ。とにかく、ここからずらかるぞ。」
「うにゅん………。」


「チッ、ついてねえぜ…………(溜息)。」
意識をとり戻した時周りを見回してみると、案の定俺の側に残されていたのは一本の白いリボンだけだった。
たぶん、あのメイドさんを壁に強引に押し付けた時に、解けて落ちちまったんだろう。
俺は、その可愛らしいデザインのリボンを拾い上げて、ネオンに照らされた闇空を見上げる。
「へっ、何か楽しませてくれそうじゃねえか。」
俺を背後から襲ったのは、驚くほどの【陽氣】を帯びた【力】だった。
そして、それ以前にあのチンピラ共を、まとめて一撃で一掃してのけたのメイド姿の極上の女。
それが意味することは…………。
「きっとまた逢えそうだな、白いリボンの持ち主のメイドさんよ。」
いや、龍那って言ってたか。
それと、その恵まれすぎた相手の男もな。
そん時は、まとめて借りは返してもらうぜ。
(特に、さっきの相手の男。俺の一張羅の背中につけられた、この足跡のツケは絶対に3倍返しにしてやるぜ。)
本当に楽しみにしてるよ。
これだから、この《街》を歩き廻るのを止められないんだよな。


なんて、思わず気分がウカレかかっていたところで………。
「あら、しーちゃん、お久しぶり。」
うげっ?!!、なんてタイミングで………。また、よりにもよってヤバイ奴に………。
「さっきこの辺ですごい【陽氣】感じたんで来て見たんだけど…………。なんだ、しーちゃんの関係者だったの?。って、どうしたの?、その背中………。」
ぐっっ、イカン、追求される前にここはさっさとトンズラこくに限る。(汗)
「…………(クルリ)。」
「ねえ、それ、しーちゃんお気に入りの一張羅でしょ。」
「…………(スタスタ)」
「ねえ、しーちゃんてばぁ、言ってくれたら《それ》の仕返しくらい、付き合うわよ。アタシとしーちゃんの仲じゃない。」
言えたろかい!!。極上のメイドさんに興味本位にチョッカイ出して、顔も知らない相手の男に不意打ち食らって一撃でノサれた挙句に、意識不明の間に踏まれましたなんて。
この村雨祇孔、一生で3番目くらいの不覚だ!。
こんな情けない事、コイツに知られたが最後、どんなロクでも無い事態が巻き起こることか…………(汗)。
「ねえ、しーちゃんてば、水臭いわよ………。」
「…………(スタスタスタスタ)」
「しーちゃんてばぁ………。」
「…………(スタスタスタスタスタ)」
 ………………(怒)。

ええい、前言再撤回と訂正。
さっきの男、【四光夢幻殺】と【五光狂幻殺】だけじゃ生温い。更に【絶場・素十九】と【猪鹿蝶・紫雷】も追加だ。
それから、ツケは3倍返しじゃなくて、10倍返しにしてやる!!。
見つけたら、これ以上はないってくらいの赤っ恥をかかせてやるかな。覚えてやがれ!!!。


「……………返事くらいしてよ、しーちゃん!!。」
って、お前もシカトされたくらいで【獣神招来・三十六禽舞】なんてカマしてくるんじゃねえ!!。



 * 京一



「ここまで来れば、とりあえずは大丈夫だぜ。」
人気の無い小さな公園まで来た所で、俺はようやくひーちゃんを振り返った。
「うにゅぅ〜。京一、ありがとう。」
「いいって。気にするなよ、ひーちゃん。ひーちゃんは被害者なんだからな。」
くそう。あの男。やっぱり、止めを刺して来るんだった。
こともあろうに、ひーちゃんの唇を奪おうとするなんて。ふざけたマネをしやがって。
今度会ったら、手加減抜きで《全技フルコース》を喰らわせてやる!!。
って、よく考えたら、俺、さっきの男の顔を知らねえじゃねえか。
後ろ姿と、倒れてうつ伏せになってるとこしか見てねえ。
ぬかったぜ。怒りのあまり頭に血が昇りまくってたのと。このひーちゃんを早く他のヤツ等の目の届かない所に隠すことしか頭になかったから………。むう。

いや、マジで頭の血管が全部ちぎれるかと思ったぞ。
焦りまくって、ひーちゃんを探して歌舞伎町にさしかかった途端に、タマの声に呼ばれて路地裏を覗き込んだら、その探していた当のひーちゃんが怪しげな男に襲われてたんだから。
おもわず、その場でソイツをシバキ倒して、ひーちゃんをテイクアウトしたんだがよ。(去り際に、一応一回背中を踏みつけてやったが)
やっぱ、跡腐れないようにキッチリ止めを刺して来た方がよかったかもしれねえ。

「なあ、京一。オレ事怒ってるのか?。」
「へ?!。」
ひーちゃんがおずおずとした様子で尋ねてくる。
しまった。さっきの男への怒りを勘違いされてる。さっさと訂正しとかないと。
「別に、ひーちゃんに腹を立ててたわけじゃねえぜ。あの無礼な男のことを思い出してたんだ。」
「そうか…………。でも、オレ、京一にいっぱい怒られてもしょうがない事やっちゃったんだ。また、変な誤解しちゃって京一を振り回したし………。」
ほっ。今回は誤解だって早々に気がついてくれたか。
何を誤解してたかわからねえが、解けちまえばどうってことない。蒸し返すのは止めとこう。
「気にするなよ。俺は振り回されたなんて全然思ってねえから。ひーちゃんが、そんなに気に病むことじゃねえよ。」
「それだけじゃないんだ。今気が付いたんだけど、折角の京一のくれたリボン、また無くしちゃったんだ。きっと、さっきの所で落っことしちゃったんだと思う………。本当にゴメン。(シュン)」
またかよ。なんか俺の送るリボンって、どうしてこうなっちまうんだろう。誰かに呪われてるんだろうか。(裏密あたりなら可能だよな。依頼人はどいつだ?)
「あれはもうひーちゃんのモンだろ。俺に謝る必要はねえよ。第一、無くしたひーちゃんの方が辛そうじゃねえか。ひーちゃんが嫌じゃなかったら、また俺が探してくるよ、同じヤツを。」
「京一………、ありがとう…………。」
ひーちゃんはふわりと俺に抱きつくと、いつもの(スリスリがない)と違いゆっくりと俺の耳元に囁く。
「………本当に頼んでもいいのか?。」
「まかせとけよ。でも………。」
「…………でも、何だ?。」
「報酬は先にもらうぜ。」
「うにゅ。俺にできることなら、何でもいいぞ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…………。」
そうして、俺はゆっくりと腕に力を込めると、ひーちゃんの唇に自分のそれを重ねた。







その後、俺は(何故か真っ赤になって黙りこんじまった、今までと反応が違う)ひーちゃんを背負って、家に向かって歩き始めた。
そう、さっき気が付いたんだが。ひーちゃん、裸足だったんだよ。(俺って迂闊)
「オレは重い」「いや、重くない」の問答の後に、俺が押し切って、背負いあげて歩き始めたんだがよ。なんつうか、その嬉しい感触の胸が背中に思いっきり当たっちまって、なんか落ちつかねえんだ。
暫く無言で歩きつづけた所で、ひーちゃんが囁くように話し掛けてきた。
「なあ、京一。さっきのキスでわかったんだけど。オレ、やっぱり、京一にしかああいうことはやりたくないし、されるのもイヤみたいだ。」
「……………。」
ひーちゃん。それって、なんかとっても意味深なお言葉なんですけど。
俺、その言葉を深読みしてもいいのかよ。信じるぞ。信じちゃうぞ。後から訂正なんて効かないんだからな。
もう、ひーちゃんにとっての《キスの価値》なんてどうでもいい。《ペットレベル》だってかまやしねえ。俺だけ…………。俺だけにしかやりたくない…………。
「さっきは、京一の方からしてきてくれたけど。京一もオレだけにだったら嬉しいよなあ。それって、オレの我が儘かなあ。うにゅう…………。」
そのまま俺の肩の上に、ひーちゃんの頭が凭れ掛かって来る。
俺、感慨無量。内心、感涙。ひーちゃんからこんな嬉しい言葉がきけるなんて。
なんか、盆と正月がいっぺんに来たみたいだ。うううううう。生きててよかったぁぁぁぁ。(涙)
そのまま、暫く感動の間に浸っていた俺は、やっとこれが待ち望んだ《告白のチャンス》だと思い当たった。
そうだよ、今ならお袋の邪魔は入らねえじゃねえか。
「あのなあ、ひーちゃん。俺もひーちゃんにしか、ああいう事はやりたくねえぜ。だってよう………。」
ゴクリと唾を飲み込む。
「…………俺はひーちゃんが、いや、龍那が好きだからさ。相棒としてだけじゃなく。それ以上に、一人の女としてだ。だから、抱き締めたいのも、キスしたいのも、龍那だけだ。」
やった――――ぁぁぁぁ!!。苦節半年、やっとこぎつけたぜ。
「…………。」
って、あれ。なんか、リアクションが…………(惑)。
「………龍那?。あの…………。」
『ゴメン、京一。姉さん、寝ちゃってる。』
タマ、またてめえは(怒)……………。って、寝てるぅぅぅぅ?!。
耳を澄ませてみれば、確かに、スースーという寝息が…………。
それってば、あんまりだぜ、龍那。酷すぎる。だううぅぅぅぅぅ(号泣)。
『どうするの?、京一。姉さん、叩き起こしてもう一度チャレンジする?。』
できるわけねえだろ。さっきので、俺の全気力は使い果たされてんだよ。
「……………いい。そのまま寝かせといてやろう。きっと疲れてたんだから。」
よく考えたら、今日は一日中俺んちの家事をやってたんだもんな。

そうして、俺はそのままトボトボと家に向かって歩き続けた。
くそう。もしかしてリボンだけじゃなく、《告白》にまで呪いがかかってるんじゃねえだろうな。
それって、笑えねえぞ。コン畜生ぉぉぉぉ。

負けないぞ、負けるもんか。俺にはまだ明日という日があるんだ。
メゲてる暇なんか、ねえんだよ。


その後、そのまま家に泊まらせるハメになったひーちゃんの為に、お袋を〆ることはできなかった。っていうか、本能と煩悩VS理性と自制心の戦いでそれどころじゃ、なかったのだ。
なんせ、ひーちゃんは俺の首にしがみ付いて寝むったまま、まま翌朝まで離れてくれなかったんだからな。(マジで、よく勝利できたよな、俺の理性。)


更に後日談として、翌日から俺がひーちゃんに、家にある少女漫画及び少女向け小説を毎日届けるよう、お袋に命令されたことを書き加えておこう。(お袋曰く「参考書だよ。プライベートレッスンの為にね。いいじゃない、みゃーちゃんは全部読んでるんだから。」だそうだ。)
数日後、醍醐のヤツに、二人で交換してた本の内容がバレて、思いっきり仰け反られたのは、大した事じゃねえ。(スマン、醍醐。あと少しの辛抱だ。そのうちお前にはちゃんと事情説明するから)
せめてもの慰めは、翌月発売されたお袋の新刊(案の定ひーちゃんがモデルだった《男装の麗人ネタ》の話)の主人公の相手役が、やっぱり俺がモデルだったことくらいだろう。
(それが慰めになっちまう俺の現状って、我ながら虚しいなあ)


『本当に、深青さんって。姉さんと二人で、京一の外聞を踏みつけにするの好きなんだねえ。』
やめろ、タマ。新らためて言われたくねえから。
それに、ひーちゃんの為なら、外聞の一つや二つどうってことねえ。


『あーあ、やっぱり、京一って、頭腐れてるよねえ。逃げる事なんて出来ないよねえ。ちょっと安心しちゃった。』


 ⇒ TO BE NEXT STORY…………



□ 「頑張れ《夫》!! & 登場・白いリボンのメイドさん対談」

龍麻「はぁ――――――ぁぁ(溜息)。なんか、今回激烈に疲れたねえ。」
峠之「書いてる方も、死ぬほど疲れたぞ。何時まで書いても終わらないんだからな。だが原因がわかりきってるだけに、誰にも文句を言いようが無いのが辛い。《あの人を出そう》っていう言い出しっぺは自分だからなあ。」
京一「あのなあ、一番疲れたのは俺だぞ。なんせ、今回は毎日だったんだからな、俺の理性へのコンビネーションアタックが。マジでよく保ったなあって、自分を誉めちまうぜ。しかも、その原因作ってるのが自分の母親なんだから、洒落にならねえよ。」
龍麻「そりゃまあね。案の定と言おうか、予想に違わず《嫁姑戦争》じゃなくて《嫁姑結託しての無意識の夫苛め》になっちゃってたからねえ。冒頭から姑の為に嫁が夫をシバキ倒してるなんて、あんまりないんじゃない、世間一般のSSでは。まあ、目的の《姉さんをヘコます》は達成できてたからイイけどさ。」
京一「…………おい(汗)。お前等、その《嫁姑》っていうの、いい加減やめねえか。なんか俺の精神に負担が掛かる言葉なんだよ、それ。それに、シバキ倒されたわけじゃねえぞ。ちょっと、ドつかれただけだ。」
龍麻「あのねえ、京一。実は俺だって不本意なんだよ、この表現使うの。俺的には、姉さんを《嫁》に出したくないんだからさ。他に使いようがないから、仕方無くなんだよ。」
峠之「まあまあ。ある意味幸せの形だぞ、コクる前から《夫婦》扱いして貰ってるんだからな。嫁姑の関係が良好なのは良い事だろう、一般的には。しかも、今回のお前の天国はその《姑》様のおかげだからな。思いっきり感謝しろよ。なんせ《白いリボンのメイドさん》だぞ。おまけに、標準オプションとして《一日三回のキス》と《手作り御飯のお給仕》付だったんだ。更には、Pの都合でカットになったが、実はお風呂に入っている京一に《背中流そうか?攻撃》なんてのもあったんだ。これ、若旦那や菩薩様にバレたらお前の命は無い、邪妖滅殺って感じだぞ。」
京一「フンッ。根性曲がり亀野郎がなんだ!!。菩薩がどうした!!。今回で骨の髄まで思い知ったぞ、真実怖いのはお袋のヤツだ。…………(ボソット)姉貴の次にな。」
龍麻「それ、俺なんかとっくの昔に思い知ってるよ。イイじゃん、京一は。お姉さんは一人しかいないんだから。俺なんか、あの姉さんに加えて、更に二人も姉様達がいるんだよ。母親同士がほぼ互角の勝負なら、姉の人数差の分俺の方が大変なんだからね。それに、京一の《女運の悪さ》は先祖代々まで溯っての《血の呪い》なんだから、諦めもつこうってもんじゃないの?。」
京一「だから、その《血の呪い》っていうのもヤメロって言ってるだろ。洒落にならんから。」
峠之「いや、あながち間違ってないんじゃないか?。【外法帖】の京梧様の設定にも《女好き》ってあったからな。おまけに、江戸市街マップの中に【吉原】があったもんな。京梧様に会うなら一番可能性が高そうだって、思いっきり説得力を感じちゃったぞ、私は。」
龍麻「うんうん。」
京一「そこで思いっきり肯くなぁ―――――――ぁぁ!!。」
翡翠「(突然)君の場合、肯かれて当然だろう。普段の行いがあるからね。」
峠之「おや、若旦那。お久しぶりだな。いらっしゃい、二度目だね。」
京一「てめえ。また、何しにきやがった!。今回は本編に出てねえくせに。」
龍麻「あっ、ほんとだ。本編に出張んなかった人が此処へくるなんて珍しいねえ。どういう風の吹き回し?。」
翡翠「そんなこと決まってるだろう、苦情を言いにだよ。何故【紫龍黎光方陣】組の中だけで、僕だけがまともな出番が無いんだ?、一番始めから仲間に参加しているのに。《当て馬》呼ばわりは、もう仕方が無いと諦めもついたが、あの後の残りの二人の扱いを見てると、僕のこの状況はどうしても納得いかん。村雨も壬生もきちんと独白パートがあって、二人ともそれぞれに【龍麻】の艶姿を目撃している。おまけに【龍麻】から《アイテム》まで貰っているんだぞ。それに比べて、僕の扱いは何なんだ!。」
京一「けっ、ざまあみろ。今回もさんざん陰で俺の邪魔しやがった報いだ。」
龍麻「………(汗)あの色物を艶姿って言っちゃうわけね。君も相当頭腐れてるんだねえ。」
峠之「あれは貰ったっていうのか?。単に落し物を拾っただけだろ。」
翡翠「それでも僕だけ持っていないのは、方陣技仲間として釈然とせん。」
峠之「(己は、ひとりだけ玩具を貰い損ねた子供か?)今回、珍しく京一の方からクレームがつかなかったと思ったら、お前さんの方からか。なんかなあ…………。」
龍麻「あっ!。そういえば、京一、今回はゲストに文句ブーブー垂れてないね。どうしたの?。前の紅葉の時は、『フライングだ――ぁぁ!!』って大騒ぎしてたのに。」
京一「フフン。俺をあの時のままと思うなよ。こちとら、日々進歩してるんだ。村雨程度に目くじら立てることもねえ。アイツは壬生と違ってひーちゃんの好みから外れてるからな。憂さ晴らしの一撃も入れてやったし。俺に殴られる為に出てきたと思えば、騒ぐほどのことじゃねえ。」
龍麻「大きく出たねえ。《甲斐性無し》のレッテルが取れたとたん、強気じゃん。本編では、キスの為なら《ペット扱いでも構わない》なんて言ってる卑屈な弱腰男の癖に。相変わらず、《告白》も成功してないしさ。」
京一「…………ぐっ(汗)。そ、それは………。」
翡翠「だから、今問題にしているのは、僕の待遇だ。そこの木刀馬鹿卑屈男の進展度じゃない!。」
龍麻「そうだったね。ゴメン、ゴメン。」
京一「………おい!!。」
峠之「…………ふう(溜息)。仕方が無いなあ。ほれ、京一。(ポイッ)」
京一「何だよ、この財布は?。俺に小遣いでもくれんのか?。」
峠之「馬鹿言ってじゃない。お小遣いなら深青お母さんに貰え。これでちょっくらサンシャインシティまで行って、青か緑色のリボンでも買って来い。できれば、前に買ったモノと同タイプの色違いにしとけよ。それで、それを若旦那にプレゼントしてやれ。」
京一「はぁ――――――ぁぁ?!!。」
翡翠「なっっ?!。」
峠之「ようは、一人だけ方陣技仲間の中でハブんちょなのが嫌なんだろう?。なら、手っ取り早く同じモノを買ってくればいい。あれは、元はといえば京一が買ったもんだからな。なに、経由過程を一箇所省くだけだ。問題は無い。直接手渡しの方が新鮮だぞ。ほ――ら。これで、方陣技仲間みんなお揃いだ。嬉しかろう。一件落着。メデタシ、メデタシ。」
ブチッ★×2
翡翠「きーさーまー。何を考えている。この大勘違い女がぁぁぁ!!(怒)。」
京一「てめえ、俺がこの野郎にプレゼントだとぉ。気色悪い事言いやがって。俺のひーちゃんへの《愛情の証》を何だと思ってやがる!!(怒)。」
峠之「ありゃ?!。」
龍麻「・・・・・・墓穴。」
翡翠「(忍者刀を構える)邪妖滅殺!!。」
京一「(木刀を振り翳す)いくぜ!!」
峠之「(汗)おい、タマモン。パートナーの危機だぞ、超進化だ。ほれ。(何か光る物を翳す)。」
龍麻「あのねえ、俺はデ○モンじゃないんだよ。(汗)しかも、いつ俺があんたのパートナーになったのさ。フンッ。」
峠之「報酬は払うぞ。」
龍麻「(アッサリ)仕方がないなあ。やっ!。(ピカッと光って、《実体バージョン龍麻》出現)。」
翡翠「飛水流奥義、【瀧遡刃】!!!。」
京一「剣聖っ、【天地無双】ォォォ!!。」
龍麻「ゴメン!。京一、翡翠。【秘拳・黄龍】!!!。」
 ちゅっど―――――んっっっ☆
翡翠「ふっ、不覚………。(バタッ)」
京一「クッ、まずったぜ………。(バッタリ)」
龍麻「また、虚しいことをしてしまった…………(溜息)。」
峠之「(誰も【黄龍】を出せとは言わんかったのに……)やっぱり、お前が最強だな。《ハイパー龍麻モン》。」
龍麻「だから、デジ○ンじゃないって言ってるのに。んで、ちゃんと報酬はあるんだろうねえ。」
峠之「まかせろ!。ほら、此処だ。(と、時空の穴を指す)」
龍麻「なに?。天国へ通じてるなんて言わないよね。(手をわきわき)。」
峠之「ふふふ。簡易版《時の道》。うまくいけば、時空の狭間の《あの子》の所へ辿り着けるぞ。その姿で逢いたかろう?。どうだ、これならお前も…………。」
龍麻「わ―――い♪。(ヒョイッっと飛び込む)。」
峠之「って、おい?!。話を最後まで聞け!。…………って、行っちゃったよ。あくまで上手くいったらで、下手すると《妖閉空間》とかに出ちゃう行き先不確定の穴なのに。おまけに、あの実体バージョンには、まだタイムリミットがあるんだぞ…………(汗)。まあ良いか。(穴を覗きこんで)お――い、次回の話までには帰ってこいよ――――ぉぉぉ。さ――て、疲れたから、私は帰って、寝よう。」

そのまま、退場。



はあ、やっと終わりました。すいません、また石を投げられても仕方が無いようなもの書いちゃいました。(特に、【紫龍黎光方陣】組のファンの方)
ちなみに、これ投稿時から更に1P分増えてます。(書き足し部分は、あははは・・・・笑ってやって下さい。更に突き落としてます、誰とは言いませんが・・・・・・。)
イカンイカン、やっぱりあの方が出てくると暴走が止まらない。
と言う訳で、あいもかわらず恒例のオマケSSへと続いちゃいます。もしくは、オマケ対談「深青さん乱入編」へどうぞ。(笑)



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